EDMやトラップのビートなども取り入れながら、常に最先端の音像を響かせてきたUVERworld。そんな彼らの新作『ENIGMASIS』は、ロック・バンド的な音像が強調された、“原点回帰”を感じさせるものに仕上がった。このアンサンブルやサウンドがどのように作り出されていったのか、2人のギタリスト、克哉と彰に話を聞いていこう。
取材/文=伊藤雅景
まず“この曲をさらに良くするにはどうしたらいいか”っていうところから考える──克哉
新作『ENIGMASIS』はどのような方向性でギターを構築していきましたか?
彰 僕らは基本的に、アルバムごとに方向性を決めることはしないんです。その時々に良いと思った音の出し方やアレンジを追求していくんです。なので、はっきりとしたテーマは設けていなかったですね。
あと、ベースの信人が送ってくれるギターの打ち込みのクオリティがめちゃくちゃ高くなってきていて。今回はそのフレーズを実際に弾きなおすことも多かったです。
信人さんが作曲したのは「ANOMALY奏者」ですよね。この曲のギター・フレーズが信人さんのアイディアなんですか?
彰 そうですね。ただ、僕らが付けている作曲者のクレジットって、あくまで“曲のきっかけを作った人”なんですよ。なので信人が作ったフレーズはほかの曲でもあります。
例えばどのフレーズでしょうか?
克哉 「ビタースウィート」のリフはそうですね。信人のアイディアをもとに、色々アレンジを加えたものが、音源になっているフレーズです。彼はギタリストじゃないから、良い意味で僕たちにない感覚を持ってるんですよ。コードとしてじゃなくて“音としてとらえている“というか。なので、コードに落とし込む手伝いはします。でも、コードに綺麗にはめ込みすぎると気持ち良さが消えちゃう時もあるので、そこのサジ加減は僕と彰で調節しますね。
まぁこれも、「ビタースウィート」に関してはそうだったっていう話で、ほかの曲では違うアプローチだったりもします。僕たちはすべてのアレンジを全員で監修しているので、その都度パズルをはめ込んでいくんです。
今作は「ビタースウィート」のように、アコギが前面に出てくるようなアレンジが増えたような印象がありました。
克哉 それは『THE ONE』(2012年)、『TYCOON』(2017年)、『30』(2021年)などでもあった流れですね。今回も“よっしゃ、アコギを弾こう!”みたいな感じではなく、曲を作っていく中で必要になったから使う、っていう考え方です。
僕らは3分半とか4分の曲でも、50通りぐらいアレンジを作るんですよ。その中で一番マッチしたものが、今回の音像だったという。
50通りのアレンジ!?
克哉 “この曲をさらに良くするにはどうしたらいいか”っていうところから、まず考え始めるんです。
で、僕の感覚で言うと、『30』を作り終えた頃から、“次はもう少しバンド・サウンド寄りな音像にシフトをしたいな”っていう気持ちがあって。簡単に言うと、シンセを減らしてみる、みたいな。それは言葉にしてメンバーに伝えたわけでもなかったんですけどね。
ホームページなどに “ロック・バンドへの原点回帰”という言葉もあったので、 最初のテーマはそこだと思っていました。
克哉 24年も一緒にバンドをやっていると、全員の感覚がけっこう似てくるんですよ。なので、“次はこうしよう”ってしっかりミーティングすることもなく、そうなったんです。曲がその方向性を呼んでいるんだと思います。
最近はPRS熱がまた復活してきている──彰
それでは、使用ギターについて聞かせて下さい。
克哉 前作から使い始めたんですが、サーのTLタイプは今回も活躍しました。それと、ヴァンザントのSTタイプも使用頻度が増えてきましたね。昔からPRSをよく使っているので、プリプロではコイル・タップでシングルコイルの音色を使うんですけど、最後にそれをサーやヴァンザントで差し替えることが多くて。
シングルコイルのギターが増えてきたんですね。
克哉 そうですね。やっと好きになれました(笑)。デビューした当時は“ハムバッカーの音=太い”と思っていたので。ここ数年で、シングルコイルの音がさらに好きになってきました。
確かにシングルっぽいジャリっとしたような音像も多いですね。例えば「Don’t Think.Sing」のイントロとか。
克哉 これは彰のギターですね。
彰 実はこれ、今回のレコーディングで唯一PRSのギターで録ったパートで。おそらくS2 Custom 24を使って録りましたね。それこそこのフレーズは、そのコイル・タップをした時の音です。ほかにも軽くファズを重ねたりしていますけど。
ファズだけの音色も裏で鳴っていますが、それもPRSということですか?
