“NEOかわいい”をコンセプトに、世界を舞台に活躍するニュー・エキサイト・オンナバンド“CHAI”。彼女たちが、新作EP『ジャジャーン』をリリースした。作品には、新曲「ラブじゃん」やスーパーオーガニズムとコラボした「HERO JOURNEY feat. Superorganism」を含む5曲を収録。CHAIの新たな表情をとらえた注目の1枚について、ギタリストのカナに話を聞いた。
取材・文:尾藤雅哉(ソウ・スウィート・パブリッシング) Photo by Yoshio Nakaiso
みんなでイメージのニュアンスを共有して、曲を作り込んでいく
2022年はバンド史上最長の海外ツアーを行なったそうですが、CHAIにとってどのような経験でしたか?
コロナ禍でライブ活動が止まってしまって、毎年のようにやっていた海外公演にも行けなくなってしまったんですよね。でも去年、久しぶりに海外でライブをやることができて、改めて自分がミュージシャンとしてステージに立てる大切さやありがたさを実感したんです。
ステージでは、みんなにめちゃくちゃ“愛を伝えたい!”って思っていたので、それを音楽を通して伝えることができた嬉しい1年でしたね。
楽曲制作や楽器との向き合い方に変化はありましたか?
コロナ禍になって、メンバーにも会えないし、スタジオにも入れないから、曲の作り方をガラッと変えました。マナとふたりで、スマホに入れたガレバン(GarageBand)を使って、データのやり取りで曲を作ってみたりして。
今までやったことがなかったんだけど、海外のミュージシャンや音楽プロデューサーと一緒に楽曲を作ることができるようになったんです。それによって、自分たちの想像を超えたところで音楽を形にできることが知れたので、以前に比べて音楽制作に対する考え方がすごく柔軟になりました。
そういう意味でも、2022年は本当に学びの年でしたね。色んなアーティストとコラボしたことで、“CHAIってこういう色も出せるんだ”っていう発見がたくさんありました。
コラボといえば、今作にはスーパーオーガニズム(以下、スーパー)と一緒に作った「HERO JOURNEY feat. Superorganism」も収録されています。どのように作っていったのですか?
「HERO JOURNEY」は、私たちからスーパーに“一緒に作りたい”って提案した曲なんです。ボーカルのオロノ(ノグチ)に“初めてスーパーとコラボしたいと思う曲ができたんだけど、どう?”ってデモを送ったら“最高じゃん!”ってすぐに曲をアレンジしてくれたんです。オロノとはずっと仲良しだから、気軽にやり取りしながら友達感覚で作っていきました。
オロノさんのような尊敬できるクリエイターが身近にいることは、カナさんにどのような影響を与えていますか?
凄く大きな刺激を受けていますね。例えば、ギターのテクニックに関しては、スーパーのギタリストのハリーに影響を受けていて。ハリーは、音楽の中に空間を作るのがすごく上手なので、そういうアプローチを自分のギター・プレイに取り入れたりしています。
音楽と向き合う気持ちの面では……やっぱりオロノかな。オロノとは、2018年にCHAIがスーパーのイギリス・ツアーでオープニングアクトをやった時に出会ったんですけど、彼女はステージの上で自分を包み隠すことなく、本当にロックな精神でお客さんと向き合っていたんです。ライブが終わったあとに泣き喚いちゃったりもしてて。
そうやって本当に素直な気持ちで音楽を表現しているオロノの姿を見て、“こんなにも自由な表現の仕方があるんだ!”って、ちょっと悔しい気持ちになっちゃうくらい衝撃を受けたんです。それ以来、オロノとはお互いにめちゃめちゃ影響し合ってると思います。
新曲の制作において、意識したポイントは?
