90年代からUSオルタナ・シーンを牽引してきたスーパーチャンク。結成から33年を迎えた今もオルタナ精神を貫き続ける彼らが、約4年ぶりとなる新作『Wild Loneliness』を発表した。今作には、マイク・ミルズ(R.E.M.)やノーマン・ブレイク/レイモンド・マッギンリー(ティーンエイジ・ファンクラブ)といった、同じシーンを共に駆けてきた盟友たちがゲスト参加。彼ららしさ満点のパワー・ポップを軸として、ホーン・セクションやピアノなどを導入した幅広い音楽性を示した意欲作に仕上がっている。中でも大きなトピックが、エレキ・ギターによる歪んだサウンドとアコースティック・ギターによるメロディックなアプローチの融合だ。今回はジム・ウィルバー(g)とマック・マコーン(vo,g)の2人に、作中でのギター・プレイについて語ってもらった。
質問作成/文=錦織文子 翻訳=トミー・モリー ライブ写真=中上マサオ 機材写真=本人提供
アコースティックとブレンドさせた
歪んだエレクトリック・サウンドが
好きなんだ(マック・マコーン)
新作『Wild Loneliness』は、バンドのルーツであるパワー・ポップをパンキッシュに聴かせるセンスはそのままに、壮大さを感じさせるサウンドが際立っていますね。どのようなアルバムにしようと思いましたか?
マック・マコーン ラウドでアグレッシブだった前々作『What A Time To Be Alive』(2018年)以降、それとは違ったサウンドのアルバムが作りたいと考えていたんだよね。だから、まずは『AF (ACOUSTIC FOOLISH)』(2019年)を作って日本でもライブをした。その続きとして今作を作り始めたらパンデミックが始まってね。当初の思惑とは少し変わってしまったけど、こういう形になったんだ。
ジム・ウィルバー 意図したところもあったけど、パンデミックによって大きく変わったところもあるよね。コロナ禍はポジティブなことばかりじゃなかったけど、僕ららしい形に落とし込めたと思っているよ。
たしかに今作『Wild Loneliness』は、前作『AF(ACOUSTIC FOOLISH)』のアコースティックの作風を土台にしつつ、スーパーチャンクらしいバンド・アンサンブルが良い塩梅で融合しているように感じました。
マック 作曲とレコーディングを自宅でやったということもあって、アコースティック・ギターをメインにしている曲が多いんだ。バンド・メンバーと一緒にプレイできなかったから、1人で地下室に入ってもラウドにロックすること自体が難しくてね。それが曲調に反映されたところもあって、ジムのギター、ストリングス、ホーンのために自然とスペースを残すことができたよ。
ジム ある意味でハッピーなアクシデントだったと思う。僕はアコースティックのデモを聴きながら、ライブで演奏することを想像して部屋でエレキ・ギターを弾いていたんだ。レコーディングのためにマックの家に行った時も可能な限りアイディアを振り絞ったけど、シンプルなギターがベーシックだったから作業しやすかったね。
マック 僕らはアコースティックと歪んだエレクトリックを上手くブレンドさせているサウンドが好きなんだ。最近のバンドで言うと、例えばストレートジャケット・フィッツやデヴィッド・キルガー&ザ・ヘヴィ・エイツなんかだね。彼らの楽曲は煌びやかなアコースティック・サウンドで全体を埋め尽くしつつ、ディストーションをクールにコンビネーションさせている。それに触発されたのも大きいかもしれないね。
「Refacting」は、ゴリゴリのオルタナ・サウンドの中で随所に入るアグレッシブなアコギのソロが斬新でした。このようなフレーズを入れようと思ったのは?
マック コロナ禍でゴー・ゴーズの「Can’t Stop The World」をカバーしてレコーディングしたんだ。アコギで弾いたソロは難しかったけど、グッドなサウンドになって、“アコギでソロを弾くのも悪くないな”と気づいたんだよね。今回は“アコースティック・ギターを弾く”と自らに課したようなところがあって、おかげでロカビリーっぽい感じも出たかもしれないな。
今作はリモートでのレコーディングが中心だったそうですが、このような制作方法は初めてだったのでは?
マック 以前のゲストが参加したコラボレーション曲ではリモートでやりとりをしていたんだけど、実際にバンド・メンバー4人が各自リモートでレコーディングするという作業は初めてだったね。僕らはアルバムを作る時、今までは5日間でレコーディングを終えるような感じだったんだけど、今回はリモートだったから2年もかかってしまったよ。だけど、思っていた以上に良い仕上がりになった。完全にバラバラで録音したようなサウンドにはならず、求めていたローファイさも反映できたよ。
それと今回はマイク・ミルズ(R.E.M.)やノーマン・ブレイク/レイモンド・マッギンリー(ティーンエイジ・ファンクラブ)など、多くの豪華ゲストを招いていますよね。彼らと一緒に楽曲制作をしようと思ったのは、どのような意図があったのでしょう?
