ヒップホップやロック、ネオソウル、ジャズ、フォークなど、様々なジャンルの音楽を独自のギター・スタイルに落とし込む、気鋭の注目ギタリスト、ボウ・ディアコ。SNSなどを通じて世界から注目されている彼が、ついに1stフル・アルバム『Nylon』をリリースした。作品中のギター・プレイやサウンド・メイクについてたっぷりと語ってもらおう。
質問作成=福崎敬太 インタビュー/翻訳=トミー・モリー Photo by Kasia Konstance
僕が彼らのファンというだけでメッセージを送り、幸運にも参加をしてもらえた
ギター・マガジン2019年10月号の“ネオソウル特集”でインタビューをした以来ですが、当時は“これからソロ名義のEPを出す”というタイミングでしたね。今回初めてのフル・アルバム『Nylon』を完成させた感想から聞かせて下さい。

ギター・マガジン2019年9月号
『Neo Soul 2019』
ギター・マガジン2019年9月号『Neo Soul 2019』でボウ・ディアコは初登場! まだソロ活動をスタートする前だが、「当事者の証言から探る、SNS時代のネオソウル」のコーナーで、インタビューを敢行した。
長い時間をかけて作ってきたから、やっと出せたとホッとしているようなところもあるよ。完成するまで2年くらいかかったんじゃないかな? 多くの人たちをフィーチャーしたこともあって書類での手続きもけっこうあったし、しばらく寝かせて待っている時間もあったんだ。
今作には様々なアーティストとのコラボ楽曲が収録されていますが、曲作りやアレンジ、レコーディングはどのようなやり取りで進めていったのですか?
基本的にほとんどすべての作業をリモートで行なっていったよ。僕がトラック全体を作り、“この人にプレイしてもらいたい!”と思う僕の好きな人たちに送ってみたんだ。ほとんどみんなから素晴らしい返答をもらえて、彼らと一緒に制作することができた。みんな僕のフェイバリットなミュージシャンたちばかりなんだ。
参加したミュージシャンたちはみんなあなたと以前から交流のある人たちばかりだったのでしょうか?
ほとんどの人たちは僕が一度も会ったことがないような人たちだった。単に僕が彼らのファンというだけでメッセージを送り、幸運にも参加をしてもらえたという感じだね。例えばバス(rap/「Fretless(feat. Bas)」に参加)は会ったことがなかっけど、ガリマタイアス(オランダのトラックメイカー/「Maria(feat.Galimatias)」に参加)が共通の知り合いで、彼が自然と導いていってくれたようなところがあった。友人の友人というような形でつながれた人たちはけっこういて、それもある意味収穫だったね(笑)。
今作『Nylon』はどことなく映画のサウンドトラックを聴いているような印象を持ちました。過去にサウンドトラックといった形で、映像に音楽を提供するようなプロジェクトを手掛けたことはありますか?
それがないんだよね……うん、たぶんやっていないと思う。僕の音楽がテレビや何かの宣伝で使われたことはあると思うけど、もしそんな話があったらぜひ受けてみたいと思うよ。
ギターが最初の段階のアイディアを作ってくれているね
作曲はギター・フレーズから始まるのですか?
ほとんどの曲がギターから始まっているかな。Ableton(DAWソフト)を開いてそこにギターを録音していき、ナイスなものが出来たらそこにレイヤーを重ねていく。そうやって作ったものから展開していくんだ。だからギターが最初の段階のアイディアを作ってくれているね。
ジャズ的なアプローチも多いですが、フレーズ・メイクの際はメロディを作ってから細かく肉づけしていくのですか?
だいたいコード進行が最初に浮かぶことが多いかな。時にはそこにベースがともなっていることもある。コードだけをまず録音してみて、そのうえで何ができるかを色々試したりしている。レイヤーを重ねていくと、ある時点でピンと感じるものが出てくるんだ。あまり多くはないけど、時には頭の中でメロディが鳴り響き、それに肉づけするような形でやっていくこともあるよ。
「Fretless」のようにヒップホップ・チューンでトラック・メイクをする際はメインとなるリフが重要になってくると思います。ループすることを意識したリフはどのように作っていますか?
この曲は、ドイツに住む僕の友人のベン・エッサーと初めて会った時にやった最初のセッションで、彼が持ってきたものだったんだ。彼がプレイしてくれたボーカルのループが元になっていて、僕はそれにドラム・ループをつけたんだ。そこにいくつかのコードを乗せたものを“いつかほかの誰かに使おう”と思ってパソコンの中に溜め込んでいてね。もともと誰かがこの曲で歌うことを想定していたから、当初からそのためのスペースを置いておいたんだよ。
ちなみに聴く限り確認できなかったのですが、どこかでフレットレスのギターやベースを使っていたり?
