トモ藤田の“地味練”&スペシャル動画&インタビュー トモ藤田の“地味練”&スペシャル動画&インタビュー

トモ藤田の“地味練”
&スペシャル動画&インタビュー

普段プロ・ギタリストが欠かさずルーティンとして組み込んでいる練習メニューを“これでもか!”とばかりに編集部が深堀りした企画、題して“地味練”。長年バークリー音楽大学で様々な生徒と対峙してきたトモ藤田は、そのノウハウについても根拠のクリアな方法論が確立されている。迷えるギタリストの救いになるトレーニングが満載なので、基礎に立ち返る意味でもここはぜひ取り組んでみてほしい。実演しながらポイントを解説してくれたスペシャル動画と合わせて見ていこう!

取材:青山陽一 採譜・浄書:Seventh デザイン:山本蛸
※本記事はギター・マガジン2022年4月号から抜粋/再編集したものです。

直伝スペシャル動画〜トモ藤田の“地味練”!

地味練を教えてくれるのは……

トモ藤田

とも・ふじた◎1965年、京都生まれ。バークリー音楽大学教授。87年に同大学入学。ボストンを拠点にギタリストとして活動し、93年からはバークリー講師としてジョン・メイヤーら著名ギタリストを送り出す。独自の視点に定評のある教則本やDVDも多数制作。

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Ex-1:同一弦上でのクロマチック・エクササイズ

トモ 半音で動くパターンを1フレットずつ横にずらしていきます。左手の指がちゃんと動くか、ピッキングが的確かがこれでわかりますよ。弾けるようになったら、ポジションが上がるにつれてだんだんソフトに弾くようにしましょう。そうすると左手の指が弦に触れるノイズがよく聴こえるので、両手のシンクロ具合やリラックスして弾けているかがわかりますから。テンポは気にしなくていいので、メトロノームはいりません。そしてこの練習は3弦と4弦のみでやります。親指をネック裏に固定したままで、一定のフォームで弾いていくことが大事なんですよ。

Ex-2:半音、全音ベンディングの音程をチェック

トモ ベンディングはみんなソロの中でなんとなくやっちゃってる場合が多いと思うんですけど、半音上げや1音上げの音程を耳でよく確認しながら弾く練習もいいんじゃないかな。こんなふうにベンディングを混ぜながらスケールを上昇、下降していくトレーニングはボクもよくやっています。これも縦の動きだけでなく、1つの弦だけで横に動かすのもいいですね。カッコいいソロを楽しく弾くのはいいんですけど、その前にこういう地味な作業をしっかりやっておいてから、音楽的なところに向かって行くとまた結果も変わってくるんじゃないかと思います。

Ex-3:カッティング時の左手ミュート①

トモ 3つの弦だけを押さえる7thコード・フォームを用いた左手ミュートの練習です。シャッフル・グルーヴで、ダウンで音を出して、アップはミュートする。右手はブリッジやボディなどどこにもつけずに肘を支点にしてストロークし、コードを押さえた左手の力を抜いて弦を浮かせ、しっかりミュートします。譜例はこのボイシングで3コードのスタンダード・ブルースを弾いていきますが、IV、Vコードでは5弦ルートになってフォームも変わるので、ほかの弦が鳴らないように注意しましょう。

Ex-4:カッティング時の左手ミュート②

トモ 昔カッティングのキレが悪かったボクがやっていた正真正銘の“地味練”を1つご紹介しましょう。シンプルなコードを押さえて1ストロークごとに短くカットする感じで弾くんですが、まずは4分音符4つを弾いて、1小節ごとに4度進行でコードを動かします。右手はギターのボディの幅いっぱいに振るといいですよ。しっかり音を切りながら弾けるようになったら、次は2拍ごとにコード・チェンジしていきましょう。そしてさらに1拍ごとにチェンジ……という具合にだんだんチェンジを細かくしていきますが、ストロークの幅は変えちゃいけません。

Ex-5:縦方向のトライアドを各ポジションで確認

トモ トライアド(1、3、5度)を意識することはとても重要です。3本の弦を使って3和音を順番に弾いていきますが、ここではFのトライアドを1~3弦、2~4弦、3~5弦、4~6弦という組み合わせで縦方向に動かします。単にポジションを覚えるだけでなく、どういうボイシングなのかもしっかり意識しながら弾いていきましょう。ギターはピアノや管楽器とかと違って視覚的に覚えればそれなりに弾けてしまうけど、こういうことを理解していないとほかの楽器と同じレベルで演奏できないし、上達もある程度のところでストップしてしまうんですよ。

