日本のギタリスト諸君! ポール・ギルバートからのクリスマス・プレゼントはもう受け取ったかな? ポールの最新作『’Twas』は、彼にとっての初めてのクリスマス・アルバムで、オリジナル曲も不朽の名曲たちもギター・インストでアグレッシブに表現した1枚だ。しかし、今回は“ジャズ”がキーワード。その内容について本人にたっぷりと語ってもらおう。
インタビュー=トミー・モリー 質問作成=福崎敬太 Photo by Jason Quigley
子供の頃はビーチ・ボーイズのクリスマス・アルバムが好きだったかな
今回はあなたにとって初のクリスマス・アルバムですが、どのような経緯で今作は作られたのでしょうか?
長い間あまり興味を持ってこなかったけど、最近になって多くのクリスマス・アルバムをリサーチしてみようと思ってね。60年代にスティーヴィー・ワンダーがリリースしたクリスマス・アルバムはすでに家にあって、これは常に僕のお気に入りだった。で、色々と調べてみると、ナット・キング・コール、バーバラ・ストライサンド、ロレッタ・リン、エルヴィス・プレスリーと、けっこう昔のアーティストたちの作品の中に気に入ったものがあると気づいたんだ。それで僕もクリスマス・アルバムを作ろうと思ったんだけど、重要なのはどんなスタイルでやるのかということで、ヘヴィメタルやサーフ・ロックか、メロディに対してどういったものを肉付けしていくのかを考えていったんだ。
そういった素晴らしいクリスマス・アルバムが数ある中、この『’Twas』はどのような作品にしようと思っていましたか?
ジャズっぽいコードを使うことに興味があったんだ。例えば「The Christmas Song」には一風変わった音遣いやメロディがあって、それでいてⅡ-Ⅴ-Ⅰのコード進行がある。Ⅱ-Ⅴ-Ⅰって言われればわかるけど、改めてそこに気づくと新たな世界に足を踏み入れたような気分になったんだよ。
「Winter Wonderland」もⅡ-Ⅴ-Ⅰでソロをプレイしているところがあって、“リッチー・ブラックモアっぽいリフがここに乗るんじゃないか?”って思った(笑)。このパート(CD Time:02’19″~)がそれで、Cm7→F7→B♭maj7という進行に対して「Smoke on the Water」みたいなリフを当てはめているんだ。これは簡単で、3、4弦を8フレットでバレーしたまま2フレット下げ、今度はそれを1フレット上げるだけ。これだけでⅡ→Ⅴ→Ⅰになっていて、Ⅴのコードではジミ・ヘンドリックスがやりそうなアウトしたサウンドにもなっている。
たしかに「Smoke on the Water」のロックな感じと、アウトするジャジィな雰囲気の両方を感じますね。
そう。で、話を戻すとジャズの分野に少し踏み込みたくて、かつシンプルな曲をどうやってアレンジするのかというのがテーマだったんだ。「Winter Wonderland」なんかは複雑なコードがあったからまだ良かったけど、「Frosty the Snowman」みたいにシンプルなものをどう面白くさせるのかがチャレンジだったね。メロディをマイナーな感じでプレイしてから今度はメジャーな感じでプレイし、そこでは7拍子でプログレっぽくさせている。そこからブルース バージョンになり、メロディがハマるようにアレンジしている。これをすべてワン・テイクでやれたのが自分でも信じられないね(笑)。

オーギュメント・コード上でソロをプレイしたことなんてなかったから、恐怖だったね(笑)
「Frosty the Snowman」は今言ってくれたたとおり、かなり複雑な構成になっています。この流れはどう作っていったのですか?
