メタリカの最新アルバム『72シーズンズ』のリリースを記念し、数回に分けてお届けしているカーク・ハメットのインタビュー第三弾! 今回は『72シーズンズ』の収録曲について、カークが1曲ずつ解説!
translation=Mutsumi Mae Photo by Uwe Anspach/picture alliance via Getty Images
This article is translated or reproduced from Guitar World Issues #565, June 2023 and is copyright of or licensed by Future Publishing Limited, a Future plc group company, UK 2023. All rights reserved.
「72 Seasons」
カーク:中間部で新たに展開するセクションは、メタリカがこれまでレコーディングした中で最も難しい部分の1つだと、みんな口を揃えて言っているよ。これはフィンガリングやグリップのせいじゃなくて、リズムの問題なんだ。カウントがとても変わっていて、ボーカルが入ったとたんにズレるからね。いずれは上手くプレイできるようになるだろうが、今は少し苦労しているところさ(笑)。
「Shadows Follow」
カーク:俺たちはよくミスをするんだが、エンディングのアプローチはそこから生まれたものだ。みんなで演奏している時に、次のパートがどうなるのかよくわからないまま進めていたら突然プレイが止まった。すると誰かが、“とにかく続けるんだ。この曲は明らかに俺たちにプレイし続けろと言っている。だからこのまま曲を仕上げようぜ!”と言ったんだ。それが結果的にとても効果的だった。曲が俺たちを向かうべき方向へ導いてくれた良い例だね。
「Screaming Suicide」
カーク:ブルージィさのある曲だよね。俺はとにかくリズミカルな演奏が好きで、まずリズムを書いて、その上にブ厚いものを重ねるという対位法のようなことをやっている。80年代当時、クリフ(・バートン/メタリカの初代ベーシスト。1986年没)が対位法や対旋律、ポリリズムなんかに夢中で、俺も彼からそういうものを教わり、自分のプレイの一部にしていったんだ。それと俺はブルースが大好きでね。ロバート・ジョンソン、スキップ・ジェームス、チャーリー・パットンといった昔のブルースマンから、ジョー・ボナマッサやエリック・ゲイルズのような現代のプレイヤーまで、ブルースなら何でも好きで常に聴いている。ブルースのリックから何かを絞り出して、自分でも上手く弾くことができればやってみるつもりだ。
「Sleepwalk My Life Away」
カーク:スタジオに行く前にペダルの引き出しを開けてみたら、エディ・ヴァン・ヘイレン・モデルのフェイザーがあった。それを見た時、“今日はこれで面白いことができるかもしれないな”と思い、スタジオへ持って行ったんだ。それを曲の冒頭で使っているよ。あとは、後半に印象的なフリジアン・スケールのリフが登場する。これも最初は単なるリフって感じで、あとから聴いて、“これってフリジアンみたいだな”とか“ハーモニック・マイナーっぽい”と気がついたんだ。最初から、“よし、フリジアンでリフを弾くぞ”なんて思ってないよ。たまたまそうなっただけで、最終的に自分が良いと思えれば、どんな音楽でもいいからね。スケールのことなんか考えない。それと、今回のアルバムのジェイムズのボーカル・ラインは、本当に素晴らしい。まるで別の次元にいったような感じだよ。歌詞も曲の中にピッタリとハマっている。この曲はその良い例だね。
「You Must Burn!」
カーク:アルバムの中で俺が一番好きな曲だ。特に間奏のメロディックなリフは最高さ。とても美しい。これはジェイムズが思いついたもので、最初に聴かせてもらった時、ヤツに“これはお前が今までに書いた中で最高のリフの1つだ”と言ったのを覚えている。このヘヴィな感じはまさに 「Sad But True」じゃないか! イントロはブラック・アルバムのようなドロドロしたビートで、メロディックなリフが入ると天にも昇る気分だ。ギター・ソロの裏では、ベースがスローにヘヴィに唸りをあげている。メタリカの曲はこうあってほしいと思うものがすべて詰まっていて、ソロを弾くのが最高に楽しいよ。キーがEで、スローかつヘヴィーなリズムっていうのは、ギタリストにとって夢のようなものだ。あとは、ジェイムズが、“In the heat of the night〜”と歌う部分のボーカルは(3:42〜)、オーケストレーションされていて凄くクールだね。
「Crown of Barbed Wire」
