春畑道哉が語る、フェンダー・カスタムショップ製の新シグネチャー・モデルに込めたこだわり 春畑道哉が語る、フェンダー・カスタムショップ製の新シグネチャー・モデルに込めたこだわり

春畑道哉が語る、フェンダー・カスタムショップ製の新シグネチャー・モデルに込めたこだわり

2022年11月にフェンダー・カスタムショップから発売された春畑道哉の新たなシグネチャー・モデルは、マスタービルダーのジェイソン・スミスの手による“MICHIYA HARUHATA STRATOCASTER HEAVY RELIC MASTERBUILT BY JASON SMITH”。“自分が満足できるレベルまで徹底的に追求した”と語る本モデルの魅力について、春畑にじっくりと話を聞いた。

取材/文=近藤正義 写真=小原啓樹

Fender Custom Shop/MICHIYA HARUHATA STRATOCASTER HEAVY RELIC MASTERBUILT BY JASON SMITH

MICHIYA HARUHATA STRATOCASTER HEAVY RELIC MASTERBUILT BY JASON SMITH/前面
MICHIYA HARUHATA STRATOCASTER HEAVY RELIC MASTERBUILT BY JASON SMITH/背面

こちらは今回発売されたシグネチャー・モデルの元になった2020年製のストラトキャスターで、今回販売される製品と同様、マスタービルダー=ジェイソン・スミスによって製作された1本。製品版は本器を忠実に再現したモデルだ。

今回のシグネチャー・モデルを製作するにあたって、マスタービルダーのジェイソン・スミスに依頼した経緯を教えて下さい。

 僕は1954年製と1959年製のストラトキャスターを持っていて、そのサウンドが好きだったんです。ある時、ジェイソン・スミスの師匠であるジョン・イングリッシュが作ったギターを弾く機会があったのですが、そのサウンドに驚いて。新品のギターなのにビンテージ・ギターに匹敵する、枯れた憂いのある音色だったんです。すぐに彼のギターのファンになり、“春畑モデルを作る時にはジョン・イングリッシュに作ってもらいたい”と思うようになったんです。

 その時からフェンダー・カスタムショップとのお付き合いが始まり、春畑モデルの1〜3号器はジョン・イングリッシュに作ってもらいました。そしてジョンが亡くなってしまったため、彼の愛弟子であるジェイソン・スミスにお願いしているというわけです。

春畑道哉

製作には足掛け7年かかったとか……。

 そうですね、そのくらいかかりました。オーダーしてから何年も経ったある時に、“こんな風に進めているよ”という写真が送られてきて。そこからまた数年待ち続けて、2020年のクリスマスにようやく手元に届きましたね。その時から、レコーディング、ライブ、テレビの収録でも、このギターをメインに使っています。

まず、ルックスで目を惹くのがラージ・タイプのリバース・ヘッドですね。

春畑道哉

 ジミ・ヘンドリックスのシルエットがカッコよくて真似たんですが、いつしかこれが春畑モデルのイメージにもなっていたので、今回も採用することにしました。チューニング時にペグが下側に並んでいることにも慣れましたしね。今ではノーマルのストラトキャスターを持つと、違和感を感じるくらいです(笑)。

 あと、通常のヘッドより弦の1弦側が短いので、サウンドも確かに違いますね。6弦側がルーズな感じで、1~2弦でチョーキングする時はテンションが強くなります。

ピックアップについては、最初のモデルは3シングルで、その後はHSHのレイアウトが基本でした。それを今回、SSHのレイアウトに変更したのはなぜでしょうか?

 前の3号器(MICHIYA HARUHATA STRATOCASTER III TRANS PINK)がフロイドローズ&HSH仕様だったので、今回は“これぞストラトキャスター”というサウンドを狙ったんです。ただ、自分の弾く音楽ジャンルでの使いやすさを考えてリアはハムバッカーにしてあります。

 リアのハムバッカー(ディマジオ製DP-155)は、フロントとセンターのシングルコイル(フェンダー製Vintage Noiseless)から切り替えた時に“ガラッ”と変わるのではなく、違和感のないサウンドになっています。でも、しっかりハムバッカーらしいファットなサウンドも感じられますよ。ピックアップを3号器のようにボディ直付けしなかったのも、本来のストラトキャスターらしさが欲しかったからです。

MICHIYA HARUHATA STRATOCASTER HEAVY RELIC MASTERBUILT BY JASON SMITHを弾く春畑道哉。
MICHIYA HARUHATA STRATOCASTER HEAVY RELIC MASTERBUILT BY JASON SMITHを弾く春畑道哉。

コントロール類についても教えて下さい。

 見た目は通常のコントロールなのですが、手前がマスター・ボリューム、真ん中のつまみがセンター・ピックアップのボリューム、そしてマスター・トーンです。センターのボリュームはハーフ・トーンのブレンド具合を調節するという使い方もできますが、僕はセンターのボリュームをゼロにして、スイッチング奏法をするのがおもな狙いです。KISSもやっていた大技ですね(笑)。

センター・ピックアップのボリュームをクランチ程度に絞ってバッキング・サウンド、フルパワーのリード・サウンドで弾きたい時はリアのハムバッカーに切り替える、という使い方もできそうですね。

 あ、それいいですね! このセッティング、使ってみます(笑)

春畑道哉

マスター・トーンのツマミにも秘密があるそうですね。

 このツマミはプッシュ/プッシュ式のスイッチになっていて、フロント・ピックアップの信号をブレンドすることができるんです。普通のストラトキャスターでは出せない、“フロント+リア”、“フロント+センター+リア”のサウンドも作れますよ。

 実は僕はマイケル・ランドウが大好きで、本人がかつて所有していたギターを持っていたことがあるんですが、そのギターの配線がこうなっていたんですよ。

マスター・トーン・ノブをプッシュ・アップした状態。
マスター・トーン・ノブをプッシュ・アップした状態。これでフロント・ピックアップがオンになる。

シンクロナイズド・トレモロの使い心地はいかがですか?

