グラント・グリーンやソウライブに影響を受け、ジャズを軸にR&Bやレゲエ、ジャズファンクといったグルーヴィなサウンドを展開するギタリスト、白石才三(しらいし・としぞう)が、THG名義とToshizo Shiraishi名義でそれぞれ楽曲をリリースする。長野県を拠点にしながらも、キャンピング・カーで全国を巡りライブ活動を展開するという、独自のスタイルを持つ彼に、話を聞いてみた。
取材・文=GM編集部
ジョー・パスみたいなのは無理だけど、
自分なりのソロ・ギターをやってみたくて。
配信シングル「P210i」はR&Bやネオソウルなムードが溢れるギター・インストですが、曲名はドコモの携帯電話、P210iから来ているそうですね?
そうなんです。あのケータイを使っていたのが2001年なので、もう20年前の曲ですけど、“R&B”という名前の着信音が入ってたんですよ。「P210i」冒頭のアルペジオはそれを元にしていた気がするんですが……今となっては手元にないのでどれくらい参考にしていたのか確かめようがない(笑)。どなたかP210iを持っていたら着信音を聞かせてください!
ご連絡お待ちしております〜。そもそも20年前に作った曲を、このタイミングで配信することになったのはなぜ?
ライブではずっとやっていたけど、音源にしたのは2019年が初なんです(アルバム『Toshizo and Happy Cats』)。というのも、曲を作った2001年頃は後期グラント・グリーンやソウライブに影響を受けてそれをイメージしていたんですが、当時のバンドだと思った感じにならなくて。で、2019年のアルバム『Toshizo and Happy Cats』を作っている最中に改めて入れることにして、新しいビートに差し替えてもらったり、キャンピング・カーでミュージシャンのところに回って、ベースや他のパートをレコーディングしたりして、今の形になりました。メインのメロディを弾いているのは64年製ギブソンES-330で、ギター・ソロのボーコーダーみたいな音はDigiTech Talkerでかけています。
そして、2月26日にはTHG名義でアナログの7インチ・シングルが出ますね。アコースティック・ギターによる、ブラジリアンなナンバーで、昨年のアルバム『El Cielo Verde』のタイトル曲でもありますが。
元々ソロ・ギターのアルバムが作りたいと思っていたんですよ。もちろんジョー・パスみたいなのは無理だけど、自分なりのやり方で作ってみたくて。で、ちょうどオーダーで作ってもらったSunami Guitar(角南裕平のオリジナル・ブランド)のアコギが凄く良いから、このギター1本で録ってみたいというのと、コロナのタイミングでライブがキャンセルになって時間もあったのでスタートしたんです。ただ、アルバムが完成に近づくにつれて、何か目玉にかけるというか、全体的に気持ちいいけど、何かもう1曲欲しいなと思い始めて。
なるほど。
それで、昔のデモや録音を聴きかえしていたら「El Cielo Verde」の原型があったので、当時なかったメロディをつけてみたり、構成を変えたり、転調したりして。最終的にブラジリアンな感じになったので、大先輩の山本祐介さんにお願いしてパーカッションを入れてもらったんです。PV(上動画)では祐介さんがNYで録音してる風景も見られるのと、小学校三年生のウチの娘も歌で参加しているんですけどね(笑)。アナログ7インチのB面はもうちょっとクラブ・ジャズ仕様な感じのドラムンベースver.になっています。
そもそもジャズファンクやレゲエを軸にした、現在のスタイルはいつから?
高校生の時にクラプトンから入って、そのあとはメタル・バンドをやったりしていたんですけど、グラント・グリーンにショックを受けて。ジャズをやりたくなり、バークリーに行ったんです。それで最初はストレートなジャズがやりたかったんだけど、後期のグラント・グリーンのオルガン・ジャズ的なスタイルもカッコいいなと思い始めて、メルヴィン・スパークスやブーガルー・ジョー・ジョーンズとか、『コテコテ・デラックス』(ディスク・ガイド/ジャズ批評ブックス)をバイブルに、そっち系のレコードを漁ったりするようになるんですよ。で、当時はギターでソウル・ジャズ系をやってる人が誰もいなくて、“これをやったら絶対にヤバいでしょ”って思っていたところに、ソウライブが出てきた。もうライブを観に行きまくりましたね。
そして、バークリー卒業後に帰国するんですか?
いや、卒業後もニューヨークに行ったりしつつ、アメリカを拠点に活動するつもりだったんですよ。でも、9.11(アメリカ同時多発テロ)が起きてしまい、一旦帰国して。で、当時は渋谷のROOMでセッションがあったり、Soil& Pimp Sessionsが活躍し始めたりと、日本ではちょうどクラブ・ジャズのシーンが盛り上がっていて、“あれ? 日本のほうが面白いんじゃない?”となって。テロ以降はアメリカの方も雰囲気が変わってしまいましたしね。それで改めて拠点を日本に移したんです。で、そうこうしているうちに今度は地元の長野が面白くなってきて(笑)、僕の地元は長野県・上田市という所なんですけど、ライブやイベントをやるようになったり、UEDA JOINTというフェスを始めるようになったんです。
そして現在は、長野県に在住しながらキャンピング・カーを使って全国をライブして回るスタイルをとっていますが、そもそもなぜキャンピング・カーを活用することに?
