バディ・ガイが語る『The Blues Don’t Lie』“私はブルースを死なせてはならないんだ” バディ・ガイが語る『The Blues Don’t Lie』“私はブルースを死なせてはならないんだ”

バディ・ガイが語る『The Blues Don’t Lie』
“私はブルースを死なせてはならないんだ”

86歳にして新作『The Blues Don’t Lie』をリリースした、ブルース界の生ける伝説、バディ・ガイ。彼にはB.B.キングやマディ・ウォーターズら先達たちと交わした、“最後に残った者は、ブルースを死なせてはいけない”という約束がある。今なお第一線で活躍し続けるのも、クリストーン・“キングフィッシュ”・イングラムやクイン・サリヴァンといった次世代を優しくサポートするのも、そんなブルースへの義理が根底にあってのことだろう。今回は最新作の話からスタートしつつ、過去のエピソードや若い世代への思いについても語ってもらった。

取材=福崎敬太 翻訳=トミー・モリー Photo by Terry Wyatt/Getty Images

このスリム・ハーポが書いた曲を“ブルースの曲”として教えてくれたのは、B.B.キングだった

あなたのようなレジェンドと話ができてとても光栄です。今日は貴重な時間をいただきありがとうございます。

 こちらこそ。お招きいただいて、どうもありがとう。

最新作『Blues Don’t Lie』も“これぞバディ・ガイ!”というアグレッシブで切れ味のあるサウンドが最高でした! 今作の制作は2019年から取り組んでいたそうですが、COVID-19の騒動でストップしていたそうですね。

 笑いごとじゃないような気もするけど、レコーディングしたのはもう2年も前の話で、人前で歌うためにもう一度覚えなきゃいけないんだよ(笑)。これくらいの歳になると、自分で書いた曲であっても、何回かしっかりと復習して歌うべきことや言っちゃいけないことっていうのを頭に叩き込まないといけないんだ。

今作はメイヴィス・ステイプルズやボビー・ラッシュといった同年代を生きてきたレジェンドたちとの共演や、B.B.キングの「Sweet Thing」や、同郷のスリム・ハーポが作りマディ・ウォーターズのレパートリーでもあった「King Bee」のカバーなど、ファンにとってアツい内容です。

 私はブルースを死なせてはならないんだ。今やブルースを流している大きなラジオ局って本当に数えるほどしかなくてね。B.B.キングが亡くなる前に私たちが話していたのは、“ブルースが世の中に流れなくなるのを阻止するために、どうすればいいのかわからない”ってことだった。もはやサテライト・ラジオくらいでなければ、ブルースは流れなくなってしまっていたからね。

 私はB.B.に“スタジオに行く時は必ず、自らの教科書となった偉大なブルースの巨人たちの曲をレコーディングするようにしている”と答えたよ。私は幸運なことに本を通じてではなく、君が挙げてくれたような人たちと一緒にプレイすることでブルースを学んでこられたんだ。

今作だとそれが「King Bee」ということですね。この曲はあなたにとってどんな存在ですか?

 ライトニング・スリムとスリム・ハーポは(ルイジアナ州)バトンルージュで活躍し、私の先輩格という感じで彼らからもプレイを学ばせてもらった。ただ、当時から私がこの曲をプレイすると、誰もが“あれ? この曲って……”という顔をして、私のことをよく知らない人たちはこれが私の曲のように思えたらしいんだ。それで私は“これはスリム・ハーポの曲だよ!”と必死に訂正していたよ。

 そしてこのスリム・ハーポが書いた曲を“ブルースの曲”として教えてくれたのは、B.B.キングだった。“このブルース・ソングの歌詞やメッセージをしっかりと理解しろ!”とね。

今作の制作でもプロデューサーのトム・ハンブリッジはいつもどおり“好きに弾いて下さい”という感じでしたか?

 そうだね。彼は私にどんなプレイをしてほしいかなんて言うことはなくて、“どうせあなたは自分流にプレイしちゃうから、好きに弾きまくってください”っていう感じなんだ。彼からは、初めてウィリー・ディクソンに会った時に感じたことと似たようなものを感じているね。

 ただ、ウィリーはベース・プレイヤーだったけど、どういったプレイをするべきかアドバイスをしてくれていた。ベース・プレイヤーだってギター・プレイヤーにどんなプレイをするべきか提案できるんだ。その一方でトムはそういったことはせずに、グッドなサウンドの時は褒めてくれるんだ。私としては“今のはグッドなテイクだけど、もう1テイク弾き直したい”と思う時も、“もう一度プレイするのは構わないけど、今のはキープしておこう”っていう感じで客観的に判断してくれる。そういう感じで仕事をしてくれる人とやるのが私は好きなんだ。