いや、これは単にこのプロジェクト・ファイルの名前だっただけなんだ(笑)。それがそのままこの曲のタイトルになったんだよ。
「Nylon」はガット・ギターが複雑に絡み合うアレンジが見事です。ギターのアンサンブルはどのように作っていきましたか?
僕が買ったヤマハのCG122MCっていうナイロン・ギターがあって、この曲はそのギターで初めてプレイした曲だったんだ。これもほかの曲と同じような感じで、3コードのループをプレイして始まったと思う。けっこう多くの曲がちょっとしたコード進行やパートから始まっていて、それに対してサウンドのレイヤーを加えて作ってきているんだ。僕にとって最もナチュラルなやり方だったと思うね。
「Turn Your Phone Off」のソロはメロディも美しく、1ピッキングでのレガートによる音の減衰がすごく自然で音楽的です。これはどのようなイメージで弾きましたか?
この出来には満足していて、ナチュラルでメロディックなプレイを目指した。何か派手なことをやるというよりも楽曲に見合ったものをプレイしようと考えていたかな。で、フェンダーからストラトキャスターを贈ってもらったから、それを使ってみたいと思ったんだ。たぶんあのギターを初めて使った曲だと思うね。

イヴェット・ヤングはアメイジングな仕事をしてくれたよ
現代的なビートにギターを合わせるために考えていること、逆にギターを生かすようなトラック・メイクのコツなどはありますか?
僕は最近の音楽を凄く聴いているわけじゃないから、何がトレンディなビートなのかっていうのはよくわからないかな。ただ特定のサウンドのものを求めているというよりか、ナチュラルなサウンドでギターに合うものを追いかけているというのは実のところかな。
“この人はモダンなビートや雰囲気に対して、上手に自身の声やサウンドを組み合わせている!”と思うようなアーティストはいますか?
そういう人たちってインディー・ロックの中にけっこういて、僕の好きなバンドの多くが挙げられるかな。ストロークスはまさしくそんなバンドだし、彼らっぽいサウンドを出しているようなバンドにも似たようなものを感じるよ。僕が音楽に入り込んだ時に聴いていたような音楽もそうだし、今やロンドンだけじゃなくて世界中で活躍しているビーバドゥービーは、ラフな感じがありつつもスムーズさがあったりと、僕が好きだった2000年代初頭の雰囲気があるね。ああいった音楽にはノスタルジーを感じるし、僕が聴いてきたものに通じるものが感じられるんだ。
「Afloat」はレイドバックしたグルーヴがソウルフルな雰囲気を出しています。
この曲もベンと一緒に作った曲で、メインのリフは何年か前にZoologyでやった曲(「Maroon」/『Bloom』収録)のアウトロで使ったものなんだ。リフをサンプルしたようなものだね。
イヴェット・ヤングとの「Lychee」はギタリスト的には大きなトピックです。2人のコラボはモダンでヴィヴィッドな雰囲気になると思っていましたが、柔らかくオーガニックな音像が印象的です。この曲はどのようなイメージで作りましたか?
これはスフィアン・スティーヴンスやジョアンナ・ニューサムからの影響が現われている曲だと思う。曲が半分くらいできた状態でイヴェットに送り、彼女にやりたいように弾いてもらったんだ。彼女のほうでバイオリンなどのストリングスとアコースティック・ギターを入れてナイスな感じに仕上げてくれたよ。
「Lychee」ではイヴェットはエレクトリックを弾いていない?
僕がアコースティックとエレクトリックの両方をプレイしていて、彼女はエレクトリックはプレイしていないね。
あなたのほうでイヴェット抜きでトラックをほぼ作り、楽器のセレクションやプレイなどはすべて彼女にお任せした感じでしたか?
そうだね。最初から最後までこの曲の構造を僕のほうで作っておいて、何をプレイしたら良いかわからなかったところはそのまま空白にしておいて彼女に埋めてもらったんだ。彼女はアメイジングな仕事をして送り返してくれたよ。

僕はギターによって新たな命を吹き込みたいと思っている
あなたの音楽はクリーン・サウンドの表情がとても多彩です。サウンドメイクで気をつけていることを教えて下さい。
ギターのそのもののサウンドをあまり変えないようにしている。だいたい直接コンピューターにつないでいて、可能な限りクリーンでナチュラルなセッティングにするんだ。僕の頭の中に描いているサウンドってそういうものだから、レコーディング中にそれを変えないようにしている。インディー・ロックみたいなサウンドにさせたい時はディストーションを加えることもあるけど、僕はやっぱりクリーンが好きなんだ。
レコーディングで使用した機材についても教えて下さい。使ったギターは?
