DURANが新作『Electric Man』で目指した、ロック・ギタリストとしての“次のステージ” DURANが新作『Electric Man』で目指した、ロック・ギタリストとしての“次のステージ”

DURANが新作『Electric Man』で目指した、ロック・ギタリストとしての“次のステージ”

DURANの3rdソロ・アルバム『Electric Man』は、アヴァンギャルドなアプローチが満載の1枚。ここで聴くことができる刺激的なリフ、アグレッシブなサウンドは、新しいギターがもたらしてくれたようだ。不動のメインであったストラトキャスターから新たな武器に持ち替え、ギタリストとしてのネクスト・ステップへと踏み出したDURANに、今作のギターについてたっぷりと語ってもらおう。

インタビュー=福崎敬太 撮影=大谷鼓太郎

ロック・ギターは“歪み”であり、“リフ”なんです

今作『Electric Man』は様々なパートが歪んでいますね(笑)。

 もう全部歪んでいますね(笑)。ギター以外の楽器もプリンストンでリアンプして、それをマイキングしたりしています。

 ずっと前からですけど、特にここ最近、“歪んだギターがダサい”と思われたり、食わず嫌いみたいな傾向にある。でも僕の中では、ロック・ギターは“歪み”であり、“リフ”なんですよね。だから振り切っていこうかなって思って。

 やっぱり歌メロよりもリフが先行していくロックで育ったので、それを前面に出したキャッチーなロック・アルバムにしたかったというのはありました。

ギターに関するテーマは何かありましたか?

 毎回作品を作るたびに“今までにない自分が出たら良いな”って思って、自分の中での挑戦をしてきたつもりなんです。

 僕はだいぶ長い間ストラトキャスターを使ってきましたけど、やっぱりストラトを弾くと、同じようなフレーズになるんですよね。今回はそれとはまったく違うものを作りたくて、アディクトーンのシグネチャー(DURAN signature Leo-Mod: Undertaker)を使ったんです。

 そうしたら、今までの自分にはなかったようなフレーズがたくさん出てきて。完成した作品を改めて聴いてみても面白かったですね。

Addictone/DURAN signature Leo-Mod: Undertaker
Addictone/DURAN signature Leo-Mod: Undertaker。1ボリュームでトーン回路はなし。ボリュームの下にキル・スイッチと専用の鍵で作動するキー・スイッチを装備。キー・スイッチを回すと、キル・スイッチの機能が“押している時だけミュート/押している時だけ出力”を切り替えることができる。

「Sapient Creature」や「Real Eyes」のキル・スイッチを使ったアプローチは、新しいギターならではのプレイですよね。

 今まではキル・スイッチ的なギミックは足下でやっていたんです。それをギターでもやれたらと思って付けたんですけど、もう今では定番になりましたね。

ビグスビーが付いているのもDURANさんにとっては新しいです。でも、ストラトキャスターのアームは使ってこなかったですよね?

 そうですね。ストラトキャスターのアームは見た目があまり好きじゃないっていうだけで(笑)。でもビグスビーはカッコ良いし、昔から憧れがあったんですよ。

今作はノイズ・ミュージック的なアプローチをDURANさんのロックな語法で表現しているような印象を受けました。そういったジャンルで影響を受けたアーティストはいるんですか?

 スリープっていうバンドとか。あとはBorisも知人をとおして仲良くさせてもらうようになって、改めて聴くようになって。ほかにも、ブレインボムス、スロッピング・グリッスル、ミカ・ヴァイニオあたりも好きですね。

今作の作曲や制作はどのように進めていきましたか?

 僕の母親が山梨で経営しているライブ・バーに、自分で買いだめしていたマイクやレコーディング機器を全部持っていって、合宿して作りながら録っていきました。前からそういう録り方をしてみたかったので、僕的には凄く楽しめましたね。都内だと時間が決められてしまうじゃないですか。

前作『Kaleido Garden』だとバンド録音は4日間ほどで済ませたと言っていましたね。

 そうなんですよ。だから今回は、自分たちでマイキングをしたり、色々と実験ができました。

“良いトーンで良いフレーズを弾く”の次を考えている

今作のギターは、起承転結があるようなソロはあまりないですよね?

