ギターという楽器の肩身が狭くなっているのは悔しい。
だから、市民権を主張したかったんです。
(一瀬)
本作には“ストレートさ”と“遊び”という相反する要素が同居していますが、この両者を結びつけているのはギター・サウンド、それも歪みだと思うんです。歪みに対するこだわりはかなり強いのでは?
一瀬 僕はギター・ロックが好きでギターを始めたんですよ。最近のギターはクリーン・サウンドが主流だったりしますけど、やっぱりデカい音で歪んだギターを鳴らすのは気持ちよくて。時代と逆行してるかもしれないですけど、それでもギターという楽器の肩身が狭くなっているのは悔しいんですよ。なので、そうした歪みの市民権はちゃんと主張していきたいと思っています。
歪みの市民権って良いですねえ(笑)。岩淵さんはどうですか?
岩淵 歪みはもう、めちゃくちゃ好きですね。
一瀬 岩淵はライブの際、クランチだけでペダルを4つ使っていたくらいですから(笑)。
岩淵 流石に踏むのが大変でやめちゃいましたけどね(笑)。でも、歪みにこだわって良かったと思っていて。私は自分の声をロック・バンドのボーカルらしいと思っていたんですけど、アニソンのシンガーっぽいと言われたことがあったんです。もちろんそれは悪いことじゃないんですが、その時は人に見られてる見え方の違いに凄く驚きました。そこから自分の声に対して、“どういった歪みを当てれば楽曲と声にギャップが生まれるか”ということを考えた時期があって。語尾に対してどのくらいの粒立ちのドライブ感を持たせたギターを入れるのか、ということはかなり研究しましたね。
以前、取材した時もJCで色んな種類のアンプを再現できるように研究した時期があったって言っていました。
岩淵 そうですね。歪みの音色の違いは聴いてもほとんどわからないかもしれないですけど、ギターの粒立ち感は大事なんですよ。こうしたこだわりがバンドのオリジナリティにつながっていくと思うんですよね。
今作の歪みサウンドはどのように作っていったんですか?
一瀬 僕はアンプで歪ませることが多かったですね。Hughes&KettnerのDuo Toneや岩淵がメインで使っているDiezelのHerbert Mk1を使ったかな。
岩淵 あとはBognerのAlchemistも使ってたよね。私はDiezelのHerbert Mk1とV412RCの組み合わせが基本で、たまにHughes&Kettnerを使いました。
ペダルではどういったものが活躍しましたか?
岩淵 歪みはアンプ由来のものが好きなので、そんなにエフェクターは使ってないんですけど、OKKOのDominator MKII RedとSunfish AudioのSkyscraperは活躍してくれましたね。空間系は「化かし愛のうた」や「断捨離」などでElectro-HarmonixのDelux Memory Manを使いました。
一瀬 歪みだと10年以上愛用しているXOTICのBB Plusを使いましたね。空間系はBOSSのDD-20やAnimals PedalのBath Time Reverb。あとはギターの音をパキッとさせたい時はプラグインも使ったかな。
ギターに関してはいかがでしょう?
岩淵 私は以前の取材の時と変わらずにフジゲンのOS-10TTがメインでしたね。
一瀬 僕もメインで使っている2006年製のレス・ポール・スタンダードを使いました。ほかにはフェンダーのストラトやシンライン、ソロだとレンタルしたES-335も弾きました。あとはKEYTALKの巨匠(寺中友将/vo,g)からテレキャスも借りましたね。これは「青いサイダー」のアウトロで使いました。
「青いサイダー」ではアコギでも夏感を盛り上げています。
一瀬 これはマーチンのD-28ですね。
岩淵 これは私が福岡から上京する際にミュージシャン仲間にもらったものなんですよ。音の良さに惚れ込んで、欲しいと言い続けていたら、福岡を離れる時にプレゼントしてくれて。
そんな思い入れの強いギターがメジャー1stで使われているのは、グッときますね。9月12日(日)からは札幌Bessie Hallを皮切りに7会場でのツアーが予定されています。日々、状況は変化しておりますが、最後にツアーに向けての意気込みをお願いします!
岩淵 まずは会えるのが遅くなったけど、会場まで来てくれてありがとうって伝えたいですね。あとはメンバーの交代やメジャー・デビューを経て、変わらないことと変わったこと、そしてその中で見つけた私が大切にしていることを強固に伝えていきたい。そんなスタートが切れるようなツアーにしたいと思います。
一瀬 こんなに長い期間、ライブができないと思っていなかったんですよね。僕たちもとてもライブがやりたいし、できた際にはお客さんと直接顔を合わせて、思いをぶつけられるようなツアーにしたいです。
GUITARS
IWABUTI’S
FUJIGEN OS-10TT
バッキングをかき鳴らす岩淵の愛器
岩淵のメイン器はフジゲンのOS-10TT。モデル名末尾の“TT”はネックの素材である“タイムレス・ティンバー”メイプルが由来で、これは湖に沈んだビンテージ・ウッドのことである。改造点はペグをマグナム・ロック式のものへ変更している。PUセレクターはセンター・ポジションを使用しているそうだ。
ICHINOSE’S
GIBSON
LES PAUL STANDARD
MOSHIMOの歪みサウンドを支える相棒
今作でも使用した一瀬のメイン器は2006年製ギブソン・レス・ポール・スタンダード。チューニングの精度を高めるため、ペグをクルーソン製のものへ変更している。本器は一瀬が高校時代に購入したもので、3回ほどネックが折れたそうだ。トラブルを乗り越えて連れ添う“相棒”と言える1本だろう。
作品データ
『化かし愛』
MOSHIMO
コロムビア/:COCP-41503/2021年8月4日リリース
―Track List―
01.化かし愛のうた
02.以心伝心ディストーション
03.獅子奮迅フルスイング
04.飛んで火に入る夏の虫
05.倦怠期
06.蜂蜜ピザ
07.青いサイダー
08.3年前に別れた彼はどっかの誰かと結婚したらしい。何とも言えない何とも言えない何とも言えない敗北感の歌
09.断捨離NIGHT
10.侘び寂び 夜遊び 夏祭り
11.神様ちょっと
12.調子どう?
―Guitarists―
岩淵紗貴、一瀬貴之