圧倒的なポップネスとユーモアを華やかなアンサンブルで表現する3人組バンド、Mrs. GREEN APPLEが、この夏に新作『ANTENNA』をリリース。映画『ONE PIECE FILM RED』の劇中歌「私は最強」のセルフカバーを含む本作は、ストレートなギター・ロックからEDM風のダンス・チューン、時にはアコースティックでアイリッシュなサウンドまでもを網羅した、カラフルでバラエティ豊かな1枚に仕上がっている。今回はリード・ギターの若井滉斗にご登場願い、『ANTENNA』を軸に彼らのギター・アレンジの妙を語ってもらった。
取材/文=伊藤雅景 写真=田中聖太郎写真事務所
あえて楽器に触らずに、基礎からダンスを学んだんです
Mrs. GREEN APPLEは2022年から“フェーズ2”として活動を再開しました。活動休止期間中にはどのようにギターと向き合っていましたか?
実はまったくギターを弾いてなくて(笑)。
えっ! てっきり弾きまくってたのかと……。
“この休止期間で何をやろうかな?”と考えていた時に、キーボードの藤澤(涼架/k)と“一緒に住んで、時間をもっと共有しよう”みたいな話になって。そのタイミングで、あえて楽器に触らずに基礎からダンスを学ぶことにしたんです。
どうしてダンスを始めたんでしょうか?
新たな表現の幅を増やすためにっていう部分が大きかったですね。ダンスは体でリズムを取るので、ギターとはまったく違う意識で音楽と触れ合うんですよ。それが凄く勉強になりました。楽器から一旦離れたことで見えてきたものがたくさんあって。
しかも、驚くことにダンスを学んだあとにギターを弾いたら、むしろ前より上手くなってたんですよ(笑)。リズムやタッチ感、タイム感がより音楽的になったというか、昔より音に深みが出ましたね。
ダンスと合わせてボディ・メイクもしていたと聞きました。
そうですね。体格が変わるだけでも、音って変わるじゃないですか。だから、体の基礎となる部分をちゃんと作ろうと思って。そうしたら確実に変わったんですよ。音が太くなったというか、よりニュアンスの幅を出せるようになったというか、その変化は面白かったです。フェーズ1の時はヒョロヒョロだったんで(笑)。
ミセスの過去と今が、入り混じった1枚になりました
ライブのパフォーマンスにも活かせそうですね。それでは新作『ANTENNA』についても聞かせて下さい。いつ頃から制作を始めていましたか?
2022年の夏くらいから話は出ていましたね。今まではアルバムのタイトルとかテーマを決めてから楽曲を作っていたんですけど、今回は終盤までそれがなくて。“ANTENNA”っていうタイトルが決まったのも最後のほうでしたし、曲を作りながら“どういうアルバムになるんだろうね?”ってメンバーと話していました。
今までどおり、作曲は大森さん(元貴/vo,g)がデモを作るスタイルでしたか?
まず元貴が全パートをDTMで作って、そのデモをメンバーに送るっていうやり方です。自分たちの仕事は、そのデモを耳コピするところから始まります。そこからさらに、各々が自分なりのフレーズを曲に落とし込むっていうのがミセスのスタイルですね。
ただ、今作は“ここのフレーズ、ちょっと面白いの作ってみてよ”といった感じにギター・アレンジを任せてもらう部分が増えました。「私は最強」や「ANTENNA」のギター・ソロとかがまさにそうで。
キーボードやストリングスなど、ギターと音域が重なりそうなパートとの棲み分けはどのように考えましたか?
チョーキングのニュアンスやコードを鳴らした時のガツンとした力強さは、やっぱりギターでしか出せないので、そこは自然と棲み分けられていると思います。それに、自分のサウンドがストレートにロックだから、音色で棲み分けができてるかもしれません。キーボードの藤澤は逆に色々な音を使ってるので。
例えば、ハイ・フレットで弾くギター・リフが印象的な「私は最強」は、2014年のアルバム『Introduction』にも通ずるような、ポップでエネルギッシュなミセス節を感じました。
ミセスらしい曲を作ろうという話からできあがった曲なので、まさに“バンド感”が詰まっていると思います。“ミセスらしさとは何ぞや?”みたいなところを、それぞれが再確認してから作れたというか。
そういう意味で言うと、今回のアルバムは昔からのテイストもあるし、新しい刺激を受けてそれを落とし込んだ楽曲もあるので。ミセスの過去と今現在が入り混じってる、ある意味“新旧織り混ぜ”みたいなアルバムなんじゃないかなと思いますね。
元貴の意図を汲んでから、自分の色を入れていきます
また、今作はギター・ソロがこれでもかというくらい入ってますよね。
確かに。「ANTENNA」、「Feeling」、「Magic」、「Doodle」……。めっちゃ弾き倒してますね(笑)。
「Doodle」は転調してソロに入るのがめちゃくちゃカッコいいです!
