2022年に結成15年目を迎えたロック・バンド、BREAKERZのAKIHIDE(g)が、ソロとしては9枚目となるアルバム『UNDER CITY POP MUSIC』を発表した。今作は作詞・作曲から録音・ミックス・アートワーク制作・MV制作までを1人で手掛けた1枚で、架空の地下都市“アンダーシティ”を舞台にしたコンセプチュアルな作品に仕上がっている。シティポップの要素を取り入れたというアルバム制作について、AKIHIDEに振り返ってもらった。
取材・文:尾藤雅哉(ソウ・スウィート・パブリッシング)
いかにギターで面白くて楽しいことをやってるか?ということを重要視している
架空の街である“アンダーシティ”を舞台にしたアルバムですが、コンセプトはどのように作っていったのですか?
以前から“地下都市”を舞台にした物語を作ろうと思っていたんです。僕の中では、“陽の光が差さないけど、そこに暮らす人たちは笑い合ったり、時には恋をしたりしながら、楽しく暮らしているんだろうな”ということを想像していて。そんなストーリーを“僕なりのシティポップ”として表現したいなってところから、今回のアルバムの制作をスタートさせました。
シティポップで表現しようと思った理由は?
もともと僕はグランジやオルタナといったロックに影響を受けて育ってきたので、シティポップは通ってこなかったジャンルなんですけど、最近好きでよく聴いていて。歌のメロディもキャッチーだし、オシャレな響きのテンション・コードや一筋縄じゃいかない上品なアレンジメントが施されていたりする。なので今回は、僕の作る切ないメロディをシティポップの明るい音楽性で包むような作品にしたかったんです。
楽曲はどのように作り込んでいったのですか?
よく利用しているサンプル音源のサブスクリプション・サービスがあって、その中にあるサンプル・フレーズを使って曲を作り上げていくことが多かったです。自分から出てこないようなフレーズがたくさんあるので、心の琴線に触れるサンプルをピックアップして、それに対して自分のプレイを重ねていく感じでした。
オープニングを飾る「Elevator Song」は、印象的なテーマ・フレーズを軸に壮大なスケール感で展開するナンバーですね。
今回のアルバムは、“地上から地下に降りていくことをイメージした曲をオープニングにして始めたい”と思っていて。エレベーターに乗って段々と景色が変わっていく様子のようなイメージで描きたかったので、ちょっとおどろおどろしい雰囲気で始まり、途中で段々テンポが速くなるような構成にしました。
続くタイトル曲の「UNDER CITY POP MUSIC」は、ムーディなミディアム・ナンバーですが、どのように作っていったんですか?
ピアノのサンプル音源からイメージを膨らませて作っていきました。ギターにはコーラスとディレイを掛けているんですけど、もともとコーラスのエフェクトがあまり好きじゃなくて……今まで使ってこなかったんです。
でも近年よく聴いているシティポップのギターや、ここ数年参加させていただいている“Being Guitar Summit”(※増崎孝司、柴崎浩、五味孝司、AKIHIDEが中心となって開催しているライブ)の皆さんもコーラス・エフェクトの使用率が高くて。その影響で自分も使ってみたら、軽やかでおしゃれになる感じに凄くハマってしまったんです(笑)。
なので今回のレコーディングでは、ボスのCE-1が凄く活躍しました。プラグインのコーラスも試してみたんですけど、CE-1の揺らぎは独特で……改めて替えが効かないペダルだと感じましたね。
「電脳少女」は、1990年代的なシンセと打ち込みのダンス・ビートが印象的な1曲ですね。
この曲もピアノのサンプル音源から作った曲なんですけど、ライブで自分がギターを弾きながら歌う姿を想像していたので、ギターと歌が併走するようなアレンジに仕上げました。
配信ライブ『もうひとつのUNDER CITY』で披露された「電脳少女」は、ギター1本でボサノヴァ風にリアレンジされていたのが印象的でした。
自分が気持ちよく弾けるパターンを探していったら自然とアレンジが決まっていった感じですね。僕自身、何度も同じアレンジで演奏するよりも色んな方法で曲を料理するのが好きなタイプなので、自然に変えちゃっているんでしょうね(笑)。
ライブでは、ルーパーを駆使しながらリアルタイムでアンサンブルを構築していくパフォーマンスも見応えがありました。
配信ライブではギター1本とルーパーを使って演奏したんですけど、自分にとってルーパーとの出会いは大きかったです。2020年に、“同じ今日ばかりがくり返されて明日が来ない世界”を描いた『LOOP WORLD』というアルバムを作ったんですけど、それ以来ループ・ペダルを使った表現に凄くハマっていて。
例えば、同じコード進行のループに対して、毎回アプローチを変えて演奏することで、“いかに曲の世界観を広げていけるか?”みたいなところに面白さを感じています。なので今は、ギターのフレーズや音色に対するこだわりよりも、“いかにギターで面白くて楽しいことをやってるか?”ってことを重要視している気がしますね。
僕はよく“ギタリストらしいギタリストじゃない”なんて言われるんですけど……たしかにギターという道具を使って色んな表現をしながら遊んでいるって感じがします(笑)。
なるほど。ライブでは、アコギを激しく歪ませて弾いていたのも印象的でした。
僕のプライベート・スタジオであるMOON SIDE STUDIOから配信しているんですけど、歪ませてもハウリングしないような環境を作って演奏しているので、ある意味やりたい放題なんですよ(笑)。配信ライブだと色んなアプローチを試すことができるので、それをファンの皆さんに楽しんでいただこうと思っていますね。
MOON SIDE STUDIOは、AKIHIDEさんにとってどういう場所ですか?
