戸高賢史が語る、ART-SCHOOLの新作『luminous』 活動休止を経たからこそできた“新しいプレイ” 戸高賢史が語る、ART-SCHOOLの新作『luminous』 活動休止を経たからこそできた“新しいプレイ”

戸高賢史が語る、ART-SCHOOLの新作『luminous』 活動休止を経たからこそできた“新しいプレイ”

独創的なオルタナティブ・ロック・サウンドを武器に、長きにわたって日本の音楽シーンで活躍しているART-SCHOOL。フロントマンである木下理樹の体調不良により活動を休止していたが、2022年7月に『Just Kids .ep』で活動を再開。そして今回、通算10作目となるフル・アルバム『luminous』を完成させた。多彩なサウンドを操り、バンド・アンサンブルを表情豊かに彩る戸高賢史(g,vo)に、アルバム制作について話を聞いた。

取材:尾藤雅哉(ソウ・スウィート・パブリッシング) 写真=中野敬久

トーンベンダー系ファズの“地を這うようなジリジリ感”をフィーチャーしたいと思っていた

約3年に及ぶ活動休止期間を経て、待望の新作アルバムが完成しました。制作にあたりイメージしていたものは?

 木下(理樹/vo、g)がコメントしていたように、“最高に純度の高い、ART-SCHOOLのアルバムを作るんだ”という意識はメンバー全員が共通して持っていたと思います。

ニュー・アルバムを作り終えた今、“ART-SCHOOLらしさ”とは、どんなところに宿っていると感じますか?

 やっぱり……“儚さ”とか“ヒリヒリした焦燥感”みたいな要素を、僕らなりの優しさで包み込むところかな。あとは、“刺すような尖っている感じ”もART-SCHOOLらしさの1つなのかなって。

活動休止が、アルバム制作にもたらした影響は?

 バンドが活動を休止したことで……1人のギター・プレイヤーとして、1人の音楽家として、色んな経験を自分の中にたくさんインプットすることができました。

 良くも悪くも、離れたからこそ見えたものもあって……僕自身、バンドが活動を再開したら“こういう表現ができないかな?”、“こんな曲をやってみるのはどうかな?”って考える時間ができたんです。

 なので今回のアルバム制作を通じて、活動休止期間中に自分が感じた色んな思いを楽曲に反映することができて良かったと思います。

木下さんの作ってくる新曲のデモに、何か変化を感じたりはしましたか?

 変化はありましたね。木下自身、活動休止という暗闇の中を光を求めて彷徨ったこともあってか……持ってきたデモにはちょっと優しい曲が多かった。彼の言葉を借りるなら、“聴き手を包み込むようなドリーミーな曲”をメンバー全員で、“いかにエッジの立った作品に仕上げていくか”ってことを考えていた。

 なので……曲を作り込んでいく過程でメンバー同士でぶつかったこともあったんです。でも、バンドの全員が熱量を持って曲と向き合っていたので“ぶつかりがい”もありましたね。

なるほど。では、曲はどのように作り込んでいったのですか?

 木下が持ってきたデモは、どれも凄くシンプルだったんですよ。歌とピアノ、もしくは歌とクリーン・トーンのギターだけの状態だったりして。

 それをスタジオで、“どれくらいの熱量が込められた楽曲にするか?”、“どういった方向性のアレンジにするか?”って大枠を決めて、細かい軌道修正をしながら完成形に仕上げていった感じですね。

木下理樹(左)、戸高賢史(右)
木下理樹(左)、戸高賢史(右)

1曲目の「Moonrise Kingdom」は、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインのようなホワイト・ノイズが印象的なナンバーです。どのようにアレンジを作り込んでいったのですか?

 ノイジィなアプローチは、最後の最後の段階で入れたんですけど、先に録音したドラムとベースのテンション感を聴いて、その場の即興でギター・アレンジを作っていきました。夢中でレコーディングしていたので……気づいたらこういうのができていた、みたいな感じですね(笑)。

 ここまでシューゲイザーな曲に仕上がるとは思っていなかったんですけど、これを木下に聴かせたら“めちゃめちゃカッコいいから1曲目にしたい”と言ってくれたのを覚えてますね。

この曲の特徴的な“歪み”を作るために使ったエフェクターは?