ウィリー・ディクソンとの話が出たので、彼との思い出を聞かせて下さい。

 ウィリー・ディクソンがプロデューサーを務めた、ココ・テイラーの大ヒット曲「Wang Dang Doodle」のレコーディングに参加したんだ。そもそもあれは3曲のレコーディングをするとだけ言われて集まった現場だったんだけど、そこで“何かB面用の曲をプレイしてみてくれないか?”と言われてあのリックをプレイしたんだよ。

 そうしたら“それだ! この曲がなんだかわからないけど、とにかくそれをやろう!”となって録音して、それが彼女の最大のヒットとなったんだよ。

誰もが昔と同じようなことができるわけじゃないんだよ

さて、2019年に制作を始めてから3年が経ち、あなたも86歳を迎えました。これまでのインタビューでも自身の年齢について考えを話してくれていましたが、ギター・サウンドは変わらずアグレッシブでボーカルも力強く、リスナーとしてはあなたの老いはまったく感じません。逆にあなた自身で感じる、ギターをプレイするうえで衰えた部分はあるのでしょうか?

 老いだって人生の一部だからね。私だって昔じゃ当たり前にできたようなことが、今やできなくなっている。昔は女性を追いかければすぐ手に入れられたけど、今やどんなに必死に追いなったってそんなことできやしないさ(笑)。年齢に関していうと、君はメガネをかけているよね?

はい、かけています。あなたの健在っぷりが画面越しにわかりますよ。

 じゃあ新しいものに作り変えたほうがいいね。みんなに言われるけど、私の顔にはシワが増えてしまっていて、しっかりと度が合った眼鏡をかければ、私の顔のシワの多さが君にもわかるはずだ。

 私がギター・スリムを好きになったのは彼のヒット曲「The Things That I Used to Do」のおかげで、この曲は“The things that I used to do, Lord, I won’t do no more~♪(昔はやっていたけど、これからはもうやらない)”っていうメッセージの曲だ。誰もが昔と同じようなことができるわけじゃないんだよ。彼はステージから飛び降り、また飛び乗るなんてことをやっていたけど、今の私はステージから歩いて降りることさえままならない。だけど、ベストなプレイを尽くす気は失っていないんだ。

あなたは客席の中に割って入ったり、物販のテーブルでプレイしたり、時には店の外まで行ってプレイをしたりと、様々方法でオーディエンスを盛り上げてきました。こういったパフォーマンスもギター・スリムからの影響なんですよね?

 そうだね。私がシカゴに来た時、ジャズやブルースのプレイヤーたちは椅子に座ってプレイしていたんだ。それが誰だったかまでは言わないけど(笑)、私はそういったスタイルでプレイしたいと思わなくてね。ギター・スリムは椅子になんて座っていなくて、私もそれにならって椅子をステージから蹴落としてワイルドにプレイしたし、時にはステージから飛び降りて注目を集めていたんだ。そんなことをしたからといってプレイに何か変化が起こったわけじゃなかったけど、私にはそれが素晴らしく見えたんだ。

ライブ・パフォーマンスで印象的なエピソードはありますか?

 ブラジルでプレイした時、ステージから飛び降りて着地する際にバランスを失ってよろけてしまったんだ。そこで壁に手を突いて難を逃れたと思ったら、運悪く女性用トイレのドアがそこにあって私は突入してしまった。翌日メディアに“今夜もトイレにまで入ってプレイするのか?”って聞かれてしまったよ(笑)。“そんなわけないだろう、アレはアクシデントだったんだから!”と答えたけど、“今夜はテレビの収録があるので、ぜひ女性トイレまで入ってプレイして下さい”って懇願されたんだ(笑)。

ハハハ(笑)。ライブでのパフォーマンスといえば、強烈なフィードバックを伴って1音を無限にホールドしてオーディエンスを沸かせていますが、あれはどうやって編み出したのでしょうか?

 実はもともとアクシデントで起きたことなんだ。アンプの電源をオフにするのを忘れてギターを立てかけていたら、凄まじいノイズが出てきた。あのサウンドが自分のものであることすら、最初はわからなかったよ。“なんだこれは! ぜひこれを私のトリックにして、ほかのギター・プレイヤーがやっていることとは異なる技として持っておこう”と思ったんだ。私が成功して名を馳せるようになると、今度は若い人たちが真似するようになってきた。

 ほかにも私はステージを飛び降りて客席の中に突っ込んでいくのが好きで、そうでもしないと私に注目しないような人たちの注意を惹けるのが快感でね。目の前で“このギターのサウンドはお前のか?!”って顔をしているオーディエンスに、“よしギターの弦を弾いてみろ!”とギターを差し出すことも何度かあった。これが私のプレイの仕方なんだよ。

スティーヴィー・レイ・ヴォーンもB.B.キングを始めとしたレジェンドたちと同じようなところがあった

あなたはブルースを後世に伝えるため、クリストーン・“キングフィッシュ”・イングラムやクイン・サリヴァンなどの若い世代とも積極的に共演してきました。ドキュメンタリー映画『The Torch』(2022年)も、マディとの“最後に残った者は、ブルースを死なせてはいけない”という約束がもとになっているそうですね。