たくさんのアイディアを試したよ。マイナーのパートに飽きたらメジャーになり……でも最終的な形になったものはすべて僕が大好きなもので、幸運なことにこれらのスタイルでプレイするだけで十分だった。この曲はそれらをつなげるためにリックを他にプレイする必要はなかったけど、「Rudolph the Red-Nosed Reindeer」ともなるとけっこうリックを加えてプレイする必要があってね。
「Rudolph the Red-Nosed Reindeer」のイントロのラテン・ジャズ・ロックのような入りから、メロディのプレイというアレンジはこれだけで別の曲としても成り立つほどキャッチーですよね。
あそこはアルペジオに置き換えて速くプレイしてみたんだ。そのあとはレッド・ツェッペリンの「移民の歌」みたいなフレーズ(CD Time:00’19″~)もプレイした。で、この曲はグルーヴを重視していて、本来のストレートな曲に対してファンキーでレゲエっぽいノリでプレイしていったね。
メインのメロディのところなんてあまりにもシンプルだから、3弦でプレイする際に小指で1音加えたゲイリー・ムーアっぽいリックで、ロックの怒るようなエネルギーを込めてみたんだ。
「Let It Snow! Let It Snow! Let It Snow!」もかなり忙しいアレンジです。2拍3連のプログレッシブなブリッジやハードなメロディ・プレイ、今回のテーマである“ジャズ”っぽいハーモニーなど、本作のキャラクターを一発で提示してくれる、まさに1曲目に相応しい楽曲だと思いました。
最初にあったのはEのキーでプレイするメロディで、これは3コードでプレイできるものなんだよね。だけど、僕はこれをリハーモナイズして代理コードをたくさん使ってみることにしたんだ。正確にそれが何のコードかわからずに耳で拾って、バンドに伝えながら“このコードか!”って把握していったね。
で、メロディの始まりは①Asus2(以下譜面参照/コードの表現は本人の発言ママ)からで、ベース音をBに変えて(②)、③D6(9)みたいな変な感じのボイシングになる。こうくると僕が“70年代コード”って呼んでいるBメジャーのオン・コード(④)プレイする。その次が⑤Faug、⑥F♯m7(11)、今度はそのトライトーンのCをベースにして(⑦)、⑧D♯m7(11)、そして⑨Eに戻る。かなりサプライズのコードとなるよね。
そこからまたコードが展開していき、次のコーラスは音域を上げてまるでビートルズの“I read the news today oh boy~♪”って歌っているような感じになるんだ。僕はaugのコードでソロをプレイしたことなんてなかったから、これをバックにソロをプレイするとなるとかなり恐怖だったね(笑)。Faugの時はたった1つのスウィープのリックをプレイするくらいしか考えつかなかったよ(笑)。
ギターはクリスマス・カラーで統一したんだよ
今回登場したギターについて教えて下さい。
今回は赤、白、緑のギターを使ったんだ。スタジオに映像スタッフを配備させて全曲ビデオ収録したから、クリスマスっぽい感じにすべくクリスマス・カラーで統一したんだよ(ポール・ギルバートのYouTubeチャンネルで演奏動画が順次アップ中!)。
メインで使ったのがアイバニーズの緑のSシリーズの20周年モデル(下写真でポールが手にしている1本)で、これはネックとボディが薄くロッキング・トレモロ・システムがあったり、僕がいつもプレイするギターとは異なった仕様なんだけど、どうしても緑が欲しくて使うことにしたんだ(笑)。でも実際プレイしてみたらグレイトなサウンドで気に入ってしまい、アルバムのほとんどの部分でプレイしている。他にはmiKro Double Neck(下写真右から2番目)も使ったね。

そういえば「Three Strings for Christmas」は片側が弦3本のダブルネック(上写真最左)を使ったと聞きましたが、最初のスウィープのようなところがそれでのアプローチですか?
そのとおりだね。このリックの素晴らしいところは、ポジション・マークのあるフレットしか使っていないところで、A9のコードっぽい音を使っている。ダン(・バルマー)にコードをプレイしてもらっているところで、僕はこのリックをメチャクチャ速く弾いている。ポジションを1つずつずらしていくっていう簡単なフレーズなんだけどね。
全然簡単に聴こえないです(笑)。さて、ほかに使ったギターは?
