Interview|西田修大 中村佳穂「アイミル」のギター・ソロを徹底的に語り尽くす。 Interview|西田修大 中村佳穂「アイミル」のギター・ソロを徹底的に語り尽くす。

Interview|西田修大 
中村佳穂「アイミル」のギター・ソロを徹底的に語り尽くす。

細田守監督最新作『竜とそばかすの姫』主人公の声と劇中歌の歌唱を務め、これから一層の活躍が期待される中村佳穂。彼女の最新シングル「アイミル」では、制作を共にする盟友・西田修大による長尺のギター・ソロが聴ける。このソロを初めて聴いた時、楽曲に対する違和感と調和、どこまでもギター的なサウンドと予測不可能なフレーズ構成に耳を奪われた。そして、この曲の配信がスタートした6月、ちょうど“ギター・ソロに特化したインタビュー企画はできないか”という話をしていた編集部は西田に取材をオファー。40秒のギター・ソロについて、30分以上たっぷりと語ってもらった。このプレイに込められた想いを探っていこう。

インタビュー=福崎敬太 Photo by Kana Tarumi 協力=W/M basement

彼女の楽曲に対しては一番の武器をぶつけてみようっていう意識ではあったかな。

中村佳穂さんの「アイミル」のギター・ソロがすごく興味深いものだったので、今回はそこだけにフィーチャーして詳しく話を聞きたいと思っています。かなり長尺ですし、楽曲全体のカラーから考えてもギター・サウンドもガラッと雰囲気が違いますよね。まずはざっくりと、このギター・ソロはどう生まれたのか聞かせて下さい。

 今、佳穂ちゃんと一緒に色んな曲を作っているんですけど、「アイミル」自体はその最初の段階で生まれた楽曲なんです。ポップで元気な曲だし、自分たちの中ではストレートな良い曲だなって思っていて。それで、途中に変わった風景というか、“ハッとするような時間”を出せないかってずっと悩んでいたんです。イメージとしては、どこか存在しない地域や街のすごい祭り。トマトを投げるやつみたいな、奇祭ってあるじゃないですか。ああいう感じのお祭り感というか、“いきなり知らない街に行っちゃって、そこにわけのわからない祭りがある。で、入っていったら楽しかった”っていうようなイメージで。で、最初は全然違ったものを作っていて、配信ライブで初めて演奏した時はみんなで合唱するようなパートだったんですよ。

それも中村佳穂さんの曲っぽいイメージがしますね。

 それもすごく気に入っていたんですけど、“もっと何かないかなぁ”っていう話をずっとしていて。一緒に作曲やプロデュースをやっている荒木正比呂とその中間部を作っては壊し、やり取りをしている中で、“結局、西田くんはギター・ヒーローを志しているんだし、とりあえずソロ弾きまくってもらえますか?”って言われたんです。自分としてはもっとテクスチュアルなイメージだったんですけど、“じゃあギター・ソロでやってみるか”って思い切って弾いてみたところが始まりで。乱暴な提案だったけど、今ではとても感謝しています(笑)。最初は鼻歌で作って、それをコピーしていった感じですね。で、そもそも佳穂ちゃんの楽曲でギター・ソロがある曲って1曲もないんですよね。

たしかに……思い浮かばないですね。

 だからこそチャレンジしてみたかったっていうのもあるし、“全然違うな”ってなっても何かのきっかけになれば良いから、思いっきり弾いてみようと思って作った感じです。

サウンドはブチブチと切れるようなファズですが、これはどんなイメージだったんですか?

 佳穂ちゃんの曲でギター・ソロを弾くっていう時点で、“彼女の楽曲に対しては一番の武器をぶつけてみよう”っていう意識ではあったかな。“一番自分のソロの音色として、これまで大事にしてきている音”というか、自分が一番長く弾いてきた音。それで言うと、ゲートを強めにかけたFuzz Factoryの音色なんです。

結果として“なんか良い”ってなるのが一番良いじゃないですか。

フレーズはどのようなイメージで組み立てていったんですか?

 まず前提から話をさせてもらうと、中村佳穂の「LINDY」っていう曲があるんですが……ちょっと流して良いですか?(曲を流す)

 ここ(歌詞:だんだん離れて だんだん穏やか~/00’30″~)の部分と、「アイミル」のサビのメロディが同じなんですよね。

あ! 同じだ!

 佳穂ちゃんが「アイミル」作る時のイメージとして“同じ人が違う世界で生きていたら、全然違う生活や人生があったかもしれない”、“あなたにも私にもみんなにいろんな可能性があるよね”っていうことを聞かせてくれたことがあって。「LINDY」のメロディの引用は彼女のそういうアイディアから生まれているんです。で、それを自分の中でもテーマにしていて。吉田ヨウヘイgroupの「間違って欲しくない」のソロのフレーズを最初に使っているんですよ。

えっ!?

 これは言わないでおくか悩んだんですけど、“ソロについて話を聞きたい”って言われたら話したくなっちゃいました(笑)。吉田ヨウヘイgroupをやっていた頃にギター・ソロで一番よく弾いたのが「間違って欲しくない」で、ライブの最後に弾くことも多くて、思い出深いものだったので“ここかな”って思って。ちょっと一瞬流しても良いですか?(曲を流す)

あぁ~ホントだ! リズムが違うから雰囲気が変わっていて、言われないと気づけないですね……。

 これはさっきの佳穂ちゃんの「LINDY」と比べるとわかりづらいかもしれないですけど、最初のほうのフレーズは、この曲のソロを引用していて、そこからは“次はこうかな?”みたいに考えながら作っていったっていうのが大枠ですね。

なるほど……。

 佳穂ちゃんの話に自分もすごく影響されて、自分なりの返事をしたいという気持ちがソロのアイディアの起点になりました。この曲が入ったアルバム(『paradise lost, it begins』/2015年)でギター・マガジンにも初めて載ることができたし、自分的にもこのアルバムが“ギタリストとしてやっていくぞ”って覚悟したきっかけだったり、軸になっていて。あと、佳穂ちゃんと出会っているのも、このアルバムのツアーでツーマンをした時なんですよ。そういう気持ちも自分の中で“勝手に乗せてみちゃおう”と思って作ったんです。

“良い曲だなぁ、このソロも面白いな”っていうくらいの感じで話を聞こうと思ってインタビューのオファーをしたんですが、想像以上に物語があって驚いてます(笑)。

 (笑)。でも、そうなってくれるのがある意味良いことだから。色んな執念を色んな角度から込めて、結果“なんか良い”ってなるのが一番良いじゃないですか。