ジャズ・ギターの次世代を背負う逸材、ジュリアン・レイジが2年ぶりに新作『Squint』をリリース。ジャズの名門ブルーノート・レコードへ電撃移籍しての第1弾だ。コロナ禍でレコーディングが延期になり、ステイホーム期間を経て“音楽の大切さ”がそれまで以上に膨らんでいったというジュリアンに、存分に語ってもらった。今回はギター・マガジン2021年8月号に掲載したインタビューを、前後編に分けた再編集版でお届けする。
インタビュー=石沢功治 翻訳=トミー・モリー 写真=Alysse Gafkjen
楽曲にエモーショナルな要素を
盛り込みたいと思ったんだ。
前回のインタビュー(本誌2019年5月号)の時、すでに次作のレコーディングの話は出ているとおっしゃっていました。ただ、昨年から世界はパンデミックで一変してしまい、アルバム制作は難しいのかなと思っていただけに、新作の知らせが届いて嬉しいです!
ありがとう。昨年(2020年)の1月にヴィレッジ・ヴァンガード(ニューヨークの老舗名門ジャズ・クラブ)で、僕のレギュラー・トリオのホルヘ・ローダー(b)とデイヴ・キング(d)と6日間ライブを行なったんだ。当初は、その熱気を保ったまま数日後にスタジオに入ってレコーディングする予定だった。でもメンバーの1人がちょっとしたケガを負ってしまってね。キャンセルせざる得なかった。そうしたらパンデミックが始まって、秋まで延期になってしまったよ。
“次は『Love Hurts』をさらに拡大させて、アンサンブルもさらに充実させたものにしたい”、とも話していました。しかしステイホームを余儀なくされたことが、今作に変化や影響をもたらしましたか?
間違いなくあったよ。世界規模で大きな変革があったわけで、社会における正義が何なのかということも浮き彫りになってきた。人種差別や弾圧が様々なところでくり返され、どこに行ってもそれが話題に上がっていたし、特にアメリカでは日々を生きること以上に意識されるようになった。そして、音楽は僕にとってさらに大切なものになっていった。それで、楽曲を書き直したりアプローチを見つめ直したりと、もっと正直に物事を反映させたものへと作り変えていったんだ。
具体的には、用意していた楽曲にもうちょっとエモーショナルな要素を盛り込みたいと思って、キーを変えたり、ハーモニーをいじってみたり、インプロヴィゼーションの戦略を練り直したり、といった感じでね。例えば「Familiar Flower」は最初はリスクを取っていなくて抑圧された感じだったから、“自由”を表現したいと思ってアレンジし直したし、1曲目の「Etude」はギターでできることをどれだけ考え抜いてやれるか、ということがポイントだったんだ。
その「Etude」だけ、ギター1本によるソロ・ギター・テイクです。独演をオープニングに配置したことは意外でしたが、これもステイホームの良い意味での副産物なのかなと(笑)。結果、前作と異なる大きな特徴にもなっています。これはクラシック・ギター作品のようにあらかじめ譜面に書いてあるのでしょうか?
そう、キチンと作曲したよ。ただ、タイム感などは演奏時の解釈によって移ろいでいるね。スロー・ダウンしたり速くなったりとペースが揺れていて、完璧なグルーヴに乗せてプレイしているものとは言い難い。そうやって作曲したものだからか、エチュード(練習曲)としての色合いが強いんだ。
ポリフォニーでプレイしたものがひとつのラインになったり、ヴァーチュオーゾ的な要素や控えめな要素もある。これって、僕が聴いてきた様々な音楽に通ずるものがあると思う。そしてこの曲は2曲目の「Boo’s Blues」につながっていて、同じクオリティのサウンドを維持しながらも、3人で発するエネルギーへと展開していく。そうすることでリスナーの耳をさらに惹き付けられると考えたんだ。
「Boo’s Blues」はグルーヴがポイントでありつつ、ジャズっぽい複雑な感じもあるだろう? 「Etude」みたいなソロ・ギター楽曲からつなげることで、トリオとの対比や、逆にトリオと通じるポイントを伝えられた気がする。
なるほど。新しく曲を書いたり、もしくは既存曲を劇的に作り変えるようなケースもあったのでしょうか?
新作のためにはたくさんの曲を書いたよ。最初は30~40曲くらいあったかな。それを20曲くらいに減らし、さらにアルバムを意識して10数曲に絞り、最終的に9曲になった(笑)。だからけっこうな数の曲が手つかずのままだし、具体的にどの曲をどう変えたかなんて覚えてすらいないくらいさ。
そうそう、「Saint Rose」なんて、最初はまったくこんな感じの曲じゃなかった。これは僕が育ったカリフォルニアの街サンタ・ローザに捧げた曲なんだ。ここ4年くらい山火事でかなり知られることになって、色々と考えるところがあってコードやメロディをいじったり形を変えたりしていったんだ。