Interview | サーストン・ムーア【後編】こだわりのペダルとアンプについて Interview | サーストン・ムーア【後編】こだわりのペダルとアンプについて

Interview | サーストン・ムーア【後編】
こだわりのペダルとアンプについて

今年2月、Bandcampで新作ソロ・アルバム『screen time』をリリースしたサーストン・ムーア。コロナ・パンデミックの昨年、1人でギター・トラックをいくつも録りため、共通点のあるものをつなぎ合わせたアンビエント作品である。今回、ギター・マガジンは4年ぶりにサーストンへインタビューを敢行。前編では90年代前半の回想、そしてステイホーム期間中の話もご紹介。後編では、エフェクターについてたっぷり語ってもらった。また、ギター・マガジン2021年6月号『ケヴィン・シールズ(マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン)特集』でも、サーストンがケヴィンの魅力について語っているほか、6月13日発売のギター・マガジン2021年7月号にも『screen time』のアルバム・インタビューを掲載予定なので、そちらも併せてチェック!!

取材・文=小林弘昂 翻訳=トミー・モーリー ペダルボード撮影=吉岡希鼓斗


“Sonic Grail”みたいな名前で
発売してくれたらいいな(笑)。

エフェクターについて聞かせて下さい。あなたはソニック・ユース時代にロシア製のSovtek Big Muffを使っていましたが、最近は現行のElectro-Harmonix製Metal Muffがボードに入っていますよね?

 ペダルを入れ替える理由の多くは、使い込んでいくうちに壊れてしまうからでね。特に何度もツアーに出ていると、そういったことはどうしても起こる。あと、僕の踏み方にも問題があると思うんだ。僕は体格が大きいし、ステージを走り回ってジャンプして、ペダルの上に着地するなんてこともあるからね(笑)。さすがにそこまでやるとペダルが耐え切れなくなって、いつの間にか逝ってしまうんだ(笑)。

2017年の来日公演の際のサーストンの足下。
2017年の来日公演の際のサーストンの足下。
詳細はギター・マガジン2017年5月号をチェック!

①BOSS / TU-3W(チューナー)
②ProCo / Turbo RAT(ディストーション)
③Jim Dunlop / JH-3S Jimi Hendrix Octave Fuzz(オクターブ・ファズ)
④Electro-Harmonix / Metal Muff(ファズ)
⑤MXR / Phase 90(フェイザー)
⑥TC Electronic / Corona Mini Chorus(コーラス)
⑦TC Electronic / HOF Mini(リバーブ)
⑧Ernie Ball / VP JR 250K(ボリューム・ペダル)

特にソニック・ユース時代は激しいパフォーマンスでしたもんね(笑)。

 ロシア製のSovtek Big Muffは個体によってすべてサウンドが異なっていて、かなりバラつきのあるペダルなんだ。気に入るか否かはギャンブルみたいなところもあったんだよね。僕が最初に手に入れた個体は素晴らしいサウンドで、例えるなら“戦車が爆弾を発射しそうな音”だったから、あれが壊れた時は悲しかったよ。何度か修理に出したけど、かつてのサウンドは失われてしまった。そういった経緯でMetal Muffに乗り換えたんだけど、気に入って長らく使っているよ。で、僕は違うけど、周りの人たちはみんなペダル・オタクなんだ。

世界でもトップクラスのオタクですよね(笑)。

 リー・ラナルド、J・マスキス、ジェームズ・セドワーズ、みんなオタクだ。どこかの街に行くと、彼らは楽器店でペダルをトライしまくって1日中過ごしてしまう。でも僕はご飯を食べに行ったり、書店に行ったりするほうが楽しく過ごせるよ。十分機能するペダルが手元にあれば、それだけでハッピーなんだ。ペダルへの執着心っていうのがそもそもないんだろうね。僕の興味はサウンドよりもソング・ライティングやパフォーマンス、ミュージシャンの個性といったところに重きを置いてしまうよ。

