Interview|ホリエアツシ&大山純(ストレイテナー)情景を描き出すサウンドの核心に迫る Interview|ホリエアツシ&大山純(ストレイテナー)情景を描き出すサウンドの核心に迫る

Interview|ホリエアツシ&大山純(ストレイテナー)
情景を描き出すサウンドの核心に迫る

2021年11月17日に最新ミニアルバム『Crank Up』をリリースしたストレイテナー。今作は彼らの持ち味である“バンド・サウンド”を、近年の作品に比べさらに色濃く反映した“アツい”1枚となっていた。今回のインタビューでは、現在の彼らのギター・サウンドがどのようにして描かれ、今作のサウンドメイクにどういった秘密が隠されているのかを、ミクロ&マクロな視点からホリエアツシ(vo,g)大山純(g)の両名に聞かせてもらった。

取材=伊藤雅景 写真(ホリエアツシ)=Taka(nekoze_photo) 写真(大山純)=ピー山

“1曲1曲を面白くしたい”という想いが強かったですね。
──大山純

最新ミニ・アルバム『Crank Up』を引っ提げてのツアーが12月に行なわれました。ステージでの演奏を経て、収録楽曲への印象の変化はありましたか?

ホリエ “こんなにもライブ映えするんだ”みたいな。自分たちとしてはスタジオで音を合わせて作っていく中で、ロックなレコードだと実感してたんですけどね。ライブに来てくれたファンからは、音源で聴くよりも“こんなに激しいアルバムだったんだ”っていう感想が多かったみたいで、関係者からもけっこう言われもしたんですよ。

個人的には以前のミニ・アルバム『Resplendent』(2013年)に近い激しさや空気感も感じました。

ホリエ 確かに今作といちばん共通するものがあるかも。僕的にはミニ・アルバムって実験性っていうか遊び心を込めやすいと思っているんですけど、今作はフル・アルバムっぽく統一感が強いっていうか。この1年で生まれた色々な想いがメンバーそれぞれ色濃く出ているから、なおさらそう感じます。

なるほど。ギターの音色の部分で、何かテーマを設けたりはしましたか?

大山 テーマですか。全曲テイストが違うので、意図的に音色を絞るということはしていないです。それ以上に“1曲1曲を面白くしたい”という想いが強かったですね。

ホリエ 曲ごとに完成した時期もバラバラだったしね。最初に「群像劇」、「倍で返せ!」を録って、何ヵ月かあとに残りの3曲を録りましたね。テーマって部分で言うと、OJ(大山)はそれこそ感覚的なワードでテーマを形容することがあるよね。“水みたいな”とか。

大山 そうだね。そういったフレーズの作り方をする時も確かにあります。歌詞を読んでイメージを広げていくっていう。でも今回のアルバムは、歌詞を読む前のスタジオ・セッションの段階でほとんどのフレーズが出来上がっていたので、自分のフィーリングで作ったサウンドやフレージングが全面に出てる印象が強いです。

オープニング曲の「宇宙の夜 二人の朝」はそれこそ“スタジオ・セッション”的な勢いを強く感じます。

大山 あの曲は日向(秀和/b)と自分のユニゾン・リフから始まるんですけど、“なんかイントロ欲しいよね”ってホリエの一言で日向が一瞬で引き出したフレーズなんです。大したもんだと思いましたね(笑)。ユニゾン・リフの“馬鹿らしいけどカッコいい”みたいな、そういう感じが上手く出せたと思います。

過去曲で言うと「DAY TO DAY」(『COLD DISC』収録/2016年)のイントロのような手法ですよね。

ホリエ そうですね。あと「クラッシュ」(『NEXUS』収録/2009年)とかもそうですね。あれは実はインキュバスの曲がモチーフで。

大山 そうだね。構成を参考にした。

ホリエ ユニゾン・リフのキメから入って、アルペジオにつながるインキュバス感。

サビでは大山さんのメロに絡み付くオクターブ・フレーズが印象的でした。

大山 これも過去曲の中だと「Little Miss Weekend」(『NEXUS』収録/2009年)でやっている、俺の中での手法の1つです。

ホリエ スリーピース・バンドっぽい音像にしたいっていう自分の要望が元々あって、そこにOJが乗っけてきてくれたフレーズですね。

アウトロの鍵盤と絡む三連符のアルペジオもまさに“OJ節”を感じました。

大山 感覚的に最近の自分のアルペジオ・フレーズっていうのは、なんとなくですけど“星”感みたいな。星っぽさを表現してて。そういったイメージがありますね。

とても共感できます。

大山 星の“キラキラ感”が自分の中ではテーマの1つではあるんで。“キラキラ感でどう絡もうかな?”とは考えました。

ホリエアツシ(vo,g)
ホリエアツシ(vo,g)