色んな創作表現がいつでも自由にできるので、新しい自分を発見できる場所になりました。コロナ禍になって必要に迫られた影響なのかもしれませんけど、最近は1人で音楽を表現する面白さにも気づくことができたんです。
今回の作品に関しても、レコーディングやミックスだけでなく、MVの制作なども自分で手掛けたんですが、目の前に出てきた色んな課題を新たな知識を得ながら乗り越えていくことが、今はとにかく楽しいんですよね。
登場人物の感情の変化を音や言葉で表現したかった
「赤い鳥籠」は、妖しい雰囲気のアルペジオとヘヴィなギター・リフで構成された楽曲ですね。エスニックなギター・ソロも印象的でした。
とにかく“民族楽器みたいな雰囲気にしよう!”と思ってソロを弾きました(笑)。最後に登場するフレーズも、ギターなんだけど笛のようなニュアンスを出したくて、ワーミーのオクターブ・アップを使った音でハイフレットを弾きながら、感情の赴くままにアーミングしています。
ワーミーは、ほかの場面でも使っていますか?
今回の作品だと「Escape」のリフでオクターブ下を足して使ったりしています。ワーミーは本当に好きなペダルなんですよ。この前も『Being Guitar Summit』でリー・リトナーさんと共演したんですけど、ワーミーを使ってソロを弾きまくったら“ワオ!”って顔をされました(笑)。“万国共通で不思議な音なんだな”って思いましたね。
「サカサマの月」は、歌のメロディとアコギがユニゾンしながら進行していく楽曲ですね。ギター・インストとしても成立するような印象を受けました。
まさにそうです。もともとインストとして作った曲に歌詞を乗せて完成させました。この曲は、アンダーシティの中にある湖で男女が別れ話をしている場面をイメージして作ったんですけど、登場人物の感情の動きや内面の変化を、音や言葉で表現したいと思っていましたね。
「サカサマの月」や「雪月花」、「Clapping in the Rain」では、ガット・ギターのサウンドも欠かせない要素だと感じました。
最近、ガット・ギターが大好きなんです。自分の指先のタッチによって、極小の音からパーカッシブな音まで本当に幅広く表現できるので、もう懐が深すぎて難しいところに魅力を感じていて。今回だと「サカサマの月」では、本当に弱く弾かないとニュアンスが出せなかったりしたので、凄く繊細に弾くように心がけましたね。
個人的にガット・ギターは、歌との距離が近い楽器のようにも感じていて。例えばスティール弦のアコギは、ちょうど歌の帯域とかぶらないので伴奏に向いていると思うんですけど、ガット・ギターはボーカリストがもう1人いるような感じがするんです。それを曲の中で両立させる“難しさ”と“面白さ”がありますね。
アルバムの最後を締めくくる「Escape」は“脱出”という意味ですが、コード感が明るめなので前向きな印象を受けました。
この曲ではアンダーシティから外の世界への脱出を表現しているんですけど、物語の主人公にとっては新天地へと向かう前向きな旅立ちでもあるので、スリリングでワクワクするような曲を作りたいと思っていました。
実は僕の中で、『スター・ウォーズ』で言うところのエピソード1から9くらいまでのストーリーが構想としてあるんです。なので、今回の“アンダーシティでの出来事とそこから脱出するエピソード”は、その大きなストーリーの一部分に過ぎないんですよ。脱出したあとのストーリーは、たぶん次作で描かれるんじゃないかな。
楽しみにしています。改めて作品制作に使用した機材について教えて下さい。
エレキ・ギターは、フェンダー・カスタムショップのストラトキャスターとギブソンのSG(1974年製)がメインでしたね。アコースティック・ギターは、テイラーの814e、モーリスの12弦モデル、ガット・ギターはホセ・ラミレス(4N-CWE)。ほかにはスターズ製のエレクトリック・シタール(ELS-1RD)なども使いました。
レコーディングでは基本的にアンプ・シミュレーターを使っていて、Universal AudioのApollo Twin MkⅡ(オーディオ・インターフェース)に付属するマーシャルのプレキシとJCM2000をエミュレートしたプラグインで音作りをしていましたね。
エフェクターは、どのようなものを使いましたか?
空間系だとローランドのSDE-3000(ディレイ)やCE-1(コーラス)、あとエレハモのデラックス・メモリーマン(ディレイ)ですね。ほかにはデジテックのワーミー・ペダルやブッダのワウ、アイバニーズのチューブスクリーマーも使いました。
作品制作を振り返って、活躍した機材をあげるなら?
意外と重要だったのが、シェイカーやトライアングル、タンバリンなどのパーカッション。今回のレコーディングでは、自分の歌やギターとサンプリングした音源との距離が凄く離れているように感じていたんです。でも、そこに生楽器のシェイカーが入ると、パーカッションのリズムが接着剤のようになって曲が1つの塊に変わったんですよ。そこは意外な発見でしたね。
あとはアナログ・シンセにもこだわりました。ベースはMOOGのSlim Phatty、上モノではSEQUENTIALのProphet-6が活躍しましたね。
最後に作品制作を振り返って一言お願いします。
“アンダーシティ”という地下都市に入り、そこから出ていくまでの非日常的な旅を楽しめるような内容にしたいと思って作りました。これまでに培ったギターのノウハウを注ぎ込みつつ、シンプルでキャッチーな作品にすることを心掛けたので、ぜひ多くの人に聴いていただけたら嬉しいです。
作品データ
『UNDER CITY POP MUSIC』
AKIHIDE
ZAIN RECORDS/ZACL-9131/2022年10月26日リリース
―Track List―
- Elevator Song
- UNDER CITY POP MUSIC
- 電脳少女
- 赤い鳥籠
- サカサマの月
- Spy Summit
- 雪月花
- Escape
- Clapping in the Rain(※通常盤のみ収録)
―Guitarist―
AKIHIDE