 今までだったら渋めな感じで、ベンディングから入りがちだったんですけど、そういうのは避けようと思って。ギュイーンって入ってくるより、グリッチで入ってくるとか、そういうアプローチをしたかったんですよね。

それは何かきっかけがあったんですか?

 “次の段階にいきたい”っていうのがあったんです。自分に飽きてきてた、というか。

 “良いトーンで良いフレーズを弾く”って当たり前のことだと思っていて。その次のことって考えていく中で、サウンド面でのアプローチにつながっているんだと思います。

そういった音色のアイディアは、機材を色々と試していく中で生まれてくるんですか? それとも音のイメージがあって、それを再現できる機材を探す?

 ベースとムーグとドラムだけのホワールウィンド・ヒート(Whirlwind Heat)っていうバンドがいて、そういうのを聴いているんですよ。シンセやオシレーターを使うバンドも好きなので、そのあたりのアプローチが自分の中にあるんです。オシレーターは音程っていう概念もない感じなので、面白いんですよ。

たしかに今回はオシレーターやムーグも使っていますが、ギターのサウンドと同じ方向を向いている感覚がありますね。

 そうですね。逆にギターの間奏とかもわりとその方向に引っ張られているのかもしれない。“今までにない自分を出そう”と思っているのが、そういう面に出てくれたのかなっていう感覚もあります。

“オシレーターの音程のなさ”は今作のギターにも感じるところがあります。それはコードやスケールとは違う次元にあるものだと思うのですが、どう考えているんですか?

 ここのところなんか、そのまま音を弾くっていうのが恥ずかしくなっちゃって。

え、どういうことですか(笑)?

 ドって言ってドをそのまま弾くのが恥ずかしいんですよ。だから半音ズラしてちょっとアンニュイな、平均律にないところを狙ったり。あえてグニャグニャにしているんです。

 っていうのもブルース・アルバム(『30 Scratchy Backroad Blues』/2024年3月13日発売)を作ろうとなって、よりルーツ・ミュージックを聴くようになったんです。あの時代の音楽はチューニングもグチャグチャだけど、その良さが最近よりわかるようになってきたんですよ。そこには凄く影響されていると思います。

ブルースからの影響でこの音になるって凄いですね(笑)。

 あはは(笑)、たしかに。でも、あの定まっていない感じのところにいたいんです。どうしてもギターがうまくなればなるほど、ちゃんとしていっちゃうじゃないですか。そっちの“うまい方向”にいきたくなかったというか、もうちょっと“真似ができない”、“どうやったらこれ弾けるんだ?”っていうところにいきたいんです。

DURAN

踏むんだったら“いききっているファズ”

楽曲について個別に話を聞かせて下さい。まず落語の演目「死神」をフィーチャーした「Shinigami」ですが、説教をサンプリングするブラックミュージックの日本版、という印象を受けました。

 そうかもしれないですね。なんか落語からはブルースを感じるんですよ。ストーリーテラーじゃないですか。ルーツ・ミュージックってストーリーテリングっていう側面もあるから。それもあって、落語で何かをやってみたいっていうのは前から考えていたんです。

立川談慶さんの語りをサンプリングして作っていったんですか?

 いや、先にジャムって作った音源を送って、“この中でやって下さい”ってお願いしましたね。で、ジャムも長めにしていたので「死神」をまるまるやってくれて、30分くらいになってしまったんですよ(笑)。長すぎるからまいったなって思って、“死神目線”の部分だけ切り取って構成していったんです。

「Real Eyes」ではワウも使っていますが、あれはトーキング・モジュレーターのような使い方ですよね?

 そうですね。その辺も今までだったらファンキーにいっちゃうところだったけど、もうちょっとモジュレーションみたいな使い方をしてみようと。

「Electric Man」はギターのノイズだけでビートを作っています。

 今作は録りながら音を作っていったので、そこに残っていたサウンドチェックみたいな音源を適当に切り刻んで、エイブルトンのパッド(Push)でリズムを作っていきました。この曲だけ唯一プログラミングですね。

「8 Legs, 7 Sins」の途中でピッチダウンしていくところは、音程も下がっていきますが人力ですよね?

