数々のアーティストとともに活動をしてきたギタリスト、坂本遥を中心に、2021年4月に活動を開始した5ピース・バンド、MEMEMION(ミームミオン)。結成約1年でありながらも、様々な音楽性を高次元なバランスでミックスさせた、聴くものを飽きさせない独自のロック・サウンドを確立しつつある。今回は2月にリリースされた新譜「正義なき獣 / ロック・スター」の話を中心に、坂本遥(vo,g)、キュアかいと(g)の両名にギター・サウンドの秘密を語ってもらった。
取材=伊藤雅景 写真=うつみさな
ブルース感がありながらもギター・ヒーロー感もあるギタリストになりたい
──キュアかいと
坂本さんはエドガー・サリヴァンを始め、今までギタリストとして活動してきました。どういった経緯でギター・ボーカルに転向したんですか?
坂本遥 ギターを始めた時から、できることなら歌を歌いたいっていう気持ちが凄く強くて。高校の軽音楽部でバンドを組んだ時にはギター・ボーカルをやっていたんです。ただ、その頃はなかなか自分の思うように歌えなかったので、 だんだんと“ボーカルよりギタリストのほうが自分に向いているんじゃないか”と考えるようになって。それからしばらくして、大学に入学したタイミングで“これから自分はギタリストとして頑張ろう”と決心をしたんですよね。
最初から歌いたいという意志があったんですね。
坂本 そうですね。本来はバンドのボーカルとして世の中に歌を届けたかったっていう気持ちが強かったんですけど、ギタリストとしての活動を頑張っている間はあまり考えないようにしていました。でもそこから数年経った頃に、“そういえば昔はボーカルを目指してたな”ってふと思い出して。きっかけは近所のカラオケで歌を褒められたっていうことなんですけど(笑)。でも、今思えばその出来事が自分の中での良い転機だったんだと思います。
では、かいとさんの音楽的な経歴も聞かせて下さい。ギターを始めたのはいつ頃なんですか?
キュアかいと ギター自体は中学に入学した頃に買ってもらっていたんですけど、当時はそこまで熱中しなかったんです。むしろプロサッカー選手を目指していましたね。でも高校で軽音楽部に入ったことをきっかけにギターにどんどんのめり込んでいって、その熱が高じて音楽の専門学校に通い始めました。そこから下北沢や池袋のセッション・バーによく遊びにいくようになって、同世代のセッション仲間とグループを組んでライブをするようになったんです。もともとブルースとかセッションでやるようなジャンルが好きだったっていうのもあって、しばらくはそういう生活をしてましたね。
ブルースに影響を受けて、現在のスタイルになったんですね。
かいと そうですね。僕はもともとジョン・メイヤーとかがめちゃめちゃ好きで。なので昔から漠然と、ブルース感がありながらもギター・ヒーロー感もあるギタリストになりたいなとは思っていました。
坂本さんはどういったジャンルに影響を受けましたか?
坂本 なんだろう……。最初はスピッツが大好きな中学生みたいな感じでしたよ。でも最近はかいとのおかげでブルースにハマっていたり。
ジャンルレスですね。
坂本 そうなんです。雑食すぎて自分が影響を受けたものをうまく羅列できないんですが、大学の時に、ファンクを頻繁に弾く環境に身を置いていた時期があって。そこが自分のプレイヤーとしての礎になっているのかなとは思います。当時からタワー・オブ・パワー、チャカ・カーンから、ジェームス・ブラウンみたいなオールディーなファンクのアーティストも好き嫌いなく聴いていましたし。その経験が今のMEMEMIONでのリズムやグルーヴ感のルーツになっていると思います。
坂本さんのファンキーなバッキングと、かいとさんのブルース色が強いギターとの相性がとても気持ちいいですよね。
坂本 そこはうまいこと化学反応が生まれたよね。
かいと そうだね。最初に影響を受けていたのがジョン・メイヤーだったので、必然的にブルース色も強くなっていったんですよ。もちろんブルース以外のジャンルも弾いていましたけど、結局いつも“どっちかというとブルースのほうがかっこいいな”ってなることが多くて……。ただ、ブルース感が強過ぎると“日本ではウケない”ギターになってしまうかもしれないと思い始めて、色々と勉強していったんです。
どんな勉強ですか?
