譜割が不規則なミュート・フレーズ、フル・ピッキングでのソロ、高速のカッティングなど、様々なギターのテクニックを実にキャッチーなポップ・ミュージックのフレーズに昇華する手腕が光るギタリスト=エジマハルシ。今回はポルカドットスティングレイの新作『踊る様に』のギター・フレーズを中心に、彼がどのようにして今作のプレイ・スタイルに行きついたのかを語ってもらった。
取材/文=伊藤雅景 写真=AZUSA TAKADA
歌に対するベストなコードやバッキングをつけるように意識しています
新作『踊る様に』はギター・リフやソロの印象が強い作品ですが、ギターのテーマのようなものはあったりしましたか?
曲を作った時期やレコーディングしたタイミングが全然違ったので、ギターに対するテーマのようなものは作っていなかったです。今作で1番最初に作ったのは「青い」って曲なんですけど、それこそ2、3年前には完成していて。
この曲は音像がほかの曲とまったく違いますよね。
この曲は“直球ロック”みたいなイメージがあったので、TLタイプのリア・ピックアップを使って、わかりやすくロックな音色を作って録りました。歪みもいつもはエフェクターで作っているんですけど、この曲はCarol-Annのリード・チャンネルで歪ませて録っています。「青い」みたいなストレートなサウンドを作る時はそういった組み合わせになることが多いですね。
なるほど。時期によって制作方法やサウンドのテイストが変わっていったんですか?
昔はスタジオでイチから作っていくことが多かったんですが、メンバーがスタジオに集まれなくなったコロナ禍をきっかけに、宅録で作曲をする方向性に寄っていったんです。
最近はデータのやり取りでなんとなくのデモを作って、それを元にメンバーと詰めていくやり方になっていきました。なのでDTMならではのアレンジが出来た曲も多かったですね。
「どうでもいいよ」はそれこそアコギのリフを波形でぶつ切りにしたDTMならではのアレンジが印象的でした。
こういった手法はなかなかやらなかったので新鮮でした。あとは、僕は今までずっとアンプをマイクで録るスタイルにこだわってレコーディングをしていたんですけど、今回の「dude」ではあえてラインで音を録って、プラグインで音作りをしました。
メイン・リフのオート・ワウの音色も実はプラグインで作っているんですよ。ライン録音の独特な距離の近さとか、無駄な音のなさって言うのかな。そういったサウンドが楽曲とマッチしましたね。バッキング・ギターも同じくラインで録っていて。
バッキングもハルシさんが弾いているんですか?
そうですね。音源で聴こえるギターは、全部僕が弾いています。最近は曲作りの際に雫(vo,g)からアカペラでメロディが送られてきて、そこに僕が独自の解釈でコードを当てていくっていう感じで作っているので、結局バッキングも自分が弾いちゃいますね。
ポルカドットスティングレイは8~9割は僕がコード・ワークを考えているので、自分の手グセの進行になる時もあるんですけど、基本は歌に対するベストなコードやバッキングをつけるように意識しています。
“ギター・キッズは一度は速弾きに憧れる”みたいなノリが自分にもあった
「SHINOBI-NAI (雫カリウタver.)」のギター・プレイで聴ける、指弾き×ゴースト・ノートを混ぜるフレーズが新鮮でした。
2番(1:26~)あたりの指弾きでバッキングを弾いている箇所ですね。今まではこういったプレイをしたことがなかったんですよ。指でゴーストをたくさん入れる感じのやつ。
こういったプレイ・スタイルにトライするきっかけがあったんですか?
自分はけっこうインスタグラムなどのSNSで色んなギタリストの動画を見るのが好きで、そういったプレイ・スタイルは、マテウス・アサトやメラニー・フェイからかなり影響を受けました。ほかには学生時代に影響を受けていたルーツ的な音楽も含まれていると思います。
ギター・マガジン本誌の「オープニング・アクト」(2017年2月号)で初登場した際に、“RADWIMPSがギターを弾くきっかけだった”と言っていましたが、ハルシさんは桑原彰(g)さんのような空間系を活かしたフレーズは少ないですよね。
ギター・マガジン2017年2月号
『ブルース最強説。』
エジマハルシが自身のルーツを語った「オープニング・アクト」はこちらの号に掲載。当時、弱冠21歳だったハルシの貴重なインタビューだ。
やりたいとは思っているんですけど、飛び道具的なアプローチを空間系のエフェクトありきで表現するのがそんなに得意ではなくて……。全部フレーズでどうにか表現しようとする癖がついちゃっているので、それこそディレイありきのフレーズみたいなものは本当にたまにしか弾かないですね。
エフェクターや最新の機械がそんなに得意じゃないっていうのはありますけど(笑)。でも今後はそういったニュアンスのフレーズも色々考えていきたいと思っています。
今作はギター・ソロがたくさん聴ける作品になっていますが、意識的にパートを設けたのですか?
