Interview|小渕健太郎(コブクロ)前編:“歌声”をアコギで紡いだソロ最新作 Interview|小渕健太郎(コブクロ)前編:“歌声”をアコギで紡いだソロ最新作

Interview|小渕健太郎(コブクロ)
前編:“歌声”をアコギで紡いだソロ最新作

コブクロの小渕健太郎が、9年ぶり2作目のギター・インスト・アルバム『ツマビクウタゴエ2』を完成させた。今作は、これまでにコブクロが発表した数々の楽曲をアコースティック・ギターの音のみでセルフ・カバーしたという意欲作で、ギターを存分に歌わせた“プレイヤー”としての魅力が詰め込まれている。小渕に制作を振り返ってもらった。

インタビュー=尾藤雅哉(ソウ・スウィート・パブリッシング)

“歌が聴こえるかどうか”がすべてだった

9年ぶりにギター・インストアルバムの制作に至った経緯を教えて下さい。

 前作の『ツマビクウタゴエ ~Kobukuro songs, acoustic guitar instrumentals~』(2013年9月)は、“作ろう”と思って、まとめて10曲を録音してアルバムに仕上げた作品でした。

 気がついたらそこからもう9年も経っていたんですけど、去年7月にシングルの「両忘」をリリースした時に、“カップリングをどうしようか?”という話になったんです。“ライブの音源を入れようかな”とか、色々と考えていたんですけど、黒田(俊介)に“ギター・インストを2曲入れるのはどうかな?”と提案したところ、“それが一番いいね”と言ってくれまして、まずは「STAY」と「YOU」(アルバム未収録)の2曲をインストで録音することになりました。

 そうして楽曲の制作を始めてみると、“そろそろ次のインストのアルバムを作ってもいい時期に来ているのかな?”と思うようになって。それで年末から少しずつ作業をスタートさせた感じですね。

選曲はどのように行ないましたか?

 最初の2曲を録った時に“新しい曲も入れたいな”とか“明るくて優しい曲を録ってみようかな”と思ったので、去年のツアーの1曲目で演奏していた「Star Song」をまずは録音してみたんです。その後は「流星」や「未来」とか、多くの皆さんに聴いていただいている曲の中から“どれを入れようかな?”と検討を始めました。

制作にあたり、イメージしていたものはありますか?

 “歌が聴こえてくるかどうか”というところでしたね。原曲の歌詞で“君”と歌っているところは、きちんとギターで“君”と聴こえるように弾かなきゃいけないし、“あなた”と歌うところは、しっかり“あなた”という言葉が聴こえているのか。それこそ僕らの過去の楽曲をアレンジしたインスト作品は、本当に数え切れないくらい存在していますから。スーパーとかで耳にしたこともありますし(笑)。

なるほど。では自身でインスト・アルバムを制作する際にこだわったところは?

 特にこだわったのは、僕らコブクロが大事にしてきた歌詞をなくすことで、聴きたい歌詞だけが聴こえるような感覚があることでした。どうしても歌詞があると、絶対的に歌詞に圧倒されるじゃないですか。情景が思い浮かぶというか……この作品では“今はここのサビの歌詞を聴きたい”っていう時は、歌詞の言葉を想像できますし、“今はメロディだけを聴いていたい”という時は、ボーッと聴いてればいい。リスナーが聴きたいところにチューニングを合わせながら聴ける作品に仕上がったと感じています。

 あと、できる限り音を少なくしたかったので「ギターを3本までに収めたい」と思っていたんですけど……どうしても音を入れ過ぎちゃう(苦笑)。我慢することを意識しながら録音した「未来」や「風をみつめて」はトラック数を少なくできたんですけど、最後に録った「Twilight」、「Blue Bird」、「陽だまりの道」の3曲では反動が爆発しちゃって、トラック数が凄いことになってしまいました(笑)。

“巧みな技で曲の個性を作るレコーディング”