 とても良いですよ。1つだけ手を加えたのは、アームのネジ山部分に水道の水漏れに使うシーリング・テープを巻き付けてあることです。これによって接点に“遊び”がなくなり、アームとトレモロ・ユニットをより一体化させることができます。とてもスムーズに動作するようになるので、シンクロナイズド・トレモロを使っている人はぜひ試してみて下さい。

アームに巻きつけられたシーリング・テープ。製品版には施されていない改造点だ。
アームに巻きつけられたシーリング・テープ。春畑本人が施したもので、製品版に巻かれているわけではない。

 ちなみに、これはマイケル・ランドウがディメンションの増崎孝司(g)さんに教えたワザです。テープは2~3周、適当に巻くだけでバッチリです。でも、市販されるこのギターにテープは付属しません(笑)。

ボディのヘヴィ・レリックも特徴的です。

ボディに施されたヘヴィ・レリック。
ボディに施されたヘヴィ・レリック。

 これまではレリック加工が施されていない綺麗なギターを作ってもらっていたので、今回は年季を感じさせる迫力のあるフィニッシュを希望しました。“50年代をイメージして、アッシュ・ボディをラッカー仕上げに。それと、とにかくカッコいいレリックにして!”と、ジェイソンにお任せしてましたね。

フレットはビンテージ・タイプの細め、メイプル・ネックのシェイプはソフトVですね。

 50年代のストラトキャスターによくある、“少しだけV気味”のシェイプが好きなんです。極端なVシェイプは苦手なんですよね。

ソフトVシェイプのネック。指板のレリック加工も美しい。
ソフトVシェイプのネック。指板のレリック加工も美しい。

その他のこだわりを教えて下さい。

 トレモロ・ユニットは少しだけフローティングさせてあります。バック・パネルのスプリングは、ストレートに張った3本。弦のゲージは.010のセットの時と.009のセットの時があります。どちらを使うのかはツアーで演奏する曲の内容によりますね。販売されるモデルには.010のセットが標準装備されています。

このギターで1番気に入っているのは、どんなサウンドですか?

 ピックアップのポジションによって色んなサウンドが出せるので迷いますが、フロントでの豊かなクリーン、フロントとセンターをミックスしたハーフ・トーンによる鈴のような音色、センターの渋いクランチ、しっかりサステインのあるリア・ハムバッカー……このギターのクランチ・トーンはどれも好きですね。明るさがありヌケがよく、それでいてふくよかで瑞々しい音色です。

ビンテージ・トーンだけでなく、バリエーションが多彩でモダンな使い方もできますね。

 前の3号器は若い人にも手に取ってほしかったので、“どうすれば安い価格設定にできるか”を考えていたんです。でも今回は、“なんとなく春畑のモデルに似ている”というだけではなく、サウンドも見た目も、すべてのクオリティを僕が満足できるレベルまで徹底的に追求することにしたんです。僕が持っているオリジナルのモデルと同じようにジェイソンに作ってもらいますから、僕のギターと限りなく同じです。その分、ジェイソンは大変ですけどね(笑)。

 ただ、将来的には木材やパーツのグレードを選定しなおした、価格を抑えたモデルの販売も考えるかもしれません。

このギターをどのように使ってほしいですか?

春畑道哉

 トーンのバリエーションも多いので、ジャジィなプレイ、歌モノのバッキング、ブルース、ハードロックなど、どんなジャンルにも使えると思います。なので、色んなプレイヤーに使ってほしいですね。僕も、このギターがあれば基本的に何でもできると思っています。

MICHIYA HARUHATA STRATOCASTER 公式ページ(fender.com)
https://www.fender.com/ja-JP/michiya-haruhata-stratocaster.html

Fender Custom Shop
MICHIYA HARUHATA STRATOCASTER HEAVY RELIC MASTERBUILT BY JASON SMITH

【スペック】
Body: Lightweight 2-Piece Ash
Finish: Nitrocellulose Lacquer, Heavy Relic
Neck: Quartersawn Maple 1 Piece
Frets: 22, Narrow Tall/ 6105
Hardware: Chrome/ Nickel
Bridge: Vintage Synchronized Tremolo
Pickups: Vintage Noiseless (Neck & Middle), DiMarzio DP-155 Black F-Spacing (Bridge)
Controls: Master Volume, Middle Pickup Volume, Master Tone with Push-Push Switch for Neck Pickup ON/OFF

【市場想定売価】
1,500,400円(税込)

【問い合わせ】
フェンダーミュージック TEL:0120-1946-60 http://fender.co.jp