「Every Christmas Has Love」ではアイバニーズの古いダブルネックSGコピーを使った。下のネックしか使わなかったけどね(笑)。で、赤と白それぞれのFireman(上写真ポールの左と最右)も使ったね。70年代のアイバニーズのES-355コピー(上写真最右うしろ側)もけっこう活躍したよ。このギターはサステインがたっぷりあるし、グレイトなトーンでスライドをプレイするにしてもグレイトなギターだね。
アンプやペダルなどの機材は何を使いましたか?
ピグノーズの小さなアンプをギター・スタンドにくくりつけ、フィードバックによるサステインを得ていたね。スピーカーをギターのすぐ側に置いていたのでラウドにせずに心地良いフィードバックを作り出せたんだ。あとはマーシャルのSV20も使ったね。で、ペダルはディストーションだけでも4、5種類使い分けていたと思う。JHSペダルズのPG14、TCエレクトロニックのMojoMojo、スプロのDrive、エレクトロ・ハーモニックスのHot Tubesを使ったかな。スプロDriveはJHSのHaunting Midsと組み合わせて使ったら、ナイスなサウンドが得られたね。
歪み以外だと?
モジュレーション系にはフルトーンのDeja’Vibe、ネオ・インストゥルメンツのmini Vent IIをけっこう使ったね。あとはカタリンブレッドのCallisto Chorusもよく使ったし、アイバニーズのフランジャー、FLMINIを「We Wish You a Merry Christmas」のイントロでかけている。ビンテージのADAのフランジャーも少し使ったかな。で、ワウはダンロップのCry Baby Junior。これはちょうど良いサイズで気に入っているんだけど、座ってレコーディングをしているとオン/オフに困ることがあったから、ボスのLS-2を使ってワウをループに入れることにしたんだ。ワウはずっとオンにしたままでセレクターを使って切り替えるから、操作がかなり簡単になったんだ。これは相当大きな違いを生んでくれた気がするよ。
で、最後に重要なのがダンロップのクロム製のスライド・バー318で、これはギターのボディに接着した磁石にくっついてくれるから、スライドと押弦を往来できる。僕にとってとても重要なピースだよ。
1年で最もグレイトな時間を過ごし、美味しいクリスマスケーキを食べてね!
さて、日本盤のボーナス・トラック「Down the Chimney Blues」は純粋なブルース・ロック・インストとして素晴らしい仕上がりです。これはどういう楽曲なのでしょう?
何のことはないブルースのジャム・セッションだよね(笑)。僕らが最後に録音した「We Wish You a Merry Christmas」でグッドなテイクが録れた時に、誰もが終了したと思ったんだ。でも、“あぁ、やりきったぞ!”と誰もがなった瞬間に、僕が“CのブルースをⅤからプレイするんだ!”って言ったら、みんなグレイトなブルース・プレイヤーだからレコーディング終了を祝う素晴らしい締めくくりとして始まったんだよね。で、あの時たまたま取り掛かっていた歌詞があって、それを歌いながらプレイしてみたんだ。歌詞の中に“ヴィクトリー・ラップ”という野球の用語があって、それはホームランを打ったら走らなくてもいいのに興奮のあまり嬉しくて全力で走ってしまうことを指している。だからこの曲は僕らにとってのヴィクトリー・ラップだったんだ。
それでは最後に、日本のギター・ファンへのクリスマス・プレゼントとして、メッセージをお願いします!
僕の初めてのクリスマス・アルバムを聴いてくれてありがとう! アメリカでは特に子供にとってクリスマスはとても重要なイベントで、たいてい何かしらのプレゼントをもらうものだ。君たちはおそらく同じように、新しいギターやペダルを手にし、新たなインスピレーションを得るのかな? そして1年で最もグレイトな時間を過ごし、美味しいクリスマスケーキを食べてね!