映画『The Torch』のトレイラー映像。

 やっぱり大きなラジオ局でブルースをもうプレイしなくなったことを懸念しているんだ。B.B.だけじゃなくマディとも、亡くなる前に自分たちがやるべきことを話していたけど、“毎日ではなくてもいいけど、週に2〜3回はブルースをラジオから聴きたい”という話になった。ヒップホップやほかの音楽は一日中かかり続けているのに、マディ・ウォーターズは週に1〜2回、早朝のラジオぐらいでしか流れないんだよ。

クリストーンやクインのように、あなたたちからの影響を公言する若きギタリストたちに対して思うことは?

 こういったことがこれからも続いていくことを望んでいるんだ。だから、私はポケット・マネーを提供してクインやクリストーンのアルバムのレコーディングを手伝った。そしてクリストーンは彼の最新アルバムでグラミーを受賞したよね。

 先日はアリー・ヴェナブルという若い女性が私のライブの前座を務めてくれて、その時に“ぜひあなたとジャムをしたい”と言ってくれた。私のクラブは1月まで閉めた状態になるから、マディ・ウォーターズやB.B.キングが私にしてくれたように、彼女に何かできることをしてあげたいと思っているんだ。私が与えてもらったものを、これからもぜひ伝え続けていってもらいたいからね。

ブルースの担い手としてはスティーヴィー・レイ・ヴォーンがいました。あなたの自伝『アイ・ガット・ザ・ブルース〜バディ・ガイ自伝』(ブルース・インターアクションズ刊/1995年)では、スティーヴィーとの最後の思い出を綴った章がとても印象に残っています。あなたにとって彼はどんな存在ですか?

 スティーヴィーは大切な友人の1人で、私がオースティンのテキサスで彼に初めて会った時は“なんと素晴らしいプレイを聴かせる男なんだ!”と心底驚いたものだった。すぐに彼に電話をして、私と一緒にプレイしてもらえないかと願い出たよ。世の中の誰もが、彼が出てきた時に“コイツは一体誰なんだ?!”と驚いたはずだよ。それだけ彼はグッドで、人間としてもとてもナイスな男だった。ああいった男は、一生に一度会えるかというほど稀有な存在だね。

彼とのエピソードを聞かせて下さい。

 一緒にプレイした時に話をしていて、彼もB.B.キングを始めとしたレジェンドたちと同じようなところがあった。他愛もない話をしていたら、いつも女性の話で終わっていたんだ(笑)。やっぱりそういうところって、みんなB.B.キングから学んでいるんだなと思ったよ。

 私は音楽についての話がしたくて彼に寄っていき、もちろん彼も最初は色々な音楽の話をしてくれたけど、途中で女性の話になっていった。“もうそれは音楽の話じゃないだろう!”と言ったら、“確かにそうなんだけど、それが私らにブルースをプレイさせているんだよ”と言っていたよ(笑)。

日本にもブルースを愛するギタリストが多くいます。最後に、日本の読者にメッセージをお願いできますか?

 私は日本が大好きだよ。私が初めて日本へ行った時、何をプレイしたらよいのかわからなかった。初めて行く国、しかもどの国とも異なる日本ともなると、どうしてよいのかわからなくてね。でも両親が私によく言っていた“街で一番になろうと思うのではなく、世の中で一番になりなさい”という言葉を思い出して最高のプレイを尽くしたんだ。

ぜひ日本に再び来てプレイして下さいね。

 もちろんさ、その日が待ち遠しいよ。バイバイ!

作品データ

『The Blues Don’t Lie』
バディ・ガイ

ソニー/SICP-6492/2022年10月26日リリース

―Track List―

01.アイ・レット・マイ・ギター・ドゥ・ザ・トーキング
02.ブルース・ドント・ライ
03.ザ・ワールド・ニーズ・ラヴ
04.ウィ・ゴー・バック (feat.メイヴィス・ステイプルズ)
05.シンプトムズ・オブ・ラヴ (feat.エルヴィス・コステロ)
06.フォロー・ザ・マネー (feat.ジェイムス・テイラー)
07.ウェル・イナフ・アローン
08.ホワッツ・ロング・ウィズ・ザット (feat.ボビー・ラッシュ)
09.ガンスモーク・ブルース (feat.ジェイソン・イズベル)
10.ハウス・パーティー (feat.ウェンディ・モートン)
11.スウィート・シング
12.バック・ドア・スクラッチン
13.アイヴ・ガッタ・フィーリング
14.ラビット・ブラッド
15.ラスト・コール
16.キング・ビー
17.リーヴ・ユア・トラブルズ・アウトサイド

―Guitarists―

バディ・ガイ、ロブ・マクネリー、ジェイソン・イズベル