洗練された良質なポップ・ソングを奏でるAwesome City Clubが、4作目となる最新アルバム『Get Set』を完成させた。本作においてギタリストのモリシーは、歌のメロディを輝かせる多彩なアプローチで楽曲に華を添えている。サウンドメイクのこだわりなど、制作について話を聞いた。
取材:尾藤雅哉(ソウ・スウィート・パブリッシング) 写真=横山マサト 機材写真=本人提供
作品制作でこだわったのは
テレキャスターを使って
“鋭くいった”ところ
現在、ツアー『Awesome Talks – One Man Show 2022 – 』の真っ只中ですが、ライブの手応えはいかがですか?
やっぱり楽しいです。こないだの名古屋公演もすごい盛り上がって……お客さんが楽しんでいる光景を目にすると“自分たちの居場所に戻ってきたな”って気持ちになりますね。
楽曲を演奏し続けることで、ステージでの表現が変化していったりは?
けっこうあります。特に、ここ最近のオーサムの曲ってドラムを生で録っていないんですよ。今回の作品もほとんど打ち込みのビートで作っているので、ライブではそれを生ドラムに変換していて。それだけでもグルーヴが大きく変わってくるんです。
なのでステージでは音源とちょっと違うアプローチをしたり、ギターの音色をガラリと変えてみたり、その場でアドリブを入れたりすることも多くて。だからプレイヤーとしての表現という点では、ある意味ライブのほうが音楽的なんじゃないかなって思ったりもしますね。楽曲制作は、綿密にトーンやフレーズを作り込んだりしながら、曲に対してどんなアプローチが一番合っているのか?ってことをじっくりと考える作業が大半を占めるので。
たしかに一緒に演奏するドラマーによってアンサンブルが有機的に変化しそうですね。
そうなんです。ギターってめちゃめちゃそこに左右されると思うんですよ。こんなことを言ったら身も蓋もないですけど、ベースやドラムのリズム隊に比べてギターが担う責任って半端なく軽いですからね(笑)。でも、そこがめちゃめちゃバンド・サウンドのキモだったりするんですよ。
生真面目過ぎても良くなかったりするし、かと言って不真面目過ぎても良くないというか……絶妙なサジ加減が求められる役割だと思うんです。曲の表情なんかはギターの音色で決まるところもあると思うので。
先ほど楽曲制作においてビートは打ち込みと話していましたが、ギターはどのように録ったんですか?
基本的にアンプは使いませんでしたね。生のアンプで録ると打ち込みのビートに対して、なんか“座り”が悪いんですよ。なので今回はstrymonのIridium(アンプ/キャビネット・エミュレーター)を使いました。
すでにしっかりとアレンジされたトラックに対して僕が最後にギターをダビングすることが多いんですけど、ギターを鳴らせる場所が帯域的に最初から決まっていることもあるので、そこにピンポイントでギターを入れないといけない場合、シミュレーターを使うほうが適していたりもして。
では今回の制作でギタリストとしてこだわったところは?
一貫してテレキャスターを使ったところかな? 「color」だけEpiphoneのCasinoを使ったんですけど、それ以外はほとんどテレキャスターを使って”鋭くいった”感じです。
使用したモデルは?
ライブでメインで使ってるAMERICAN PROFESSIONAL IIと1978年製モデルの2本ですね。使い分けは、打ち込みのビートに対して存在感の強い音が欲しいなって時はAMERICAN PROFESSIONAL IIで、もうちょっとメロウに鳴らしたい時に78年製を使う感じです。不思議なんですけど、現行モデルのほうが打ち込みに負けない強い音が出るという印象がありますね。
少し話が逸れますけど、Paul Reed Smithから出たジョン・メイヤーのシグネチャー(Silver Sky)を楽器屋で試奏したら、めちゃめちゃ音にパンチがあって存在感が強かった。打ち込みのトラックがベースになっている現代の音楽に対しては、最新のギターのほうがマッチしているように感じましたね。
作品ではアコースティック・ギターの音も聴くことができますが、何を使いましたか?
「雪どけ」はTaylorのAD17eで、「ランブル」はCrews Maniac SoundのEG-1500Cです。2本ともエレアコなんですけど、自宅でマイク録りしました。マイクはaudio-technicaのAT4050とASTON MICROPHONESのStarlightの2本を使っていて、ブライトなところと箱鳴りする場所の2ヵ所をマイキングして、マイクプリを通してレコーディングしています。
以前のメイン・ギターはJazzmasterでしたが、今回の制作では登場しなかった?
はい、Jazzmasterは登場していないです。今、あのギターはライブのサブとしてステージの脇に鎮座している状況です(笑)。
勝手ながら、モリシーさんと言ったらJazzmasterみたいなイメージがありました(笑)。
そうかもしれませんね(笑)。というのもJazzmasterを使っていた頃は今ほどギターに興味がなかったんですよ。“別にギターなんて何を使ってもいいだろう”、“オーバードライブはなんでもいいだろう”みたいな、凄く不真面目なタイプでした(苦笑)。
そうなんですね。こだわるようになったきっかけは?