では、新しい機材はあまり試さないんですね。

 でも、ここ10年で生まれてきたブティック系のペダルには素晴らしいものがある。色んな都市に行けば、その土地でインディペンデントでやっているペダル・メーカーがあるから、ライブ前のサウンドチェックの時にペダルを持ってきてくれたりするんだ。時にはプレゼントしてくれる人もいて、それらはみんな素晴らしいペダルだったよ。彼らの小さな工房に行って、ペダルを作る光景を見学したこともあった。クールなビジネスだし、彼らはかなり真剣に取り組んでいて、素晴らしいと思うな。ペダル・ビルダーたちはみんな、独自性をペダルに詰め込んでいるよね。今じゃディストーションなんてどれくらいのバリエーションがあるのだろうか(笑)。それらは極端にキャラクターが違うわけじゃなくて、トーン、クオリティ、出力といったところに少しずつ差異があり、それらが独自性につながっていてクールだよ。ルックスまでもがクールなペダルだってあるよね。

今の時代は山のようにありますね。

 でも今の僕は、Metal Muffが作り出す分厚いメタリックなサウンドが気に入っている。それに加えて保守的なディストーションも必要で、そんな時にTurbo RATは強烈な歪みからマイルドなクランチまでを作り出せる扱いやすいペダルなんだ。なかなかグッドなフィルター・ツマミも搭載しているし、頑丈で叩きつけても問題ないところも魅力だね。この2台が僕にとっての重要なペダルだよ。

あとはボリューム・ペダルも欠かせませんよね?

 パッシブのボリューム・ペダルを使っているよ。でも、ワウはあまり得意じゃないな。おそらく僕が頭、手、足をそれぞれ独立させて動かすのが得意じゃないからだろうね。昔、ワウとボリュームが一体化したペダル(Mu-Tron製C-200)を持っていて、あれはノイズ・ミュージックを作る時にかなり役立ってくれたけど、操作するのが難しかったから結局はずしてしまったんだ。

使わなくなったのは、そういう理由だったんですか(笑)。

 僕は体が大きいし、視力も落ちてきたから、ステージ上で違うペダルを踏んでしまうこともあるんだ。時にはそれがサプライズとなって良い結果を生むこともあるんだけど、チューナーやミュート・スイッチを踏んでしまったら最悪だ(笑)。そういったトラブルを避けたいから、危険なペダルだけは必ずほかのペダルから距離を離して置いている。あっ、そういえば最近はCathedral Stereo Reverbを気に入って使っているよ。

Electro-Harmonixの多機能リバーブですね。

 あまりにも操作できるツマミが多いから、かつての僕だったら絶対使うことのなかったものだろう。アンプだって、最近だと色んなモデルのサウンドが出せるインターフェイスみたいなやつも出ているだろう? そういうのは好きじゃないんだ。“ほかのアンプなんかじゃない、お前がどんなサウンドなのか教えてくれ。マーシャルじゃないくせにマーシャルみたいなフリをするな!”と思うんだよね。“自分らしさを見せて挑んでこいよ!”ってさ。僕はトレブル、ミドル、ベース、ゲイン、ボリュームくらいのノブで構成されたアンプが大好きだね。あとはオマケでリバーブが付いていれば、それで十分。ペダルに関しても、選択肢が豊富なものよりベーシックな機能さえあればそれでいいと思っている。

シンプル・イズ・ベストだと!

 で、Cathedral Stereo Reverbはとても気に入っているんだけど、僕は1つの設定でしか使わないんだ。あまりにも素晴らしいから、ツマミをセメントで固定したいと思っているくらいさ(笑)。たぶん僕はメーカーに“たった1つの設定ができるやつで構わないんだけど、小さなものを作ってくれないかな?”ってメールを送るべきだと思うんだ。“Sonic Grail”みたいな名前で発売してくれたらいいな(笑)。

それ僕も欲しいです(笑)。

 Cathedral Stereo Reverbを手に入れた経緯なんだけど、教会の地下でフリーマーケットをやっていて、まだ新品で箱に入った状態のやつが15ドルで売られていたんだ。普通だったら300ドルでもおかしくないものだよ! もちろん買わないなんて選択肢はなかったし、家に持って帰って使ってみたらグレイトなサウンドで、すぐに気に入ったね。セッティングだって忘れないように写真に撮って保存したよ。その設定のまま『Spirit Counsel』(2019年)というアルバムのレコーディングで使ったんだ。「Alice Moki Jayne」という曲があって、そこでかなり重要な役割を担っている。あとはアルバムを作っていた間に亡くなったギタリストのグレン・ブランカに捧げた「8 Spring Street」という曲でも使ったね。この曲名はニューヨークで彼が住んでいた場所で、僕はよく遊びに行ってギターを弾いていたんだ。

もし3台でペダルボードを組むとしたら何を選びますか? Turbo RAT、Metal Muff、Cathedral Stereo Reverb?

