爽やかな歌声と鋭利なバンド・アンサンブルを武器に活躍する3ピース・バンド、おいしくるメロンパン。今回は、彼らが2023年4月にリリースした7thミニ・アルバム『answer』のギター・アレンジについて、ナカシマ(vo,g)に話を聞いた。爽快なのに、どこか不穏な空気を感じさせるコード・ワークが実に面白い今作。ギター・マガジン初登場の彼には、ギターを手に取ったきっかけから語ってもらった。
取材/文=伊藤雅景
ピアノを弾いた経験がギターに生かされていると思う
ギター・マガジン初登場ということで、ナカシマさんがギターを始めたきっかけから聞かせて下さい。
中学生くらいの頃に始めましたね。家に父親のアコギがあったので、それを触ったのがきっかけでした。音楽でハマっていたバンドがあったというよりは、父親から“弾いてみ”って言われて。
僕は小学生の頃からピアノをずっとやっていたので、音楽自体には凄く興味があったんですよ。なので、“家にギターもあるし、一応弾けるようになってみようかな”みたいな感じで、なんとなく始めました。
そこからは教則本で練習したりコピーをしたり?
ちゃんと曲をコピーしたことは、あんまりないんですよね。好きな曲のコードだけ調べて、簡単に弾き語るみたいなことはたまにやってたんですけど。一番最初にしっかりコピーしたのは相対性理論の「スマトラ警備隊」でした。
高校時代に入っていた吹奏楽部に、ベースやドラムができるやつがいて。それで、部室にギターがあったから“みんなでやってみようぜ”って。初めてバンドで音を合わせたのはその時でしたね。まあ、全然完成しなかったんですが(笑)。
ピアノのスキルがギターに活かされているところはありましたか?
フレーズ感というか、メロディの感じはピアノっぽいと思います。左手でコードを鳴らして、右手でそのコードに合ったメロディを弾く……みたいなピアノのアドリブを延々と弾くのが自分の中で流行ってた時があって。全然理論とかはわからないんですけど、その時の経験が今の自分のギター・フレーズに生かされているかもしれない。
高校生の頃からメロディを考える習慣があったんですね。
ちゃんと作曲をしたのは中学生の時だったかもしれないです。まだギターも全然やってない時期だったので、ピアノで作曲をしていました。ギターで初めて作曲したのは、高校生の頃ですね。
父親にMacを買ってもらって、そこに初めから入っていたGarageBandでピコピコ打ち込みを作って。まだバンドはやってなかったので、完全に趣味の範疇でしたが。でも、その時期からDTMで作曲をする習慣がついていたので、バンドの作曲でもそのスキルが生かされています。
想像以上に“オッサン味がある”感じになりました(笑)
おいしくるメロンパンの作曲では、DTMのデモが先行なんですよね?
そうですね。最初はなんとなくギターで好きなコード進行を探して、そこからメロディを乗せて、ほかの楽器も入れていくっていう流れですね。メロディが先行なので、いつも歌詞とかは最後に書きます。いつもギリギリですね(笑)。
なるほど。
“詞は先に書くべきでしょ”みたいな気持ちがなんとなくあって。こういうインタビューで“詞が先です”って言いたいからそうやってたんですけど(笑)。
でも、詞が浮かばないことで曲が一生完成しない時期があったんです。それで、鼻歌のメロディだけを先に作るようになったら作曲が順調になって。でもその代わり、詞が毎回レコーディングの前日ギリギリにしかできなくなっちゃったんですけど(笑)。
ギターのフレーズはどのタイミングで作ることが多いですか?
デモを送る段階で先に入れちゃってることが多いですね。レコーディングの時に“ここ、何か入れたほうがよくない?”みたいな感じで足すこともありますが。あと、歌詞ができてないにしても“ここでどういう雰囲気にしたいか”みたいなイメージは脳内にあるので、それに即したフレーズを入れるようにはしていますね。
それを模索する時は、奏法、音程、音色のどこから考えますか?
たぶん、音程ですかね。まず、“一番最初に入ってくる音がどこがいいか”というところから始まって、仮歌のメロディにハモらせてみたり、ちょっとリズムで遊んで見たり。そこから分岐していくっていう感じですね。
今作で、ナカシマさんがギター的に新たにチャレンジしたところを聞かせて下さい。
「ベルベット」のギター・ソロですかね。このソロは“渋くて強めのニュアンスに挑戦しよう”と思って作ったんですが、想像以上に“オッサン味がある”感じになりました(笑)。
あと、今までの俺とは違うところにいけたなって思うのは「波打ち際のマーチ」。これはずっと同じようなテンションの曲調なんですが、ピッキングのニュアンスで曲に表情をつけていて。このギターは今までにはないアプローチになったと思います。
ピッキングのニュアンスで特に意識しているところは?
