Interview:アンドレア・プラテシ 創業者に聞くDOPHIXのコンセプトとペダルにかける想い Interview:アンドレア・プラテシ 創業者に聞くDOPHIXのコンセプトとペダルにかける想い

Interview:アンドレア・プラテシ
創業者に聞くDOPHIXのコンセプトとペダルにかける想い

高品位な独自設計が世界的に評価を受けているペダル・ブランド、DOPHIX。その運営業務を取り仕切る創業者の1人、アンドレア・プラテシ(ANDREA PRATESI)に、ブランドの立ち上げから名前の由来、コンセプト、エフェクター作りに対する考えなどを聞いた。すでに多くのミュージシャンから絶賛され、独創的なサウンドを生むDOPHIXのペダルは、どのように生まれてくるのだろうか。

取材・文:菊池真平 通訳:トミー・モリー
*本記事はギター・マガジン2022年10月号の特集『DOPHIX〜妥協なきオリジナリティに圧倒される情熱のペダル』を再編集したものです。

私たちの製品は他社のコピーではありません

ブランド立ち上げのきっかけと、名前の由来を教えていただけますか?

 私とステファノはもともとギタリストで、その音楽への情熱をもとに2015年に会社を始めました。当初は私が初めて入れたタトゥーのイルカにちなみ、Dolphineという社名でしたが、世界各地ですでに使われていたので、発音が近いDOPHIXという名前に変えました。アメリカ、イギリスではすでに商標を取得し、日本でも近いうちに取得するつもりです。

あなたも含めて、創業メンバーの3人について、どのような仕事をしているのか教えて下さい。

 ステファノは電子回路をおもに設計するエンジニアであり、私たちのブレインとも言うべき存在です。フェデリカは私の妻で、会計や事務処理をおもに行なっています。私はおもにマーケットの窓口として働き、販売や宣伝、そして会社の運営を担当しています。

(L→R)フェデリカ・タントゥッリ、ステファノ・カルレシ、アンドレア・プラテシ。
左から創業メンバーのフェデリカ・タントゥッリ、ステファノ・カルレシ、インタビューに答えてくれたアンドレア・プラテシ。

現在はどこで、どのような体制でエフェクターを作っていますか?

 最初の3年間はポイント・トゥ・ポイントのワイヤリングで製作していました。しかし3人だけの体制で作り続けていては、世界各国に流通させることなどできませんでした。それで現在は、私たちのオフィスの近くにあるエレクトロニックに特化した会社とタッグを組み作業しています。しかし、私たちが求めるエフェクター製作の考え方を実現してくれるパートナーを見つけることは簡単ではありませんでしたね。

エフェクター作りで大切にしていることは?

 私たちのすべての製品は、先行する他社の製品をコピーするものではありません。市場に最も多く存在するペダルはオーバードライブであり、私たちが最も自信を持っている製品もオーバードライブです。

 私はミュージシャンたちと楽器のショーなどでディスカッションすることが好きで、そこから多くのことを学びます。彼らはみんな私たちのペダルを使って驚いてくれて、“ほかにはどんなペダルがあるのか?”と聞いてきます。

 エフェクターの市場は常に競争が激しく、飛び抜けて大きな会社は少なく、小規模で運営しているブランドが多いと思いますが、いずれは世界的なブランドになるように努力していきたいと考えています。ステファノはイタリア国内のミュージシャンと共に作業をしてきましたが、近年私たちはアメリカのミュージシャンたちともコラボレーションをするようになりました。

各エフェクターにはフィレンツェに縁のある芸術家やその作品の名前がつけられています。これは、どのような意図が?

 街中で見かける銅像をもとに名づけていて、これはマーケティング上の戦略でもあります。ミケランジェロによるダビデ像は最も有名です。Davidのディストーションを作った際は、そのパワフルなサウンドがイメージに近いと感じました。シリコン・ファズのNettunoは“海の神”を意味しており、荒れ狂う海のサウンドのイメージとマッチしています。

David
David
Nettuno
Nettuno

筐体の内部にLEDを仕込む遊び心は、どのような理由からですか?