彰 いや、ファズ・パートはまた別のギターです。僕がレコーディングでメインで使う、ドラゴンフライの666ですね。レコーディングやプリプロではずっと使っているんですけど、ライブでは使わないギターです。
あと、2022年から2023年にかけて、メイワンズのギターをめちゃくちゃ買って、それもちょこちょこ使ったりしました。僕はそれぐらいですかね。
克哉さんはサーとヴァンザント以外だと?
克哉 それこそドラゴンフライの666をギター・テックに借りました。「VICTOSPIN」でドロップAチューニングが必要になって、自分の手持ちのギターでは厳しかったんですよね。
「VICTOSPIN」は2本のギターが同じ譜割りで弾くプレイが多いですが、そういった時に弾く弦や帯域を分けたりはしていますか?
克哉 イントロのパワー・コードは実は4本で録っていて。メインで聴こえるパートは4〜6弦のコードを2本重ねて、もう一方は1〜3弦のコードを2本で録っています。ストリングスを重ねていくイメージですね。
もちろんそのアプローチも楽曲によって変わっていきます。本当に曲ごとに分けて考えていますね。“必ずこうしなければいけない”みたいな考えを、なるべく僕は取り払うようにしています。
では、サウンド・メイクについても聞かせて下さい。克哉さんはライブではフラクタルを使っていましたよね。
克哉 はい。でも、レコーディングで使ったことはないですね。今回は、実機のアンプも使った曲はありますが、プラグインのアンプ・シミュレーターの割合が多かったです。
基本的にはニューラルDSPのプラグインと、STL TonesのToneHubで色々試していくんですが、最近ToneXとAmplitube 5を買って、ToneXのほうをけっこうと使いましたね。
僕はシミュレーターでも実機でも、パラメーターを細かくいじるのがそこまで得意ではなくて。なので、設定はプリセットに入っているものをちょっとイジるぐらいです。セッティングを深く追い込むよりも、色んなシミュレーターを試してハマリが良いものを探すほうが早くて。
彰さんはどんな機材を使いましたか?
彰 僕はこれと決めずに、たくさんのプラグインを試しました。いつもよく使うのは、BIAS AMPですね。それもBIAS AMP2じゃなくて、初期のバージョンをずっと好んで使っていて。ギターを練習する時も、初期のほうで自分で作ったプリセットが立ち上がるようになってるんです。
インターフェイスへの入力前につなぐペダルなどはありますか?
彰 そのあたりはめちゃくちゃラフというか、 適当(笑)。現場によってインターフェイスも変えるので。家ではユニバーサル・オーディオで、リハーサル・スタジオではMOTUを使ったりもしますしね。プラグインの音重視っていう感じです。
なんだったらワイヤレスで録る時もあるくらいで。BOSSのWL-20を持っているんですが、凄く好きなんですよ。3つくらい持ってます(笑)。
では、ペダル・エフェクターはあまり使わなかった?
克哉 最近買ったクラフトロス(CRAFTROS)のTRIDENT(オーバードライブ)っていうコンパクト・エフェクターがめちゃくちゃ良くて。「VICTOSPIN」はそれを掛け録りしています。
今、欲しい機材などはありますか?
克哉 ギターに関しては、それこそ原点に戻ってるというか。“昔の人が使ってたあれ、よく考えたら使ってみたいな”って思うようになってきたんですよ。 良いアコギも欲しいですし。そんな感じでギターの個体に対する熱が増してきたので、今後は色々増えていくかもしれないです。
彰 僕は去年からずっとメイワンズのギターにハマっていたんですが、最近はまたPRS熱が復活してきてるというか。やっぱり良いなあと思い直しているところです。テレキャスやストラトはかっちゃんに任せて、僕はPRSやメイワンズのようなモダン系のギターをもっと攻めようと思っています。
作品データ
『ENIGMASIS』
UVERworld
ソニー/SRCL-12582/2023年7月19日リリース
―Track List―
- ビタースウィート
- VICTOSPIN
- ENCORE AGAIN (feat.SHUNTO from BE:FIRST)
- FINALIST (feat.ANARCHY)
- echoOZ
- Don’t Think.Sing
- α-Skill
- two Lies
- THEORY
- ピグマリオン
- ANOMALY奏者
- ENIGMASIS
―Guitarists―
彰、克哉