富樫ユイが語る、downtの新作『Underlight & Aftertime』で“ギターの立体感”を生んだ、こだわりのマイキングとアンプ選び 富樫ユイが語る、downtの新作『Underlight & Aftertime』で“ギターの立体感”を生んだ、こだわりのマイキングとアンプ選び

富樫ユイが語る、downtの新作『Underlight & Aftertime』で“ギターの立体感”を生んだ、こだわりのマイキングとアンプ選び

オルタナティブなサウンドで、エモやインディー・ロックを内包した独自の音像を作り上げる3ピース・バンド、downt。今回は彼らが2024年3月にリリースした新作『Underlight & Aftertime』のサウンド・メイクについて、ギター・ボーカルの富樫ユイに話を聞いた。こだわり抜いた機材選びと、立体感のあるサウンドを生んだマイキングの妙とは?

取材/文=伊藤雅景 機材写真=本人提供

“面白そう”っていう感覚を大切にした

downt。写真左から、河合崇晶(b)、富樫ユイ(vo,g)、テネール・ケンロバート(d)。
downt。写真左から、河合崇晶(b)、富樫ユイ(vo,g)、テネール・ケンロバート(d)。

今作『Underlight & Aftertime』のサウンド・メイクのこだわりについて聞かせて下さい。冒頭の「underdrive」では、過激なディストーションのリフが印象的でした。

 この曲は、脳死で攻撃的になれるような感じの音にしたかったんです。BOSSのディストーション・ペダル(DF-2)が、良い意味でかっこいい音ではない、間抜けでおもちゃみたいな質感だったんですよ。DF-2を鳴らすと、初めて歪みペダルを買って、アンプで音を鳴らした時の気持ちを思い出しますね。ちなみに、DF-2を使ったのは「underdrive」だけです。

「煉獄ex」もディストーション寄りなサウンドだったので、DF-2を使ったのかと思いました。

 「煉獄ex」はFINE OD(オーバードライブ)を使いましたが、この曲はペダルの音というよりも、アンプの力が凄かったですね。

どんなアンプを使ったんですか?

 「煉獄ex」では、レコーディング・スタジオで借りた、70年代のセルマーのヘッド(Treble N Bass 50 SV)とマーシャルのキャビネットのセットと、ディアルモンド(DeArmond)のコンボ・アンプ(R5)の2台を鳴らしました。

レコーディング・スタジオで借りたアンプ

今作は、ギターの立体感が凄く感じやすいです。

 マイキングを凄くこだわったんですよ。「煉獄ex」で言うと、合計で4本のマイクの音がミックスされていて。セルマーに2本、ディアルモンドに1本、離れた場所にルーム・マイクを置いていました。イメージで言うと、右はブライト、左はダークめな感じにして、ルーム・マイクで奥行きを出す感じ。これはエンジニアの君島(君島 結/ツバメスタジオ)さんが教えてくれたやり方ですね。

左右でダブルで鳴らしているのかと思いました。

 3ピース・バンドのギターの音が、左右で違うフレーズで鳴っているのが好きじゃなかったんですよ。どっちを聴いたらいいのかわからないし……。ギター・ソロの時はバッキング・ギターが鳴っていてもいいと思うんですけど、私はできるだけ1本のギターでやりたかったんです。

 ダブリングすると音圧は上がりますが、今回の作品で目指したいサウンドはそこではなくて。なので、違う方法で立体感が出るように試行錯誤しました。とりあえず、“なんか面白そう”っていう感覚を大切にして録りましたね。

特に「Whale」のイントロのギターは、マイキングの具合で立体感が演出されているのかなと思いました。

 奥行き感がいやらしくないですよね。好きです。

では、歪み感を作るうえで活躍した機材を聞かせて下さい。個人的にはアンプのクランチ・サウンドが多いのかなと思いました。

 そうですね。ほとんどアンプです。特に、エメリー・サウンド(Emery Sound)のSuperbabyが凄く良かったですね。「紆余」とかで使ったんですが、このヘッドの、ボリュームを上げた時の歪み感が凄く良くて。セルマーのヘッドとマーシャルのキャビネットの途中にSuperbabyをつなげて録っていました。

写真上がエメリー・サウンド(Emery Sound)のSuperbaby。
写真上がエメリー・サウンド(Emery Sound)のSuperbaby。

シルバートーンやフェンダーはどの楽曲で登場しましたか?

 全部は覚えていないんですけど、「AM4:50」とかはシルバートーンで録りました。「111511」はフェンダーだったかな。ディアルモンドは「煉獄ex」と「13月」ですね。一番多かったのはセルマーだったと思います。

「13月」のソロではファズも登場しますが、ここの音色は?

 ツバメスタジオで借りたElectro HarmonixのGraphic Fuzzの音ですね。ソロ以外はペダルを使ってないです。この曲のクリーンは、ディアルモンドを歪ませた状態で、優しいタッチで鳴らしています。「紆余」のクリーン・サウンドも、そういう作り方でした。

「111511」などのクリーン・サウンドにも言えますが、キラッとしつつもベースの帯域に近いローも出ていて、低域の絡み方が絶妙だと感じました。

 確かに、低音はベースと補いあっている部分があるかもしれないですね。ベースが中心にあって、ギターとドラムをつなげてくれる存在になってると思います。

そこは意識していたわけではなかったんですね。

 私が出したいギターの音色を作ったらそうなったかなと。あと、今作はギターのレコーディングが終わったあとにベースを録っているので、そこも関係しているかもしれません。

ちなみに、今作はフィードバックを鳴らしている曲も多いと感じました。“カッコ良いフィードバックを鳴らすコツ”などがあったら教えて下さい。

 コツとかはないです。感じる。でも、距離は研究しましたね。自分がアンプの前で聴いて“めっちゃ良いじゃん!”ってなっても、マイクを通した音を聴くと“おや?”と感じることも多かったので。なので、ずっとその塩梅を見極めながら録っていて。まあ、そこまで時間は掛けてないですけど、適当なフィードバックではないです。

ライブではフェンダーのツイン・リバーブ(GB Twin Reverb)を使っていますが、ライブのサウンド・メイクで重視しているポイントを教えて下さい。

 EQのベースを下げ過ぎると物足りなくなってしまうので、そこは気をつけています。ベーシストと、お互いに“今日はこのくらい出したいのかな?”という感覚を感じ合って、譲り合って作っていますね。

 逆に、トレブルは歌と被ってきちゃうので、あまり上げすぎないようにします。なので、歌が聴こえづらい時はトレブルを下げますね。そんな感じで、ツマミの位置は決まっていないんです。会場によっても変わってくるので、難しいですね。リハーサルで良い感じに作っても、お客さんが入ると、音が吸われて感じ方が変わることもあるので。

使用チャンネルは?

 VIBRATOの1ですね。リバーブは1か1.5くらいまで上げるのがポイントです。やっぱり、ゼロにしちゃうとアンプの良さがなくなるというか、バンドに馴染まなくなっちゃう。メンバーは、空間系を無闇に掛けることを良しとしていないので、誰にも言ってないんですけど……。メンバーがこの記事を見たら、怒られるかもしれないです。

作品データ

『Underlight & Aftertime』 downt

『Underlight & Aftertime』
downt

P-VINE/PCD-25384/2024年3月6日リリース

―Track List―

  1. underdrive
  2. Whale
  3. AM4:50
  4. prank
  5. Yda027
  6. 煉獄ex
  7. mizu ni naru
  8. 8/31(Yda011)
  9. 紆余
  10. 111511
  11. 13月

―Guitarist―

富樫ユイ

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