 私が昔ミュージシャンとしてプレイしていた頃に気付いたことですが、日中のステージでエフェクトのオン/オフを目視することは日光のせいで不可能でした。その解決策をステファノに求めたところ、彼が考案してくれたんです。

Davidの内部のLED
DOPHIXの全モデルで筐体内部にLEDが仕込まれる。これは日中でもペダルのオン/オフを確認しやすくするためにステファノが考えたアイディアだという。

常にハイ・クオリティな製品作りを追求しています

製品開発においてDOPHIXが参考としたエフェクターはありますか?

 先ほどの答えとも重複しますが、特定のモデルを参考にせず、すべて私たちが独自に考案したものです。

ではDOPHIXらしい製品作りとは?

 私たちはほんの数個のペダルだけを作るメーカーではなく、幅広いレンジのエフェクターを作り、かつグローバルに受け入れられ、数十年と作り続けられる音作りを目指しています。1つのアイディアだけで勝負するのでなく、可能な限り多くの製品を作っていきたいと思っています。そのために多くの予算と時間をかけて音作りにも向き合っているのです。

作業中のステファノ・カルレシ
設計や開発を行なうエンジニアのステファノ。仕上げた基板を記録するためだろうか、携帯電話で写真を撮っているようだ。満足するまで時間をかけて仕上げるのが彼のスタイル。
試作品をチェックするアンドレア・プラテシとステファノ
ギタリストでもあったというアンドレアとステファノ。試作をチェックする際も、ミュージシャンとしての視点が生かされる。それが、DOPHIXが支持される理由の1つだろう。

パーツに関するこだわりは?

 ステファノは常にハイ・クオリティな製品作りを追求していますが、その一方で世界的にパーツの値段が上がっていることに苦しんでいます。しかし妥協して安価なものを購入することは考えておらず、価格が2割安いパーツを見つけたとしてもサウンドが大きく異なるのであれば、採用することはありません。

オーバードライブやディストーションに関しては、オペアンプを使った回路設計でしょうか?

 はい。高品質なオペアンプを使っています。JFETも用いて、真空管のようなウォームなサウンドのエフェクトを実現しています。

ファズのNettunoに関してシリコン・トランジスタをセレクトした理由は?

 ファズというのはユーザーによるサウンドへのこだわりが強く要求されるエフェクトです。私たちのファズはビッグマフのような一般的に人気なサウンドのものではなく、もっとモダンな音楽の中で使われているようなペダルを目指し、そのためにシリコン・トランジスタを選びました。

2019年のSummer NAMMで話題となった“Michelangelo”について教えて下さい。

 このペダルは私たちにとって、とても大きな1台となりました。Summer NAMMで6台のベスト・ペダルの中の1台に選ばれて、世界中に大きくその名を知られるきっかけになったんです。このペダルのポイントは、エフェクト音とギター本来の音をミックスできる点にあり、それがミュージシャンに受け入れられました。

Michelangelo
Michelangelo

情熱を持ち続けてやり抜くことが大切です

質の高いエフェクターを作るために必要なことは?

 それは、情熱だと思います。プロジェクトが長期化して6〜7ヵ月かかると疲弊してきます。しかしミュージシャンがグレイトなサウンドを求めていることを忘れず、情熱を持ち続けてやり抜くことが大切です。

今後どのようなブランドへと成長していきたいと思いますか?

 いつかはリーダー・カンパニーを目指していきたいですが、それよりもまずは世界中の様々なところで販売できることを願っています。私たちはまだ小さな会社で、新たな土地を開拓していくことが重要です。私個人としても日本を訪れることは夢でした。日本の楽器ショーにもぜひ参加したいと思っています。

最後に、日本のカスタマーにメッセージをいただけますか?

 日本の市場に参入できたことをとても光栄に思っています。イタリアのメーカーとして、日本に製品を届けられたことは、1つの夢が叶った気分です。日本の市場ではクオリティが重視されます。だからこそ、代理店の方から“この製品は日本の市場でも受け入れられる”と言われたことで、夢のような気持ちになりました。

 私たちはハンドメイドで製造を行なっているため大量生産できず、少しずつ成長していくのみです。アメリカ、ヨーロッパ、日本と重要な3箇所のマーケットで展開できた今、次の1年間はとても大切だと実感しています。これらの拠点にディストリビューターを持つことで、オーダーの数は増えますし、市場展開に対する考え方を変える必要も出てきます。これは私たちが職人気質でやっている小さな会社に留まらず、皆様の目に触れることが増えることでもあり、着実に私たちが成長している証ですね。

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2022年9月13日(火)発売