シンセ・ギターPG-300やデジタル・ギターDG-1など、先進的なプロダクトを世に放ってきたCASIO。現在はキーボードを中心とした楽器事業を展開しているが、今回クラウド・ファンディング・プラットフォームのGREEN FUNDINGにて新たなギター関連製品が発表された。
その名もDIMENSION TRIPPER。ギターとストラップの間に装着し、ギターを下げてシャフトを伸ばすことでエクスプレッション信号を送出できるというワイヤレス・エフェクト・コントローラーだ。
その開発経緯について、担当者の藤井令央氏と小林亮平氏に話を聞いた。
取材・文:今井悠介 写真:八島崇(人物写真を除く)
DIMENSION TRIPPER
開発者インタビューの前に、ワイヤレス・エフェクト・コントローラー”DIMENSION TRIPPER”を構成するCPP-001-s(送信機)とCPP-001-e(受信機)を紹介しよう。
CPP-001-s (送信機)
DIMENSION TRIPPERの送信機となるCPP-001-s。ギターとストラップの間に装着する。ギターを押し下げてシャフトを伸縮させることでエクスプレッション信号をコントロールすることが可能。シャフトの伸縮強度は調整できる。受信機のCPP-001-eとはBluetoothで接続でき、ワイヤレスで動作可能だ。電源ボタン、信号の極性切り替え/ペアリング・ボタン、ホールド/キャリブレーション・ボタンが備わっている。
※製品デザイン、機能は今後のアップデートで変更になる場合があります。
CPP-001-e (受信機)
受信機のCPP-001-e。2系統のアウトを備え、外部エフェクターのエクスプレッション・インに入力することで、そのエフェクターのパラメーターをDIMENSION TRIPPERで操作できる。フット・スイッチではアウトの切り替えと信号のホールドが可能。そのほか、信号の最小値設定、内部ポットとTRS端子の接続タイプの切り替え、ラッチ/モーメンタリー動作の切り替え、信号の極性切り替えも行なえる。
※製品デザイン、機能は今後のアップデートで変更になる場合があります。
また、DIMENSION TRIPPERでエフェクターを操作する様子は、次の動画で確認できる。
開発者インタビュー 小林亮平 × 藤井令央
デジタル技術で動くBベンダーが発想の原点。
まずは開発経緯を教えて下さい。
藤井 開発者が顧客価値を提案できるようになるためのエンジニア教育プログラムというものが社内で2020年にスタートしました。DIMENSION TRIPPERはその第1号のプロダクトなんです。事業として始めたものではなく、まだ実験段階でもあるため、クラウド・ファンディングで製作を行なっています。
デジタル・ギターのような製品を復刻するのではなく、エフェクト・コントローラーになったのはなぜでしょう?
藤井 ギター自体をデジタルに置き換えるのではなく、オーセンティックな部分は残しつつ、CASIOのデジタル技術を活かせるところを考えた結果、エフェクターをワイヤレスで操作できる機器を考えつきました。
また、カントリーで使われるBベンダーにもともと憧れがあったのですが、ギター自体を改造しないといけなかったりとなかなか手が出せずでして。でもDIMENSION TRIPPERのようなデジタル機器であれば自分でも取り組めそうだと考えたのが出発点でした。
足下で操作するエフェクターは観客から見えにくいですし、DIMENSION TRIPPERならパフォーマンス的にも面白いものになると思ったんです。
最初から藤井さんと小林さんの2人で開発を進めていたのですか?
小林 いえ、最初は藤井だけでした。2021年くらいから僕も参加するようになり、おもに電気系統などのシステム面を藤井、設計や機構は僕が担当しています。僕が参加する前は藤井が手作りで試作機を完成させていたんです。
藤井 試作機第1号は、子どもが持っていたスライド式の箸入れを使ったものでした。中に輪ゴムを取り付け、箸入れのフタを引っ張ることで信号が送られます。この頃から機構自体はほとんど完成していたんです。
伸縮の動きがあるからこそ直感的な操作ができる。
製品としてブラッシュアップする中で課題となった点はありましたか?
藤井 やはり引っ張るという機構上、耐久性が問題になりました。試作機の段階では輪ゴムを使っていたのでどうしても壊れてしまって。最終的にはスプリングを採用したシャフトになり、耐久性と使用時の荷重感を考慮しながら調整しています。その加減を詰めていくのが難しいポイントでした。
小林 ギターの種類によって重さも変わってきますし、重いギターだとコントローラーが勝手に反応してしまうこともあり得たので、シャフトのテンションを調整できる仕組みを取り入れています。
第1号から今の試作機の間にも試行錯誤があったのでしょうか?
小林 いくつかプロトタイプがあります。僕が参加し始めた第2号では少しコンセプトが変わり、スピーカーとエフェクトを内蔵したモデルになりました。しかし筐体が大きくなってしまいますし、お気に入りのエフェクターを操作できたほうが良いだろうと、この案はボツにしたんです。第3号ではゴムやスプリングで伸びる機構ではなく、センサーで荷重を検知するシステムを採用しました。
テクノロジーとしてはそのほうが現代的ですね。なぜ採用しなかったのでしょうか?
小林 様々なギタリストの方にテストしていただいたところ、“伸びる”という機構と見た目がけっこう重要だという話になったんです。例えばトレモロ・アームも、あの動きがあるからこそ直感的に操作できるんですよね。筐体が小さくなるのでセンサー式にしてみましたが、演奏者の目線では最初の伸びるコンセプトのほうが良いということに気づきました。
現在の試作機では、2系統のアウトがあったり信号のホールドができたりと、さらなるアップデートが施されていますね。
藤井 たくさんのエフェクターを駆使する方は多いですし、つなぎかえずとも使えるように配慮して2系統のアウトを用意しました。信号のホールドは、ペダルの半踏み状態のようなことができたり、コントローラーの不要な反応を防ぐロック機能としても使えるんです。
DIMENSION TRIPPERに興味を持った読者にメッセージはありますか?
藤井 僕らもまだDIMENSION TRIPPERの使い方を模索している段階です。ぜひクラウド・ファンディングでご支援いただき、DIMENSION TRIPPERを手に入れて自分なりの使い方を見つけていただきたいです。
DIMENSION TRIPPERの支援はGREEN FUNDINGから!
GREEN FUNDINGにDIMENSION TRIPPERの製品ページが掲載中。オール・オア・ナッシング方式での募集となっている。今後正式な製品化は未定であり、確実にDIMENSION TRIPPERを手にしたい方はぜひクラウドファンディングで支援しよう。
『DIMENSION TRIPPER』プロジェクト(募集サイト)
https://greenfunding.jp/lab/projects/7737