岩見和彦が語る、輝かしいキャリアの中で初となるソロ作『Roots 66』 岩見和彦が語る、輝かしいキャリアの中で初となるソロ作『Roots 66』

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岩見和彦が語る、輝かしいキャリアの中で初となるソロ作『Roots 66』

NANIWA EXPRESSのメンバーとして、そして多くのアーティストをサポートするスタジオ・ギタリストとして、輝かしいキャリアを築いてきた岩見和彦。そんな彼が初のソロ・アルバム『Roots 66』を4月19日にリリースした。岩見のメロディアスなフレージングが光る楽曲群を多数収録するこのアルバムの制作について語ってもらった。

取材・文:近藤正義 写真:小原啓樹 デザイン:須藤廣高
協力:学校法人イーエスピー学園専門学校ESPエンタテインメント東京
※本記事はギター・マガジン2023年5月号に掲載されたインタビューを再編集したものです。

メロディ・メイカーの部分がよく表われているアルバムです。

これまでに岩見さんのソロ作品がなかったのは意外です。

 そうかもしれないですね。ナニワエキスプレスでデビューしたのが82年。その頃から、“いつかはソロ・アルバムも出したい”と思いながら、約4年後にはナニワが解散しました。その後、東京に出てきてMALTAさんや谷村有美さんのサポートなどをしているうちに、その気も薄れたのかもしれません。人様のバックの仕事をすると忙しくなるでしょ。自分の都合で動けないですからね(笑)。

忙しい中でも、自分名義のセッション・ライブもよくやっていましたよね。

 時々やっていましたけど、自分のアルバムを出すというほどでもなくてね。ほかにはパナシェというアコーディオンやウッド・ベースの入ったアコギのユニットもやっていて、アルバムは4枚出しています。2002年からは復活したナニワでもアルバムを出しました。でもソロ作品がない(笑)。

曲のストックはたくさんあったのでは?

 ありました! 大阪でのカズボン・セッションの時の曲とか、ライブではやったことあるのに作品として形にしていなかった曲とか、そんなのも掘り起こしてもう一度やってみようか、なんてね。もちろん新曲も加えて、色々考えを練っていたら14曲になりました。

気負ったところがない、レイドバックした雰囲気が素晴らしいと思いました。

 新しいとか流行りのモノだとかは考えていなくて。まぁ、そういうことは聴いた人に決めていただけたらいいだろうと。

 テクニックや機材における最新の手法は、ナニワのほうで目いっぱいやっているかもしれないですね。逆に本作では人力でやれることしかやっていません(笑)。ナニワというバンドはメンバーたちのテクニックが凄く、その中でも僕はメロディ・メイカーの役割を担っているという意識を持っていました。今回のソロ・アルバムでも、そういう面が表われていると思いますよ。

ナニワっぽい曲も、違った一面を見せる曲もありますね。

 昔は“作れ!”って言われてスイスイと曲を書いていましたけど、今はメロディやパターンが昔の曲にどこか似ていたりして悩むこともあります。でも一方で、そういう曲もあっていいんじゃないかと思ったりもする。“Believin’型”とか“Jasmin型”とかね(笑)。

 今作の中では「Point Getter」がナニワっぽいと思うんですが、この曲をアルバムのオープニングにしようかと悩みました。

そういった曲は、ファンが聴くとニンマリしてしまうでしょうね(笑)。そういえばゲストにナニワのメンバーが入ったりするのかなと思っていましたが、今回はありませんでした。

 ナニワのメンバーで1曲くらいやろうかと考えていたんですが、ドラムの(東原)力哉が活動休止中なので、1人でも欠けるのなら今はやらなくてもいいかなと思ったんです。あるいは、1人ずつバラバラに色々な曲へ参加してもらうことも考えましたけど、ブッキングが大変だからやめておきました(笑)。

アルバムのコンセプトは?