Ex-6:横方向のトライアドを各ポジションで確認

トモ 次にトライアドを横方向に動かしていきます。レッスンでもよくテストとして出すメニューです。ここでは3和音を1~3弦でAフォーム、Eフォーム、Cフォーム、と順に弾いていきます。この3つのフォームは、トライアドのフォームの基本ですね。上昇する弾き方ができたら逆に高いポジジョンから下げていきます。やはりボイシングを把握しながら弾きたいところ。トライアドのポジションをマスターすれば3コードを指板上のどこでもプレイできるようになります。トライアドから様々なフレーズを発展させて弾いてみましょう。

Interview|トモ藤田
地味練、1日数分でもいいので
毎日続けてみてほしいですね。

指や弦のノイズに気を配りながら、
ハイポジにいくほど小さな音で。

今回はいつも行なっている練習メニューを色々教えてもらいありがとうございました。演奏のパフォーマンスを下げないように、トモさん自身が日々やっていることなどはありますか?

 ボクの場合、練習用のギターがあって、これで毎日のエクササイズをやっているんです。エピフォンの古いアーチトップのピック・ギターで、ピックアップの付いていない純アコースティック・ギターですね。アコースティックを使うとピッキングを弱くしていった時にフィンガー・ノイズがよく聴こえるので、ダイナミクスを使いながらも指や弦のノイズを極力出さないように注意して弾けるんです。

 ハイ・ポジションへ行くほどに音量を小さくしていって、上のほうではほとんど撫でるように聴こえないくらいで弾きます。最初は練習する時に大きな音を出そうと強く弾いちゃう人が多いけど、ソフトに弾けばリラックスできて上達も早いと思いますよ。最初のクロマティックのエクササイズ(Ex-1)も左手の4本の指を均等に使う弾き方なので、特に力を入れずにソフトに弾くことが大事です。そしてテンポに合わせることはまったく重要じゃないんですよ。

えっ、そうなんですか? メトロノームに合わせて弾くのかと思いました。

 そうなんです。上昇していく時より、下降をゆっくり弾く。下降のほうが難しいことが多いので、無理に一定の早さで弾こうとしないほうがいいです。テンポに合わせて弾けないとそこで嫌になって挫折してしまう場合もありますし、できないことを無理矢理やってもなかなか上手くならないですね。

トライアドのマスターが大事です。
形で覚えず音を身体に染み込ませて。

トモさんの右手のフォームってどんな感じですか?

 だいたいフロント・ピックアップがある位置あたりをピッキングする感じですね。肘から先はギターにくっつけず、手のひらの付け根あたりを軽く低音弦に触れるような感じでミュートしておきます。ボクが練習に使っているエピフォンは弦が013~056のちょっと太めのセットで、アコースティックなのでもちろん3弦も巻弦。これで弱く弾いてもノイズがまったく出ない状態を心がけているんです。こういうまさに“地味”な練習を、1日数分でもいいので毎日続けてみてほしいです。

トモさんはトライアドの重要性についても日頃から強調していますよね。

 譜例にもあるような、縦、横方向にトライアドを弾いていく練習(Ex-5/6)もよくやります。ポジジョンを把握することももちろん大事ですが、形で覚えずにサウンドを身体に染み込ませていくことが最も重要なんですよね。

 1拍ずつボイシングを動かしながら、小節ごとに4度上へコード・チェンジしていく。そして弾き方にも気をつけないといけません。やはりさっきも言ったようにフィンガー・ノイズが出ないようにすることが大事。

 あとは縦方向に弾く時は音が大きくなりがちな5、6弦はソフトに弾いて音量バランスを保つ。やっぱり低音弦でトライアドというのはちょっと弾きにくいので、ボク自身もそこを重点的に練習しますよ。

なるほど。

 次に横方向に動かして行く時に大事なことですが、低いポジションよりも7フレットから上の高い位置で弾く時のほうが音量が大きくなりがちなんです。だから高音域へ行くにしたがってソフトに弾くようにしたいですね。要するにパターンを漠然と弾いていくだけじゃなく、キレイに鳴らしてノイズが出ないような弾き方を心がける。ダイナミクスにも気を配りながらね。