 それもアリだけど、MXRのフェイザーも好きなんだ。Phase 90はグレイトなペダルだよ。セックス・ピストルズの『Never Mind The Bollocks, Here’s The Sex Pistols』をよく聴くと、スティーヴ・ジョーンズがこのペダルのツマミを完全に絞った状態でプレイしているのがわかるはずだ。大きく、ゆっくりとスウィープする感じで、彼はそれをステージでも使っていたんだよ。ドローンっぽい、とても興味深い効果を生んでいてね。でも、僕が何よりも使ってきたペダルっていうと、やっぱりTurbo RATだ。だからTurbo RATとMetal Muffは入るとして、3つ目は困ってしまうけど……やっぱり今の気分だとCathedral Stereo Reverbかな。あとはTC ElectronicのCorona Chorusっていう小さいコーラス・ペダルもあって、かなりクールなサウンドが得られるんだ。もっとプレイしたいと思える面白いペダルだね。

Corona Chorusは2017年の来日公演でも使っていましたよね。

 でも最近はペダルから遠ざかっていて、Acoustasonicを50Wのフェンダー・ツイード・アンプにつなげてプレイしているんだ。ペダルが側にあると、いつもペダルで遊ぶことに集中してしまうから、遠ざけるっていうのは良いことでもある。最初から作曲モードに入れるからね。特定のペダルがあることで生まれてくる曲というのもあるけど、それはかなりレアなケースだ。

4×12のキャビネットとRoad Master。
それだけで最高のサウンドが確約される。

アンプの話になりますが、ソニック・ユース時代はPeaveyのRoad Masterを愛用していましたよね。改めてRoad Masterの魅力を教えて下さい。

 今でもイギリスとアメリカに1台ずつ所有しているんだ。かなり頑丈で、ツアーに持って行っても安心して使えたよ。あとはたくさんの真空管が入っていて、ビッグでグレイトなサウンドが常に鳴らせたんだ。Peaveyはかつて“ミシシッピのマーシャル”と呼ばれていてね。アメリカの南部で作られた、言うなれば“格調高くないマーシャル”だったんだ。ギターをつなげばハードコアやブギーなロックンロール・サウンドが得られて、エアロスミスみたいになることだって簡単さ。12インチのセレッション製スピーカーが4発入ったキャビネットとRoad Masterを持ってツアーに出たら、それだけで最高のサウンドが確約されたようなものだ。

Road MasterをMesa/Boogieの4×12キャビネットにつないで使用するサーストン。ジェームズ・セドワーズもRoad Masterをセットしている。

Road Masterは出力が160Wと大きいですが、出力が大きいアンプのほうが好みなのでしょうか?

 ラウドなアンプも好きだけど、ドライブさせることによってナイスで温かみのあるサウンドが得られることのほうが重要だ。Road Masterはフル・ボリュームで使うよりも、そこそこのところで抑えたほうが厚みのあるサウンドになって好きなんだよね。それとEQのシステムがかなり優秀だってことにも気がついたよ。ほかにもオールドのHiwattの100Wヘッド(DR103)も好きだ。会社が売却される以前のイギリス製の時代のやつだね。いつかは自分のものを手に入れたいと思っているよ。

現在はあまりライブでRoad Masterを使っていませんよね?

 90年代から2000年代前半にかけてのソニック・ユースはそれなりの地位があったから、大きな機材を持ってツアーをすることができた。しかし、ソロやほかのバンドでは、かつてのように機材を持って行くことができなくなってね。これは経済的に余裕がなければしょうがないことだし、そもそも小さなクラブに大きなアンプを持ってくのはおかしな話だ。だから最近ではフェンダーのHot Rod Deluxeを使うことが多くなったよ。音作りはしやすいし、かなり機能的だ。小さな会場でプレイするにはバッチリなトーンなのも魅力だね。ツアー先でアンプを借りる時は、だいたいこれを指定しているよ。

作品データ

『screen time』
サーストン・ムーア

Bandcamp限定/2021年2月5日リリース

―Track List―

01.the station
02.the town
03.the home
04.the view
05.the neighbor
06.the upstairs
07.the dream
08.the walk
09.the parkbench
10.the realization

―Guitarist―

サーストン・ムーア