マック 僕らは彼らの音楽が大好きなんだ。“アコースティックとエレクトリックが混ざったアルバムを作ろう”となった時点で、ティーンエイジ・ファンクラブが頭に浮かんでね。彼らって、そういうのがとても上手だろう? 「If You’re Not Dark」に参加してくれたシャロン・ヴァン・エッテンなんて、彼女の声を重ねただけで曲が生まれ変わったような感じだった。僕は彼女の「Seventeen」という曲がお気に入りで、「If You’re Not Dark」では「Seventeen」のような雰囲気を作り出してくれると確信していたよ。彼らなら何とかしてくれると思っていたし、それが実現したことを嬉しく思っている。
ジム 全体的に僕らが誰かの曲でコラボレーションしたような感じでは終わっていなくて、1枚のアルバムとして面白いものになったっていうのは、本当に大きな収穫だったと思うね。
いつものバンド編成に加えて、ホーンやストリングス、ピアノなど多くの楽器が入っていたりと、リモートでの制作であったにもかかわらず、全体的に洗練されたサウンド・メイクになっています。作曲過程での各パートとの折り合いは、どのようにつけていきましたか?
マック ストリングスやピアノが入ることを前提に曲を作ったわけじゃなくて、曲がある時点まで出来上がってから“この曲はギター・ソングにすべきか、それともほかの楽器が必要なのか“と考えるように心がけていたんだ。曲が必要としていることにもとづいて、どのプレイヤーの、どの楽器が入るべきなのかを考えていったね。
デモの段階ではギターでメロディをプレイしていて、あとでほかの楽器に置き換えたものもけっこうあるよ。「This Night」のストリングスのパートや、「Wild Loneliness」のサックス・ソロは、当初ギターで弾いていたんだ。でも、ギターじゃない楽器で鳴らすと、サプライズ的なものが感じられるだろう? ライブでは思いっきりギターでプレイすることになるだろうけどね。
“Less is more”を心がけて
3音でプレイするところを
2音で済ませたりもするね(ジム・ウィルバー)
ギター・フレーズを決めるにあたって、2人はどんなやりとりをしましたか?
ジム 僕はコンセプトを考えるのは苦手だから、ドラムやボーカルに合うと思うものをプレイするだけだった。だからマックのプロデューサー的な示唆は必要だったよ。“もっと音を出すべきかな?”とか、“それともストレートなリズムを刻むべきかな?”とアドバイスを求めたね。
マック ジムとジョン(ウースター/d)が僕の家にやってきた時、僕はマイクやプリアンプ、コンプレッサーを準備して、彼らが自分のパートに集中できるようにしていたんだ。みんなマスクを着けて壁に向かって作業していたから変な感じだったよね。
「On The Floor」でリードを取るピアノに対して、ギターは高音弦でフレーズを刻むシンプルなアプローチですが、こうしたプレイに落ち着いたのは?
マック ピアノを弾いてくれたフランクリン・ブルーノにトラックを送った時点でギターのパートはすでにあって、ハイ・ポジションの1弦と3弦のオクターブ奏法から始まっていたんだ。それを中心に、フランクリンがクールなソロを付けてくれたんだよね。彼にはR.E.M.の「So. Central Rain(I’m Sorry)」や、エルヴィス・コステロの曲でのスティーヴ・ナイーブみたいな、80年代のポップ・ソングのフレーズを求めたかな。最近、この曲をライブで演奏することがあったんだけど、僕はこのピアノ・ソロをギターで弾かなければならなかったよ(笑)。
そして「Wild Loneliness」は印象的なアコギのメロディから始まりますが、中盤からワイ・オークのアンディ・スタックによるサックスが入ってきます。フレーズ作りや、曲中でのギターの立ち位置はどのように決まったのですか?
マック ギターはメインのメロディをプレイすることを意識したね。ギター・ソロのあとにサックスが入ることで、かなり良い意味でのサプライズが生まれたと思っているよ。
この曲のエレキとアコギのコンビネーションにはデヴィッド・キルガーのヴァイブがあるし、サックスにが入ったことによって、誰も聴いたことがないようなサウンドに仕上がった。アンディ・スタックは普段ドラムとキーボードをメインで担当しているけど、最も得意としているわけじゃない楽器でのプレイには、意外性や面白いアイディアが潜んでいるものなんだ。
メロディアスなフレーズを作るためにプレイ面で大切にしていることは?
