Interview|オカモトコウキ(OKAMOTO’S)『KNO WHERE』で鮮やかに表現したコロナ禍の“混沌” Interview|オカモトコウキ(OKAMOTO’S)『KNO WHERE』で鮮やかに表現したコロナ禍の“混沌”

Interview|オカモトコウキ(OKAMOTO’S)
『KNO WHERE』で鮮やかに表現したコロナ禍の“混沌”

ロック・バンドとして、常に音楽的な挑戦をし続けているOKAMOTO’Sが、前作『BOY』から2年8ヵ月ぶりとなる新作『KNO WHERE』を完成させた。憂いや怒り、ダークさが表出した楽曲群の中には、約3分半ものギター・ソロを刻み込んだ「When the Music’s Over」や、打ち込みのビートで魅せる「M」、バンドの新たなアンセムとなるであろう「Welcome My Friend」など、表情豊かなナンバーが鳴り響いている。なぜここまで振り幅の広い楽曲が多数収録されることになったのだろうか? ジャンルやスタイルに囚われることなく、自らの“最新の表現”をアップデートし続けるオカモトコウキに、アルバム制作を振り返ってもらった。

取材&文:尾藤雅哉(SOW SWEET PUBLISHING)

作品にはコロナ禍による2年間の
“カオス”をパッケージングしたかった

アルバムとしては2年8ヵ月ぶりとなりました。ずいぶん時間が空きましたね。

 2019年に前作のアルバム『BOY』を出して、10周年を掲げた日本武道館公演をやって、2020年にはベスト盤と共に10周年イヤーを駆け抜けて……そのあとに“ありがとうございました”っていう意味の企画をやる予定だったんですけど、コロナ禍もあって状況的にできなくなっていきました。アルバムをいつ出すかも明確に決まらず、ライブもなかったから、ここ1、2年くらいは締め切りもなく、ひたすら曲を作っていて。今回のアルバムは、そうやってできた膨大なストックの中から選曲して作っていったんです。

今作はロック・バンドの形態にとらわれない、タイプの異なる楽曲が17曲収録されています。なぜこれだけの曲数、これだけ振り幅が大きい作品になったのですか?

 まずは曲がたくさんあるから、シングルの連続配信をやったんですよ。ただ、“6、7曲を配信で出して、そのあとのアルバムが配信曲も入れた10曲入りの作品だったら、シングルを聴いてくれていた人には新しい感じがしないよね”ってことになったのが理由のひとつ。

 それと、今回の作品にはコロナによるこの2年間の“カオス”をパッケージングしたかったんです。以前に比べて世の中が狂っている中、自分の中からいろんなタイプの曲が生まれてきたし、それらが雑多に入ることで伝わるものが2021年的なんじゃないかなって。ここ数年、僕らの作品は10曲くらいを目安にしていたんですけど、The 1975のアルバムが22曲入りだったり、カニエ・ウェストのアルバムが27曲入りだったっていうことありましたね。でも毎回これをやってたら大変なことになるから、“今回に限っては”ですけど(笑)。

なるほど。全体的に、湿り気、ダークさのある曲が多いとも感じました。

 2015年の『OPERA』以降のOKAMOTO’Sの曲って、実はけっこう暗いのばっかりなんです。初期のスリー・コードのロックのイメージが強くて、元気のいい、明るい印象かもしれないけど、最近はずっと暗い(笑)。歌詞の温度感にサウンドを合わせていくと、どうしてもシリアスにならざるを得ないし、本当に世の中が混沌としてたから、自然とそうなっちゃったのかもしれないですね。

ただ、ギターに関しては奇をてらうでもなく、過剰に歪ませるでもなく、シンプルに良い音を鳴らしているな、という印象を受けました。

 案外、良質な音って感じですよね。今回のギターの音、すごい良くないですか? 僕としては、今までで一番良いなって思ってるんですけど。

右手のタッチまで伝わってくるような、生々しい鳴りのサウンドでカッコよかったです。さらに、ウェットな音とドライな音を巧みに使い分けていて、その対比が今回の音作りのキーになっているようにも感じました。例えば「Pink Moon」では、ギターは空間系エフェクトを使っていているところもあれば、リズムを支える部分ではドライな音もあって。

 そうかもしれないですね。個人的には、ギターの良い音と呼ばれている“70年代的で、中域が豊かな音”みたいなものが、一番今の空気感と合わないなって感じがしているんです。それよりも、もっとカラッと乾いた感じが合いそうだなって。その感覚は「Welcome My Friend」を作った時くらいからずっとあって。伊藤智彦監督のアニメ(『富豪刑事 Balance:UNLIMITED』)のEDテーマ曲なんですけど、実はSilvertoneのギターで録ったんです。なんか、ロック・バンドが担当したアニメのサウンドが、そんな古臭いビザール・ギターで録られてるっていうのもまた面白いというか。すごく独特な音になって良かったです。あの倍音だけ出てるスカスカな感じがすごくカッコよく聴こえたんですよね。あとは、今回初めて全編でキーボードが入っているんですけど……。

