Interview&Gear|福富優樹&畳野彩加(Homecomings)柔らかなギター・アンサンブル Interview&Gear|福富優樹&畳野彩加(Homecomings)柔らかなギター・アンサンブル

Interview&Gear|福富優樹&畳野彩加(Homecomings)
柔らかなギター・アンサンブル

Homecomingが最新作『Moving Days』をリリース。幾重にも重なるギターの層が柔らかく歌を包み込み、温かなぬくもりのある世界観を作り上げている。この彩り豊かなバンド・サウンドは、コロナ禍だからこそ生まれたそうだ。今回は福富優樹と畳野彩加のふたりに、作曲とアレンジ、そしてこの優しい音像の中でギターが担う役割について話を聞いていこう。

取材・文=福崎敬太 機材写真=本人提供

ギターの作用としては“リズムの1つ”として入れたりもしています。
──畳野彩加

最新作『Moving Days』はギターのトラックが美しい層を織りなす作品で、アレンジが緻密に組み立てられている印象を受けました。ご自身としては、ギター的にどのような作品になったと感じていますか?

福富優樹 今までのアレンジは、スタジオに入ってみんなで音を出しながら詰めていくスタイルだったので、4人で完結できる音になることが多かったんです。でも今回は、コロナ禍ということもあって、Logicを使って遠隔でアレンジしていったんですよ。なので、思いついたものをとにかく全部入れてみて、そこから少しずつ減らしていくっていう流れで作っていて。コロナ禍での制作だったからこそ、そうやって音がたくさん入っている感じになって、しかもそれが良い方向に作用したアルバムかなと思います。

畳野彩加 私のデモ段階で色んなフレーズを入れ込みまくっているのでギターの量は全体的に多めなんですけど、その中でも「Here」はものすごく重なってますね。色んなところでギターが出てきたり引っ込んだり、ギターの作用としては“リズムの1つ”として入れたりもしています。そういう風に、音階以外の効果をギターで表現するということもやっていて、「Here」はそういう部分が一番わかりやすいかなと思いますね。

「Here」はバッキングだけでも、ブリッジ・ミュートの刻みとアルペジオ、途中からは深いリバーブがかかったオブリに、アコギのストロークと、ほかにも色々な音が出てきます。デモ作りの段階で、ギターのトラックはどのように重ねていくんですか?

畳野 まず最初はリズムを作ってから、その上に基本的なコードを重ねていきます。で、詞が先にあるので、歌詞を見ながらメロディを当てていくっていう流れですね。で、そのコードを入れる段階で、感覚的にポンポン重ねていってしまうクセがあって(笑)。音数はそんなに多くないけど、音符としての空間は埋めたいというか。

幅広い帯域をカバーする感じですかね?

畳野 そうですね。そういう感覚でギターをバーッて入れていって、“ここはちょっと多いな”って思ったら削ったり、逆に“もっと入れたいな”と思ったら重ねてみたり。すごく細かく言うと、「Here」のサビの頭にだけ、1オクターブ下げたゆるめのチューニングにしてコードを弾くっていう、変なギターが入ってるんです。エンジニアの人と相談しつつなんですけど、そういう挑戦的なこともしています。

前作『Whale Living』(2018年)から日本語詞での作曲を続けてみて、今作で新たな発見はありましたか?

福富 前作は“日本語にトライする”っていう姿勢だったような気がしていて。“今まで英語でやってきたような表現を日本語に当て込むとどうなるか?”って、色々と試行錯誤したアルバムだったんです。でも、シングルの「Cakes」くらいから、日本語で書くということが“インストールされた状態”になったというか。で、とにかく歌を前面に出すっていうことを、日本語になってからより気を遣うようになりましたね。具体的に言うのは難しいんですけど、前だったら“歪みで何とかする”っていうところでも、今回はクリーン・トーンで重ねることで風通しの良さみたいなのを表現していたり。そういう場面は多かった気がします。

僕がレコーディングの前日に骨折しちゃって(笑)。
──福富優樹

「Here」にはコンパクトなソロがありますが、どのようなイメージで作っていくんですか?