子供の頃、オランダに住んでいたんですけど、向こうの人って結構キャンピング・カーを持ってるんですよ。夏休みが長いから、それでヨーロッパ旅行に行ったりするんですよね。自分も親と旅したこともあったから、いつかは欲しいなと思っていて。
憧れますよねえ。
そしたら、友達が買えそうな値段のものを見つけてきたんですよ、超ボロかったんですけどね(笑)。そのくらいのタイミングで、ライブでもソロ・ギターに初めて挑戦して。キャンピング・カーっていう武器もあるってことで、日本中を旅する今のスタイルにたどり着いた感じですね。それが3~4年前とかかな?
YouTubeでもキャンピング・カーを改造している様子がアップされてましたね。昨年、新調したとか?
そうなんです。ちょうど昨年の9月に車を買い換えたんです。先日、ソーラー・パネルとターンテーブルを装備しまして、レコードも聴けるようになりました。電気、ガス、水道も整ってきたので、旅もバッチリですよ。
2021年はどうしていく予定?
やっぱり旅ですね。去年、北海道と北陸ではやれなかったので行きたいですし、今年一年でできれば全国を2周したいと思ってます。47都道府県、全部でライブができればいいですね。日本って車で旅をして回るのに、ちょうどいいサイズなんですよ。1時間走れば、次の町と次のお客さんがいますから、ツアーが成り立つというか。それがもっとギュッと集約されてるのが神奈川県の湘南で。湘南ってホントに不思議で、茅ヶ崎と鎌倉って隣町なのにそれぞれで全然違うお客さんが来てくれるんです。だから、湘南だけで1週間ライブで回っても成り立っちゃうんですよね。それって、多分、日本全国でも湘南だけじゃないかな? こんな狭いエリアで平日にライブやっても、コアな音楽好きが何故か集まってくるみたいな(笑)。だから、湘南が一番しょっちゅう行ってて、気の合うミュージシャンもたくさん住んでるし、音楽の仕事もある。湘南をベースに全国回るっていうのもひとつのスタイルですね。
理屈としては分かりますが、なかなか真似できないスタイルですよね。
確かに結構ハードですけどね。でも、今が一番楽しいですよ。 “どうなっちゃうんだろう?”っていう不安しかなかったけど、キャンピング・カーのおかげでちょっと光が見えたというか、新しいスタイルができましたから。
コロナの時代にもマッチしている気がしますよね。
そうなんですよ。移動中の感染対策にもなっているし、ライブもアコギでソロ・ギターだから騒ぐ人もいないし。黙って聴いてるから、コロナ時代にはバッチリなスタイルかもしれない。昨年もこの状況のわりには、かなりライブをやれましたからね。
さらに、車の中でレコーディングも出来るんですもんね。
そうですね。好きなアーティストのところまで車で行って、近くの音が出せる場所で録るという感じで。2019年のアルバム『Toshizo and Happy Cats』の、サックスとバイオリンとラップは車の中で録りましたよ。サックスは音がデカいから、田園で録りましたけどね(笑)。田園の駐車場に停めて、それでレコーディングしちゃったっていう(笑)。
レコーディング行脚もぜひ動画で見てみたいですね!
ぜひその際もお願いします(笑)。
Toshizo Shiraishi
としぞう・しらいし(白石才三)◎20歳で渡米し、バークリー音楽大学を卒業。その後、ジャズ・ギターをマーク・ホィットフィールドに師事。帰国後はblissedやWESTLANDなどさまざまなバンドでギタリストとして活躍しながら、入場無料の大型フェス“UEDA JOINT”を地元の長野県上田市でプロデュースする。近年は旧車のキャンピング・カーで日本中を旅しながら、THG名義でソロ・ギター・ライブを展開しているソロ活動のほか、blissed、anthroposやIRIE JAZZ SESSION、play with the earth orchestraなどのバンド活動も精力的に行なっている。VOXアンプ・エンドーサー。
作品データ
「P210i」 Toshizo Shiraishi
IN MY LIFE PRODUCTION/IMLP-1502/2021年2月15日リリース
「El Cielo Verde」 THG ft. Yusuke Yamamoto
IN MY LIFE PRODUCTION/IMLP-1504
「kotsubo sunset」 Toshizo Shiraishi
IN MY LIFE PRODUCTION/IMLP-1501
―Guitarist―
Toshizo Shiraishi