DAITAのテクニックが詰まったプロジェクト・アルバム=“DIRECT”シリーズに、10年ぶりの新作『DIRECT WORD』が登場! 超絶技巧も音楽的に聴かせる計算された楽曲構成、新たな表現方法への挑戦、最新のテクノロジーも柔軟に取り入れたサウンドメイクなどなど、DAITAのミュージシャンシップが表出した1枚だ。本作に込めた様々な思いや、ギタリストとしてのこだわりまで、たっぷりと語ってもらおう。
インタビュー=福崎敬太
今作はニール・パートのサウンドをサンプルした音でドラム・トラックを作っているんです
ジェフ・ベックが亡くなってしまいました(取材は1月中旬)。ギタリスト的にはあまりに大きな出来事なので、作品の話に入る前に彼について少し聞きたいと思っています。
ショックですね。彼は間違いなく、僕がソロ・ギターの活動を始めるきっかけになったギタリストではあるんですよ。
2000年頃だと思うんですけど、東京国際フォーラムでのコンサートを観に行ったんです。『Who Else!』(1999年)を出したあとですね。そのコンサートを観て“こういう活動をしたい”って思って、今に至るんですよ。
えっ! そうなんですか?
はい、学生時代はそんなにピンとこなかったんですけど、自分がソロ活動を考えている頃で、ちょうどタイムリーだったんです。
もちろん学生時代に観たジョー・サトリアーニやスティーヴ・ヴァイもありますが、ジェフ・ベックのライブを観て“こういうの、やっぱりいいな”と思ったんです。
今回、彼が亡くなったというニュースを受けて、DAITAさんはSNSで『Who Else!』の写真を載せていましたよね。現代的なビートとギターのテクニックの合わせ方というところで、DAITAさんと『Who Else!』の組み合わせは納得するところがありました。
テクノロジーですよね。やっぱりあの人は、先鋭的な音楽を攻め続けてたと思うんです。今風のトラッキングやデジタル・ミュージックも、自分のギターを光るようにフィーチャーしていて、決して色褪せないギターをアグレッシブにプレイされていた。僕はそういう攻めの姿勢が一番かっこいいなと思っていましたから。
お話をありがとうございます。それでは新作の話に移りましょう。今回スペシャル・アルバム仕様でリリースされた『DIRECT WORD』(配信は2022年)ですが、DIRECTシリーズとしては2012年の『DIRECT THIRD』以来10年ぶりですね。
今作にはライブで演奏していた未発表の曲を全部入れたんです。2013年にアメリカに旅立った時に、向こうで書いてた曲があって。フルでは完成してない段階でも、ライブでとりあえず模索しながらやっていたんです。
で、観に来てくれた人たちから“音源化はいつ?”とは言われていたんですけど、この作品ができるタイミングまで取っておいたんですよ。“一番ベストな状況でレコーディングしたい”っていう気持ちがあって、今に至った感じですね。
今作のテーマとして考えていたことはありますか?
2020年の1月7日にラッシュのニール・パート(d)が亡くなったんですね。僕が聞いたのは2020年の1月11日で、自分のライブに向かう最中にその知らせを受けて、非常にショックな状況で演奏しなくてはいけなかった時があって。ずっと共演するのを夢見ていた人がいなくなっちゃったのが、凄くショックで……。
そういう自分の思いを形にしようと思って、今作はニール・パートのサウンドをサンプルした音でドラム・トラックを作っているんですよ。だから、自分が『EUPHONY』からやってきたクラシックな要素、ハード・ロックやインストで培ったテクニック、そしてニール・パートの音、その3つを組み合わせたDIRECTシリーズを作ろうと考えていましたね。
単純なメロディほど飽きさせずに聴かせるのは難しい
各楽曲についても聞かせて下さい。全編タッピングで構成された「Fingeroid」は、シンセのメロディをサポートとして走らせながらも、やはりタッピングが主役として聴こえてきます。
実は、ピアノとハープも同時に鳴ってるんですよね。それとギターをユニゾンにしていて。ギター単体だけの音でやると、自分の中で面白くないんですよ。
タッピングは飛び道具的な要素として使われることが多いですが、それを音楽的に聴かせるために気をつけていることはありますか?