かいと ちょうどその時期に出会ったのがゲイリー・クラーク・ジュニアだったんですけど、そこで初めてロックやソウル、ヒップホップなどがブルースとうまく融合している音楽を知ったんですよね。彼はカントリー色も強かったりして、けっこう面白くて。それらのジャンルを知らない人にもキャッチーに聴こえさせる手腕というかバランス感は、本当に勉強になりました。
まさにそのバランス感がMEMEMIONの楽曲のキモですよね。
坂本 ありがとうございます。
かいと そこは意識してフレーズを作っているので、嬉しいですね。
リード・パートを考える際はかいとを憑依させながら
──坂本遥
では、新作「正義なき獣 / ロック・スター」の制作でこだわった点を聞かせて下さい。
坂本 アレンジはすべてDTM上で行なっているんですが、いつもメンバーみんなの姿をイメージしながら作るようにしていて。そういった意識があるだけでも思いもよらぬ方向へアレンジが進んだりするんですよね。ギター・アレンジに関しても同様で、リード・パートを考える際はかいとを自分に憑依させながら作っていました(笑)。
かいと まずそういう考え方が面白いよね。
坂本 例えば、“自分で作った浮遊感のあるコード進行とビートのパターンに、かいとのブルースなギターを無理やり突っ込んでみたらどうなるんだろう?”とか。日頃そういった試行錯誤をくり返しています。でも、そういう突飛な制作方法は、かいとのギターのクセの強さがあったからこそ成り立ったというか。
では、坂本さんが作ったフレーズをかいとさんがコピーする感じなんですか?
かいと いや、そこからどう自分流に発展させていくかっていうところから始まりますね。ただ、曲のコード進行が自分の知識にないものだったり、自分に馴染みのあるブルース進行だけじゃ太刀打ちできないことのほうのが多いので、めちゃくちゃ難しい(笑)。それに進行が複雑どころじゃなく、キーが何度も変わったりとか……。そういうアレンジは自分の頭の中だけじゃなかなか整頓できないから、はるちゃんから“このキーだったらこんなブルース感のあるフレーズが使えるんじゃないかな”とか、“こういうのだったら面白いから弾いてもいいんじゃない?”みたいな感じで、教えてもらいながら弾いていくことが多いですね。
確かに難解なコード進行が多い印象です。
坂本 複雑になっちゃってる自覚はあります(笑)。でも、難解な曲を好んで作ってるわけじゃなくて、日本の音楽であまり聴かないないような雰囲気の楽曲にしたいと思って作っているからこそ、そうなってしまうというか。
例えば、キーがEメジャーからGメジャーに移行する展開上で、リード・ギターだけEマイナー・ペンタトニックを弾き続けたりする、みたいな手法はよくあるじゃないですか。けど、あえてそこでメジャーでもマイナーでもない曖昧なスケールを弾いたりしてみたりする。そうすると耳馴染みのない雰囲気が生まれたりして、けっこう面白かったりするんですよ。スケールで言うとミクソリディアンやリディアン的な感覚ですね。
こういった、ポップスではあまり聴くことのない色の楽曲を作りたいっていう意識は常にあります。
そうするとジャズやプログレッシブな印象が強くなりそうですが、そこをキャッチーに昇華させているのが凄いです。
坂本 “今まで世になかったものを生み出して評価されたい”っていう欲が凄く強いんです。自分がリーダーとしてバンドをやってる以上、誰にも知られていない、誰もやっていないような手法を考えて作曲をして、その部分も評価してもらいたいって思っちゃうんですよね。特に結成1年目にリリースしてきた楽曲たちは、そういったチャレンジングな要素をたくさん盛り込みました。今回発表した「正義なき獣 / ロック・スター」の内容もまさにそうです。
楽曲ごとの雰囲気でシールドの組み合わせを吟味します
──坂本遥
「正義なき獣 / ロック・スター」のレコーディングはどのような形で?