あくまでスタジオ・ワークで制作することにこだわっています。
──ホリエアツシ

「群像劇」のサビは大山さんが弾くカッティングのタイム感がとても気持ちいいですね。

大山 ありがとうございます。最初はもっとパキッとした王道のカッティング・サウンドにしようかと思っていたんですけど、途中から変わりましたね。最終的にショート・ディレイをリバース・ディレイで再現して、そこにコーラスをかけた音色になりました。。

リバース・ディレイでショート・ディレイを作ったんですか? 目から鱗の使い方ですね。

大山 急に降って沸いたアイディアです。BOSSのDD-500で色々遊んでいた時に見つけましたね。実は俺は普通のディレイってあんまり使わなくて、大体リバース・ディレイから作るんです。理由としては、普通のディレイだとBPMをしっかり設定しないといけないのでライブだとちょっと使いづらい時もあって。その流れで“ショート・ディレイもリバースで再現しちゃおう”と。ただ、あんまり意識してなかったです。みんなやってると思っていました(笑)。

隙間を活かしたギター・ソロも狂気を孕んでいて素晴らしかったです。

大山 狂気(笑)。当初はギャグみたいなノリで入れましたねえ。

ホリエ ひなっち(日向秀和)が“アウトロでソロ弾き狂うとか面白くない?”とか言って(笑)。

大山 弾き狂ってるのにすぐ消えちゃうし。

ホリエ 盛り上がってきたところでフェードアウトしちゃうもんね(笑)。このギター・ソロはあらかじめ決め込まずにぶっつけで録ってたよね。

大山 実際は大苦戦してます。

ホリエ “だんだん良くなってきた! 今の活かしてもうワンテイク!”みたいな(笑)。

そうだったんですね。フレーズをDTM等で送り合うような制作をしたりはしますか?

ホリエ まったくしなかったですね。

たしかに、ストレイテナーはあくまでスタジオ・ワークが多い印象があります。

ホリエ そうですね。スタジオに入れない時期は、メンバーみんな“仕方ないから休もっか”みたいな感じでした(笑)。去年とかはリアルにスタジオ自体が休みになっちゃった時もあったんですけど、それでもあくまでスタジオ・ワークで制作することにこだわっています。

それこそ「倍で返せ!」はまさにスタジオ・ワークでしかなし得ない、バンド感が詰まっている曲だと感じました。フィードバックから始まりますし。

大山 フィードバックの音程は、ギターのトーン・ノブとかで調整したりしてますね。耳に痛いフィードバックになりそうな時も手元で調整します。

ライブでもギター本体のノブ類は逐一調整しますか?

大山 けっこう触りますね。曲によって調整します。おもにフロント・ピックアップを使ってますが、アルペジオの時はセンター・ピックアップに切り替えていたりして。あと、自分のギターはキル・スイッチがついているのでそっちもよく使いますね。「倍で返せ!」の間奏のブツ切りフレーズはそこをいじりながら録ってます。右手でピック・スクラッチをやりながら、左手でキル・スイッチをON/OFFしているという……。

見た目のインパクトが凄そうですね(笑)。

大山 こちらも大苦戦しました。脳が“左右どっちだ?”ってなりますね(笑)。

ホリエ ニッチな効果音が好きな人にはたまんないでしょうね。こういった箇所を褒められると嬉しいです。ただ、OJは自分でやりながら“これ要る?”みたいに言ってたけど(笑)。こっち側もエンジニアと2人で“うーん……、まあ録っとくか”みたいになってたもんね(笑)。

(笑)。ホリエさんのバッキングのサウンドも今作で最も分厚く骨太でした。

ホリエ あれは実はリッケンバッカーで録ってます。試しに弾いてみたら良い感じの骨太な歪みが出たんですよね。マーシャルのASTORIA CUSTOMでクランチを作って、歪みはボスのブルースドライバーを掛けて録りました。

大山純(g)
大山純(g)