“ギターの歌わせ方”に関しては、チョーキングやトリル、グリッサンドなどの色んな技があり、楽器ならではの表現がありますよね。

 その瞬間の0.0何秒の差だと思うんですけど、確かにトリルやスライドをするかどうかによって、言葉として聴こえてくるかどうかの違いも生まれてくる。声にはフレットがないので、無段階で自由さもありますが、アコギには段階……つまりフレットがある。“ギターの段階を使って、声の無段階を表現する”作業になってくるんですよ。フレットの縛りや、アコギ独特の節回しがある中でも“心地よく歌のような言葉が聴こえてくるといいな”というところが、このアルバムの一番のポイントなんですよね。

「風をみつめて」のサビでは、指先を一瞬だけスライドさせることでメロディ・ラインを装飾していますね。ギターならではの“歌わせ方”だと感じました。

 そうですね。どのようにスライドを使うかが、“声に近づけられるかどうか”の差でもあるので。本当だったら隣の弦を弾くような部分も、言葉を聴かせるために、あえて同じ弦をスライドさせたりしているんです。だから、とにかく指の摩耗との戦いなんですよね。一時期は指がもうキャラメルみたいな色になっちゃって(笑)。でも指が硬くなればなるほど、アコギは気持ちよく鳴らせる。ちょうどいい指先の硬さを保ちながら、11曲走り抜けましたよ(笑)。

 特にアコギだと、音が鳴ってないのに、何かが聴こえてきそうに思える瞬間があるんです。弾き過ぎず、間引き過ぎず、そして周りの音も入れ過ぎず。そのさじ加減が曲によって違うので、スタジオに入って、曲ごとにバランスを変えながら演奏するのが、僕にとっては凄く楽しい作業でした。

アレンジに対する細かなこだわりを感じさせる作品ですが、どのように作り込んでいったのでしょうか?

 まずは、歌を乗せる土台が大事だと考えていました。家に例えると、基礎工事にあたる部分。基礎と床をどうするかというところで……中には「未来」のように、1枚の板の上に1つのメロディだけがポンと乗ったような高床式みたいな楽曲がある一方で、「陽だまりの道」のように、屋根や内装を付けた煌びやかな雰囲気の作品もある。最初は、アルペジオで曲の土台を作るところから始めて、メロディやハーモニーを乗せたところで、録音した曲を聴き直しながら考えるんですよ。

複音のフレーズやスモール・コードをつなぎながらメロディを作っているので、ギターだけでも音が寂しくない印象を感じますね。

 正直に言うと、ギター1本だけで再現できるものはなかなかないんですよね。一番ギターの登場人数が少ない「未来」でも、バッキング、メロディ、ハモりの3人が必要になりますし、ほとんどの曲は、10人とかで演奏しないときちんと再現することは難しい。

 そういう意味では、まずは重ねる作業に重点を置きつつ、必要なところにハーモニーを入れる。“上のキーでハモればいいのか”、“歌う時は上のキーだけど、ギターで弾く時は下のキーのほうがいいかな”とか。あとは、サビで1オクターブ音を下げると、かえって盛り上がるような不思議な感覚があったりもするので1曲ずつルールが違うんですよ。

 自分でも“曲の個性をどう引き出すか”がわからないまま、とりあえずスタジオに入っていくんです(笑)。まずは3本くらい弾いてみて“全然歌ってないな……”と思うものもあれば、“あ、これだったんだ!”というひらめきもある。Cを奏でる時に“3弦の5フレットじゃなくて、5弦の3フレットでいけばいいんだ”とか“オクターブを下げて演奏したらいいんだ”みたいに試行錯誤しながら作っていく感じの作業でしたね。

 ただ、一度弾き出したら一気に完成します。「流星」みたいにギターのメロディ1本だけで、Bメロまでいっちゃうとかね。“本当に音を足さなくていいのか?”と思うんですけど、良い音で録れてたりすると“聴けちゃうよね”、“まだいけるね”……って感じで(笑)。

“肩に力を入れずに聴ける感覚を楽しんでほしい”

ギターは何本くらい重ねたのですか?