エレクトリックは基本的にはやっぱり1974年製テレキャスター・デラックスがメインで、ストラトキャスターもちょっと使ったかな。あとは気まぐれにナイロン弦のギターを使ったくらいだね。
録音はどのように?
基本的にAbletonで録音していて、エレキ・ギターは基本的にユニバーサル・オーディオのApollo Twinに入力して直接録音していて、アコースティック・ギターはマイクで録音している。
アンプにつないでマイクで録音はしませんでしたか?
今回はやっていないね。マイクで録ったのはアコースティックだけだよ。
ほかのアーティストの録音だったり、ライブであなたが使うアンプはどういったものですか?
フェンダーのHot Rod DeVille 410を使い、クリーンなサウンドでプレイしている。それ以前はTwin Reverbを使っていた。僕はフェンダー・アンプのクリーンなトーンが好きだからね。最近の僕は友人のテニソン(Tennyson)とツアーに出ていて、この時は彼のパソコンに直接つないでプレイしたね。ライブでパソコンにつなぐっていうのは不思議な体験だったよ。
フェンダーのDevilleにギターを接続する際のセッティングはどのようにしていますか?
基本的に全部真ん中の位置だね。まぁちょっと怠けているようなところがあるけど、それで問題なくやれているしストレートでグッドなサウンドになるんだ。必要に応じてベースを下げる時があるくらいかな。
エフェクターで使ったものはありますか?
基本的にエフェクトはAbletonの中にあるものを使っている。昔はけっこう大きなペダルボードを使っていたけど、もうここ数年間は使っていないんだ。
そのペダルボードにはどんなペダルが入っていたんですか?
かなり最初に手に入れたのはエレクトロ・ハーモニックスのDeluxe Memory Manなんだ。古い昔の個体で、薄めにかかるリバーブのような感じにしてずっとつけっぱなしで使っているよ。ディレイはほかにも3台使っていて、BOSSのDD-6か7をグリッチのような感じで使っていて、それによる小さなループのプレイは僕のトレードマークみたいなものだね。もう1台はリバースで使ったりと、ディレイはその機種ごとにやるべき役目が異なっている。そしてゲートのような設定にしたフランジャー、アイバニーズのTubescreamerのような歪みも使っているね。あとボスの青いピッチシフターも使っているけど、これはかなり飛び道具的な使い方だよ。
プロデューサーとしても最先端の音楽に携わっているあなたですが、現代におけるギターの魅力や役割、可能性についてどのように考えていますか?
多くの音楽が今やパソコンやMIDI楽器によって作られているけど、ギターって今でも音楽を作るためのツールだと思っている。モダンな音楽の中でギターを聴くと自然な要素だと思うし、僕はギターによって新たな命を吹き込みたいと思っている。最初から最後まで全部がエネルギーの高いポップなのってどうも苦手で、誰かがプレイしているちょっとしたインストゥルメンタルな音楽の中にオーガニックな要素を感じることが多いんだ。
今作はコラボレーションが多いですが、ライブではどのようなパフォーマンスを考えていますか?
将来的にいつの日かはやるかもしれないけど、今のところあまりライブでプレイするってことは考えていないかな。僕はあんまり歌が得意でないし、歌えると思ったことすらないよ(笑)。だからたくさんの人たちをフィーチャーしたいところだけど、現実的には1人のシンガーを招いてすべての曲を歌ってもらうことになるかな。歌だけではなくてギターも楽しめるものにさせたいね。
バック・バンドもしくはバッキング・トラックを流したりしながらあなたの音楽を人前で披露することって、そもそもあまりないのでしょうか?
やったことがないんだ。僕は基本的に音楽を作っている側にいることがほとんどだからね(笑)。だからテニソンと一緒に最近ツアーに出ていたことは、中々素晴らしい経験だったよ。Zoology(エミリー・クルーガーとのデュオ)ではライブもやったことはあるしそれは楽しめたけど、それが僕のメイン・パートというわけではないんだ。だけどやっぱりいつの日かは自分の音楽でプレイするってのはやってみたいと思っているよ。
ぜひその際は日本にも来てほしいのですが、何かしらの形で来日公演などは考えていますか?
もしテニソンがアジア・ツアーをやるってなったら僕はついて行くだろうし、そこでなら僕のプレイを日本で披露できるかもしれない。まぁでも、これはあくまでも希望的観測だけどね(笑)。