長崎兆志&鳥山雄司|特別対談 憧れの人物と紡いだ渾身のギター・インスト 長崎兆志&鳥山雄司|特別対談 憧れの人物と紡いだ渾身のギター・インスト

長崎兆志&鳥山雄司|特別対談 
憧れの人物と紡いだ渾身のギター・インスト

セクシーでグルーヴィな音楽を奏でる4人組バンド=I Don’t Like Mondays.。そのギタリストであるCHOJIが“長崎兆志”として、2023年1月から3ヵ月連続でギター・インスト曲をリリース。バンドとはまったく異なる、彼個人の音楽性をさらけ出した等身大の3曲だ。そして、このギター・インストという夢を実現するにあたり、プロデューサーとして迎えられたのが、兆志が長年憧れ続けてきたギタリスト、鳥山雄司。今回はこの2人に、楽曲制作の経緯やアレンジの詳細についてたっぷりと語ってもらった。

インタビュー=福崎敬太 撮影=西槇太一

ずっと“いつか鳥山さんと一緒にやれたらな”って思っていた
──長崎兆志

長崎兆志

兆志さんがギター・インストをやりたいというのは前回のインタビュー時にも聞いていましたが、まさかこんなに早く実現するとは。まずはお二人の出会いから教えてもらえますか?

兆志 まず、鳥山さんとは2018年にTOKYO MUSIC CRUIS(以下TMC)というイベントで初めてお会いしたんです。鳥山さんは佐藤竹善さんと一緒に出演していて、僕らもバンドで出ていて。そこでCDを渡してご挨拶したのがきっかけでした。

鳥山さんに憧れるようになったのはどんなきっかけがあったんですか?

兆志 鳥山さんの「Welcome to World Heritage」が入っているアルバム(『コンプリート[世界遺産]テーマ曲集』/2004年)を、上京してすぐの頃に聴いたんです。メロディも凄く綺麗で、こんなにもスケールの大きい音楽を初めて聴いて。オーケストラとギターが1つになっているのに衝撃を受けたんです。そこからずっと、“いつか一緒にやれたらな”って思っていて。

 それで月日が流れてコロナ禍になった時に、家で録音する機会が増えてきたんですけど、そこで「Coming to the world」のメロディが出てきたんです。もうその時点で鳥山さんにやってもらいたいっていう気持ちがあって。それでコンタクトを取ってみたら、やってもいいよって言ってもらえたんです。

鳥山 I Don’t Like Mondays.(以下アイドラ)のエンジニアをやっている安達(義規)君が共通の知人で。僕もよく彼と仕事をしていたので、兆志君の話は聞いていたんですよ。それに初めて会った時にもらったCDも聴いて、“カッコ良いじゃん”って思っていましたしね。

今回のリリースは「Coming to the world」、「Desert Moon」、「Reborn」の3曲ですが、制作はどのように進んでいったんですか?

鳥山 手をつける前に“どういうことしたいか?”っていうのをけっこう話しましたね。それと、バンドのギタリストっていう立場とはまったく違った切り口でやらないと面白くないっていうことは話していました。

 そこから彼がメロディもオケも自分で作って、僕は“AとBはいいけどサビは変えない?”、“サビが終わったらこっちに戻らない?”みたいにアイディアだけを出して、何度も直してもらって。

兆志 それもめちゃくちゃ楽しかったですし、勉強になりましたね。

鳥山 それで“これが骨組みになるな”っていう状態まできたら、“これをブラッシュ・アップするから”ってデータをもらって。そこからは僕が作業する、という形でしたね。

2022年12月28日のソロ・ライブ(CHOJI presents -live voyage’22)では全10曲を演奏していましたが、今回の3曲はどのように選曲したんですか?

兆志 単純にその3曲を先にレコーディングした、ということですね。あとの7曲はそこから作った曲で、メンバーと“こういう曲もあったほうがいいよね”って話したり、“ちょっと箸休めの曲もあったほうがいいな”って考えたりしながら作りました。

“このフレーズ弾くならこの指使い”って決めるのが、ギター・インストで重要
──鳥山雄司

鳥山雄司
鳥山雄司

では、それぞれの楽曲について聞かせて下さい。まず「Coming to the world」では、鳥山さんとどのようなやり取りがありましたか?

兆志 最初はAメロもBメロもサビも、メロディを全部ギターで弾いていたんですけど、鳥山さんから“Bメロを一旦休みにして、ほかの楽器を入れたら、よりサウンドや表現が豊かになるよ”っていうアドバイスをもらいましたね。

個人的には、半音下からのチョーキングやスライド、ハンマリングなどの細かいアーティキュレーションの付け方にこだわりを感じました。

兆志 それはかなり細かくやりましたね。どんな曲でもそうなんですけど、そこが決まらないと気持ち悪いんですよ。

アーティキュレーションについては、PYRAMIDのライブで鳥山さんのプレイを観て“ヤバいな……”と感じたところでもありまして。2人がギター・インストをやるにあたって、メロディの表現の仕方や歌わせ方で意識していることはありますか?

