さだまさしやLittle Glee Monsterなどのサポートも務める実力派ギタリスト、YUMA HARAが、2作目となるソロ・アルバム『Reality』をリリースした。歌モノとインスト曲で織りなすこのアーバン・ソウル作品は、ギター以外の楽器も彼が演奏している。そんなマルチ・プレイヤーでもある彼にとって、ギターはどのような位置付けなのか。音楽的なキャリアについての質問も交えながら、ギタリストとしての姿勢、最新作へのこだわりなどを聞いていこう。
取材=河原賢一郎/髙山廣記 機材写真=本人提供
“いきなりアドリブ?”みたいな入口でしたね(笑)。
お父さんの影響でギターを始めたということですが、その当時のお話から聞かせて下さい。
父(原とも也)がジャズ・ギタリストで、祖父(原信夫/ts)はシャープス&フラッツっていうビッグ・バンドをやっていたので、小さい頃から生音、生バンドに触れる機会が必然的に多かったんですよ。家の中には父の楽器や、祖父のレコードが置いてあったんですが、ギターは父が仕事で使う高価で大事なものだから触っちゃいけないイメージがずっとあって。子供ながらに“あんな凄いものがいつか欲しい”と思っていました。で、小学校4年生の時に誕生日プレゼントで日本製フェンダーのテレキャスターを買ってもらったんです。
ギターを始めた当時は何を弾いていましたか?
まず最初に、“シャープス&フラッツの「ブルー・フレーム」をやりたい”って言ったんです。でも、ビッグ・バンドのアンサンブルはギター1本でできることではないので、父がスリー・コードのブルースとマイナー・ペンタトニックだけ教えてくれて。“ブルースだったら音源を聴いて自分でそこに合う音を弾けばそれでできるよ”と、“いきなりアドリブ?”みたいな入口でしたね(笑)。
すごいスクールですね(笑)。自分から探して音楽を聴くようになったのはいつ頃からなんですか?
小学校の頃からですね。ギターを持ち始めた頃に、父の昔のバンド仲間からジミヘンやレッド・ツェッペリンなんかを教えてもらって、“なんじゃこりゃ!!”と衝撃を受けたのを覚えています。祖父がレコード会社からサンプルで貰ってきた、当時のジミヘンやクリームのレコードがいっぱいあったので、そういうのを借りて自宅で聴いていましたね。
自分の中にあるものを一番表現しやすい筆がギターなんです。
そんなオールド・ロック好き少年が、今のようなソウル/R&B的なスタイルになるのは、どういう流れだったんですか?
中高生くらいの頃に、自宅にCDがあってたまたま聴いたタワー・オブ・パワーやアース・ウィンド&ファイアー、ソウライブとか、いわゆるメインがギターじゃない音楽にはまっていきました。それが一番の転機なのかなと思いますね。あとは、やっぱりアメリカに行ったのが大きかった。それまではフュージョンやインストの魅力にどっぷり浸かってたんですけど、アメリカに行く直前ぐらいに出会ったKing Gnuの新井和輝(b)や勢喜遊(d)とか、ファンクやソウルをやってるミュージシャンに、ディアンジェロとかを教えてもらったりしたんです。それからアメリカに行ったら、狭いクラブで本物のファンク、ソウル、R&Bをやってるわけですよ。それまで“譜面をきちんと読めるか”っていうことをやってきたのに、そこでは誰も譜面なんか読んでいないし、ひたすらワン・コードでやってるのにお客さんみんなノリノリみたいな。そこで世界観が完全にひっくり返っちゃって、ようやく今のスタイルに辿り着いたっていう感じです。
コンポーザー、マルチ・プレイヤーとしての印象も強いですが、ギタリスト以外の側面はどのように出来上がっていったんですか?
もともとピアノをやっていたのもありますし、ドラムもちょっと触ったりはしていたんですよね。中学時代の友達と高校に入ってから月1回、ジャム・セッションやっているようなところに通っていて。そこでは、ほかの楽器の人がいなければ、自分がドラムを叩いたり、ベースを弾いたりして遊んでいて、そういう感じで色んな楽器をやっていたんです。で、日本の師匠とかには“ドラムを叩くのもいいけど、ギターの勉強も頑張りなさいよ”みたいに言われて、そうだよなと思ってアメリカに行ったら、当時でもみんな色んな楽器をやってたんですよ。
日本よりもマルチ・プレイヤーが多いんですね。
そうなんです。アメリカ時代にすごいお世話になったYuki Kanesakaさんという方がいて、自分のプライベート・スタジオで全部の楽器を自ら演奏した作品をたくさんリリースしていたんです。“あれ? これでいいじゃん”と思って相談したら、“好きだったら、調子に乗ってやったらいいんだよ”と言われて。それで、自分で曲を作ってアレンジをして、全部の楽器を自分でやってみようってことで作ったのが1枚目(『THE DAYS』2018年)だったんです。あと、自分の作品はいわゆるギター感が強いものにはあまりしたくなかったんですよね。それまでの日本を見ていると、楽器奏者のアルバムって、その楽器が主体の作品っていう印象が強かったので、そうじゃないものを作りたいなって思ったんです。
すべての楽器を自分で演奏するわけですが、アレンジはどのように進めていくんですか?
やっぱりギターが、自分の中にあるものを一番表現しやすい筆なんです。でも、逆にそこに頼ってしまうと、ギタリストとしてのエゴがどうしても出過ぎてしまうんですよ。だから、直感的に頭の中で鳴った響きを鍵盤で弾いたり、どういうベースラインがいいか考えたり、ドラム叩いてみたりとか、そういうところから始めています。じゃないと、ギターが好きだからこそ、油断したらいくらでもできちゃうんですよね。なので、一番最後にギターを入れています。“ここからどうやって遊ぼうか”って感じで(笑)。それが“歌を活かす”っていうことにもつながったんです。
2枚目となる最新作『Reality』は、前作よりもギター色が少し強まったような印象を受けました。結果的にどんな作品に仕上がったと感じていますか?
確かに前作と比べるとギター色が強いかもしれないですね。この作品はギターも普通のアルバムと比べたら出てきますけど、歌モノとインストの割合は自然と半々くらいになっていきました。なので、ギター・インスト・アルバムっていう風にはしてないですけど、歌モノにもなりきっていないというか、そういう感じに仕上がりましたね。ライブだと楽しくなっていっぱい弾いちゃいますけど、作品としてはあえて楽器のスキルというよりはアレンジで聴かせたいっていう気持ちがあるんです。