ミューズの最新アルバム『Will Of The People』は、メタル界のアイコンたちにインスパイアされた、バンド史上最もヘヴィな仕上がりだ。ギタリストでフロントマンのマシュー・ベラミーは、“このアルバムには確実にメタルの要素が入っていると思うね”と語る。今回お届けする英トータル・ギター誌による独占インタビューでは、そんなメタルからの影響、はたまたクラシックから学んだ理論や手法など、彼の音楽家としてのバックボーンを垣間見ることができる。
Word by Amit Sharma. This article is translated or reproduced from Total Guitar #363, September 2022 and is copyright of or licensed by Future Publishing Limited, a Future plc group company, UK 2022. All rights reserved. 翻訳=トミー・モリー Photo by Thomas Banneyer/picture alliance via Getty Images
僕らはアイアン・メイデンをバンドとして常にリスペクトしてきたんだ
『Will Of The People』の表題曲には、ダウン・チューニングでの単音リフから過激なオクターブ・ファズにいたるまでとクラシックなミューズらしさがいくつかありますね。
これって実はトラディショナルなブルースのリフなんだけどわかるかな? レイジ・アゲンスト・ザ・マシン(以下:RATM)から学んだことなんだ。プロダクションをユニークにしている限り、ストレートなブルースのリフでもその雰囲気から遠ざかることもできるんだよ。それがポイントだね! ザ・ホワイト・ストライプスにしても同じようなところがあると思う。
たぶん僕らはこのアプローチを「Supermassive Black Hole」(『Black Holes and Revelations』/2006年)で初めて見つけ、ブルースのリフを最大限に未来的かつユニークなサウンドにするためにやれることをやりまくったんだ。「Will Of The People」はずっと1つのアイディアがくり広げられていて、このアルバムの中でもかなりシンプルな曲だから、同じようなアプローチをしたんだ。
この曲で使用したファズ・ペダルを覚えていますか?
このサウンドを得るためにかなりの時間を費やして、僕らは50台近いファズ・ペダルを試したから、中々パッとは思い出せないな(笑)。で、長年やっていることだけど、ファズをDIにつなげている。これはかなり過小評価されているテクニックだけど、アンプに比べてモダンなサウンドになるんだよ。たいてビッグマフから試し始めて、ほかのものに手を出していくね。
ブリッジ・ミュートによるスラッシュメタルなフィーリングとクロマチックな不協和音が特徴的な「Kill Or Be Killed」は、あなたが今までに書いた曲の中で最もヘヴィな曲となりましたね。
そのとおりだね! 自分の原点について考えていた時に気づいたんだけど、なんていうか、メタルは常に僕の周囲にあったんだ。僕たちは育っていく中で、アイアン・メイデンのようなバンドを聴いてきていて、ドム(・ハワード/d)なんかはかなり彼らにのめり込んでいた。
僕らはニルヴァーナ、RATM、ザ・スマッシング・パンプキンズのほうに惹き寄せられていった一方で、同じく80年代のメタルへの愛も常に持っていた。それは僕が使うハーモニック・マイナー・スケールなんかから感じ取ることができたかな? もちろんメタリカも大きな存在だったけど、アイアン・メイデンはイギリスのバンドで、ある意味パンクロックに通じるようなものがあったんだ。
たしかに彼らの初期作品にはそういった空気感があるかもしれないですね。
そうそう。ハーモニック・マイナーの使い方にも、彼らはパンクロックの解釈を加えているんだよ。「Phantom Of The Opera」(『Iron Maiden/邦題:鋼鉄の処女』収録/1980年)はほかのメタル・ソングに比べて大袈裟だったり、過剰にクラシカルな感じはないよね。それでもこの曲には怒りや恐怖に通じるものがある。だから僕らはメイデンをバンドとして常にリスペクトしてきたんだ。
僕らは彼らと同じサウンドじゃないし、異なるジャンルで活動しているけど、彼らのハーモニック・マイナー・スケールの使い方やプログレッシブなアプローチを共有している。ミュージシャンとしての姿勢も尊敬しているし、特にクールでガツンとくるプレイを常に聴かせてくれるスティーヴ・ハリスは、世界最高のベーシストの1人だよ。
ほかにメタルで影響を受けたのは?