鳥山 例えば「Coming to the world」で言うと、もしメロディがギターでなくオーケストラで完結させようとするなら、やっぱりソロ・バイオリンが前に出て弾くことを想像するわけですよ。で、オーケストラの人たちは必ず“この音はE線で弾こう、A線で弾こう”みたいに全部細かく決めるんです。ギタリストもみんなそういうことはやっているんだけど、意外と“縦の動きがやりやすいから”とか“ちょっと間に合わないからB線で弾いちゃおう”みたいに効率重視でやっちゃう。

そうなりがちですね。

鳥山 でも、指使いや弦のポジショニングを決めることで、アーティキュレーションも決まっていくんですよね。その部分のこだわりは兆志君も僕もあるほうだと思います。同じようなリックで指使いがちょっと違うとかじゃなく、“このフレーズ弾くならこの指使い、指番号で”っていうのを決めてるっていうのが、ギター・インストで重要かもしれないですね。

兆志 僕もそう思います。どの指で押さえるかによって印象が全然変わったりするのはよく感じますね。僕は、何も考えずに一回弾いてみて良いところは残して、凄く良いところができたらそこに向けての流れをまた考えたりとか、そういう流れで決めることが多いです。

鳥山さんがコード・カッティングを。そこだけ音が違う感じがして凄く良い
──長崎兆志

「Desert moon」は“ザ・ギター・インスト”という雰囲気ですね。

兆志 この曲はもともとマーシャルのデモ演奏でインストを頼まれた時に作った曲なんですけど、サンタナみたいな感じのサウンドでやっていて。このメロディも自然に出てきたものですね。

ソロはギターらしいペンタ中心のロックな感じです。これはどういうイメージで弾きましたか?

兆志 ピンクフロイドとかの長いギター・ソロみたいなことをやりたいっていうイメージが漠然とあったんです。あと、2度マイナーと5度のくり返しで録りたいっていうのもあって。で、後半に向けて盛り上がっていくみたいなイメージで、わりと構築して作っていきましたね。

鳥山 デモの時にあのソロができてたもんね。もう曲の一部みたいな感じで。

この曲のバック・トラックは、細かいグルーヴとゆったりとしたグルーヴが並行して絡み合っていく、R&B的なアプローチです。シンコペーションするカッティングも、リズムを“キュッ”と締めるのに一役買っていますね。

鳥山 メロディが切ないじゃないですか。で、これはもう僕の個人的な好みなんですが、切ないメロディにはタイトでヘヴィめなドラムとベース、というのがサウンド的に気持ち良いんですよね。全部ウェットになっちゃうと、演歌や歌謡っぽくなる感じがするんです。あと、この曲だけ唯一ギター弾いてるんだよね?

兆志 そうです。鳥山さんがコード・カッティングを。そこだけ音が違う感じがして凄く良くて。

あのカッティング、鳥山さんっぽいと思ってましたが、てっきり兆志さんが鳥山さんを意識して弾いたものだと……。

兆志 それはもう本家の(笑)。

鳥山 話が脱線するけど、ナイル・ロジャースがプロデュースしたジェフ・ベックの『FLASH』(1985年)っていうアルバムのイメージがあったんですよ。だからこうメロディは兆志くんがやって、バッキングはナイル・ロジャースみたいな感じをイメージして弾きました。

アンセムっぽい曲を作っておいたほうが良いと思ったんです
──鳥山雄司

鳥山雄司

最後は「Reborn」ですが、これはソロ・ライブでもラストを飾った曲です。壮大なスケールの楽曲ですが、どういったイメージで作りましたか?

兆志 「Coming to the world」と「Desert moon」ともう1曲というところで考えて。テンポはちょっとアップ・テンポで、ガット・ギターとかも出てきたりする曲にしたいと思っていたんです。で、たまたまツール・ド・フランス(世界的な自転車レース)を観ていたんですけど、何千キロも走るあの過酷な姿にインスピレーションを受けて。アコギを持ったら自然とあの進行や転調のアイディアが出てきたんです。でも、サビがごちゃごちゃしてたんですよ。

鳥山 あはは(笑)。

兆志 Aメロで転調して、下手したらBメロでも転調したかもしれない。サビもメロディがコロコロ変わっていくような構成だったんです。で、鳥山さんから“サビはもっとシンプルなメロディのほうがいいよ”と言われて、そこから2日間くらい考えて……。で、あのメロディになったって感じですね。

そしてロック・ギター好きの拳があがるようなハモリが聴けます。これはライブでは真壁雄太さんとのツイン・リードでしたね。

兆志 ハモリもけっこう苦労しましたね。鳥山さんとジャッジしながら作っていって。ハモリだけで聴くと“そんな動き方するの?”っていう音運びがあるんですよ。その中で印象的だったのが、鳥山さんが言った“このメロディは凄く綺麗だから、3度のハモリだと綺麗すぎる”ってことで。“そういうふうに音楽をとらえるんだ”って新しく吸収させてもらいました。

鳥山 最初はポップな要素が強かったというか、もう少し軽めの曲だったんですよね。でも、兆志君はロック・ギタリストっていう立ち位置でやっているんだと感じていたので、アンセムっぽい曲を作っておいたほうが良いと思ったんです。だから、“歌わないの?”って聞いて。

あ、メロとユニゾンする声ですか?

