田中和将と西川弘剛に聞いた、GRAPEVINEの新作『Almost there』で使用した機材とサウンド・メイク術 田中和将と西川弘剛に聞いた、GRAPEVINEの新作『Almost there』で使用した機材とサウンド・メイク術

田中和将と西川弘剛に聞いた、GRAPEVINEの新作『Almost there』で使用した機材とサウンド・メイク術

GRAPEVINEが約2年4ヵ月ぶりのニュー・アルバム『Almost there』をリリース。今回は田中和将(vo,g)と西川弘剛(g)に、レコーディングで活躍したギター、エフェクター、アンプの組み合わせや音作りについて話を聞いた。今作の滋味あふれるサウンドを生み出した機材は要注目!

取材/文=伊藤雅景 写真=藤井拓

新しいギターは使ってあげないと育たないので、なるべく弾いてあげるようにしています──田中

田中和将。手にしているのはフェンダーAmerican Original 60s Telecaster。
田中和将。手にしているのはフェンダーAmerican Original 60s Telecaster。

新作『Almost there』で使用した機材について聞かせて下さい。まずは田中さんから教えてもらえますか?

田中 アンプはフェンダーのSuper Sonicを使いましたね。ツイード(フェンダー/Blues Deluxe Reissue)も使いましたが、どの曲かは覚えていないです。限りなくクリーンに近いクランチと言いますか、完全なクリーンではないセッティングで弾きました。

エフェクターはどんなものを使いましたか?

田中 今作で比較的よく使ったのは、キング・トーン・ギターのTHE DUELLIST(オーバードライブ)っていうペダルですね。ただ、できる限りアンプ直結に近い形にしたいので、エフェクターは大体1曲につき1、2個挟むくらいでした。オーバードライブを使うこともあれば、ファズもありますし、コンプだけってことも。

 あとはドライ・ベルのVibe Machine V-2(コーラス/ビブラート)はよく使ったのと、スタッフが持っている古いRAT(ディストーション)やマーシャルのThe Guv’nor(ディストーション)も使った記憶がありますね。ファズはレナンドカフのYour Face 60sと、Z.VexのFUZZOLO、ピグトロニクスのOctava Microあたりです。

それぞれどの曲で登場したかは覚えていますか?

田中 「Ready to get started?」はYour Face 60sで、「アマテラス」のギター・ソロはピグトロニクスのOctava Microです。「Ophelia」はRATでしたね。あとは覚えていないです。

ちなみにVibe Machine V-2は「ねずみ浄土」(『新しい果実』/2021年)でも使っていますよね。

田中 ライブではそうなんですが、レコーディングではフェイザーで録っているんですよ。今はボードにスペースがないのでVibe Machine V-2で代用していて(笑)。でも、今作のレコーディングでは活躍しましたね。

 あとはコンプもいくつか使いました。復刻版のROSS Compressorやティー・エス・ファクトリーのTT-Compとかを使い分けていて。ROSSは “その音”が欲しい時”、TT-Compは“モダンなDyna Comp”みたいな印象で使いましたね。

使用ギターはどうでしょうか。

田中 いつものように青いテレキャスター(フェンダー/American Vintage 60s Telecaster)と、ストラト(フェンダー/Made in Mexico Stratocaster)をよく使いました。赤いの(フェンダー/American Original 60s Telecaster)も、もしかしたら弾いてるかもしれないですね。あとは、新しいジャズマスターも何曲かで登場しました。

2023年8月18日の渋谷Club QUATTRO公演でも使っていた黒いジャズマスターですか?

田中 そうです。比較的新しいやつですけど、『新しい果実』の時には所有していたので、3~4年前には手に入れていましたね。

ライブでは『Almost there』の曲だと「Ub(You bet on it)」などで使っていましたね。田中さんは白い65年製のジャズマスターも持っていますが、違いはありますか?

田中 白いほうは音がデカく、いなたくて、ほかの楽器とのマッチングも悪くて使いにくいんですよ(笑)。黒いほうのジャズマスターは最近の楽器なだけあって、そこのバランスが取りやすくて。ギターを持ち替えた時に、機材のセッティングを変えなくても済むというか。白だと相当変えなければならないんですよ。

最近は新しいギターをどんどん導入していますよね。

田中 そうですね。使ってあげないと育たないので、なるべく弾いてあげるようにしています。あ、あとレコーディングではエピフォンのカジノも使いましたね。

「SEX」のバッキングの音でしょうか?

田中 当たりです。この音はROSSとカジノの組み合わせですね。

「それは永遠」などで聴けるアコギは?

田中 前に使っていたギブソンのJ-50ですね。Southern Jumboはレコーディングでは登場しなかったです。

どうやらシマーってああいう使い方をするものじゃなかった(笑)──西川

西川弘剛。手にしているのはギブソンLes Paul 1956 Reissue。
西川弘剛。手にしているのはギブソンLes Paul 1956 Reissue。

続いて、西川さんの使用機材も聞かせて下さい。

西川 アンプは色んなものを使い分けていましたね。たぶんマーシャルのJCM800が一番多くて、ほかにはZinkyのコンボ・アンプも使いました。あと、メサ・ブギーのFILLMORE 100を「The Long Bright Dark」のダビングの時に借りることができたので、それで弾きましたね。

 僕は、ベーシックはマーシャルで弾いて、ダビングではアンプやキャビネットを変えることが凄く多いんですよ。そのほうがレンジが変わって聴こえやすくなるので。

ペダルはどんなものを使いましたか?