いつも“CHAIってなんぞや?”ってことを考えながら、今の私たちが表現したい音楽性を突き詰めていくんです。私たちの魅力や可能性をより引き出せるような楽曲を作ろうってことは常に意識していて。
新曲のギターに関しては、“上モノみたいなニュアンスのフレーズ”を曲の中に混ぜていきたいと思っていたので、今回の作品が完成して“曲の飾りとなるようなギターも弾けるようになったな”って思いました。そこが自分的には新たな発見でしたね。
楽曲はどのようにアレンジしていくのですか?
曲の中で、“この場面では何を今一番目立たせたいか?”、“どんな音を前に出したいか?”ってことをアレンジャーさんも含めた全員で話し合って決めています。メンバー以外の方のアイディアも積極的に取り入れているので、毎回学びがあって楽しいですね。
おそらく、これから先の未来に“セルフ・プロデュースで作ってみたい”という時期も絶対に来ると思うので、その時には今の経験を活かしていきたいです。
「ラブじゃん」はコーラス・エフェクトのリフが耳に残りましたが、どのように作っていったのですか?
K-POPっぽいサウンドを目指して作っていった曲なんですけど、曲のキャッチーさを大事にしたかったので、あまりギターを前に出す曲ではないな、って感覚でした。なので、エフェクターも必要最低限、コーラスとリバーブをかけたくらいでしたね。
カナさんがギターを弾く時に意識しているところは?
常に16ビートの裏拍のリズムを意識しています。私のルーツには、ファンクやR&Bがあるので、その影響だと思います。ちなみにユナ(d)もルーツが一緒なので、グルーヴを作りやすいんですよね。いつも“私たちにしかないウネリやリズムを出したい”と思ってやっています。
曲作りの時に、メンバー同士でしか通じない共通言語などはありますか?
本当に抽象的な表現が多いですね。“もうちょっとフワッとさせたいね”、“もっと可愛くしたいよね”、“もうちょっとピンク色にしようか”とか。具体的に何かを言うわけじゃなくて、みんなでイメージやニュアンスを共有して作り込んでいく感じですね。でもね、その解釈が大体一緒なんですよ。だからこそ、このメンバーでバンドをやれているんだなって感じますね。
例えば、ユナに対して私が“こういう風にやって”ってイメージを伝えると、本当にそのとおりに叩いてくれるんです。それくらい完璧なので、曲によっては“もうちょっと下手に叩いてほしい”ってお願いしたりします(笑)。“ユナの味をもうちょい出してほしい”というニュアンスなんですけど、“もうちょっとスネアが響かないように叩いたらどう?”みたいな感じで、あえて音を潰したりする場面もありますね。なので、ユナなりに頑張って下手なプレイに寄せてるところも、曲によってあったりします(笑)。
くり返しになっちゃうけど、ユナって隙のない完璧なリズムで叩けるドラマーなんですよ。何でも表現できちゃうから、ユナに対しては毎回けっこう難しいことをお願いしちゃってますね。やっぱ土台がしっかりしてないと、色んな音を乗せられないので、そこに対するこだわりは強いかもしれないです。
バンドを人間の体で例えるなら、ギターは“心臓”だと思っています
ではCHAIというバンドにおいて、ギターという楽器の役割とは?
私のルーツはリズム・ギターにあるので、バンドを人間の体で例えるなら、ギターは“心臓”だと思っていて。私は、目立たないけどカッコいいリズムを刻んでいるようなプレイヤーが好きなので、そういうプレイを心掛けようという気持ちは自分の中に常に持ちつつ、最近は前に出てソロを弾くことにも挑戦しています。
私自身、頑固なギタリストだと思うので、バンドのアンサンブルの中ではリズムと一体化していたいんですよ。でも今は、CHAIのライブ・パフォーマンスとしては、もっと前に出てカッコよくギターをかき鳴らしたいなってことも考えています。
CHAIが王道なことをやると、逆に異端に見えるかもしれないですしね。
そうなんですよ(笑)。突然、私のルーツにないギターを弾いたら、逆に面白いんじゃないかな?なんてことはよく考えています。“え! カナちゃん、あんなギター弾いちゃうの!?”みたいなアプローチは、今後はもっともっと挑戦していこうと思っています。
ほかに、カナさんがCHAIで表現してみたいことは?
