新しいトライをしたことで自分のことを再確認できた
アルバムを通して、ギターはどういうアプローチを？
ギター・ストロークが伴奏になるようなアコギの曲以外に関しては、アクセントになるような使い方が好きで。伴奏はほかの楽器に任せつつ、ギターはリズムやグルーヴを出すために使うことを意識しました。「Rainbow（feat. Taka）」で言うと、ギターの6弦で刻むベースもシンプルに隙間を出して、ギターの素材感がしっかり際立つような使い方が好きで。その分、アコースティックの楽曲とか、ギター主体の曲とのはものすごく差が出ますし。
楽曲ごとに着目すると、例えば「あーあ。」はアコギのストロークや指弾き、ミュートなど、右手のニュアンスでグラデーションを付けているのがわかります。
特にアコギを使う曲は、1回聴いてお腹一杯になる曲にならないように意識しています。温度感があり、何度でも聴けるものにしたい。特に「あーあ。」は、ふとしたことから生まれた曲で、その衝動を大切にしたかったから、シンプルなアレンジを心がけました。ほかの曲がかなり壮大なので、ああいう曲は、ちょっと休みながら思いに耽られる、何度でも聴ける曲という位置付けですね。
「Laid back」は、シンプルなコード・ワークをベースに、フレーズの足し引きで曲の表情を変えていくアプローチです。ReNさんの真骨頂と言えそうですが、それがより深まった感じで。
新しいトライをしたことで、“自分って何なんだろう？”ってことを再確認できたんです。僕のイメージって、シンプルなコードの上で思いを綴っていく曲が多いイメージがあると思うんですけど、それって結局は僕自身が思いを乗せやすいやり方だったからこそ確立されたものなんだって気が付いたんですよね。そういう意味でも、「Laid back」はある種の原点みたいなタイプの曲ですよね。それでも言葉のフロウやメロディは、自分の過去の曲よりクオリティが少しずつ上がってきてると思います。
「アナログの空」ではブルージィなエレキ・ギターのソロも聴くことができますね。これはギターを軸に雰囲気を変化させていくような曲なのかなと。
「City Lights」などがクールにまとまってるから、“こういう曲も残しておかないと”って意識がありました。日常の景色が流れていくような曲なので、こちらもあまり派手なアレンジにはしないように決めて。僕、「アナログの空」を聴いてると、いろいろな思い出が頭をよぎるんですけど、そういう思い出たちを彩るようなサウンドを意識しています。だからこそ、どこか懐かしい、ブルージィなサウンドを求めたんだと思います。
エレキ・ギターは何を？
僕のギターじゃないんですけど、Suhrです。同時期に作った「あーあ。」はKAYで弾いているんですけど、「アナログの空」でどっちを使おうか考えた結果、“KAYだと単音を弾くにはちょっと丸すぎるね”ってことで、Suhrを選びました。
「Teenage Dreamers」は重厚なバンド・サウンドが印象的なアレンジですね。
すごく思い入れが強い曲だったので、アレンジにすごく時間がかかりましたね。バンド・サウンドにするのか、打ち込みとアコギでやるのかを悩んで……結局は“1人でロックするような曲にしたい”と考え、バンド・サウンドを選びました。
聴いてくれた人の心に光が差し込んでくれたら
めちゃめちゃうれしい
ここからは、フィーチャーリング・ゲストについて話を聞かせて下さい。まずはメイジー・ピーターズさんが参加した「One Last Try （feat. Maisie Peters）」ですが、メイジーさんは21歳のイギリス人シンガーとのことで。
そうなんですよ、21歳になったばかりです。彼女の曲をいろいろと聴いたところ、少女っぽいあどけなさと、力強さがある声が印象的で、今回ダメ元でオファーをしたんです。そうしたら“ぜひ！”って返事をいただいて。レコーディングの前はzoomでイメージを伝え合いました。彼女が英語のパート、僕が日本語のパートを歌っていたんですけど、彼女が最後に“日本語を歌いたい”って言い出して。驚いたんだけど、“じゃあ、やってみよう”って歌ってもらったら、“これはいい”となったんですよね。
耳が良いのかもしれませんね。これは書き下ろしですか？
何かに向けて作ったわけではなく、以前、自分自身が燃え上がるような曲を作りたいと思った時にデモを作っていたんです。それを完成させようかどうしようか悩んでいたら、ちょうどアシックスさんからCMの話があって。この曲がピッタリだと思って提案したら、採用してもらえました。
それから歌のテーマを考えた時に、僕自身コロナによってライブがなくなったので、アスリートの気持ちもわかる部分がある、と。孤独感を持ちながら、本番の時を待っている……そういう気持ちを最終的なテーマに設定して、“それでも負けないで、最後のトライだと思ってがんばろう”ってことを歌いました。だから僕ひとりだけで完結させるよりは、男女の声と言葉で、国境も越えた幅広い世界観でやりたかったんですよね。