 66年間の自分の歴史みたいに作りたかったんです。僕らの世代はアメリカに憧れて育ったから、ルート66にひっかけて『Roots 66』。そうなると、5月には67歳になってしまうからそれまでに出さないとダメで(笑)。ギリギリのタイミングでリリースできて良かったです。

岩見さんのルーツとは?

 小学校の頃にテレビで観たグループ・サウンズが最初です。10歳のクリスマス・プレゼントに2,600円のアコースティック・ギターを買ってもらって真似を始めました。そのあとに5歳年上の従兄弟からエレキとアンプを1万円で譲ってもらって、ザ・タイガースの「僕のマリー」や寺内タケシの「運命」とかを弾いていましたね。

 それから中学生でグランド・ファンク・レイルロードにハマって。練習したマーク・ファーナーのフレーズは、今の僕の演奏にも出ているかもしれません(笑)。そして高校生でジェームス・ブラウンなどのブラック・ミュージックに目覚めて、大学に入ってからはリー・リトナーやラリー・カールトンといったクロスオーバー/フュージョンを聴き始めました。

 マイルス・デイヴィスやクラシック音楽も聴きましたよ。やるやらないにかかわらず、何でも聴いておいたほうがいいだろうと思って。あの時代のミュージック・シーンの流れのとおりで、間違った道は歩んでないでしょ(笑)?

当時はどのような練習をしていましたか?

 1曲を丸々コピーするよりも、色々なギタリストのおいしいフレーズをたくさんコピーするほうが多かったですね。1人のギタリストの曲をコピーするよりも、100人のギタリストの最もおいしい1~2フレーズをいっぱいコピーして、どんなキーでも弾けるようにしておいたほうが面白いんじゃないかな。

 ソロを丸々コピーするのはジョージ・ベンソンで諦めました(笑)。『Breezin’』に入ってる「Affirmation」なんて凄すぎてね。でも好きだったなあ。

岩見和彦
岩見和彦

アンプとキャビを2セット使い、空間系をステレオで表現する。

本作はどんなセッションで録音したのですか?

 4つのグループでレコーディングしました。一番古い録音は2017年にHeartbeatで録った2曲で、「Going to Key West」と「American Hero」。佐野忠(bs)との双頭プロジェクトで録っていた4曲の中から僕の曲を2曲入れたんです。アメリカっぽい音でしょ?

 「Going to Key West」なんてナニワじゃ絶対にやらないタイプの曲だから、あえて1曲目に入れました。ソロの出だしでオールマン・ブラザーズ・バンドの「Jessica」のメロディを入れてみましたが、どのくらいの人が気づいてくれるのかな? “あれっ?”って思ってくれたら、僕としてはそれでオッケー(笑)。

 そしてヘンリー・マンシーニのカバー「Love Theme from Sunflower(ひまわり)」、スパニッシュ風でもありフレンチ風でもあるエキゾチックな「Pheasant Island」、サンバ・バージョンでリメイクした「Believin’ 2023」の3曲はアコースティックなセットです。これらはORPhEUSでレコーディングしました。

 唯一、リモートで録った「Night in Tijuana」はちょっとラテン。そのほかの8曲は高崎のTAGOスタジオで3日間で録りました。

特に思い入れのある曲は?

 カバー曲ですが、ヘンリー・マンシーニの「Love Theme from Sunflower(ひまわり)」ですね。最初は「Love Theme from Romeo and Juliet」のカバーをやろうかと思っていたのですが、ウクライナの現状を憂い、この曲を採り上げました。最初はピアノとアコギだけで録ってそれで成立したと考えていましたが、ストリングスを重ねることでより良い感じに仕上がりましたね。

 僕のオリジナル「April 15th…(Rest in Peace , Koji)」は、昨年亡くなった僕の愛弟子でありライブも一緒にしていたギタリスト、KOJI(La’cryma Christi/ALvino)への鎮魂歌です。

