シンガーソングライター“ももすももす”の新作『白猫浪漫』には、前作『彗星吟遊』に引き続き、ギタリストとして弓木英梨乃が4曲で参加。そのギター・アレンジはキャッチーでありながら、一筋縄ではいかない緻密さも兼ね備えている。今回はこの2人による特別ギター談義をお届けしよう。ちなみにインタビュアーである筆者は、ももすももすのライブ・サポートでギタリストを務めており、弓木によるフレーズのコピーでいつも四苦八苦。せっかくなので、サポート・ギタリストとしての立場からもいくつか質問をしてみた。
取材/文=伊藤雅景 写真=井之口聡
「6を撫でる」と「エソア」のギター・アレンジはほぼ弓木さんにお任せしました──ももすももす
実は私は、ももすももす(以下ももす)さんのライブでサポート・ギタリストをしていまして、スタジオ盤の弓木さんによるギター・フレーズをかなりコピーしてきたんです。なので今回は、その立場からの質問もいくつかさせて下さい。ではまず、弓木さんがももすさんのレコーディングに参加したきっかけから聞かせてもらえますか?
弓木英梨乃 ももすさんのプロデューサーさんとは昔からお付き合いがあるんですけど、その方にお声がけいただいたのがきっかけですね。
ももすももす 初めて弾いてもらったのは『彗星吟遊』(2020年)のレコーディングだったと思います。
緻密なギター・アレンジが多いですよね。特に「隕石」は、弓木さんのギター・リフで曲の世界観が広がっているというか。
ももす 「隕石」のレコーディングには取材が入ってしまって立ち会えなかったんですが、録音を聴いたら2サビ前に隕石が落ちてくる音みたいな“ピピピピピピ”っていうフレーズが追加されていたんですよ。“弓木さん、凄い!”って思ったのを覚えています(笑)。
弓木 そうだったんですね! 嬉しい。そんな風に思っていただいて。
その当時、弓木さんが弾くギターにどういった印象を受けていましたか?
ももす 弓木さんの芯の強さというか、内なるものだったり性格がプレイに出ていると思いました。それに、私はそんなに知ってるわけじゃないんですけど、言葉遣い、性格、声……全部好きです。
弓木 本当ですか(笑)。ありがとうございます。
弓木さんはももすさんの楽曲を聴いて、どう感じましたか?
弓木 最初は、ももすさんがアレンジしたギターのトラックを、私がスタジオで弾き直すという形のレコーディングが多かったんですが、その時点で凄く完成度が高いなと感じていて。それに、ももすさんは全部のパートを自分で考えているので“アレンジもできて曲も書いていて凄いな。どんな人なんだろう?”って思っていました。
ももす 嬉しい(笑)。
新作『白猫浪漫』で弓木さんが参加した楽曲は「エソア」、「6を撫でる」、「犬飼いたい」、「僕のなかの悲しみ」の4曲です。ギターのアレンジはどのように進めていったのでしょうか。
弓木 最初に録った曲は「僕のなかの悲しみ」で、私がマレーシアに留学する前にスタジオでレコーディングしたんです。そのほかの曲は私がマレーシアに渡ってから録ることになったので、データのやり取りで進めていきました。ももすさんからの“もうちょっとこうしてほしい”っていうリクエストをメールで聞いていた感じですね。
ももす 「6を撫でる」と「エソア」のギター・アレンジは、ほぼ全部を弓木さんにお任せしました。弓木さんに弾いてもらえば絶対に良いギターになるだろうから、自分の“こうやって下さい”っていうのは1割くらい……。
弓木 (笑)。特にその2曲はギターがメインの楽曲なので、弾いていて凄く楽しかったです。
2曲とも、LRでのギターのかけ合いがありますよね。
弓木 ももすさんと制作を進めるうちに、そういったテイストが好きなのかなと思ったんです。「6を撫でる」は、最初はもっとシンプルなフレーズで送ったんですよ。そうしたら“もうちょっと派手なものを入れてほしい”とリクエストをもらって。
ももす このアレンジはめっちゃ好きです! あと、ラスサビのギター・ソロがめちゃめちゃカッコよくて。
弓木 このソロ、最初はアウトロだけしか弾いていなかったんですけど“これ、サビから始めてもらえますか?”みたいな感じで言われた気がします。
メロディの裏で自由に弾き続けるアプローチが新鮮でした。一方「エソア」は、イントロやインターでくり返されるテーマ・フレーズの印象が強烈です。
弓木 よかったです。このギター、難しいですよね。最初はインターにはフレーズが入っていなかったんですけど、ももすさんから“ここにも入れてほしい”っていうオーダーがあって。
ももすももす そうですね。
「エソア」は、イントロ、インター、アウトロ、ソロのすべてにテーマ・フレーズが入っていて。
弓木 いま、伊藤さん(インタビュアー)が一番詳しい(笑)。
弓木さんが弾いている曲は、ギターのパラデータをもらって練習していますから(笑)。
弓木 えっ! やめて下さいよ(笑)。私も全然弾けなくて、500回くらい録り直していたり……。それをライブは1回で決めろなんて大変ですね(笑)。
戦慄しましたね。しかもトラック数もギターだけで23トラックと膨大で……。
ももす パラデータをバンド・メンバーに送ると、ギターのパラデータだけめっちゃ多いから、(伊藤)雅景だけ腰を抜かすっていう一連の流れができています(笑)。
弓木 1本だけのシンプルなバッキングだけで完結する曲もたくさんありますが、ももすさんは“ギターでこの曲をアレンジしたい”と言ってくれるので、こういうトラック数になったんだと思います。そういうことをやらせてもらえるのは、やっぱりギタリストとして凄く楽しいし面白いので、感謝しています。
ももすさんのギターは“どのフレーズにも意味があるな”っていつも思うんです──弓木英梨乃
データのやり取りで制作を進めていったとのことでしたが、弓木さんのレコーディングはDTMがメインだったのでしょうか?
