藤澤信次郎、大池奏太、後藤潤一の3人が語る、上京後にプロデューサー陣と作り上げた浪漫革命の新EP『溢れ出す』 藤澤信次郎、大池奏太、後藤潤一の3人が語る、上京後にプロデューサー陣と作り上げた浪漫革命の新EP『溢れ出す』

藤澤信次郎、大池奏太、後藤潤一の3人が語る、上京後にプロデューサー陣と作り上げた浪漫革命の新EP『溢れ出す』

2017年に大学の軽音楽サークルのメンバーを中心に結成された京都出身の5人組ロック・バンド、浪漫革命。これまでは京都に住み、そこでレコーディングを行なってきた彼らが、上京後初の作品『溢れ出す』をリリースした。最先端なポップスの上に、大池奏太(g)と後藤潤一(g)の2人が古き良きソウルやブルースのギター・フレーズを弾きまくる。このスタイルはどのように形成されたのだろうか? 今回はギタマガ初登場となる藤澤信次郎(vo,g)、大池奏太、後藤潤一の3人に、バンドの始まりと元PAELLASのメンバー3人と作り上げた『溢れ出す』についての話を聞いた。

取材・文=小林弘昂 人物撮影=星野俊

ギターが入っていない曲に2人で参加して、
勝手に弾いていたんですよ(笑)。
──大池奏太

左から、後藤潤一、藤澤信次郎、大池奏太。
左から、後藤潤一、藤澤信次郎、大池奏太。

今回がギタマガ初登場ということで、まずは浪漫革命がギタリスト3人体制になったキッカケから聞かせて下さい。

藤澤 僕と奏太君が大学の同期で、バンド・メンバーを集めようとなったんですね。まずはキーボードが欲しかったんですけど、まわりにキーボードを弾ける友達が少なくて諦めて。それと当時、僕はほとんど初心者で、ギターは弾き語り程度ならできるくらいだったんですよ。でもやりたい音楽的にはもう1人ギタリストが欲しかったので、楽しそうにギターを弾いていた潤君を無理やり捕まえました(笑)。

後藤 大学の軽音楽サークルで、この3人でコピバンみたいなことをよくやっていたんですよ。

藤澤 鍵盤なしでジャミロクワイのコピーをやったり(笑)。

大池 そういうこともあったので、自然と“潤も入るか”みたいな流れでしたね。最初の頃は僕と潤のギター2本でやっていたんですけど、次郎がけっこう弾き語りベースで曲を作ってくるので、“そういう曲の時には次郎もギターを弾きながら歌ったほうがいいんじゃないか?”となって。

藤澤 それとレコーディングでは2人が色んなフレーズを入れてくるので、どっちかにコードを弾かせるのはもったいないなと思ったんです。

大池 そうだったね。

藤澤 「あんなつぁ」(2020年)から3本必要になったんですよ。あの曲はリード2本、バッキング1本なので、そこから完全にギターが3人体制になりました。

初めて浪漫革命のライブを観た時、大池さんと後藤さんのプレイ・スタイルやサウンドが凄く似ているなと感じたんです。ギタリストとしてのルーツは近いものがあるんですか?

後藤 いや、ルーツはけっこう違いますね。

大池 僕はそもそもギター・ボーカルから始めたので、あんまりギタリストを知らなくて。だから潤の影響が強いと思います。

後藤さんはコーネル・デュプリーに憧れてギターを始めたそうですが、後藤さんと大池さんのプレイからはジョン・メイヤー、デヴィッド・T・ウォーカーなどの影響も感じられました。3人の好きなギタリストは?

後藤 デヴィTはめちゃくちゃ好きですね!

藤澤 僕も潤君から最初に教えてもらったのがデヴィッド・T・ウォーカーで、みんなで名古屋のBlue Noteにライブを観に行きました。

後藤 ラリー・カールトンも3人で観に行ったし、ギター部みたい(笑)。

大池 僕はコリー・ウォンが衝撃でした。それでストラトのハーフ・トーンが使いたくなったんです。あとは鈴木茂さんも大好きですね。

藤澤 僕、最初はマリーナ・ショウの『Who Is This Bitch Anyway?』(1975年)で「Feel Like Makin’ Love」を知ったんです。

デヴィTとカールトンが参加していますよね。

藤澤 そうそう。それを聴いていたら、なんか「卒業写真」(1975年)とめっちゃ近いなと思って。僕はそれからそういうジャンルの人たちを好きになったけど、潤君と奏太君は“ザ・ギタリスト”も聴くよね?

後藤 めっちゃ好きですね。でも意外とロックンロールは通ってないかも。

大池 そういえば、高校生の時はレッチリがめちゃくちゃ好きでしたね(笑)。

浪漫革命のネオ・シティ・ポップの楽曲に、大池さんと後藤さんがトラディショナルなソウルやブルースのフレーズを入れているのが新鮮だったんです。こういうスタイルになったキッカケってあるんですか?