レコーディングのメンバーについて教えて下さい。

 「Going to Key West」と「American Hero」には佐野忠のほか、渡辺剛(pf, key)や鎌田清(dr) 、うちの奥さんの安井希久子(perc)が参加しています。

 TAGOスタジオでの録音に参加してくれた鈴木賢(key, programming)は、ナニワの初期に大阪でやっていたカズボン・セッションからの付き合いで、もう30年くらいになります。あのセッションには小川文明(key)もいたから、2キーボードの編成になることもありましたね。

 同じTAGOスタジオでは山下政人(dr)、吉池千秋(bs) 、安井希久子が参加して、リモートで野々田万照(sax)にも協力してもらいました。山下政人(dr)は髙橋真梨子さんの仕事をやっていましたし、僕は谷村有美さんで一緒にやったことがあります。吉池千秋(bs)は小田和正さんのバックをやっていますね。

 ORPhEUSでの録音では中野雅子(pf)、笠原本章(bs)、中沢剛(dr)、安井希久子が演奏しました。「Night in Tijuana」のリモート・セッションは、鈴木 賢と山下政人 、山内和義(bs)が参加し、安井希久子はTAGOスタジオで録音を行なっています。

録音ではどんなギターを使いましたか?

 アルバムの大半は、メイン器のSCHECTER AC-KI/SIGで弾きました。少しクランチ気味のサウンドやロックっぽい音が合いますね。材質がちょっと変わっていて、ネックもボディもマホガニーで指板はエボニー。言ってみればSTの形をしたLPタイプですね。

 ピックアップはHSH仕様で、ハムバッカーはセイモア・ダンカンのSH-1nとTB-59、シングルコイルはSHR-1nです。ミニ・スイッチはハムバッカーをシングルコイル・サウンドにするというよりも、コイルの巻き数を減らしたようなサウンドになります。ハムバッカーの音なんだけど、ちょっと細くなる感じ。

 Roland GK-3も付けていて、今回のアルバムでは1曲だけハーモニカみたいなサウンドを出しました。

箱モノは?

 まずSCHECTER R-FS-280。これはボディの厚さがセミアコみたいに薄いのですが、センター・ブロックが入っていないフルアコの構造になっています。ブリッジも固定せず乗っているだけ。オリジナルからはテイルピースだけ変更しています。アルバムでは「That Time」などで弾きました。

 同じSCHECTERではセミアコのR-SW-260も使っています。あと、20年以上前にESPがエンドースしてくれたセミアコのプロト・タイプ。ギブソンのES-335と比べるとボディが小ぶりで、ネックも凄く細いんです。このギターを持っているのは松原正樹や近藤房之助くらいじゃないかな。

 どのギターもピックアップは同じで、ダンカンとセス・ラバーがコラボしたPAFタイプになっています。ほかにはフェンダーのテレキャスターやストラトキャスターも少しだけ使いました。

エフェクターやアンプはどのようなものを使っていますか?

 BOSS GT-8ですね。GT-10とか新しい機種も出ていますが、結局GT-8を使ってしまうんです(笑)。GT-8はデジタル感の少ないサウンドが気に入っていて、ここ20年くらいはずっと使っています。もっと歪ませたい時のためにProCo RATの初期型も用意していますね。このRATは改造してオン/オフのLEDを付けています。

 アンプとキャビネットはHughes & Kettner TubeMeister 36とCC212で、2セットを使ってステレオで鳴らすことが多いです。コーラスやリバーブ、ディレイをL/Rで表現するためですね。キャビネットをライブ現場に持っていかない時は、会場にJC-120があればリターンへTubeMeister 36をつないで鳴らしています。

作品にするからには音やフレーズは絞り込むべき。

アルバム全体のサウンドの方向性は決めていましたか?