坂本 ギターは全部宅録で録っていて、色々と試した結果、結局プラグインがメインになりましたね。“すべての楽器を一番良い音で鳴らしたい”という目的のためにそうなったっていうのかな。自分はギタリストなので、もちろんギターはカッコよく鳴らしたい。でも、他の楽器も同じくらいこだわって作っているから、どこか特定の楽器のレンジを下げるようなことはしたくない。そういう時に生で録ったギターがあると、レンジ感が広すぎてほかの楽器の音色に対して“勝ちすぎちゃう”場面がけっこうあるんです。そういった理由でアンプ録りはしなかったですね。
確かに、すべての楽器が前に出てきていますね。
坂本 もちろん作曲の段階で、“どれだけ各々の音色が主張してもバランスが崩壊しない完璧なアレンジ”に持っていくのがベストですけど、そううまくもいかなくて。全部を聴こえさせたいし、歌ももちろん前に出てこないといけない……。そういったすべての理想を達成するために、プラグインでEQをいじったり、あとからフィルターでごっそり帯域を削ったり。アンプでいい音で録っちゃうとなかなか踏み切れないような作業ですけど、プラグインならそれができる。その気づきのおかげで、結果的に全部の楽器が前に出てきて、なおかつバランスがいいっていう音源を作れたのかなって思います。
宅録の際のこだわりはありますか?
坂本 まずプラグインに音を通す前に、必ずバッファーを入れるっていうのが最低条件ですね。今はピート・コーニッシュのLD-3を使っていますが、これがあるのとないのとでは全然S/N比が違うんですよ。LD-3はミックスした時の音のハリにまで関わってくるくらい、必要不可欠な機材ですね。正直、宅録やライン録音はバッファーとシールドで音のすべてが決まってしまうので、慎重にセレクトしてます。楽曲ごとの雰囲気でシールドの組み合わせも吟味して、そこからアナログ・エフェクターをつないで、レンジを“キュッ”と狭めたうえでレコーディングする手法が今は多いですね。
曲が難解であってもシンプルな役割のギタリストでいたい
──キュアかいと
ライブではどういったギター・サウンドを目指していますか?
坂本 うるさくし過ぎたくないなぁといつも思いますね。気づいたら凄いことになってるので(笑)。
かいと なるべく聴きやすい音量にしたいよね。
坂本 この前やったライブでの俺のギターの音、体感でかいとの3倍くらいデカかったよ(笑)。現状、かいとはミドルがぶっといサウンドを出していて、僕はいわゆるギター・ロック的な“ギシャーン”みたいな音をしているので、EQ的には最初から住み分けはできていたんです。でも会場によって各々の特性は変わってくるので、音量感という点でうまくいかない時もあって。なので、どんな環境でもそのバラツキを少なくするっていうのが今後の課題ですね。
悩みどころですね。
坂本 ただ持論として、どんなに音がデカくても、どの帯域がぶつかっていたとしても、メンバー全員の一体感があれば絶対にうるさく感じないよねっていうのがあって。マイブラみたいにデカくしなければですけど(笑)。常識の範囲内の音量感だったら、アンサンブルがバシッと決まっていたらそれだけでカッコよく感じると思うんです。そういった面の方が大事だと思っていますね。
ありがとうございます! では最後に、今後の目標を聞かせて下さい。
かいと 僕は、曲が難解であってもシンプルな役割のギタリストでいたい。できるだけ音数を少なく、かつ存在感がある、“シンプルかっこいい”ギタリストになれたらいいなと思っています。
坂本 やっぱり誰もやってない音楽へのアプローチを研究していきたいですね。そういったヒントって実は近くに転がってるような気がするので。みんなの心を“あっ”と驚かせるような音楽を作っていきたい。
それに、誰が聴いてもキャッチーだよねっていう楽曲を生み出したいし、そういった感動を伝えられるギター・ボーカルであり、作曲者でありたいなと思ってます。これからも基本的に自分の好みの音楽を好きなだけやって、疲れたら休むっていうラフな感じで続けていけたら嬉しいですね。信頼できるメンバーに背中を預けて、たまにわがまま言わせてもらいながら、みんなで楽しんで活動していきたいなと思っています。
作品データ
『正義なき獣 / ロック・スター』
MEMEMION
MMMN-004/2022年2月9日リリース
―Track List―
01.正義なき獣
02.ロック・スター
―Guitarists―
坂本遥、キュアかいと