ほかのアーティストさんのサポートで弾かせてもらったり、色んな音楽を聴くようになって、そこでギタリストとして自分に求められていることに気づいたというか……。色んなサウンドやテクニックの使い方を知って、それを使いこなさないといけないなって。今はそうやってほかの現場で吸収した経験が、オーサムに還元されている感じですね。
DUMBLOID Twinは
今回のアルバム制作で
一番活躍した機材かもしれない
楽曲ごとに様々なタイプの歪みサウンドを使い分けている印象です。こだわったところは?
例えば「Life still goes on」では“爽やかなギター・ソロを入れてほしい”と言われたので、まずはそのイメージで録ってみたんですけど……なんか物足りなかったんです。そこでBOSSのTB-2Wをかまして弾いてみたら歪ませたほうが合うなと思って。
歪ませてソロを弾くことを意識するようになったきっかけは、実は「勿忘」だったんです。大きな世界観を演出するようなソロって、それまでのオーサムにはあまりなかったんですよね。なので最初は僕自身も弾いていて違和感があったというか……。ライブでも「ステージ上でキュイーンって弾くことに慣れないな」みたいな。でも最近は気持ち良いなって思うようになってきて(笑)。やっぱり自分の根っこはギタリストなんだなってことを再確認しましたね。
今回の『Get Set』にギター・ソロの入った曲がいくつか収録されているのも「勿忘」のソロがきっかけだったのかなって思っています。
静かな世界観の曲でもハードな歪みサウンドって意外と相性が良かったりしますよね。
基本的にキレイな音がそこまで好きじゃないタイプでもありますし、特にオーサムの曲ってほかの楽器の音もクリーンなんですよ。帯域的にもちゃんと精査されて、メーターを見ても音が当たらないよう良い感じにリミッティングされてるし。その中で、ギターという楽器を使ってどれだけ有機的な感じを出すかってなると“やっぱり歪みだよな”っていうのはあって。
あとはクリーンなカッティングでも、本当にわからないくらいに歪ませていたりするんですよ。そうしないとオケと混ざった時に埋もれてしまう。そういう意味でも“歪みってすごい重要だな”って思いますね。
ギターに歪み成分がないとバンドのアンサンブルが1つの生き物にならない、みたいな。
そう。生き物にならない。だから最近は“アナログ機器と一緒なのかな”って感じることも多くて。レコーディングで使うマイク・プリアンプも、例えばNEVEだから倍音が豊かな歌が録れる、みたいな。そういう感じでエフェクターは必ず持っていって、現場ごとにクリーン用の歪みを作るようにしています。少し強く弾くと軽く歪むくらいのクランチですね。
今作のレコーディングで使った歪みペダルは?
Studio DaydreamのKCM-OD Gold V9.0 -Extremely tuned-を「楽園」や「ランブル」で使いました。ケンタウルスって低域が削れやすいんですけど、そのペダルは“ファット・モード”というツマミで低域を補えるのですごい使いやすいんです。あとはShin’s MusicのDUMBLOID Twin。たぶん初期型だと思います。「On Your Mark」のイントロで使っているんですけど、ドライブをマックスにして弾いたらすごくキレの良いサウンドが出て驚きました。
「On Your Mark」は、ペダルで作った歪みにSoundtoysのRadiatorというプラグインをかけて、音をより飽和させています。ひょっとしたらDUMBLOID Twinは、今回のアルバム制作に一番貢献した機材かもしれないですね。かなり活躍しました。あとはVemuramのJan Ray。汎用性が高いので、色んな現場で活躍していますね。「息させて」のソロはLine 6のHX Effectsかな。
今のオーサムにとって
ギターは歌の一部です
「you」で聴けるギターは、拍の取り方が独特だと感じました。
ですよね(笑)。というのも、デモでatagi(vo、g)が弾いていたギターがめっちゃ良かったので、僕がそのフレーズをそのまま完コピして弾いたんです。atagiってリズムの取り方が独特で、言葉で説明するのが難しいんですけど……。
フレーズを言葉に置き換えるなら、語尾の伸ばし方が絶妙に長い感じがしました。
うん。長いんです。昔から変わらないatagiの癖なんですよ。行間でグルグル回ってるというか……それを弾くのは難しかった(笑)。
「夏の午後はコバルト」や「Life still goes on」では軽快なカッティング・ワークが聴けますが、歌の隙間を縫い合わせるバッキングに近いカッティングという印象を受けました。
そうですね。今おっしゃったように、歌の合間を縫いながら曲が求める方向へとグルーヴさせるという意識はいつも持っていて。より曲がカッコよくなるアプローチを模索していった中での最適なプレイを求めるような感じです。あまり自己主張のないタイプのギタリストなんですよ(笑)。
メイン・コンポーザーであるatagiさんからは、ギターに対してどういった要望がありますか?