 ソロ・アルバムだからといって、ギターを前面に出したいとは思いませんでした。それよりも曲のメロディを聴いてほしいという気持ちが大きかったのかもしれないです。

 いつものレコーディングならトラック・ダウンまで立ち会ってあとはおまかせなんですが、今回は初めてマスタリングの最後まで付き合いましたよ。自分のアルバムは自分の思いどおりにやりたいですからね。ミックスまでの段階では、バラエティに富んだ曲を並べた時にも、アルバムとしての統一感が出るようにエンジニアに頼みました。

「もうちょっとギターを聴きたいのに」と思わせるくらいが大人のたしなみでしょうか。

 MALTAさんのバンドで学んだんですけど、あまりギターが出しゃばらないほうがいい。例えばAメロはシンセが弾いて、自分のギターはサビ以降にしか出てこないとか、曲によってはそれでもいいと思うんです。

以前と比べて、自身のギター・プレイの変化は感じますか?

 昔の演奏を聴くと、“こんな風に弾いていたの?”とビックリすることはよくあります。だから今は昔に比べて音数は減ったかもしれない。

 でもね、作品にするからには音やフレーズは絞り込んだほうがいいと思うんです。アルバムではそんなに弾かなくてもいいんじゃないかな。弾きまくるのはライブでやればいいんだからね(笑)。

岩見和彦の愛用機材

SCHECTER/AC-KI/SIG

SCHECTER/AC-KI/SIG

SCHECTERの岩見シグネチャー・モデル、AC-KI/SIG。マホガニーのボディ&ネックとエボニー指板という構成だ。ピックアップはセイモア・ダンカンのSH-1n、SHR-1n、TB-59を搭載。ローランドのディバイデッド・ピックアップGK-3も備えている。アルバム全体で多用した1本。

SCHECTER R-FS-280

SCHECTER R-FS-280

SCHECTER R-FS-280はフルアコながらボディ厚が約45mmと薄いのが特徴。テイルピースがオリジナルのブランコ・タイプから交換されている。ピックアップはセイモア・ダンカンとセス・ラバーのコラボで生まれたSH-55n+SH-55bだ。

SCHECTER/R-SW-260

SCHECTER/R-SW-260

トップのフレイム・メイプルとシースルー・ブラック・カラーが映えるSCHECTERのセミアコ・モデル、R-SW-260。こちらにもSH-55nとSH-55bを搭載している。

ESP/Semi-Hollow Prototype

ESP/Semi-Hollow Prototype

20年以上前にESPにエンドースされたというセミアコのプロト・タイプ。小ぶりなボディと細いネックが特徴的だ。AC-KI/SIGと同じくGK-3を装着している。


Hughes & Kettner/TubeMeister 36 & CC212

ヘッド・アンプはHughes & Kettner TubeMeister 36、キャビネットはCC212。2セットを使ってステレオで鳴らすことが多く、そうすることで空間系エフェクトの広がりを生み出すことができるとのこと。


Pedalboard

Pedalboard

エフェクターはBOSSのマルチ、GT-8がメイン。デジタル感の少ないサウンドが気に入っているそうだ。歪み要員としてProCo RATも用意しており、こちらはオン/オフがわかるようにLEDが増設されている。そのほかはIbanez LS10(ライン・セレクター)とBOSS FS-5U(GT-8用フット・スイッチ)のみと非常にシンプルだ。

作品データ

『Roots 66』
岩見和彦

Rolling Ahead/RAHC-1011/2023年4月19日リリース

―Track List―

  1. Going to Key West
  2. Escape from Oxi Maze
  3. KUROSHIO
  4. Challenge Spirit
  5. April 15th… (Rest in Peace , Koji)
  6. American Hero
  7. Love Theme from Sunflower (Pray for Peace in Ukraine)
  8. Point Getter
  9. Here We Go !
  10. That Time
  11. Night in Tijuana
  12. Venus
  13. Pheasant Island
  14. Believin’ 2023

―Guitarist―

岩見和彦