 そうですね。(ゲームチェンジャー・オーディオの)Bigsby Pedalでやっています。ベースもBigsby Pedalで下げていって。あれは基本トラックを、ギター、ベース、ドラムで同時に録っていったから、かなり頑張りましたね。

どういったところからこのアイディアが生まれたんですか?

 セッション感をもって発展していく曲が欲しかったんです。それで、テンポを落とす時にDJの人がフェーダーを下げていくやつを、ロック・バンドらしく人力でやろう、って(笑)。

使用機材についても教えて下さい。活躍したギターは?

 アディクトーンのシグネチャーがメインで、バウム・ギターズっていうデンマークのブランドのWingmanは「Moldy Chips」と「2AM Love’s Code and Law」で使いました。バウムはビザールっぽい形で、モダンな使い方ができる。けっこう気に入っていますね。

 シグネチャーはローズ指板のものも使っていて、「Too Late, You Waste」ではストラトキャスターも弾きました。

今作はファズがかなり重要だと感じますが、何が活躍しましたか?

 ゲームチェンジャー・オーディオのPlasma CoilとPlasma Pedalは使いましたし、Fuzz Faceは当然。アンプを2台で鳴らしていたので、1台はFuzz Faceでもう1台はBig Muff、みたいに混ぜたりしています。「Moldy Chips」とかはまさしくそういう感じです。

振り切ったファズの使い方が多いですが、どういったことを意識しましたか?

 音楽にはブームや波があって、今って“聴き心地が良いファズ”が多いと思うんです。製品としてのファズ・ペダルも、“やりやすくしたものが増えているな”っていう個人的な印象があって。

 だからこそ、踏むんだったら“いききっているファズ”が良くて、わりとエグいペダルを使っていますね。

では最後に次作について少し教えて下さい。先行で出ている「Jojo’s Echo Blues」は少しジャジィな感触もありますね。

 1920年代とか戦前のブルースがけっこう好きなので、アルバム全体はルーツ・ブルース寄りな感じになっています。なので、ほとんどアコースティックです。一応エレキのブルース・ロックも少し入っていますけど、そっちは今まで自分がやってきたスタイルですね。

“The Venomous Rift in Humanity Tour”

日程/会場

  • 2024年1月18日(木)/Le Yéti, Lille(フランス)
  • 2024年1月21日(日)/Couleur Café, Arras (フランス)w/ Le Réparateur
  • 2024年1月24日(水)/Aux Enfants Terribles, Marquette-lez-lille(フランス)
  • 2024年1月27日(土)/Joe Tex, Lille (フランス)
  • 2024年2月3日(土)/Amul Solo, Lille(フランス)
  • 2024年2月18日(日)/宇都宮 Heaven’s Rock 
  • 2024年2月23日(金)/名古屋 LIVE&BAR SlowBluse
  • 2024年2月24日(土)/大阪 TWINREVERB
  • 2024年2月25日(日)/神戸 PUB CHELSEA
  • 2024年3月20日(水)/金沢 Jealous Guy
  • 2024年3月21日(木)/長野 柴崎
  • 2024年3月23日(土)/渋谷 B.Y.G

※情報は記事公開時のものです。最新のチケット情報や公演詳細はDURAN公式HPをチェック!

DURAN公式HP https://duranguitar.com/tour/

作品データ

『Electric Man』
DURAN

Electronic Gospel Records/DRNC-2301/2023年11月29日リリース

―Track List―

  1. Raging Fire
  2. Shinigami
  3. Moldy Chips
  4. Sapient Creature
  5. Sweet Piñata
  6. 8 Legs, 7 Sins
  7. Electric Man
  8. Real Eyes
  9. Shades Of Night
  10. Ainotameni
  11. 2AM Love’s Code and Law
  12. 12. Too Late, You Waste

―Guitarist―

DURAN

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