必ずメロディを重視して作っています。タッピングの中にメロディがあって、それだけで飽きさせないようにちゃんと展開する。
あと一番僕がこだわってるところは、いかにギターの醍醐味である開放弦を混ぜて音階を組み立てていくか。だからキーは凄く重要になってきます。
“サビのフレーズを高い音に持っていくなら、スタートはここになる”とか、そういうメロディの組み立て方を、どの弦を使うかも含めて凄く気をつけて考えていますね。
バック・トラックのリズムが4拍子の中で、タッピングのフレーズが変拍子になるところも、ギターに耳が奪われる要因だと感じました。
ベタッとした感じのタッピングでメロディを聴かせる曲があってもいいと思うんですけど、今回はスリリングな形にしたかったんです。
あと最初から最後までピックも持たずに演奏する楽曲は初めてで。ブレイクもないので、自分だけはひたすら走る……僕としても新しいチャレンジでしたね。
表題曲の「Direct Word」は、DAITAさんのキャッチーなメロディ・センスとテクニカルな部分、ヘヴィでキレのあるバッキングがバランスよく味わえる1曲だと思います。ギター・インストにおいて、テーマ・メロディとソロはどのように分けて考えていますか?
テーマは歌だと思って弾いていて、ソロ・セクションは歌のあとのブリッジという感じ。ソロは前後の歌をつなぐためにトリッキーなものを入れつつ、覚えてもらえるように耳馴染みの良いメロディでわかりやすさを意識しますね。
そういう感覚で聴くと、「Ancient Moon」は全編が“歌”という印象です。“ギターを歌わせる”という点で意識していることはありますか?
人の声と違って、ギターは抑揚をつけるのが難しい楽器じゃないですか。歪ませるとコンプレッションが掛かったりしますし、そういうサウンドだとインパクトが弱くなってしまう。なので、歪んだ音で抑揚をつけるってなると、やっぱりビブラートやアーミングだったり、タッチの強さとかしかない。
だから、ちょっとした音の揺らぎにしても、どう足すか、足さないか、引くか、っていうことは凄く考えます。単純なメロディほど飽きさせずに聴かせるのは難しいので、そういう部分は何度かトライして、一番良いものを選んでいますね。
ギタリストとしてこだわるべきポイントだと思いますが、何かアドバイスはありますか?
同じメロディを、色んな気分の時に弾いてみるのがいいと思いますね。気分によっても弾き方が変わるし、1時間後に弾くだけでも違うと思う。たまたまピッキングやフィンガリングでミス・タッチをして、それで面白いニュアンスが出ちゃったりもしますし。で、今度はそれを再現しようと弾いたり。そういうトライは個性を出すうえで重要になってくると思いますね。
シンプルな音作りをさらに突き詰めたんです
サウンド面だと、歪みの音が、以前と比べて低音~中低音辺りに寄ってきた印象を受けました。音作りに何か変化はありましたか?
そうですね。ギター自体は今までと同じなんですけど、アンプ側が変わりました。以前はプリとパワーが分かれたラック・システムをメインで使ってたんですけど、『Melodicfall』(2019年)と『DIRECT WORD』はヘッド・アンプを軸に作りましたね。
アメリカでBREAKING ARROWSをやっていた時にヘッド・アンプで演奏することが多かったので、そういう要素も含めて、シンプルな音作りをさらに突き詰めたんです。もともとシンプルだったけど、さらに。本当にアンプ直とか、間にブースターを1個だけ、ノイズ・ゲートを1個入れるだけ、っていうくらいでマイク録りしました。
あと、今回はキャビネットをオレンジ(PPC212)で録っているので、それも特徴としてはあると思います。
キャビをオレンジに変えてどのような効果がありましたか?
