Interview|ジュリアン・レイジ名門ブルーノートでの制作について(後編) Interview|ジュリアン・レイジ名門ブルーノートでの制作について(後編)

Interview|ジュリアン・レイジ
名門ブルーノートでの制作について(後編)

ジュリアン・レイジが2年ぶりの新作『Squint』について語ったインタビューの後編は、楽曲ごとのギター・プレイについて、そして作品で使用した機材について。ブルーノート移籍作はどんなギターで奏でられたのか、じっくりと聞いていこう。

文=石沢功治 写真=Alysse Gafkjen

音楽的な会話の触媒、
というのが的確な表現かな。

「Squint」はスウィングですが、作曲する段階ですでに4ビートでのイメージができているのですか? それとも、ライブで演奏するうちにスウィングになっていくケースもあるのでしょうか。

 良い質問だね。僕はビリー・ヒギンズやアート・テイラーといったグレイトなドラマーたちに影響を受けていて、結果、この曲は常にスウィングさせるつもりで作った。加えてベースのウィルバー・ウェアのように偉大なスウィング・プレイヤーからも影響を受けている。でもレニー・トリスターノ(p)、リー・コニッツ(as)、ウォーン・マーシュ(ts)みたいなクール・ジャズのスウィングって、今挙げた人たちのものとも違うよね。僕にとってスウィングは何通りもある。プレイヤー同士の間で流れるものだったり、ベースが先頭でギターが続き、ドラムが遅れてくるものもあれば、順番が入れ替わることもある。ベースとドラムが同じビートでも、ギターだけが少しフリーな感じでプレイすることもあるよね。

 スウィングってフィーリングのひとつのジャンルであって、例えるならフィルム・ノワールみたいなものさ。それでいてニュアンスがたっぷりと存在している。スウィングは「Squint」以外にも、「Familiar Flower」と「Short Form」、スタンダードの「Emily」と「Call Of The Canyon」があって、僕らが表現したいものを網羅しているんだ。

その「Familiar Flower」は3人のインタープレイが素晴らしく、個人的には本作におけるハイライトだと感じました。あなたのプレイは即応力に満ちていて、こういう場合のあなたは、常にニュートラルな位置をキープして、2人の出方によって様々なアプローチを展開しているように思います。そういう順応性のあるプレイを身につけたいと思っている読者にアドバイスをお願いできますか?

 そこにはたくさんの答えがある。ただ、常に頭に入れておかなければいけないのは、“聴くこと”がすべてだ。何が起きているかきちんと把握しておくこと。音楽的な会話に限らず、今僕と君が行なっている会話にも言えることだ。そしてもうひとつ覚えておかなければならないのは、必ずしもニュートラルな場所というものがあるわけではないということ。

 僕はほかの2人のプレイをただ待っているわけではない。もし彼らもほかの2人のプレイを待っていたら、結局何も起きないってことになるよね(笑)。それってある意味、礼儀正しくし過ぎたために、何もできなくなってしまうことに似ている。だから、とにかく自分自身をそこに放り込んでみるってことかな。どんなアイディアでも構わないからひたすらプレイしてみる。その場の思いつきで会話をするみたいな感じさ。

 僕がそういうプレイをすることで、ほかのプレイヤーに火をつけるってことも往々にしてあるし、それを受けた僕にまた火がついて連鎖が起こる。だから“音楽的な会話の触媒になる”というのが的確な表現かな。ただ、その際にはリスクを負う必要があって、プロセスを始めるためにはトライしなくちゃならないのさ。それって音楽をプレイする上でどうしても伴ってくるコンセプトだと思うし、ジャズの歴史の中ではそれをうまく見せてきてくれた偉人たちが大勢いるよね。

例えば、どんな例を聴いてみるのがオススメでしょうか?

 ジム・ホール(g)とビル・エヴァンス(p)の時代を超越したデュオ名盤『Undercurrent』(62年)は模範例だね。ニュートラルなポイントなんてまったくないけど、とても対話的で、常に互いをサポートし合っていて、マジカルなトリックで溢れている。マッコイ・タイナー(p)の『The Real McCoy』(67年)収録の「Passion Dance」では、ジョー・ヘンダーソン(ts)、ロン・カーター(b)、エルヴィン・ジョーンズ(ds)が同じようなことをしているけど、そこに新たなアイディアを付け加えてきた。インタラクティブなインプロヴィゼーションって、スポンテニアスな作曲だと呼ぶ人もいる。実際、作曲したような感じにるからね。

 とにかく、こういうプレイをしたいと思ったら、自分が好きなものを参考にしてみるんだ。そして何かを理解するようになるまで、何度も注意深く聴く。そこには必ず君の糧となるようなものが潜んでいるはずだよ!

「Short Form」は一聴すると変拍子かと思ったのですが、実際は4/4拍子で、2小節を3+3+2のポリ・リズム的な割り方にしているのでしょうか?

 その通りだよ! 時折シンコペーションを挟んだりもしている。例えばモーツァルトの曲って、4拍子でもそうだと感じさせないものが多くあってピカイチなんだ。アクセントのつけ方も練られていて、その一方でサブディビジョンをまったく考慮してなかったりする。僕の音楽が似ているとまでは言わないけど、モーツァルトの作品を聴いて、自分でもああいったことができないかとインスピレーションを受けているのは確かだよ。そこに着目して聴いてもらえて嬉しいよ(笑)。