 今回のアルバムを録音するにあたり、レコーディング前にファズをたくさん仕入れていたんです。特にイギリスのトーンベンダー系のファズを熱心にチェックしていたこともあり、そういうペダルの個性に感化されたのかもしれない(笑)。

 使ったのは、D*A*MのFuzz Sound MK3ですね。ゲルマニウム・トランジスタを使ったトーンベンダーMK3のクローンなんですけど、このペダルにEmpress EffectsのREVERBを組み合わせて弾きました。

ゆったりとしたアーミングもキモになっていますよね。

 そうですね。“巨大な龍がうなりを上げる”ようなイメージで、ジャズマスターを弾きました。アーミングを使うと独特な揺らぎや波を作ることができるので、けっこう多用したかもしれないです。

「Bug」でもアームを使ったアプローチを聴くことができますが、どのように作り込んでいったのですか?

 この曲が、デモの段階から一番アレンジが変わったんじゃないかな。最初はもっと優しい曲だったんです。木下の書いてきたメロディが凄く良かったので“これはどんなアレンジをしても大丈夫だな”って思い、ファズ・ギターでアンサンブルを包み込むようなイメージでアレンジを考えていきました。

なるほど。2曲目の「ブラックホール・ベイビー」は、骨太なベース・ラインがアンサンブルをリードしていくスリリングなロック・ナンバーです。

 この曲に関しては、“疾走感”を殺さないように意識していたので、(中尾)憲太郎さんには、“ナンバーガールの「鉄風鋭くなって」のような感じでベースを弾いてほしい”とリクエストしたのを覚えています。

 ギターは、最後までテンション感をキープしつつスリリングなエッセンスを加えることを意識して弾きました。細かいフレーズがずっと続くので、ライブで演奏する時にやることが多くて自分でもビックリしましたね(苦笑)。

アルバム制作において、ファズが鍵になっているアイテムだと思うのですが、どんな種類のペダルを使いましたか?

 色んな種類のファズを試したんですけど……さっき話したD*A*MのFuzz Sound MK3やBuzzaroundをモチーフにしたFuzzaround、あとtoneczar effectsのOTP FUZZなんかは活躍しましたね。たしか「Adore You」は、Fuzzaroundでツルッと弾いた気がします。

 今回のレコーディングでは、トーンベンダー系の“地を這うようなジリジリ感”をフィーチャーしたいと思っていて。ゲルマニウム・トランジスタの“生々しい飽和感”が合うと思ったんですよね。

個人的には、曲が終わる時の余韻の残り方が素敵だと思いました。音が消えたあとも、ピンと張った空気感が残っているというか。

 嬉しいです。バツっと音を切って終わらせるのではなく、なるべくディレイやリバーブを使って残響を残すことで、曲の世界観が崩れないようにってことはすごく意識していましたね。

戸高賢史

お互いが主張し合うことで“ART-SCHOOLの世界”を作っていった

「2AM」は、ザ・スミスのようなネオアコ感とジャクソン5の要素が融合した独特な楽曲ですね。

 ザ・スミスにザ・キュアーとプリンスの要素も入っているというか……それをART-SCHOOLというバンドのフィルターを通して表現するとこうなる、という感じの曲ですね。

 後半のパートは、狙ったわけではないんですけどジャクソン5な雰囲気が出てしまって……みんなに聞いたら“全然OK”という感じだったので、そのまま入っています(笑)。

1Aと2Aでギターのアプローチを変えているのもポイントかと。

 これまであまりやってこなかった奏法なんですけど、2Aはピック+指のチキン・ピッキングで弾いています。ピックだけでは音が追いつかなくて……もう指も使ってしまおうと(笑)。

 今回のアルバムでは、今までやってこなかったことにもどんどん挑戦してみようと思っていたので、ギターのアプローチに関してもバリエーションが豊富なんじゃないかと思います。

“今までやってこなかったこと”で言えば、久々に戸高さんがボーカルを務める「Teardrops」と「Heart of Gold」が収録されています。

 木下から“アルバムの中にトディ(戸高)の曲があったら面白そうだよね”って言われたので、木下が書いた曲が出揃ったあとに、“こんな雰囲気の曲がアルバムの中にあったらいいな”ってことをイメージしながら書き下ろしました。

 ART-SCHOOLって、リフでガンガン押していく“ギター・ロック・バンド”としての魅力もあると思っていて。そういう部分を前面に押し出した曲があったらリスナーも喜んでくれるかなって。そうやって作ったのが「Teardrops」です。

 以前作った「スカーレット」(2004年)のように、ギターを始めたばかりの子たちが、思わずかき鳴らしたくなるようなリフを目指しました。結果的には……ちょっと難しくなり過ぎちゃったんですけど(笑)。

「Heart of Gold」はいかがですか?