福富 僕は歌って作ることが多いかな。歌えるようなフレーズがすごく好きで、“ギター・ソロ!”っていうより、何かフックとして作ることが多いですね。曲の中でちょっとエモくなる瞬間を演出するためだったり。曲によってはそれがコーラスをかけたフレーズでもいいし、感情の起伏としてソロを入れることが多い気がします。特に「Here」は、あの瞬間のあのギター・ソロっていうのが、全体にすごく効いている。そこはいつも意識しています。

「Cakes」のイントロも印象的です。

畳野 2年前くらいの曲なので詳しくは覚えてませんが……たぶん長いイントロをやりたくなくて、コンパクトかつ印象的な始まり方をやりたいっていうモードだったんだと思うんです。あと、ドラム始まりの曲が多かったりするんですが、“何か違うアプローチができないかな”と思って、ベースとアコギとエレキで始めようとパッとひらめいて。スケールみたいな知識があまりないので、感覚的に作ることが多いですね。

「Cakes」もそうですし、浮遊感のあるコードが気持ち良い曲が多いですが、ボイシングはどう考えているんですか?

福富 僕が“なんとなく歌詞はこうで、曲はこんな感じ”という青写真を彩加さんに伝えて、曲にしてもらうんです。で、彩加さんから上がってきたデモだと、「Cakes」は2カポでGのフォームで作っていて。ボイシングも彩加さんの感覚でやっているところがあるので、それを“じゃあ僕はカポを付けずに弾いて、ハーモニーにしてみよう”みたいにちょっとだけ整理して作りましたね。あと、ボイシングとしてひとつ重要なのは、Gのフォームで弾く時に1~2弦の3フレットを押さえるのが、彩加さんのクセで。それだけでも全然響きが変わるので、もしコピーするなら2弦3フレットも押さえてみると良いと思います。

「Blanket Town Blues」もコード進行がすごくきれいです。

福富 これはキーボードで作ってた曲なんですよね。

畳野 だから、ちょっとギター的な聴こえ方じゃないかもしれないです。

福富 アコギは僕が弾いたんですけど、Dmのフォームで弾く時に1弦の開放を入れたりして、複雑な響きになっているというか。そういうちょっとしたことの積み重ねで、響きがシンプルにならないようにしている感じはあるかもしれないです。

add9やsus4のようなコード感や、開放弦のブライトな響きは、Homecomingsのキラキラした感じの鍵なのかなと。

福富 デモの段階では彩加さんが感覚的に弾いたコードがあって、それをなるべく活かせるように僕が“整理する”っていう感覚で。開放弦の響きを使ったアルペジオも多くて、スピッツ的なアレンジですよね。そこは僕の役割っていう感じかもしれない。

畳野 私も開放を使うのがけっこう好きなんですよね。なので、カポを付けて作ることが多くて。ただ、コードは響きだけで選んでいて、名前がわからない。“名前はわからないけど、たぶんこう押さえたらこういう音だろうな”っていうのを、感覚でやっていて。ギタリストからすれば、“何これ?”みたいな感じはあるかもしれないですね。

「Moving Day Pt.2」はドラムがグルーヴィですが、ギターは歌メロのゆったりしたリズムに合わせつつも、グルーヴ感はドラムの雰囲気に近いというか。ギターがリズム面で担う役割はどう考えていますか?

福富 今までは、それこそUSインディー的なものを目標の一つにしていたので、そこまでリズムについては深く考えていなくて。でも今回は、ギターもリズム楽器としてすごく意識していて、「Moving Day Pt.2」や「Good Word For The Weekend」なんかは、“ここはドラムと合わせてギターもシンコペートして、逆にこっちは合わせない”みたいなことを何パターンもやりました。あとは、“ネオソウルみたいなのも取り入れてみよう”と思ってやってみたんですけど、それは合わなかったので、キャロル・キング的なバッキングをイメージしたり。

「Herge」はそんな感じがしましたね。グルーヴィでちょっとソウルっぽい雰囲気。

福富 そうですね。ただ、僕がレコーディングの前日に骨折しちゃって(笑)、あの曲はNOT WONKの加藤(修平)君が弾いてくれてるんです。でもこの曲は、やろうとしていたソウル感みたいなのが出ている気はしますね。

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