そろそろ、面白い人だなって気がついてくれたら嬉しい(笑)。
──大山純

「流星群」ではシンコペーションのアルペジオが1曲を通してキー・フレーズとなっているように感じました。サビの終わりだけダブルで鳴っていますよね。

大山 よく気がつきますね。そこはミックスで上げても良かったんですけど、あえて重ねて録って、フレーズ終わりのサステインを伸ばしたかったんですよね。歪みでサステインを稼いでも良かったんですけど、次の構成の小節頭では違うフレーズを弾いちゃってるので。スムーズにアルペジオがつながるようにこういった手法を採用しました。

なるほど。こういったシンコペーションのアルペジオは大山さんの十八番的な印象があります。

大山 たぶん俺、矢野顕子さんのピアノから影響を受けていると思います。昔、ピアノの弾き語りをよくギターで真似してたんですよ。その時に独特な和音や音価を無意識に学んでました。

そうだったんですね。ホリエさんのコードのボイシングと混ざりあって、独自の世界観が演出されているように思えます。一方でバッキングは全体を包み込むような位置にいましたね。

ホリエ そうですね。リズムの打ち込みとかもあったので、全体的にハイブリッド感を出したかったんです。歪みが前面に出ている音の壁じゃなくて、奥で支えてる壁っていうか。そういったイメージでミックスしてますね。「流星群」のサビはシンセのコードのメロディの動きで空間的な広がりを出してます。ストレイテナーのギターのバッキングはもともと常に全ダブルだったんですけど、最近はダブらせずに僕とOJを左右に振り分けるだけってことも増えてきましたね。この「流星群」みたいにコードの壁はシンセに置き換える曲も増えてきたので。

アルバム最後の「七夕の街」。情景を感じる美しい曲だと感じました。

ホリエ これは“ザ・ギター・ロック”っていうサウンドを久々に作った曲です。鍵盤も入れずに潔く4人だけの音で録りました。最近はこういうシンプルなアレンジのほうが逆に難しくなってきてて(笑)。特に僕の指弾きとOJのアルペジオが重なったフレーズがとても気に入ってます。

まさに大山さんがテーマとしていた“星”のようなアルペジオですよね。

ホリエ そうですね。それがすごく歌詞ともリンクしていて。

最後の歌詞の“ぼくらがそうなれますように”の部分は、個人的にストレイテナーというバンドのことなのかなと感じていました。

ホリエ そうですね。曲のモチーフは“お祭り”なんですけど、そのお祭りにみんなが帰ってくるような。コロナ禍を経て、帰ってきてくれたらいいなっていう願いを込めた曲でもあるんです。ひいては、自分たちのライブだったりとか、作ってる音楽だったりとかが、1つの拠り所になっていけたらいいなっていう気持ちも入ってます。

ありがとうございます! 最後にお2人から今回のアルバムの”ギター的な聴きどころ”を教えて下さい。

ホリエ やっぱり「七夕の街」のアルペジオかな。凄くきれいで物悲しいアルペジオになってます。すごく気に入ってる音色ですね。あと、全体を通してすごくシンプルにギター・ロック感が出ていて、ここにきて芯の部分に立ち返ったかなと思ってます。「宇宙の夜 二人の朝」なんかもそうですね。“簡単なんだけど難しい。でもそれが肝だよね”って音が出せてると思います。

大山 自分はギターが上手い人間とは思わないんですけど、今回は面白いアイディアをいっぱい取り入れることができたなと思ってて。なのでそろそろ、面白い人だなって気がついてくれたら嬉しいなと思います(笑)。

ホリエ (笑)。あと、ギターの音ってその人の性格が表われると思うんですよ。“人とギターの音”っていうのを注目して聴くと面白いかなと思います。同世代のバンドのバンアパ(the band apart)とか、もう“人”そのものじゃん、みたいな(笑)。そういうのが出る楽器ってやっぱり面白いなって。人柄とサウンドを照らし合わせるというか。

大山 あとは、バンド・サウンドを全面に出す音楽が今は世界的に下火になっていると思うんです。でも僕らはこのやり方が一番好きなんで、これからもこのスタイルでやっていくと思います。それで、この記事を見てる人は少なからずギターに興味を持っている人だろうから、良かったらみんなでバンドやろうぜ!って思ってます!

作品データ

『Crank Up』
ストレイテナー

ユニバーサル/TYCT-60185/2021年11月17日リリース

―Track List―

01. 宇宙の夜 二人の朝
02. 群像劇
03. 倍で返せ!
04. 流星群
05. 七夕の街

―Guitarists―

ホリエアツシ、大山純