 そして自分が何度の音を弾いているのかが瞬時にわかることも大事。こうやって会話をしながらでも間違えずに弾けるようになるまで、上昇したり下降したりとパターンを変えつつ毎日くり返す。そうやって身体に覚え込ませていくんです。トライアドがちゃんと弾けないとアドリブも上達しないですからね。

 あと、横方向のトライアドの練習をやっていくと副産物的にオクターブ・チューニングに敏感になりますよ。あまりキレイに鳴らないなと思ったらオクターブが合ってない、なんてことがバークリーで教えていてもよくあったりします。

なるほど! そういうこともあまり気にせずに弾いていた気がします。

 これをやっていると、上昇パターンで1オクターブ上がった時、だいたいみんな音が合ってないし、合ってないことに気がつかない人が多いんですよ。だからバークリーのボクの机の中はオクターブ調整の道具がいっぱい入ってるんです(笑)。それでいつも生徒のギターを調整してますね。

 ちなみにオクターブはピッタリには合わせず、ちょっとフラットに調整したほうがいいです。ギターは押さえた時に少しピッチが上がりますから、その分を想定して調整していますね。

ギターのボリューム10はNG。
自分の音がわからなくなります。

練習する時の音作りに関して、アドバイスはありますか?

 アンプとギター本体のボリュームが問題ですよね。1つ言えるのは、アンプのボリュームは大きくしておいて、ギターのボリュームは決して10にしないこと。必ず7か8くらいにしておくんです。つまりギターのボリュームが7か8でちょっと物足りない程度の音にセッティングしておく。自分の弾きやすい気持ちいい音にしていると、色々なことに気が付かないんですよ。アンプのボリュームを7か8にしてソフトに弾くと、ピッキングのニュアンスがダイレクトに出ます。

 ピッキングの強さで出せるボリュームのバリエーションが強・中・弱と3つあったとすると、ボクは「強」は使わないんです。でもほとんどの人のピッキングは「強」なんですよ。強い上にギター・ボリュームが全開だからもうどうにもならない。みんなギターをフルテンで鳴らしておいて、アンプのボリュームで調節しちゃうでしょ? あれをやっちゃうと確実に上手くならないんですよ。

 これって簡単に言うと、ボーカルの人が耳栓して練習するようなものなんです。自分の音が全然わからなくなる。アンプのボリュームは余裕を持って大きくしておいて、ギター側のピッキングで音量を調節できればライブでもかなり幅広くコントロールが効きますから。

 バークリーでのボクのレッスン用アンプはフェンダーのHot Rodなんですけど、ボリュームはギターがフルテンでは音が少し大きく、ブライトで弾きにくい感じがするくらい大きめにセットします。リバーブはなし。

リバーブなし、ですか。

 最初はリバーブはないものと考えてやります。別にリバーブ自体が嫌いということではなくて、始めから付いていると、なくなった時に不足に感じてしまうのが厄介なんですね。だからボクの音の基本はリバーブなし。

 1960年代初頭の録音とかではリバーブは大抵あとがけでしょ? だから当時のミュージシャンに倣っているんです。もっとも、そのあとにリバーブをかけた音でも練習するんですけどね。けっこう深めにセットしてソフトに弾かせてエフェクト量を調節できるように訓練するんですよ。

練習の際にメトロノームを使う人も多いですが、こちらも助言をもらえますか?

 メトロノームのアプリとかは一切使いません。日々使うものにこそお金をかけるべきで、メトロノームは絶対に良いものを買ったほうがいいです。

 ボクが使ってるのはFranz社のビンテージのものです。木製の箱形で超アナログ。響きが断然違うんですよ。こういう音のほうがタイムも取りやすいんじゃないかな。昔のミュージシャンのタイム感の良さもそういうところが関係してるんじゃないかとボクは思っているので、そういったところも気をつけています。

ギター・マガジン2022年4月号
『歪祭 -2022-』

本記事はギター・マガジン2022年4月号にも掲載されています。本誌の特集は、注目の歪みペダル62機種をギタリストAssHが試奏する、“歪祭(ひずみまつり)”!