“うわ、ギター来た!”ってなりますよね(笑)。
“若井節”が一番入ったと思うのは、どのギター・ソロ?
「Doodle」ですね。それこそ“ソロ弾き倒してよ”ってオーダーがあったので、もうギター・ヒーローになりきって弾きました。
ギター・ソロはどんなイメージから生まれるんですか?
オケに合わせて鼻歌で考えることが多いですね。気持ち良いところを探すというか、“こう来たらカッコいいだろうな”みたいなイメージをふくらませて、それからDTMでオケと合わせながら細かい音程を決めていきます。それで完成したものをスタジオに持っていってメンバーに聴かせるっていう流れですね。
だから、ギターだけでゼロから構築するのではなく、歌で大まかに作ってから微調整していくのが僕のスタイルかもしれないです。
ただ、デモの段階でギター・ソロが入ってる曲は難しいですね。“このデモめっちゃ聴いてるから、頭で鳴っちゃうんだよな”みたいな(笑)。そういう時はまずそのまま耳コピして、“元貴はこのソロをどういうイメージで作ったのか”を考えて、意図を汲んでから自分の色を入れていきますね。
ミセスのリード・フレーズは音色がとてもシンプルなのに、バラエティ豊かで華やかですよね。そのバランス感が絶妙だと思っていて。
色んな音を使ったりするのが苦手なので……。ゴチャゴチャになっちゃうんですよね(笑)。だから飛び道具的な音はあんまり使わないんです。クリーンか歪み、どちらかですね。
機材のセッティングを見てびっくりしました。コンパクト・ペダルがほとんどない(笑)。
そうなんですよね。元貴のほうが多いっていう(笑)。
“自分から出たありのままの音を残そう”と考えていました
レコーディングのサウンド・メイクについても聞かせて下さい。
基本の音作りはケンパーを使いましたね。ケンパーから直の音と、ケンパーを通さない素のラインの音、ケンパーの音をキャビネットで鳴らしてマイキングした音の3つを、曲やフレーズごとに選んでいきました。レコーディングで使っているケンパーのプリセットはライブでも使っていて、ライブ用はEQをかなり変えています。
ジャジィな曲調の「Feeling」はブルージィで生々しいサウンドですが、これもケンパーですか?
そうですね。でもソロだけは、アルバムで唯一アンプを鳴らしたんです。“ここだけは…!”って(笑)。フェンダーの60年代のBassmanを使って、エフェクターでコンプレサッサーと歪みをかましました。ビターで大人っぽい曲なので“この曲ならアンプで鳴らしても面白いんじゃないかな”と思って。
「Feeling」はアルバムのラストですが、最後にギター的な曲で締めくくるというのが痺れましたね。
今までのミセスにはなかった、新しい立ち位置の曲だなと思います。サウンド面でもそうで、演奏していても凄く楽しいですね。
ここまでブルージィなフレージングって、今まであまりなかったですよね。
でも、普段家でポロッと弾いたりする時は、ブルースっぽいのがわりと多くて(笑)。ミセスではもっと違う毛色のフレーズが多いから新鮮に感じるのかもしれないですね。
だからレコーディングでは、“やってやろう”とか“こう弾いてやろう”って意識するんじゃなくて、“自分から出たありのままの音を残そう”っていう風に考えていました。その結果、いつもの自分の感じで弾けたっていうことなんですかね。
自然体のまま、“フィーリング”に任せたというか。
もうまさに(笑)。
では、最後に若井さんの今後の展望を聞かせて下さい。
柔軟でありたいなとはずっと思っていますね。自分の音楽的なルーツがロックンロールやガレージ・ロックだったりするので、それをストレートにミセスで主張すると音がケンカしちゃうので。
だったら、“ミセスの色”に最善な弾き方や音色を考えたうえで、自分のエッセンスを混ぜていきたいというか。そこは普段からずっと模索していますし、そうやって試行錯誤するのが楽しいんです。でも、わかりやすくギター・ヒーローになれる瞬間も大切にしていますよ(笑)。
そして何より、“ギターを持っている瞬間が一番カッコいいミュージシャン”でありたいと常に思っています。
作品データ
『ANTENNA』
Mrs. GREEN APPLE
ユニバーサルミュージック/UPCH-20655/2023年7月5日リリース
―Track List―
- ANTENNA
- Magic
- 私は最強
- Blizzard
- ケセラセラ
- Soranji
- アンラブレス
- Loneliness
- norn
- 橙
- Doodle
- BFF
- Feeling
―Guitarists―
若井滉斗、大森元貴