ザ・フレーミング・リップスのように宇宙船からステージに登場してみたり、映画の『E.T.』みたいにチャリに乗って空を飛んだりしてみたい(笑)。エンターテイナーなことをやりたいんですよ。もちろんバンドとしてしっかり演奏するけど、エンターテインメントとしてお客さんに心からライブを楽しんでもらいたいと思っています。
やっぱり根本的なところで、CHAIってバンドはユーモアを大事にしていて。ライブを観た時に、“なんかちょっと面白いな”とか、“笑える場面みたいなものを1個は作りたい”と思ってるので、ちょっとダサいか、ギリギリかなくらいのところっていうのを攻めていくようなところはありますね(笑)。
あと、海外で活動をしていると“自分たちの個性をどこまで出せるかが勝負だな”ってことを強く感じるんですよ。だから、自分たちが“こう見えたら面白いだろうな”っていうことは、メンバー全員がいつも考えているところですね。
ステージで全員がダンスをしたりするなど、バンドという形式にとらわれない“何でもあり”な自由な表現もCHAIの魅力ですが、カナさんの中で“これをやったらNG”というものはありますか?
それは初めての質問ですね(笑)。NGか……何だろうね? やっぱりギターは私の相棒なので……自分の楽器を傷つけたり、壊したり、汚したりするのはNGかな。
レコーディングで使用したギターについて教えて下さい。
今回は、フェンダーのストラトキャスターがメインでしたね。最近、シングルコイルの音が好きなんです。今後のレコーディングでは、ストラトやテレキャスターを使った音をどんどん入れていきたいと思っています。
ずっとメインで使っているギブソンES-335は?
今回は使ってないかな。ただ、ステージではずっと弾き続けているので、ES-335は自分の体の一部みたいな存在です。なので、ライブでは基本的に335を使っていこうと思っています。
ES-335の魅力を教えて下さい。
見た目も気に入っているし、抱えた時の大きさとかも安心感があるし……あと、何より“普通に見えない”ってところが好きですね。私は常に“ギャップを持っていたい”ので、みんながよく使っているようなギターは今までステージで使ってこなかったんです。でも今後はテレキャスターやストラトも使っていこうかな、と(笑)。本当に楽曲を表現するために必要な時に出していこうと思っています。
カナさんがギターを選ぶ時に大切にしているところは?
見た目50、音色50ですね。両方大事。やっぱね、見た目と音楽って同じくらい重要だと思っているので、その辺は大事にしています。あと、いつかマナと2人でセミアコを弾きたいなって思っているんですよ。ライブの時に2人でセミアコを弾いていたら可愛くないですか(笑)?
可愛いと思います(笑)。
ね! 見た目的にもパンチありますよね。しかも双子だし(笑)。それだけが理由なんですけど。
今は新作アルバムを作っているということですが、どのような作品になりそうですか?
私がバンドを始めた時に感じていた音楽に対するワクワクとかドキドキを、改めて楽曲に落とし込みたいな、と思って制作を進めています。CHAIのアイデンティティを、音楽でもっともっと表現していきたいですね。
LIVE INFORMATION
CHAI 「ジャジャーンTOUR」
- 2月23日(木・祝)/札幌cube garden
OPEN 17:00/START 17:30 - 2月25日(土)/仙台darwin
OPEN 17:30/START 18:00 - 3月10日(金)/福岡BEAT STATION
OPEN 18:30/START 19:00 - 3月11日(土)/広島セカンド・クラッチ
OPEN 17:30/START 18:00 - 3月17日(金)/名古屋CLUB QUATTRO
OPEN 18:00/START 19:00 - 3月23日(木)/恵比寿ザ・ガーデンホール
OPEN 18:00/START 19:00
作品データ
『ジャジャーン』
CHAI
ソニー/SICX-184/2023年1月18日リリース