 ゲット・アップ・キッズみたいなパワー・ポップの曲をイメージして作りました。ただ、曲がポップになり過ぎないように、あえてわりと優しめのアルペジオを弾いています。

このアルバムは、様々なアルペジオがアクセントになっていますよね。

 僕が音楽を聴く時は、鍵盤やシンセで鳴らされるシーケンス・フレーズを耳で追っちゃうんですよね。そういうところで自分の中に色んなフレーズのストックがあるので、アルペジオのアイディアは無限に出てくるんですよ。なので、アルペジオを軸に曲の雰囲気に合わせてフレーズを組み上げていくのは凄く得意なんです。

 曲が退屈にならないように、ギターを使って歌詞世界の物語に彩りを加えていくってことは常に意識していることですね。

戸高賢史

今回の制作を振り返って、バンド・マジックを感じた瞬間は?

 すべての曲で感じましたね。バンドでやるほうがデモよりも遥かにいいものが生まれたので、そこは“手練れのバンドマンが集まっているな”って感じました(笑)。

 あと、特に印象的だったのは、木下が歌を入れ終えた時には、もうART-SCHOOLそのものになっていたということ。歪ませたファズを使って好き放題アレンジしても、木下の歌が入ると凄くポップなものになるんです。しかも以前に比べて木下の歌声や言葉の力も増していると感じました。

 バンドも彼の歌に負けないようにせめぎ合いつつ、いい意味でお互いが主張し合うことで“ART-SCHOOLの世界”を作っていった感じがします。

レコーディングで使用した機材について教えて下さい。

 メインで使ったギターは、1965年製のフェンダー・ジャズマスターですね。黒のマッチングヘッド仕様のモデルです。あと「Heart of Gold」のダビングで、後輩に組んでもらったTLタイプも使いました。

 アンプは、Dr.ZとフェンダーのHot Rod Deluxe。基本的にはDr.Zがメインで、ペダルで音色を作っていった感じかな。

ペダルは何を使いましたか?

 ペダルは……本当にたくさん使いましたね(笑)。さっき少し話したD*A*Mのペダル以外にも、自分が主宰しているPhantom fxのMOTHERをリードやソロで使ったし、ビルト・トゥ・スピルのギタリストのジム・ロスがやってるJERMSのファズや、ビンテージだとColor SoundのOverdriver、Bondi EffectsのDel Mar Overdriveなんかも使いましたね。あと、CULTのRayというオーバードライブもかなり活躍しました。

 ディレイやリバーブといった空間系に関しても、Empress Effectsのペダルを始め、色んな種類を使っています。

最後に、作品制作を振り返って一言お願いします。

 今回のアルバムには、初めてギターを弾いた時の喜びのような……音楽を始めたばかりの頃のプリミティブな気持ちを、今の感性でパッケージングしたかったんです。そういう意味でも、“瑞々しい作品”になってるんじゃないかな。

 メンバーと一緒に音を鳴らした時に、音楽やバンドを始めた時のピュアな気持ちが心の中から湧き上がってきたし、ART-SCHOOLだからこそ自分もそういう気持ちになれたんだろうなって。

 ここまで長く活動を続けてきて、また新たに素晴らしいアルバムが完成したことがとても嬉しいし、僕らが活動を休止している間もずっと待っていてくれたファンの方もいてくれたので……今はそういう方の気持ちにちゃんと応えていきたいと思っています。

 久々にツアーもやるんですけど、僕と木下に加えてNITRODAYのやぎひろみ(g)がサポートに入ってくれるので、今までよりも格段に表現できる幅が広がったんですよ。過去曲も含めて、バンドの表現力がパワーアップしているので、ぜひライブを観に来てほしいですね。

ART-SCHOOL
ART-SCHOOL

ART-SCHOOL TOUR 2023「luminous」

2023年7月14日(金)/Spotify O-EAST
開場18:00/開演19:00

INFO:ディスクガレージ(050-5533-0888)

前売り:¥5,500(税込/ドリンク代別)
※学割1000円キャッシュバック有

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作品データ

ART-SCHOOL『luminous』ジャケ写

luminous
ART-SCHOOL

DAIZAWA RECORDS/UK.PROJECT INC./UKDZ-0240/2023年6月14日リリース

―Track List―

01. Moonrise Kingdom
02. ブラックホール・ベイビー
03. Bug
04. Adore You
05. 2AM
06. Teardrops
07. I remember everything
08. Heart of Gold
09. End of the world
10. In The Lost & Found

―Guitarists―

戸高賢史、木下理樹