ソロが多いのは意図的ではなくて、自然とそうなっていった感じです。曲の構成を考えた時に、結局一番しっくりくるなと感じるアレンジにギター・ソロが入っていることが多くて。
でも、僕が率先して入れようって言ってるわけじゃないですよ(笑)。逆に“ソロじゃなくて良いんじゃない?”って言う時もありますし(笑)。
楽曲が求めるならば入れるというスタンスですね。ギター・ソロは考え込んで作っていくタイプですか?
どうだろう……。ギターを弾きながらなんとなく考えていくことがわりと多いですね。もちろん時間がかかこともあるし、すんなりできることもあります。
特に「hide and seek」のアドリブ感のあるソロが印象的でした。
これは頭の中で鳴っている音を拾って、そのまま弾いたというか。速弾きも混ぜているんですが、そのバランスが絶妙に曲にハマったなという感じがあります。
今作では要所要所で速弾きを聴くことができますが、こういったスタイルは何がルーツなんですか?
確かにけっこうフル・ピッキング的な速弾きをやってますが、別にそんなに得意でもなくて(笑)。なので特別どこかで影響を受けたとかはなくて。練習もちゃんとやってなかったですし……。でも、それこそ“ギター・キッズは一度は速弾きに憧れる”みたいなノリが自分にもあったので、“とりあえず指を速く動かしたい”というモチベーションだけで速弾きフレーズをコピーしたりすることはありました(笑)。
ちなみにハルシさんはおもにどういった練習をしてきましたか?
昔はとりあえず色んな練習法に手をつけてやってみたんですけど、最近は特に意識して練習することはないですね。
僕は練習よりもインプットを増やすことが大事だと思っているので、ネットで観られるカッコいいギタリストの動画をなんとなくコピーしたりとか、そういうのがめちゃくちゃ多いです。誰か特定の人じゃなくて、とにかく色んな人、様々なジャンルのギタリストを見てます。
ハルシさんもたまに自身のインスタグラムに投稿していますよね!
そうですね。また上げなきゃ(笑)。
“このギター、弾いてるのエジマハルシじゃない?”と思ってもらえるようになりたい
ここまでのお話でハルシさんは“感覚で弾くスタイル”のギタリストだと感じました。例えば「ツキカゲ」の2A(1:19〜)でリード・ギターがハモりながら展開するテクニカルなフレーズがありましたが、こういったハモりの度数も感覚で当てていくんですか?
ここ、実は3度と4度のハモりをどっちも試したんです。あとから録ったものを聴き比べて、3度のほうがハマるなっていうことがわかって。ハモりの度数って4度のほうがちょっと無機質な感じで、3度はクサめになるというか。そういったイメージの違いで使い分けていますね。
でも、こういったハモりのフレーズは最近になって増えてきたんです。昔は音源でもライブと同じ様にバッキング×リードの2本だけで完結させたいって感じだったんですけど、今はそういった考えに縛られずに制作するようにしています。
今作は特に、楽曲が求めているギターを入れるって感じですね。「リドー」などでもオクターブ下で同じフレーズを弾いて重ねたりもしていて。
「リドー」はカッティングも凄まじくて、フレーズの節々にハルシ節を感じました。逆にハルシさんが今作で一番自分らしさが出ていると思う楽曲は?
どれだろう……。自分も色んなスタイルがあると思うので選ぶのは難しいんですけど、みんなが思う“エジマハルシみたいなギター”がよく出てるのは「ツキカゲ」か「リドー」のどちらかですかね。あと、「トーキョーモーヴ」のリフも可愛くてキャッチーかつ、すこし日本っぽいニュアンスも入っていて。そのあたりは凄い気に入っています。
最後に、ハルシさんが目指しているギタリスト像を教えて下さい。
これはいつも意識していることでもあるんですけど、ポルカドットスティングレイを知らない人が僕らの楽曲を聴いた時に、“このギター、弾いてるのエジマハルシじゃない?”ってなるようなギタリストになりたいなと思っています!
作品データ
『踊る様に』
ポルカドットスティングレイ
ユニバーサル/UMCK-1720/2022年9月7日リリース
―Track List―
01.SHINOBI-NAI (雫カリウタver.)
02.青い
03.どうでもいいよ
04.ダイバー
05.dude
06.hide and seek
07.SURF
08.ショートショート (踊る様にver.)
09.恋愛論
10.トーキョーモーヴ
11.ツキカゲ
12.リドー
13.夕立
14.odoru yo-ni
―Guitarist―
エジマハルシ