“速さ”ですね。
振り抜く速さみたいなもの?
そうですね。ピックの振り抜きが速いほうが、全部のアタックが1点に集中して、コードや音のまとまりが変わってくる気がするんです。音色の押し出し感みたいなものが強く出てくるというか。
「波打ち際のマーチ」以外でも、そういったニュアンスを意識した曲はありますか?
「マテリアル」のギターは変な雰囲気のアルペジオが続くんですけど、これは“完璧じゃないブリッジ・ミュート”をしながら弾いていて。完全にミュートされてない、微妙なニュアンスなんです。この曲はポコポコした感じというか、ちょっとコミカルなニュアンスを出したかったので、そういった手法を試しました。
ライブでは3人だけの音でやるっていう、ある種の枷をかけています
ナカシマさんのギターは、派手な空間系を使うことが少ないですよね。エフェクティブな音色より、ギターそのものの“歪み”で差を出している印象があります。
確かにそうですね。僕のイメージなんですけど、ベースが固体だとしたら、ギターの音色は“液体”っていう感覚があって。ギターとベースで、アンサンブルの全部の帯域がガッチリ埋まる形が理想だと考えているので、ベースで埋められてない帯域を液体のギターで担うみたいな。塗りムラを埋めていく感じですかね。
例えばギターが“俺はこう”みたいにわがままな音をずっと出してたら、ベースがぶつかってきたり、いなくなったりするたびに音に隙間が出ちゃうと思うんです。なので、ギターの帯域はフラットめに出していて。
ギターが1本なので、ベースとの棲み分けは重要ですよね。
音源だとギターをもう1本入れちゃってる曲もあるんですけどね(笑)。でも、ライブでは3人だけの音でやるっていう、ある種の枷をかけていて。3人の音しか出せないっていう制限があるほうが逆に楽しいので。
例えば、ギターが1本増えるだけで可能性はメチャクチャ広がると思うんすけど、それだともう僕自身がそこまで制御できないというか。なので、音数はできるだけ少なめのまま、納得いくアンサンブルを作れるように考えています。
新作のツアーが始まりましたが、ツアーでのギター的な見どころはどういうところでしょうか。
新しいギター(フェンダーAmerican Vintage II 1957 Stratocaster)を導入してます! 僕が弾くコードは複雑な響きのものが多いんですけど、新しく買ったストラトキャスターは音程感がしっかりしていて、そこが凄く伝わりやすいと思います。音に厚みも増したし。
今のおいしくるにめちゃめちゃ合っているギターだと思うので、そこにも耳を傾けてもらえると嬉しいです。
ギタリストとしての展望も聞かせて下さい。
ギタリストというよりは、あくまでも作曲者でありたいという思いが強いんです。なので、“曲をしっかりと表現する”っていうのが一番ですね。ギターは、その曲のためにしっかりと弾く。ずっとそういう考え方で向き合っていますね。
ありがとうございました! それでは、ファンに向けての一言もお願いします。
今作は凄く自信作になってますので、ぜひ、生音を聴きに来て下さい! よろしくお願いします。
LIVE INFORMATION
おいしくるメロンパン answer tour – 回る日傘の方程式 –
- 2023年7月2日(日)愛知・名古屋 DIAMOND HALL
- 2023年7月9日(日)東京・Zepp Shinjuku(TOKYO)
おいしくるメロンパン answer tour – 結ぶリボンの方程式 –
- 2023年9月29日(金)神奈川・YOKOHAMA Bay Hall
- 2023年10月1日(日)栃木 HEAVEN’S ROCK Utsunomiya
- 2023年10月7日(土)青森 Quarter
- 2023年10月8日(日)岩手・盛岡 CLUBCHANGE WAVE
- 2023年10月14日(土)滋賀 U★STONE
- 2023年10月15日(日)愛知・豊橋 clubKNOT
- 2023年10月28日(土)熊本 DRUM B.9 V2
- 2023年10月29日(日)鹿児島 SR HALL
- 2023年11月3日(金)静岡・浜松 窓枠
- 2023年11月11日(土)岡山 YEBISU YA PRO
- 2023年11月12日(日)香川・高松 DIME
- 2023年11月19日(日)新潟 GOLDEN PIGS RED
- 2023年11月24日(金)大阪 BIGCAT
※情報は記事公開時のものです。最新のチケット情報や公演詳細はおいしくるメロンパン公式HPをチェック!
おいしくるメロンパン公式HP
https://oisiclemelonpan.com/
作品データ
『answer』
おいしくるメロンパン
RO JAPAN RECORDS/XNRJ-10030/2023年04月19日リリース
―Track List―
- ベルベット
- 夜顔
- マテリアル
- 波打ち際のマーチ
- garuda
―Guitarist―
ナカシマ