弓木 そうです。Logicに入っているプラグインを使って録りましたね。曲ごとに使ったモデルは忘れちゃいました。
Logicのプラグインのみで完結しているとは驚きです。
弓木 自分の曲のギターを録る時も、Logicの中のプラグインしか使っていないんです。個人的にはこれで全然十分って思うんですけど(笑)。
ももす かっこいい~!
弓木 (笑)。
音色を作る時に、どういったポイントを意識しましたか?
弓木 ももすさんがメロディと歌詞を書いているので、ギタリストっぽいギターっていうよりかは、歌のようなギターが多かったりするんです。“そのギター・フレーズがないと曲の雰囲気が出ない”というものが多いし、“どのフレーズにも意味があるな”っていつも思うんですよ。
なので、“ももすさん、こういうの好きかな”とか“ももすさんのバンド・サウンドでロックな感じだったら、こういう音作りかな”ってイメージしながら考えていましたね。
あと、ももすさんの曲をコピーしてるうちに“こういうギター・サウンドが合うだろうな”みたいなのが、体に染みついてきているのかもしれません。
なるほど。確かにメロディ・ラインが独特なフレーズも多いです。ももすさんはどういった方法でギター・フレーズを考えていますか?
ももす ギターでリフを作る時もあるし、ピアノを使う時もありますね。作曲の最初の段階では、ギターでバッキングを考えて、ピアノでリフを作ったりすることが多いかもしれないです。
弓木 歌ってるメロディって感じですよね。
ももす 嬉しいです。
ももすさんの曲はギターが何本も重なっていることも多い印象です。
ももす 自分が王道の声じゃないので、“色んな音を混ぜたほうが自分の歌声が映えるかも”と思って増やすことが多いんです。自分の声って服で例えるとワンピースとかじゃなくて、下着とか……(笑)。
そんな感じで、“上にもっと重ねなきゃいけない声”なんじゃないかなと感じていて。自分でも色々と試行錯誤してるんです。
弓木 でも、ももすさんの声って、とても可憐に聴こえるんですけど、「エソア」のような重たい演奏の曲でも抜けて聴こえてくるんですよ。凄い柔らかいんだけど、ああいうロックな曲でも“パン”って聴こえてくるから、唯一無二の声なんだなって思います。
では、レコーディングで使ったギターについて聞かせて下さい。弓木さんは?
弓木 「エソア」と「6を撫でる」はフェンダーのストラトキャスター(American Ultra Stratocaster HSS)を使いましたね。私はクリーンも歪みもセンター・ピックアップで弾くのが凄く好きなんですよ。なので、基本はセンターで録っていますね。
じゃあ、ほぼこの1本で。
弓木 これだけですね。このギターはライン録音でも凄く綺麗な音が鳴ってくれるので、どんな曲でもメインで使ってます。
トラックごとにギターを変えたりは?
弓木 変えることもあるんですけど、ももすさんの曲ではほとんど変えていないですね。昔は変えるべきっていうか、“ソロは絶対ハムバッカーで、バッキングはシングル・コイルで”みたいなこだわりがあったんですけど、最近は“変えなくても全然いけるじゃん”みたいに思って(笑)。
ももすさんの使用ギターも教えて下さい。
ももす 実は今日持っているレス・ポールは一回も登場していなくて。今作では、フェンダーのストラトキャスター(American Professional Stratocaster)を使っていました。で、私も弓木さんと同じでリードとバッキングでギターを変えていなくて。全部そのストラトキャスターを使っています。
「アネクドット」のMVでは、赤いテレキャスター(フェンダー/American Original ’60s Telecaster)も持っていましたよね。
ももす あのギターは自分の声に合わなくて、最近は使っていないんです。ギターと声のシャキシャキ感が、なんというかレタスとキャベツを食べてる……みたいな感じになって。
弓木 わかりやすい(笑)。
なるほど(笑)。では、今作で聴けるギターの音色は、ほぼストラトキャスターの音色ということになりますね。
ももす そうですね。
自分も、ももすももすのライブではストラトキャスターを使おうと思っていますよ。
ももす 結局みんな、ストラトキャスター。
弓木 そうなりますよね(笑)。
ありがとうございました。最後に、このアルバムの聴きどころを教えて下さい。
ももす それを聞くのは野暮ですね……。心で聴いて下さい(笑)。
(笑)。では、弓木さんには今作の参加楽曲をコピーする時のコツを聞かせて下さい。
弓木 私がギターをコピーする時は、ギターだけを集中して聴かずに曲を俯瞰的に見て“この小節だけはこのフレーズがよく聴こえてくるよな”っていう大事な部分を弾くようにしてます。だから、曲を聴いてまず“どこがおいしいかな?”っていう部分を見つけるのがいいのかなって思います!
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LIVE INFORMATION
ももすももす
ワンマンライブ追加公演
『矮星遊戯』
日程
2024年2月27日(火)/下北沢CLUB251
チケット
プレイガイド:
イープラス https://eplus.jp/sf/detail/3100740001
作品データ
『白猫浪漫』
ももすももす
ソニー/ESCL-5888/2023年11月29日リリース
―Track List―
- 十二単と猫と宇宙。
- エソア
- 6を撫でる
- 猫とメリケンサック
- まともじゃないのがちょうどいいの
- 怪傑ヒロイン☆
- 僕のなかの悲しみ
- 宵待花
- UKINE
- 曖昧模糊
- 犬飼いたい
- 植物戦争
- エソア -Ballad ver.-
―Guitarists―
ももすももす、弓木英梨乃、真部脩一、ナカシマ、田口華也奈