アイアン・メイデンを知ったあとに、デフトーンズにもハマったね。RATMをメタルとは呼ばないだろうけど、彼らも僕のフェイバリット・バンドの1つだ。ちょっと前にゴジラ(Gojira/フランスのメタル・バンド)を誰かが聴かせてくれて、夢中になったよ。彼らの要素が今回のアルバムのどこかに入っていることはたしかだね。
「You Make Me Feel Like It’s Halloween」ではイングヴェイ・マルムスティーンのようなリックで終わるソロが聴けます。彼もあなたのギター・ヒーローの1人ですか?
彼は最高だよ! しばらく離れていたけど、イングヴェイは僕がギターをプレイし始めた90年代初頭に聴いてきたギタリストなんだ。当時は彼みたいになるチャンスがあるんじゃないかと思っていたんだよ(笑)! ただ、しばらくしてから彼のようには弾けないと気づき、もっとクラシカルでフラメンコっぽいギター・スタイルに向かっていった。
それからジミ・ヘンドリックスやカート・コバーンのようなプレイヤーを聴くようになって、“これならどうだろう? テクニカルで正確なプレイはできないけど、カオスなプレイをするにはどうしたら良いんだ?”と考えるようになったんだ。ノイズ、カオス……といった音楽を考えるようになり、そのいくつかの要素が自分の中に残っていったわけだ。そして君はたぶん正しいよ。速く弾くハーモニック・マイナーのアイディアのいくつかは、彼のようなプレイヤーたちからもらっているからね。
オレンジのアンプを使ってスリップノットっぽいサウンドを作っていたっけ……
現在の使用アンプですが、ディーゼルのVH4とヴォックスのAC30が今でもあなたのメインとして活躍していますか?
うん、もはやこれらはクラシックなものとなったよ。もしヘヴィな単音リフをプレイするなら、たいていディーゼルが必要になる。僕はダブル・トラッキングのギターが特に好きというわけじゃないけど、1本のギターで複数のアンプを同時に鳴らしてレコーディングするのは好きなんだ。異なるレスポンスがあるから、一度しかプレイしていないのに、まるでダブル・トラッキングをしたようなサウンドが得られるからね。
AC30はビンテージを使っているんですか?
AC30は1964年製と1970年製のものを持っている。これらはブライアン・メイやジ・エッジがよく使っているもので、トップ・ブーストを搭載している個体だね。この時代にしかないもので、なかなか見つからないんだ。
ほかに持っているアンプは?
ジム・マーシャル自身が作ったJTM45の最初の50台のうちの1台っていう、かなりレアなマーシャルも幸運なことに所有しているよ。これはジミ・ヘンドリックスが使ったものとまったく同じものなんだ。これこそミュージアム級と呼ぶべき逸品だね! アンプの歴史を知っている人なら“オーマイゴッド! 一体なんてことだ!”ってなると思うよ。僕がガラスのケースの中にしまうんじゃなくて使っているってことを信じてはくれないだろうね(笑)。これは文字どおりジム・マーシャルがハンドメイドで作ったもので、かなりヘンドリックスっぽいサウンドがするクレイジーなアンプだ。
それは貴重ですね。
あと今回は数回程度しか使っていないけど、かなり面白いアンプを最近手に入れたんだ。モデル名すらわからないのだけど、1940年製のギブソンのアンプなんだ。ボリューム・ノブしかついていないピグノースのアンプっぽいルックスなんだけど、音量を上げた時の歪んでくる感じがアメイジングなんだよね。
そして時にはトム・モレロのトーンを求め、モディファイしたJCM800を使うこともある。ほかにもいくつかのアンプがあって、今作だとオレンジのアンプを使ってスリップノットっぽいサウンドを作っていたっけ……。
それは興味深い。スリップノットのギター・トーンのどんなところが好きなのですか?