BRIAN SHINSEKAIさんが参加していますよね。

 はい。ブライアンが全編にわたって参加したのもあって、アンサンブルの中域やコード感を鍵盤に任せて、ギターはその上でオブリだったり、エフェクティブなことをやる。そういうふうにバンド・サウンドの中でのギターの立ち位置が変わって、すごく楽になりました。以前は“最低限ここは守りつつ、その中でできることにも手を伸ばす”みたいな感じだったのが、キーボードにそこを任せられることで、ギターはリズム的なアプローチもできるし、コードの鳴らし方なんかも凝れる。だいぶ楽しいです。

「Young Japanese」ではパーカッシブにプレイされるアコースティック・ギターが曲の中で効いていますね。

 たしかにアコギがキモですね。音程とリズムの両方を担っているので、ライブでどうやって表現したらいいか悩ましいです(苦笑)。サビなんかも、ほとんど音程のない16分のシンセがパーカッション的に入っていたり、タンバリンがチキチキって入っていたりしているので、ノリが難しいんですよ。でもレコード芸術としてうまくいったパターンだと思います。

「You Don’t Want It」は、個人的にはマイケル・ジャクソンの「Beat It」、「Band Music」はディスコ、ニューウェイブ、AORといった80年代の雰囲気を感じました。

 「You Don’t Want It」は、音色とかも含めてかなり80’sですよね。「Band Music」はけっこう好きです。Aメロがクイーンの「アナザー・ワン・ザ・バイツ・ザ・ダスト」的なリフで始まって、サビで一気に開けて、メジャー7thのコードが使われたAOR的な進行にいくっていう。

そういったところにも、コンポーザーとしてのコウキさんの色が出ているように思います。

 そうかもしれないですね。ただ今回は、初めて全曲をショウさんと共作したんです。普段は別々に曲を作って、プレゼンして、みんなで選んで……って感じでしたけど、以前映画のサントラ(『HELLO WORLD』/2019年)を作った時に久しぶりに一緒に作業してみて、2人で“いけんじゃね?”みたいになって。そのまま自分たちの曲作りに移行していきました。バンドの最初期とか高校生の頃にはやっていたやり方なんですけど、それくらいぶりの全曲共作。いい感じに混ざり合ってるし、お互いにいろんな曲をOKAMOTO’Sでやってきたり、ソロを出したりしているからこそアイディアを柔軟に採り入れる姿勢があって、すごくうまくいったと思います。

「When the Music’s Over」は、ラストの約4分にわたって弾き続けている長尺のギター・ソロが圧巻でした。

 完全にやり過ぎました(笑)。この曲は“音楽が終わる時”っていうタイトルなのに、こんな長いギター・ソロがあるっていうのも、トンチが効いてていいのかなって。まぁ“ひとり「ジ・エンド」”ですよ、ビートルズの。あれも3人でソロ回しをするじゃないですか。ホントは1人でギター・ソロを弾き切ろう思ったんですけど、“違うキャラクターの2人が競ってる”みたいな演出にしないと、3分半は持ちませんでした(笑)。

どんな感じでフレーズを作っていったのですか?

 当日にディテールが変わることはあるけれど、大まかな絵はあらかじめ描いていきました。それからちゃんとプリプロもして、“ここにこういうフレーズを入れよう”って詰めて。DAWソフトで事前にシミュレーションしながら、かなり細部までフレーズを作り込みました。

ほかのメンバーの反応はどうでしたか?

 中途半端にカッコいいギター・ソロを入れるよりも、3分半、気が狂ったように弾くっていうのはすごく良いって言われました。あと、何気にギター・ソロの裏でも熱い演奏がくり広げられているんですよ。ベースと呼応し合いながら全体のグルーヴを作っていっているので、そのあたりはバンド・マジックを感じた瞬間でしたね。

ちなみに普段、プリプロはどのくらい重視しているのですか?

 今までは“曲の方向性はこんな感じ”と決めたワン・コーラスのデモを僕とショウさんが作って、それをバンドで合わせて、“フル・コーラスはこういう方向性でいこう”みたいにプリプロを丁寧にやってから、曲を選定していたんです。でも今回に関しては、全体で言うとプリプロはほぼやっていないんですよ。曲と向き合う時間がいつもよりたくさんあったから、デモの時点でほとんど完成の段階までアレンジを詰めちゃっていて。中にはデモの音色をそのまま使っている曲もあるくらい。なので、ほとんどの曲は“これを再現したい”っていうスタイルでしたね。それが今回はすごく良かったんですけど、ずっとこのやり方でいくかとなると微妙。みんなで同時に演奏することによって生まれるケミストリーも大切ですからね。