『Melodicfall』は、凄く気に入っている、スピーカーが一発のボグナー製キャビネットで全部録ったんです。今回はそこから変えるためにもオレンジを使ったんですよ。
で、ライブでも何回か試してみたんですけど、オレンジのキャビはちょっと潰れてメロウな音になるんですね。キャビネットでコンプレッションが掛かって甘くなる。その感じが良かったので、今回は“機材自体は変えずにキャビを変えることによって、サウンドの違いを少し強調しようかな”っていうテーマでした。
ヘッド・アンプは何を使いましたか?
ボグナーのEcstasyを使ってます。あとはマーシャルのJVM、ラックに入っているプリ・アンプも使いましたね。
使用ギターは事前に情報をもらっていまして、G-Life GuitarsのDSG PREMIUM、G-PHOENIX CUSTOM、トム・アンダーソンのClassic、PRS Custum24 10TOPの4本を使ったそうですね。
リードは特にそうですが、それ以外にもけっこう使っていますね。トム・アンダーソン製ギターだけでも、ちょっとしたワン・フレーズやコードだけっていうふうに、曲ごとに何本か使い分けていて。
どんなイメージで使い分けるんですか?
タッピングに合うものやテクニカルなフレーズに向いているギター、歌い上げる曲はPRSとか、そういう感じですね。
タッピングに合う1本というのは?
ブルー・グリーンのトム・アンダーソンClassicですね。同じClassicでも、メイプル指板かローズ指板かの音色の違いで、どれが合うかを考えます。今回はローズ指板のほうでした。
エフェクト類は?
フルトーンのワウ、ボリューム・ペダル……あとはG-LifeのGemini Booster(ブースター)をリアンプする時に必ずとおしました。ディストーションやオーバードライブよりも、ブースターとヘッドの歪みっていう組み合わせがほとんどでしたね。ブースターは何個か試しましたけど、基本はGemini Boosterでした。
あとは基本的にプラグインです。ディレイはTCエレクトロニックのものも使いましたけど、プラグインを使うにしても、TC2290的なものを土台に音を作ってますね。
新しいギタリストたちには、この作品を聴いて、それをまた違うものに昇華してほしい
DAITAさんはプラグインやデジタル・テクノロジーを、ギタリストとしてはかなり早い段階から導入されていますよね。
実は「Direct Word」のバッキングは、プラグインで録ってるんですよ。しかも最新のではなくて、バージョンを1つ落としたプラグインのプリセットで。アンプだとデモのイメージが出なかったので、それをさらに追求して録り直したんです。タイトル曲ですけど、オブリやシーケンス・プレイとかじゃなくて、メインのバッキング・サウンドをプラグインで録るとは誰も思ってないですよね(笑)。それは僕自身も衝撃的でした。
そのプラグインは?
AmpliTube 4ですね。AmpliTube 5では出なかったんですよ。
ここ数年のデジタル・テクノロジーの進化や普及の仕方について思うところはありますか?
めちゃくちゃ凄いと思います。今言ったように、“僕が使ってしまうレベル”にきてる(笑)。僕はフラクタル(Fractal Audio Systems)も使ってるんですけど、まだ追及できていなくて生のプリ・アンプのほうがいいんですよね。だけど、それに近づけるサウンド作りをやっていこうと思っているタイミングで、プラグインで凄く良い音が作れたんです。作り込めば満足のいくサウンドも実現できるようになったんだと感じましたね。
ただ、僕の個人的な意見ですけど、やっぱりアンプで鳴らさない人は、ギター・ヒーローにはなれないですよね。デジタル・アンプを使ってる人にサウンド的な魅力を感じるようだと、まだ耳が甘いかなっていう感じがします(笑)。
もちろんギター・ヒーローとしてすでに有名な人でも使ってる人はいますから、当然、それ自体が悪いわけじゃないんですよ。でもそういう人たちは、すでにアンプを知っている。つまり、“最初から”はダメだと思うんです。それに、ジェフ・ベックが使ってないじゃないですか。ジョー・サトリアーニもサンタナも。そういうことだと思います(笑)。
(笑)。さて、DAITAさんが考えるギター・インストの魅力とは?