「Rainbow（feat. Taka）」では、ONE OK ROCKのTakaさんとコラボしています。
Takaさんとは、僕が2017年にONE OK ROCKのオープニング・アクトをやらせてもらった時から仲良くさせていただいているんです。“いつか一緒に音楽を作ろうな”って話をしていたんですけど、自分もまだまだ修行したいって思いもあったから、ずっと実現していなくて。
それが今回、実現したわけですね。
実はこの曲のデモ、3年前にはあったんですよ。コード、背景のシンセ、刻んだギター、ベース、それにちょっとしたメロディが乗ったもので。それを僕は、ライブでご一緒した直後くらいの頃にTakaさんから“これにReNの歌詞とメロディを乗っけてみてよ”って聴かせてもらっていました。
でも当時は、自分じゃ難しいと思ったんです。カッコいい曲なんですけど、自分が歌っているところを想像できなくて……それで結局曲にはできず、悔しい思いをしました。先輩の提案に応えられず不甲斐ないと思う反面、“あるべき骨組みが確実に見えてないのに取り掛かるのは良くない”、“自分が愛せないものを、背伸びして作ることは良くない”とか……色々と考えてしまって。
そうだったんですね。
で、コロナのちょっと前くらいに“そろそろ仕上げたい”と思い、がんばってメロディと言葉を乗っけて、Takaさんに聴いてもらって。最後にTakaさんがコーラスを入れてできあがりました。実作業としては2週間くらいですけど、曲との出会いは3年前。Takaさんも“やっとか！”って感じだとは思うんですけど（笑）。でもその分、お互い納得いくものができたと思います。
いざスタジオに入ると、普段の僕のレコーディングの進め方とは違うアプローチなんですよね。Takaさんのレコーディングの仕方って、僕よりも経験値も高いし、しかもテイクごとに確実に良くなっていく。ものすごく勉強になりました。やるって決めたらすごい早くいくんだなってことも学びでした。
その後の3年間のReNさんの経験があったからこそ、歌えるようになったんでしょうね。
そうなんですよ。3年前の僕って、似合わないのに着飾ろうとしてしまうところがありました。当時もがんばればできたのかもしれないけど、結局“似合ってねえな”ってものになっていたと思う。でも今は、“がんばれば着こなせる”って自信を付けられた部分がありました。歌い方もそうで、この曲、僕からしたらキーが高いんですよね。そういう意味でも以前の僕にはこの歌の世界観は出せなかったし、3年の間にいろんな楽曲を作って、歌ってきたから表現できるようになったと思う。
それに制作中、いろんなことを試したうえで、その中から楽しくジャッジできたんです。つまり背伸びしている感覚もなく、“こっちがいい”って選べる余裕があった。そういう意味ではやっとこの曲を料理できるところまで来られたと思うし、それに気付けて良かったとも思います。
ここまでお話を聞いて、新しいチャレンジがふんだんに散りばめられたアルバムになったのがわかります。改めて、ReNさんの中ではどんな作品になったと思いますか？
まずは今の時期に出せたという喜びが1つ。それに、ライブがなくなった時期だったので、これまでライブがあったからこそ結び付いた仲間やファンの人たちがたくさんいたってことを痛いほど感じました。そんな中で書いた楽曲がたくさんあるから、とにかく今はみんなに手に取ってもらいたいです。今回のアルバムって、自分も“これだ！”と思って出せたし、今後聴いても“この時の僕の意識はあそこに向かっていたな”っていうのが感じられる作品になったと思っていて。だからものすごく大事なものになりました。
『ReNBRANDT』ってタイトルは“レンブラント光線”から取っていて、“空から差し込む光”のことなんですけど、その意味通りの力が、聴いてくれた人それぞれの心に光が差し込んでくれたら、めちゃめちゃうれしいですね。
作品データ
『ReNBRANDT』
ReN
ワーナー／WPCL-13316／2021年9月8日リリース
―Track List―
01. City Lights
02. Running Forward
03. Can’t get enough of you
04. One Last Try (feat. Maisie Peters)
05. あーあ。
06. Rainbow (feat. Taka)
07. Laid back
08. Don’t Let Go
09. アナログの空
10. Teenage Dreamers
11. We’ll be fine
―Guitarist―
ReN
