ひと月ずつリリースされる前代未聞のコンセプチュアルな4部作『アイ・アム・ザ・ムーン』を完成させたテデスキ・トラックス・バンド。ギター・マガジン2022年8月号では、デレク・トラックスに、2022年9月号ではスーザン・テデスキに、このプロジェクトについてのインタビューを敢行した。今回はスーザンのインタビューのアウトテイクとして、本誌未公開の“ボブ・ディランとの思い出”について語ったパートをお届けしよう。
質問作成・文=青山陽一 インタビュー・翻訳=トミー・モリー Photo=David McClister
あのボブ・ディランが私のギター・プレイに関して質問してくるなんてね。
ちょっと古い話を聞かせて下さい。95年のザ・スーザン・テデスキ・バンド名義のアルバム『Better Days』では、エルモア・ジェイムズやリーバー&ストーラーなどをカバーしたり、自作のブルースも何曲かありましたよね。今よりもハードコアにブルースを追求していた印象を受けました。今、当時を振り返ってみるとどうでしたか?
当時の私は自分の中でルールを定めず、やりたいことを何でも自由にやっていた。あのバンドはブルース好きの3人の若い女の子たちで組んでいて、私ともう1人のギターにエイドリアン・ヘイズ、そしてアニー・レインズがビッグ・ウォルター・ホートンやリトル・ウォルターみたいなハーモニカをプレイして、サニー・ボーイ・ウィリアムソンの曲なんかもやっていたわね。
私たちは歴史を深堀りしながら様々なスタイルのブルースを探求していたの。エイドリアンはマディ・ウォーターズやハウリン・ウルフ、マジック・サムに夢中で、私がマジック・サムにハマッたのも彼女の影響だった。私もビッグ・ママ・ソーントンやココ・テイラー、エスター・フィリップスなんかを彼女に教えたり、お互いに刺激を与えあっていたわ。だからあのアルバムも確かにハードコアな方向性を持っていたわね。
様々なビッグ・ネームと共演してきたあなたですが、99年にボブ・ディランのステージに参加した時のことを覚えていますか? 動画もアップされていますよね。
もちろん覚えているわよ。その時はボブの前座を務めたんだけど、私は彼の大ファンだし凄く興奮していた。私の父もファンなんだけど、娘が前座を務めたことは父にとっても一大事だったみたい。で、私が出番を終えると、ボブのスタッフに“ミスター・ディランが君と話したいそうだ。ちょっと来てもらえるかな?”と言われて。私は“もちろん良いわよ。ハーイ!”なんて感じでボブのところに行ったら、いきなり“あのトーンはどうやって作っているんだ?”なんて言うの。もっと歌について聞かれるかと思ったら、あのボブが私のギター・プレイに関して質問してくるなんてね。
しかも“君のギターが気に入ったから、一緒にプレイしないか?”と言われて。“オーケー……でもこの曲、歌は知ってるけど、ギターはコードもキーも全然わからないけどどうしよう~”みたいな感じだったわね(笑)。
いきなりの振りだったんですね……。
そうなのよ。でもステージに出たら、彼のバンドのベーシスト、トニー・ガーニエが“この曲はAマイナー”とか“次のコードはF!”とか横で助けてくれて。そんな感じでいつのまにか6曲もプレイしちゃってたの。ボブとソロを掛け合いしたり、一緒に踊ったり、最高の時間だった。今でもあの日のことは夢みたいで、現実に起こったとは思えなかったりする。でも私は映像を持っているから、本当だったってことよね(笑)。
今後のソロ活動についてはどう考えていますか? かつてのアルバム『Wait For Me』のようなコンテンポラリーな側面もとても素敵だったと思うのですが、自分のバンドを率いて再びやってみようと思うことはないですか?
それは面白い質問ね。若い時に書いて録音しないままになっている曲もけっこうあるから、『The Early Years』みたいなタイトルでレコーディングしてみようかなと思うこともある。所属レーベルのコンコードもとても親切だから、もしソロとか別のプロジェクトをやりたいならサポートもしてくれると言っているし。でもやっぱり問題は時間よね。デレクと結婚して20年以上経ち、2人の子供もいて母親としても忙しいし。それにTTBは今とても充実している。驚異的なミュージシャンばかりが揃ったオールスター・チームみたいなもので、誰がソロ活動をしてもおかしくないけど、今はみんなこのバンドに力を注いでいるし、私もここでベストを尽くすのが今は最優先だと思っているの。でもいつの日か、カントリーやゴスペル、ブルースのアルバムを自分で作りたいとは思っているわよ。
ギター・マガジン2022年9月号
『特集:ジェフ・ベック』
ギター・マガジン2022年9月号の表紙特集はジョニー・デップとの共作『18』をリリースしたジェフ・ベック! 本誌には、スーザン・テデスキが最新4部作『アイ・アム・ザ・ムーン』について語ったインタビューを掲載!
作品データ
『アイ・アム・ザ・ムーン:I. クレッセント』
テデスキ・トラックス・バンド
ユニバーサル/UCCO-1235/2022年6月3日リリース
『アイ・アム・ザ・ムーン:II. アセンション』
テデスキ・トラックス・バンド
ユニバーサル/UCCO-1236/2022年7月1日リリース
『アイ・アム・ザ・ムーン:III. ザ・フォール』
テデスキ・トラックス・バンド
ユニバーサル/UCCO-1237/2022年7月29日リリース
『アイ・アム・ザ・ムーン:IV.フェアウェル』
テデスキ・トラックス・バンド
ユニバーサル/UCCO-1238/2022年8月26日リリース
―Guitarists―
デレク・トラックス、スーザン・テデスキ