何もないですよ。9年も一緒にやってますから(笑)。atagiも僕のプレイのことはわかっているので、基本的に僕にお任せです。
バンド内でよく使われるオーサムだけの共通言語はあったりしますか?
“多幸感”って言葉をよく使いますね。曲作りの時に“もっと多幸感のある感じに”とか。それは結成当初からで、ことあるごとに使っているワードかもしれない。“ああ、この多幸感いいね”とか、そういう表現は特にPORIN(vo、synthesizer)がよく言いますね。
でも、多幸感を指す意味は曲ごとに違うんです。基本的にポジティブな意味なんですけど……例えば英語で言うと、“Couldn’t be better(最高/これ以上は良くならない)”みたいな感じになるのかな。あとは単純に“Good”だったり、“Awesome”だったり……そういう言語として使ってるところもあったりします。“ちょっと何か足りないね”って時に“もうちょっと多幸感が欲しい”とか、そういう風に使うこともありますね。
では今回のアルバムにおける“多幸感ポイント”は?
今回だと……「Life still goes on」を作っている時は“多幸感”っていうワードがよく出ていましたね。それこそ出だしのギターなんかはまさしく多幸感ポイントだと思います。あとは「夏の午後はコバルト」のワウを半開きにしたソロ。実はB’zの松本孝弘(以下、松本)さんオマージュなんですよね。普段あまりやらないんですけど、ちょっと自分の中のハードロックなルーツを意識してみるのもいいかも、みたいな(笑)。
俗にいう“チャカポコ”したアプローチではなく、フレーズにアクセントをつけるような使い方ですよね。
そうなんです。ちょっとした最近の音楽への反骨心というか……ローファイ・ヒップホップが出てきた時に、めちゃめちゃオートワウが流行ったじゃないですか。ああいうワウの使い方にちょっと飽きていたので、チャカポコじゃないけど“なんか変わった使い方ないかな?”みたいな。そういう時に自分の中のハードロッカーな部分が出てきたのかもしれないです。ツアー先で部屋飲みしている時は、よくドリーム・シアターを流しながらビール飲んだりしてるんですよ(笑)。
そうなんですね(笑)。ちなみに使用したワウのモデルを教えて下さい。
ここ数年はBOSSのPW-3を使っています。ビンテージとモダンという2種類のモードを選べるんですけど、それを曲ごとに使い分けたりするのも好きなんです。
モリシーさんが考えるバンドの中のギターの役割とは?
昔は、もうちょっと添え物なイメージでいたんですよ。メンバーも多かったですし。でも今は3人なので、バッキング1つとっても“やっぱりカッコよく映んないといけないな”って思いがあって。だから今のオーサムにとってギターは“歌の一部”ですね。例に出すなら、ジョン・メイヤーが弾くギターのように、歌の合間のバッキングも歌っているような立ち位置なんじゃないかなってことを、ここ数年は考えています。
なのでライブでも、特にソロなんかは自分の弾くフレーズを歌いながら弾いていますね。もうキース・ジャレットみたいな感じでスキャットが入る(笑)。あんま口は開けないようにしてるんですけど、本当にずっと意識はしてますね。
サックスやトランペットはブレスの強弱で歌うようなダイナミクスが付けられますが、ギターの場合は口ずさみながら弾くことで指と歌が連動しそうですね。
本当にそのとおりだと思います。以前、高校生の時にブルース・セッションのホスト・バンドをやってた時があって。その時に、もう亡くなってしまいましたが寺本修(d)さんという八代亜紀さんのバックでも叩いてた方とずっと一緒にやっていたんですけど、今の話とまったく同じことを言ってたんですよ。とにかく“歌え”と。“タラターンじゃなくて、ァダラターン!って歌え”って(笑)。こっちとしては思春期真っ只中なので、めちゃめちゃ恥ずかしい訳なんですけどね(笑)。どの楽器も歌うように演奏するんだってことを言われて。だから僕もギターを弾く時は、そこを意識して演奏するのが正解なんじゃないかなって……もう20年くらいずっと“歌う”ということを心掛けています。
最後にアルバム制作を振り返って一言お願いします。
とても多彩なギターがたくさん入っております。今までのオーサムにはなかった音色なんかも散りばめられてるので、昔から知ってる人はビックリするでしょうし、この作品でオーサムを知ってくれた人は“なんてカラフルなバンドなんだ”って思ってくれると思います。“多幸感”のある作品に仕上がったので、ぜひライブも観に来てもらって、カッコいいなと思ってくれたら、すごく嬉しいですね。