 最初は“ギター1本でいいや”と思っていたんですけど、“いや、ハモりは入れよう”とか、“ストリングス的なフレーズも重ねようかな……”みたいな感じで、色々な音を入れたくなってきちゃって。曲によっては、トラック数が50trとかあるんですよ(笑)。それでも“アコギの音”として1つにまとまるのが、この楽器の不思議なところだなと思います。本当だったら、どこかで“音が多すぎる”と感じるタイミングがくるはずなんですけど、なぜか、何本重ねても音が邪魔にはならないんですよね。

どのモデルがフレーズに合うのかを選んでいる時間も楽しそうですね。

 そうですね(笑)。今回の制作で欠かせなかったのは、Paulino Bernabeという古めのガット・ギター。普通のアコギとはネックの太さが違うので演奏するのが大変なんですけど、サステインの短さや、朴訥と話しかけてくれるような感じはこのギターならではなんですよ。今回は、いい感じの言葉を引き出してくれましたね。

「Twilight」でもガット・ギターを使っていましたよね。

 Bメロだけ使っているんですけど、急に“中世のどこか”に行ったかのような、何か楽しげな感じがあって(笑)。独特のサステインが、独特な世界を作ってくれるんです。ハイフレットのほうに不思議と音が伸びるポイントもあったりして。特に1弦の5~10フレットあたりの音は凄くキラキラしていて、スティール弦よりも明るく聴こえたりするんですよね。

なるほど。この曲にはトリルを使ったフレーズも登場します。

 「Twilight」のイントロのオルガンの音を、どうやってアコギで表現するかってことを考えた時に、トリルのフレーズをキレイに重ねていくと、鈴虫が鳴いているような音色を奏でられるんですよ。日本の歌謡曲でも、アコギでトリルを使う楽曲は多いんですが、僕はもう少し洋風で、メランコリックな音を出すために使っていますね。

歌のメロディを丁寧に紡がれている中で、ギターらしいフレーズがパッと登場すると耳が惹きつけられます。作品の良いアクセントになっていると感じました。

 実は同じトリルでも、ダビングする時に毎回弾くスピードを変えているんです。つまり、32分音符と、16分と32分の間で弾くトリルを入れると、徐々にその間が埋まってきて、1本の線のような響きに変わってくる。同じところを2回弾くと、音の粒が大きくなってしまうので、その粒を消す作業って言うか……“アコギの音を、あえてアコギっぽくない音にする作業”もやっています。

「陽だまりの道」で聴けるトレモロ奏法は、シンセサイザーっぽい音に聴こえました。

 ああ、そうですね。やればやるほど“アコギって、実は何でもできるんだな”って思いましたし、エフェクターを使っていない分、演奏やフレット、押さえる場所によって“こんなに色んな音が出るのか”って発見もありました。

小渕さんの考える今作の聴きどころは?

 実は“スピーカーの前で正座して聴くようなことはしないでほしい”という思いがあるんです。仕事しながらでも、ドライブ中でもいいんですけど、聴き手が生活する中で自然に流してもらえるのが、僕はちょうど良いと思っていて。

 もともとの楽曲は、魂を込めて紡いだ歌詞がありますけど、メロディをアコギにすると本当に優しく聴こえますし、日常の環境音楽として流していても、みごとに邪魔しない。あまり肩に力を入れて聴かなくてもいいアルバムに仕上がったと思うので、その感覚を楽しんでほしいですね。

作品データ

ツマビクウタゴエ2
小渕健太郎

ワーナー/WPCL-13380/2022年4月27日リリース

―Track List―

01. 陽だまりの道
02. Blue Bird
03. 風をみつめて
04. 流星
05. Star Song
06. STAY
07. 未来
08. 光
09. To calling of love
10. Twilight
11. 手紙

―Guitarist―

小渕健太郎