彼らは最初に触れておくべきバンドだったね。もちろん彼らのことはずっと知っていたけど、ちゃんと聴いてこなかったんだ。
実は今10歳になった息子が急にスリップノットの大ファンになってね。僕が学校に車で送っていく時、常に爆音で聴いているんだ。そこで聴いていくうちに、改めて彼らのギター・プレイの素晴らしさに気づいたんだよ。昔彼らの1stアルバム(『Slipknot』/1999年)が出た時のことを今でも覚えているけど、去年になって再発見したような気分だったね。
で、彼らのうちのどちらかのギタリスト(ジム・ルート)はオレンジのアンプを使っているだろう? だから僕らも、小さなオレンジのアンプをヘヴィなトラックで使ってみたんだ。
クラシカルやフラメンコの要素が僕のプレイに入り込んでいるよ
作曲をする時、音楽理論についてはどれくらい考えていますか? 例えば「Plug In Baby」のメインのリードはBハーモニック・マイナーとドリアンをもとに組み立てていますし、ほかの曲ではセカンダリー・ドミナントといったクラシカルなアイディアも使っていますよね。
僕は音楽を中級程度にしか学んでいなくて、特に理論という点では上級者とは言いがたい。何かを分析したい時には、パートごとに分解して君たちと同じように言葉で表現することはできるけど、音楽を作る時にそういう風に考えたことはほとんどないね。長年の経験でいくつかのコードの動きが、“お決まり”として自分の中でできあがっている。僕は譜面を読むというよりも耳でプレイするタイプなんだよ。
音楽ではAレベル(編注:イギリスで実施される試験の成績)を取得していて、これってそこまで上級者というわけではないけど、カウンター・ポイントやバッハっぽいものを、楽器を弾かずに頭の中で書くやり方は学んでいる。でもやっぱり僕は、“完全に理解していないこと”に対して常に惹かれてきたんだ。
ギター・ミュージック以外で影響を受けたミュージシャンたちにはどんな人がいますか?
ピアノ界だとラフマニノフやリストのような人たちだね。彼らの音楽の中に存在する“揺らぎ”は僕にとって驚きでもあるんだ。当時の時代背景からして、彼らが持っていたインテリジェンスって、現在のテクノロジー、それこそこのモダンな世界におけるコンピューターのプログラミングなんかに匹敵するよ。天才たちが作曲を行なうことによって限界を超えていった時代があったんだ。
それに僕はピアノ音楽に沢山頭を向けなければならなかった。腰を据えてすべての基礎を学んでいったよ。僕には自由自在にピアノを扱えるテクニックはないけど、どういったコードがどういった理由で特定の場所で機能しているか、そしてそこからどう展開していくのかを学んだんだ。
あと僕は、スタンダードなメジャーやマイナーのスケールには興味がなくて、ハーモニック・マイナーやフリジアンのほうに興味がある。これって実は僕が好きな多くのロシア人コンポーザーたちによるものでもあるんだ。彼らは民族的なスタイルをクラシカルな世界に取り込んでいったんだよね。
そういったクラシカルな世界でのギターからの影響はありますか?
ギターに関していうと、南米のコンポーザーのヴィラ=ロボスは、フラメンコに夢中になっていた17歳くらいの頃の僕に大きな影響を与えてくれている。彼が残したエチュード曲のいくつかに取り組んだことがあって、その中でも何曲かが僕の中に残っていった。もちろんその一方で多くの曲を忘れてもしまったけどね(笑)。
これらによる理論、クラシカルやフラメンコの要素が僕のプレイに入り込んでいるよ。決して大きなものとしてではないけれど、小さなヒントとして今でも僕の中に残っている。僕は理論的なものよりも自分の中でのエモーショナルなものへの反動にうながされているからね。
作品データ
『Will Of The People』
ミューズ
ソニー/SICX-30148/2022年8月26日リリース
―Track List―
01. Will Of The People
02. Compliance
03. Liberation
04. Won’t Stand Down
05. Ghosts (How Can I Move On)
06. You Make Me Feel Like It’s Halloween
07. Kill Or Be Killed
08. Verona
09. Euphoria
10. We Are Fucking Fucke
―Guitarist―
マシュー・ベラミー