西川 ダム(D*A*M)のMEAT HEAD(ファズ)、HotCake(オーバードライブ)と、テックが作ったTS系、あとはArcher(オーバードライブ)とかも使いましたね。ファズはダムのProfessional MKIIを使ったりもしました。ディレイはほとんどBOSSのDD-500でしたね。

ちなみに「The Long Bright Dark」のエフェクティブなサウンドはどのペダルで作っているんですか?

西川 あれはDD-500です。プロデューサーの高野さん(勲/k)が“SHIMMERモードを使え!”って僕に言ってきたんです(笑)。僕はそれまで使ったことがなかったので“シマーって?”ってところから始まって。そこから音を作ってみたんですけど、どうやらシマーってああいう使い方をするものじゃなかったらしく(笑)。

劇的なサウンドですよね。

西川 原音はほとんど鳴っていなくて、弾いて1秒後くらいに“バキーン”って出てくるようなセッティングになっています。

田中 僕の知っている“シマー”ではなかった(笑)。

西川 一般的な使い方とは違うっていうのはあとから知りましたね。でも“面白いからいっか”と。

DD-500はボードにも入っていますし、ライブでの再現も可能ですね。

西川 可能なんですけど、DD-500がないとできなくなるのがちょっとね(笑)。

(笑)。歪みの話に戻りますが、ファズはダムのペダルをよく使っていますよね。

西川 そうですね。ダムのファズはほかにもいくつか持っているんですけど、基本的にはMEAT HEADとProfessional MKIIを使うことが多いですね。その2つは重ね掛けすることもあります。

2つの違いは?

西川 MEAT HEADのほうがマフっぽいですね。でも、ダムのペダルはキャラクターが似ています。ブランドの特色として、濃密なミッドがあって、凄くサステインが長いっていうか。

ライブでは、なぜMEAT HEADを使っているんですか?

西川 Professional MKIIはツマミが2つあるんですけど、ライブではツマミを曲ごとにイジったりするので、その調整が面倒で(笑)。レベルだけ(1ノブ)のほうが便利なんです。ライブ中に“あっ!”って慌てて変えないといけないこともあるので、2ノブだと厳しいんですよね。

ライブ用ボードにはMEAT HEADのほかに、ホームブリュー・エレクトロニクス(Homebrew Electronics)のファズ、Germania(ファズ)も入っています。

西川 ソロではこの2つを重ね掛けしていますね。Gainツマミは10時くらいなんですけど、このくらいで十分です。ぐっとミドルに集約されて、さらによく聴こえるようになります。

メインのオーバードライブはどのペダルでしょうか。

西川 HotCakeかArcherですね。Archerはミドルに寄る感じで、HotCakeはもっと上が激しく出て、派手な音がします。でも、どっちも大して歪ませてはないです。ブースターとしてしか使わないというか。普通のソロを弾く時には、そこにTS系を重ねたり、TS系だけだったりもします。前後の順番はその時々で入れ替わりますね。

 歌のうしろで弾くアルペジオのクランチはHotCakeが多くて、設定はLEVELが13時、DRIVEが10時くらいです。で、歪みが多い時はギター本体のボリュームを絞っています。手元をフルにすることはあまりないので。

ギターは何を使いましたか?

西川 ほとんどギブソンのLes Paul 1956 Reissueでしたね。あとはたまにSG(ギブソン/SG Standard ’61)やテレキャスター(フェンダー/American FAT Telecaster)も使いました。ちょっとハードめな音の「雀の子」はSGでしたね。

 あと、「停電の夜」では田中君にエピフォンのカジノを借りて弾きました。あのカジノはびっくりするくらいチューニングが狂わない素晴らしいギターでした(笑)。ちゃんと調整されているんでしょうね。普通、2テイクも録ればずれてくるんですけど。

田中 ちなみに僕の新しいジャズマスターも全然狂わないんですよ。最近のギターって凄いですね。

西川 良いテイクでもチューニングが微妙で録り直すこともあるので、狂わないっていうのはそれだけで素晴らしいことですよね。僕のギターはどれもすぐ狂う(笑)。たぶん調整する人がちゃんとしているんじゃないかなと。

田中さんのギターはどこで調整しているんですか?

田中 僕はスリーク・エリート(東京都杉並区の工房)です。PLEKがあるところですね。そのPLEKで調整してるんですが、やっぱり凄いですよ。

 ちなみに、フェンダーのマスター・ビルダーが作ったギターをPLEKにかけると、完璧な状態らしいです。そこの工房の人は、そういう“さすがマスター・ビルダーだ”って話をいつも聞かせてくれます(笑)。

作品データ

『Almost there』
GRAPEVINE

『Almost there』
GRAPEVINE

ビクター/VICL-65875/2023年9月27日リリース

―Track List―

  1. Ub(You bet on it)
  2. 雀の子
  3. それは永遠
  4. Ready to get started?
  5. 実はもう熟れ
  6. アマテラス
  7. 停電の夜
  8. Goodbye, Annie
  9. The Long Bright Dark
  10. Ophelia
  11. SEX

―Guitarists―

西川弘剛、田中和将