カーク:ユニークなリフの強烈な曲で、ルート、4度、ルートのオクターブを押さえるコードを使ったよ。このコードの名前はよくわからない。ジェイムズと俺はとりあえず、“ラム・コード”と呼んでいたね。無理やり弾いている感じだからさ。こういうコードはメタリカではほとんど使うことがないので、このリフは新鮮だし、今までとは違う雰囲気がある。ただ、俺もジェイムスもこのリフを実際に曲中で使うつもりはなかったんだけど、ラーズがこれに何かを感じて、“このリフを使え!”と言ったんだ。そしたらエキサイティングでユニークな曲ができあがった。ジェイムズはこんなリフをバックに歌うなんて考えられないと言っていたけれど、ラーズを信頼して、やってみたら成功したんだ。
「Chasing Light」
カーク:ジミー・ペイジは俺にとって非常に大きな存在で、間違いなく多大な影響を受けている。もし彼がいなくなったら、とても悲しいだろう。ジェフ・ベックが亡くなったことを持ち出すのは嫌だけど、あれは俺にとって大きな衝撃だったよ。ジェフとは知り合いだったしね。大好きなプレイヤーの1人だった。近い将来、60年代にジャズの巨人たちがいなくなってしまったようなことが起こるかもしれない。その時のために、心の準備をしている。俺は自分のプレイを通して彼らの遺産を引き継ぎたいと思っている。この曲と今回のアルバムを聴けば、それがわかると思うよ。
「If Darkness Had a Son」
「Too Far Gone?」
カーク:俺はそれほどハンマリングやプリングが得意じゃないから、たまにしかやらない。ピッキングのほうが豊かでアグレッシブなサウンドになるし、好きなんだ。それをもっと追求して激しく弾く方法を探そうと思った時に、「Whiplash」や 「Blackened」、「Fight Fire with Fire」のようなハードなリフを演奏しているんだから、ギター・ソロでも右手を駆使したスピーディーなプレイができるだろうと思ったんだ。それで、3〜4年前くらいからそういうプレイを始めていた。そういうわけで、今回のアルバムでは他のアルバムに比べて、ピッキングを多用しているよ。『Kill ‘Em All』の頃はもっと右手を使っていたんだけど、なぜかやめてしまったんだ。でもまたやり始めたら上手くいったね。
「Room of Mirrors」
カーク:俺たちは確実にマイナー・シックスの世界に住んでいる。フラット・ファイブも大好きだけどね。まぁとにかく、すべてのスタイルの音楽には決まった形があるんだ。ロバート(トゥルージロ/b)と2人で世界中の音楽を演奏していた時、それを学んだよ。スタイルは違っても共通する要素があることがわかったのさ。例えばブルースが1-4-5のスリーコードで構成されているように、他の音楽にも独自の形がある。それをいくつかの要素にまとめるとしたら、メタリカのスケールには、マイナー3th、フラット5th、そしてマイナー6thとマイナー7thが含まれている。これが俺たちのリフの基本で、そこに加わるのがハーモニック・マイナーだ! これがメタリカ・スケールのリフを作る基本だよ。でも最終的には自分にとって良いサウンドを出すことが大事で、それは自分の耳が導いてくれる。俺たちの耳が導いてくれるところに着地するんだ。それが俺たちの自然なスケールなのさ。
「Inamorata」
カーク:ラーズから、“今まで俺たちがレコーディングした中で一番長い曲だ”と指摘され、“本当に?そんなに長く感じないけど”と思ったのを覚えている。つまり、上手くやったってことじゃないかな。この曲を作っているとき、始めはどこに向かっているのかわからなかった。クールなサウンドだけど、この先はどうなるんだろう?ってね。でも段々とまとまってきて、凄く可能性があると実感したよ。今やアルバムの中でもお気に入りの1曲さ。ある時ジェイムズが、“この曲に必要なものは何だかわかるか? 長くて壮大な、ハーモナイズされたギター・パートだ!”と言い始めて、文字通りそこへ座りこんだ。そして、ものの1時間ですべてのパートを作り上げてしまったんだ。それが終わると、俺はこう言った。“ジェイムズ、本当に壮大なことをやってくれたな!”ってね。ヤツが最高のものを作り上げたことに圧倒されたよ。俺たちはそういう瞬間のために生きている。次に凄いことをやるのは俺かもしれないし、他の誰かかもしれない。でも、そんなことは関係ないね。俺たちは個人じゃない。メタリカというグレートなバンドなんだからね。
作品データ
『72 Seasons』
メタリカ
ユニバーサル/UICY-16145/2023年4月14日リリース
―Track List―
- 72シーズンズ
- シャドウズ・フォロー
- スクリーミング・スーサイド
- スリープウォーク・マイ・ライフ・アウェイ
- ユー・マスト・バーン!
- ルクス・エテルナ
- クラウン・オブ・バーブド・ワイアー
- チェイシング・ライト
- イフ・ダークネス・ハド・ア・サン
- トゥー・ファー・ゴーン?
- ルーム・オブ・ミラーズ
- イナモラータ
―Guitarists―
ジェイムズ・ヘットフィールド、カーク・ハメット