言葉の有無で音楽の聴こえ方って全然違うと思うんです。僕は、どちらかと言うと、言葉でイメージを押しつけられたくない、自分で考えたいタイプなんですね。で、クラシックが長年残っているのは、そういう世界があるからだと思うんです。
聴いた人たちが、それぞれの思い出の風景などと照らし合わせてイメージを感じられる。僕も歌の音楽でやってきてますから、言葉があることが悪いとは思わないですけど、ギター・インストをやり始めた理由としてその魅力があるんです。
DIRECTシリーズは、ギタリストが楽しめる音楽作品であるとともに、ギターでの表現やテクニックの音楽的な使い方を学べる1枚です。最後にギタリストに薦めたい聴き方を教えて下さい。
“色んなテクニックを組み合わせて、飽きさせないように聴かせているんだ”とか、“楽曲の軸になるリズムやコード、メロディ、アレンジメントという基本があるから、このテクニックがバランス良く聴こえるんだ”っていうような、設計の仕方って言うんですかね。そういうことを考えて楽曲を構築していて、さらにそれらをアルバムとして構築している作品なので、全体を俯瞰するように聴いてもらえたら、より細かいところが見えてくると思います。
で、僕はオーソドックスなギター・プレイやテクニックを、新しいものに変化させてきたタイプだと思うんですね。長年僕が聴き続けてきた、憧れのギタリストたちもやってきたことで、それを僕も継承している。
新しいギタリストたちには、この作品を聴いて、それをまた違うものに昇華してほしいんです。僕が持っているエネルギーやギターへの愛情、テクニックも含めて全部詰め込んであるので、音を聴いて共感してもらえたら、それをまた新しく発展させてほしいですね。
G-Life Guitars
DAITAがプロデュースするG-Life Guitars。今回はその中から、「Fingeroid」のMVで登場した1本と、レコーディングで使用した3本、計4モデルを紹介しよう。
Cross Edge Quilt Top(Brown Tiger)
「Fingeroid」のMVに登場する、美しいキルト・メイプル・トップを持つCross Edge。ピックアップのオン/オフ/コイルタップを個別に選択できるようになっており、多彩な音色パターンを実現する。また音質のためにトーン・コントロールを排除しているのもポイントだ。
DSG Premium(Bora Bora Ocean Blue)
ボラ・ボラ・ブルー・カラーに身を包んだ、DSG Premium。フロイド・ローズ搭載で24フレット仕様、ジョイント部分にはヒールカット加工が施された、DAITAの超絶テクニックを支える1本だ。
G-Phoenix Custom(Deep Royal Blue Turquoise)
G-Phoenixシリーズのトレモロ搭載モデル。フィッシュマン製のピックアップはボイス1/オフ/ボイス2をトグル・スイッチで個別に操作できるほか、高域を抑えるHF Tilt機能を搭載したトーン・コントロールを採用。
G-Phoenix Custom(Stardust Blue Moon)
スターダスト・ブルー・ムーンという、複雑な模様を描くボディ・フィニッシュが目を惹くG-Phoenix Custom。ボディは厳選されたアッシュ&アフリカン・マホガニー、ネックはハード・メイプル&マホガニー、指板はメイプル。
INFORMATION
DAITAオフィシャルHP :https://www.daita-ism.com
Twitter:https://twitter.com/De_sus_Rock
配信リンク:https://linkco.re/pvPybMUQ
オフィシャルグッズ:https://www.g-life-guitars.com/daita.html
作品データ
『DIRECT WORD』
DAITA
SOUND MOTORS INC./SMDL-20230111/2023年1月11日リリース
―Track List―
- Beginning
- Fingeroid
- Direct Word
- Jindai
- Red Wings
- Ancient Moon
- Spinning
- Exotic Soul
- Goðafoss
- Lucifer D – Limited Edition –
―Guitarist―
DAITA