DEATH BY AUDIOの創設者/主宰者であり、ミュージシャンとしても活躍するオリヴァー・アッカーマン(Oliver Ackermann)のインタビューをお届けする。どんな思いで数々の暴れ馬ペダルたちを製作しているのか、存分に語ってもらおう。
翻訳:守屋智博 質問作成:編集部 画像提供:アンブレラカンパニー
*本記事はギター・マガジン2021年6月号の特集『DEATH BY AUDIO〜破壊的ノイズに垣間見る美学』を再編集したものです。
自分がずっと遊んでいたいオモチャを作る仕事さ。
DEATH BY AUDIO(以下DBA)は2002年のスタートということで、今やベテラン・ブランドです。まずはその創設の経緯について教えて下さい。
僕は昔からバンドでギターを弾きながら、自力で何でもやる人間だった。レーベルを持ったり、グッズを作ったり、レコーディングしたり、ツアーのブッキングを組んだりね。そして次第に機材も作るようになったというわけさ。昔、ロードアイランド州のプロヴィデンスに住んでいたことがあって、そこではノイズ・ミュージックのシーンが盛んだったけど、そういったジャンルに特化したペダルは誰も作っていなかったんだ。それで、ベーシックな構造のフィードバック・ループによってクレイジーなノイズを発するペダルを作り、それが始まりとなった。後にTotal Sonic Annihilationとして販売することになるものだね。
その後、2003年に現在と同じニューヨークへ拠点を移したそうですね。
そうだね。ニューヨークに移ってからはオーディオ関係ならどんな仕事でも受けるようにして、倉庫を自分たちの場所として活動するようになった。8人くらいの友人と共同で、レコーディング・スタジオや寝泊まりするスペースも作ったよ。ステージも作って毎日ライブを開催していたら警察に退去の警告を受けたこともあったけど、僕らはまだ若かったからリスクは気にしていなかった(笑)。出演したバンドがそのまま僕の家に上がり込んできて、仲良くなってペダルを作ってあげることもよくあったね。そうしたら噂が噂を呼んで需要が増えていき、その対応のために人を雇い始めた。仕事が見つからないバンド仲間や不法移民も可能な限り雇って助けたし、レーベルからは友達のアルバムのリリースも行なった。そのうちにいつの間にか活動の規模が大きくなっていったんだ。
あなたは自身のバンド、A Place to Bury Strangersのギター&ボーカルとして活躍する現役のミュージシャンでもあります。その経験はDBA製品にも生かされていますか?
もちろん! 大事なポイントだ。ツアーで使うとなると一定のクオリティが必要になるからね。僕自身、雨が降る場所でプレイしたこともあるし、トラックから機材が落ちたこともある。会場によってもサウンドは異なるし、使う楽器やアンプを変えることもある。それに、実験的なバンドをやっているとサウンド的な限界を超えたくなるよね。そういった経験からどんなペダルが“使える”ものなのか学んできたんだ。僕は機材コレクターでもあるから自分で作ったもの以外にも何百台とペダルを持っているけど、ほかの人が作ったペダルを見て“このデザインはおかしいだろ!”って思うこともたくさんあるものさ。“コードに足をひっかけたら飛んでいってしまうじゃないか! スイッチも壊れてしまうだろう?”って感じでね。だから使いやすいものを作ることは常に意識している。
DBAペダルの大きな特徴はなんと言ってもノイジーさと陶酔感です。こうした“ブッ飛んだ”ペダルばかりを作っているのはなぜ?
さまざまな理由があるけれど、僕自身がアーティストであり、ライブを観るのが好きだということは大きいだろうね。見たことがないものを見たいと常に願ってきたし、自分が聴いてみたい音楽を作り出す手助けをしたいと考えている。ライブの中で“これは一体何だ!”と思うような特別な瞬間を求めているんだ。単にユニークなものを作りたいという思いもあるけどね。
過去の名ペダルを再現しつつ、そこに独自のキャラクターや機能を追加した製品を作るブランドは多いです。DBAにおいてそうしたペダルのリリースを検討したことはありますか?
友人に依頼されて作ったことはある。でも本格的にそういうことばかりをやるとズルをしている気分になってしまうね。自分らしい何かをした気にならないという感じかな。ゼロからなら何でも自由に作れるし、そこに美学があると思う。
そうしたオリジナル性こそDBAの魅力だと感じます。
基本的にどの製品も多くの人に売るために始まっているわけではなくて、あくまで自分が使いたいと思うものを作ってきたからね。そしてDBAじゃないと得られない音でなければならないと決めてきた。これが僕らの製品の大きな特徴だと思うんだ。自分がずっと遊んでいたいオモチャを作る仕事なのだから、これってクールなことだと思うよ。
どんな音程かなんてどうでもいい。
ギター・サウンドを宇宙にブッ放すんだ!
一般的にペダルのカテゴリーは歪みやモジュレーション、ディレイなどいくつかありますが、この先そういったカテゴリーの枠にはまらない新たなエフェクトは誕生すると思いますか?
そういったカテゴリーができ上がった背景って、多くの人が好む“良いサウンド”とされるものが体系化されたからだと思う。あまり知られていないサウンドのペダルも一定数は存在しているんだ。でも、やはりニッチでマイナーな存在になっている。必ずしも“良いサウンド”と認識されるわけではないからね。しかしそうしたペダルの中にも組み合わせて使えば上手くいくものはあって、考え方や使い方が変われば脚光を浴びることもあると思う。エンベロープ・フォロワーをワウに接続してヘンなサウンドを生み出す人もいるし、そこにディレイの回路を組み込んでみても面白いものが生まれるかもしれない。もし将来頭にチップを埋め込み、ペダルからチップにシグナルを送って脳を操作するなんてものが生まれたら、味覚や視覚を操作できてしまうかもしれないよね(笑)。それだけ無限の可能性があるということさ。
DBAペダルは時として制御が困難なモデルも多いですが、それらをうまく使いこなす方法はありますか?
例えばSupersonic Fuzz Gunのオシレーション・モードはそういうサウンドだね。たしかに曲の様々なパートで使える万能なものではないけれど、それを逆手に取って、飛び道具的にある場面だけで使ってみるんだ。オシレーションをプレイする時は“今がその時だ、やってやる!”っていう気持ちが重要だね。どんな音程をプレイしているかなんてどうでもいいんだ。違う次元に突入するような、ギター・サウンドを宇宙にブッ放すくらいの気持ちがあればグレイトな音が作り出せるのさ。
最後に、DBAペダルのファンへぜひメッセージを!
自分が持っているものを何でも使ってみるんだ。たとえそれがDBAのペダルでなくったって構わない。持っている道具で君のハートに秘めたものを形にするんだ。時が来たら然るべき形で使うべき機材に巡り合うことになるだろうし、それがDBAのペダルだったら嬉しいね!
オリヴァーのイチオシ!
数あるDBAペダルの中で、最もお気に入りの1台を選ぶとしたら?
そうだな……Apocalypseを選ぶかな。5個のクレイジーなファズが1つの筐体に収まっていて、どのチャンネルにもリッチでクレイジーなハーモニクスが備わっている。それらすべてが個性的でオリジナルなものなんだ。これまでに聴いたことがないような歪みを求めるならかなりオススメだよ。
*本記事はギター・マガジン2021年6月号にも掲載しています。
『ギター・マガジン2021年6月号』
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