兆志 そうですね。イントロはほかの曲と違う感じで、声から入ったらどうかって提案をしてくれて。“声か……”と思って家で録ったんですけど、スタンドがなくて、ハンドマイクで歌いましたよ(笑)。(シュアの)SM57で。その音を鳥山さんに渡して、加工してもらって使っています。

ここはライブでお客さんと一緒に歌えそうですよね。あとこの曲には、スパニッシュなガット・ギター・ソロがあります。このパート、ライブでは大変そうでしたね(笑)。

鳥山 ライブはどうしたの?

兆志 イントロの間にギターを持ち替えました。倍尺の16小節にして、追加したドラム・ソロの間に(笑)。でも、あの緊張感のある感じが、ライブをうまいこと盛り上げてくれましたね。

ほかにこの曲で思い出に残っていることはありますか?

兆志 アコギのレコーディングの時に、鳥山さんが使っているピックを教えてもらったんです。そのピックは、小さくて先が尖っているので、先端に当たるからスピード感が出るというか。

兆志が使用したスモール・ティアドロップ型のクレイトン・ピック。
兆志が使用したスモール・ティアドロップ型のクレイトン・ピック。

鳥山 あと小さいピックを使うと、嫌でも弦に指が触れるでしょ? そうするといわゆる手で弾いてる感じも出て、ニュアンスも近くなる。ピックだけで弾くっていうことが無理だから、ちょっとこういう動き(親指でピッキングする動作)に近くなるんですよ。

フォークっぽくならない感じがしますね。

鳥山 そうそう。よりグルーヴするというかね。

心から出てきた音楽を形にするのが、僕のインストにおけるテーマです
──兆志

鳥山雄司(左)、長崎兆志(右)。

鳥山さんはこれまでギター・インストの最前線で活躍してきましたが、兆志さんの作品に携わってどういった感想を持ちましたか?

鳥山 僕は高中(正義)さんやCharさんのアルバムとか、ギタリストの作品をアレンジしたりプロデュースしてきたんですよ。その中で兆志君が凄いと思ったのは、メロディやソロ・セクションとか、それをしっかりと決め込んで考えてくるっていうところで。“入り口はこのフレーズで、あとは流れで弾く”っていう人はけっこういるけど、兆志君はちゃんと作ってくるよね。

兆志 それが好きですね。

鳥山 そこに“新しいギター・インストになるかも”っていう予感がしたというか。“お約束”をちゃんと弾けるっていうのは凄く大事なことだと思うんですよ。例えばライブでも、ソロが音源とまったく違うっていうのは、マニアになれば楽しいのかもしれないけど、最初はとにかく同じものを聴きたいですよね? そこに関しては自由なんだけど、兆志君は自分で決めたスタイルをちゃんと持っている。それがこれから1つの形を作っていくんじゃないかなと思いますね。

では兆志さん、改めて夢であったギター・インスト作品が実現した感想を聞かせて下さい。

兆志 まず、制作がけっこう長かったので、“やっと出せたな”っていう気持ちがありますね。で、とにかく鳥山さんと一緒に仕事ができたというのが、何よりも宝物です。本当にずっと憧れていたので、それが一番ありがたかったです。あと、機材がどうこうっていうのももちろんあるんですけど、それよりも“こういう考え方をしてるのか”、“こういう言葉で表現するのか”とか、そういうことを知れたのが嬉しかったですね。

 あと、ずっと自分のメロディを出すことが恥ずかしいっていう気持ちがあったんです。それが、バンドで“オケに対してギターはこうあったほうがいい”みたいに計算して作ってきたことで、逆にもっとナチュラルに素を出していきたいっていう欲求が高まっていって今回実現できたところもあるんです。だからバンドにも凄く感謝しています。

 自分が表現したい、心から出てきた音楽を形にするのが、僕のインストにおけるテーマです。

作品データ

「Coming to the world」
「Coming to the world」
「Desert Moon」
「Desert Moon」
「Reborn」
「Reborn」

―Guitarists―

長崎兆志、鳥山雄司

INFORMATION

Live Pyramid ~Pyramid5~   Guest: Mabanua

  • 2023年4月4日(火)/ビルボードライブ東京
    1stステージ:開場16:00/開演17:00
    2ndステージ:開場19:00/開演20:00
  • 2023年4月6日(木)/ビルボードライブ大阪
    1stステージ:開場16:00/開演17:00
    2ndステージ:開場19:00/開演20:00

■東京公演イベント詳細ページ
http://www.billboard-live.com/pg/shop/show/index.php?mode=detail1&event=13918&shop=1

■大阪公演イベント詳細ページ
http://www.billboard-live.com/pg/shop/show/index.php?mode=detail1&event=13919&shop=2