マック 5回ぐらい聴いたら“もういいや”と思うくらいのキャッチーなフレーズは、あまりオススメできないかな。それとリフ以外の曲のパートとの関係性も重要で、どんなにキャッチーだとしても雰囲気に合わなければ、それはランダムな音をプレイするような印象にもなってしまうよね。
ジム あとは、ボーカルの邪魔をしないこと。そしてやり過ぎないことが大事だ。“Less is more(少ないほうが豊か)”を心がけて、3音でプレイするところを2音で済ませたりね。
マック レコーディング中にそういう話はけっこうしたよね。“それの半分くらいに弾けない?”みたいな感じでさ。
ジム そうしたほうがオーディエンスの歓声がよく聴けるしね(笑)。結局は聴きたくなるようなものをプレイすることなんじゃないかな。“ボン・ジョヴィだったらどんな風にやるのかな?”なんて考えるのは禁物だよ(笑)。
「Endless Summer」のギター・フレーズは煌びやかでメロディアスですよね。中でも冒頭のギター・ソロの半音下げの音運びはとてもクールだと思いました。
マック あのメロディは完全にアコギで作り込んだもので、ジムがエレキでヘヴィなサウンドにしてくれた。ジャングリーな感じで始まって、ドラムが入ってから勢いづく感じだよね。でも、最初はゴー・ビトウィーンズの「Street Of Your Town」みたいな感じを思い浮かべていたんだ。彼らはメロディをクリーン・サウンドでプレイするエキスパートだよね。
青春時代に聴いて育った音楽の中には
常にギターがあった(マック・マコーン)
今作のレコーディングでは、どんな機材を使用しましたか?
マック アコギはJ-45とJ-50を使っていて、エレキはテレキャスターとES-335で数ヵ所のソロをダビングしたくらいだ。テレキャスターはパーツを寄せ集めて組んだもので、ネックは古いものなんだよね。ピックアップはLindy Fralin製。ブリッジとプレートはなんてことはない、偶然見つけたようなヤツなんだ。
ジム 僕は92~93年くらいに新品で購入した安物のレス・ポール・スタジオだけを使っている。ペグを金属製に交換しているよ。
アンプは何を使いましたか?
マック ツアーにも持って行っているCarrのRamblerがメインで、Slant 6Vも使ったかな。あとは60年代のDeluxe Reverbも使ったと思う。
ジム 僕が使ったのはフェンダーの90年代製Bassman。ツイードの復刻モデルだ。スピーカーもセレクションのものに交換したり、けっこうパーツを入れ替えているけどね。
ちなみに、ペダルはどういったものを?
マック アコースティックが基本だったから数は少なかったけど、IbanezのTS9、MaxonのAD999、MoogのMF104というデカいペダルも使ったね。
ジム 10年前に日本に行った時に壊れてしまって、急遽大阪で買い替えたMXRのdistortion+だね。今回、唯一使ったペダルなんだ。今でも大切にしているよ。
「If You’re Not Dark」などでの、ディストーションがかったソロもカッコいいです!歪みサウンドには何かこだわりがありますか?
マック その曲のソロはTS9とRAT、ディレイの組み合わせだったと思う。音を長くキープするようなリードにはフィードバックも加えたくて、サステインたっぷりのディストーションが必要なんだよね。RATはそういう使い方をするにはバッチリなペダルでさ。僕はニール・ヤングのようなディストーション・サウンドが好きなんだよ。
ジム 耳を突き刺すようなノイジーなディストーションはあまり好きじゃないな。そういうのって、どことなく細く聴こえてしまうんだよね。どこかしらカオスな感じが好きで、そういったバランスが大切だと思うね。
マック 最近、昔のレコーディング作品を聴いているんだけど、当時はBOSSのディストーションくらいしか持ってなかったんだ。でも、“こんなに良いサウンドだったっけ?”って不思議に思うこともあって、また手に入れなきゃいけないなと考えているんだよね。
スーパーチャンクの変わらぬ音楽性の根幹には、2人のギターがあると思います。あなたたちを突き動かすギターとは、どういう存在なのでしょうか?
マック 僕は昔、学校のビッグ・バンドでトランペットをプレイしたことがあったけど、それを生涯したかったわけじゃない。青春時代に聴いて育った音楽の中には常にギターがあったからね。12歳の時にザ・フーの映画『Kids Are Alright』を観て衝撃を受けたし、AC/DCを聴いて“ギターって、とてつもなくカッコいいものなんだ”と思えたんだ。
ジム 青春時代をギターと共に過ごしてきたっていうのは大きいよね。“ピアニストになってコンサートをしたい”なんて、夢にすら思わなかったよ。
最後に、日本のファンにメッセージをお願いします!
マック 頼むからすぐに日本にプレイしに行かせてくれよ! 僕たちは日本では必ずアメイジングなライブをしてきたんだ。それとロックダウン中は日本の音楽をたくさん聴いていたよ。特に吉村弘の『Green』は僕がこの2年間で最も聴いたアルバムだったね。日本のジャズも大好きで、福居良というピアニストの作品もたくさん聴いたよ。だからレコードを買いに行かなくちゃいけないんだ。もちろんプレイすることも忘れてないよ!
Jim’s Gear
Mac’s Gear
作品データ
『Wild Loneliness』
スーパーチャンク
ビッグ・ナッシング/ウルトラ・ヴァイヴ/MRG780JCD/2022年2月25日リリース
―Track List―
01. City Of The Dead
02. Endless Summer
03. On The Floor
04. Highly Suspect
05. Set It Aside
06. This Night
07. Wild Loneliness
08. Refracting
09. Connection
10. If You’re Not Dark
―Guitarists―
ジム・ウィルバー、マック・マコーン