大池 大学のサークルの時からギターが入っていない曲に2人で参加して、勝手に弾いていたんですよ(笑)。

後藤 コピーじゃなくてね(笑)。でも、たしかにそれが土台になっているのかもしれないです。

藤澤 サークルにいた時、僕は“この曲では何の楽器が必要”とかがあんまりわかっていなかったので、単純に上手い人や好きな人を集めてやりたい曲をやらせてもらうことが多かったんですよ。

大池 だから招集されたものの、“この曲にギター入ってないやん”とか(笑)。

後藤 原曲には鍵盤が入ってるのにキーボーディストがいなくて、“どうやってウワモノやんねん!”みたいなことも(笑)。

藤澤 “でも何かできるでしょう!”みたいに思ってました。

大池 そういう時に自分たちが好きなフレーズを雰囲気で入れていたりしたので、それが今につながっているのはありますね。

ギターのフレーズはレコーディングの時に思いつきで入れることも多いのでしょうか?

大池 最近はレコーディング前に2人でギターのプリプロをすることが多いです。

後藤 DAW上でね。

大池 1st(『NEW ISLAND ROMANCE』/2019年)とかはスタジオで自由に弾いたやつが使われているんですけど、最近はけっこうフレーズを決めていますね。役割分担することが多くなりました。

藤澤 僕も曲を作る時から2人にコードのアレンジを相談していて。“これどうかな?”と聞いたら“いや、それはいらないっすね”とか“ここは普通にメジャー・コードでいいです。テンションいらないです”みたいな話があったり(笑)。

アレンジャーとしての一面もあるんですね。音楽理論的なことは学んできたんですか?

大池 ちょっとだけ韻シストのTAKUさんにレッスンしてもらっていた時、理論を中心に学びました。でも基本は独学ベースで、わからないところを聞くみたいな感じで。

藤澤 僕もYouTubeでそういう動画を観たり、潤君にギター(Suhr Classic T)を譲ってくれた人がギターの講師なので、その人にちょっと教えてもらったりして知ったくらい。

後藤 曲を作る中で学んだところがありますね。“なんでこのコード進行は気持ちいいんだろう?”と思ったり、“ここは勝手に7thにしてたけど、なんで7thにできるんだっけ?”みたいなことがあって、そういうのが大きいかもしれないです。ベースでも“なんかこれハマりが悪いんだよな”と思って調べると、“こういうことか”と。

大池 理論が先じゃなくてね。理論は共通言語になるから一応学んでいますけど。

阿南さんはプレイヤーですけど、
それ以上に全体が見えている人なんですよ。
──後藤潤一

後藤潤一、藤澤信次郎、大池奏太

今作『溢れ出す』は、拠点を京都から東京に移して初めてリリースする作品なんですよね。住む場所が変われば出てくる音は必ず変わると思うんです。

藤澤 本当にそのとおりです。

大池 だいぶ変わったよね?

藤澤 僕らは今まで京都にあるmusic studio SIMPOのエンジニア、小泉(大輔)さんとしか作品を作ったことがなかったんですよ。その人は僕らにレコーディングの姿勢とかを色々教えてくれたりして、ずっと良いものを作れていたんです。ギター・ロックが好きなおじちゃんなので、スウィートなソウルの曲の時にはミックスで少し揉めることとかはあったんですけどね。

なるほど。

藤澤 で、“そういう感覚が合う若い人と作ってみたらどうなるんだろう?”と話している時、阿南智史さん(g)、bisshiさん(b)、Ryosuke Takahashiさん(d)っていう元PAELLASの3人がプロデュース・チームを組んでくれて、“一緒にやろうよ”ということになったんです。

後藤 今回は阿南さんにギター・テックとプロデュースまでしていただいて。特に「世界に君一人だけ」はフレーズの1つ1つを阿南さんと相談して作っていって、フレージングの考え方とかが凄く勉強になりました。阿南さんはプレイヤーですけど、それ以上に全体が見えている人なんですよ。それぞれがどういう役割をしたらいいのかとか、自分たちだけだと見えづらいところをアドバイスしていただきましたね。

プロデュース・チームが入ったことで全部が変わったんですね。

後藤 音作りもめちゃくちゃ勉強になりました。新しいものが自分の引き出しの中に増えたし、それが出せた作品だなと思います。

藤澤 だからもう1人ギタリストが増えちゃった感じで(笑)。僕以外の3人でギター・トークが行なわれていて良かったよ。

大池 阿南さんと1フレーズずつ精査しながらレコーディングが進んでいったので、めっちゃ時間がかかりました(笑)。それと少し具体的なことを言うと、阿南さんはラインの音を混ぜるのが得意らしくて、特に「世界に君一人だけ」はラインの音を積極的に使っているんですよ。それが今までのサウンドとは違いますね。

「君という天使」はジャングリーなギター・ストロークが印象的でした。あれはどういうアイディアから生まれたフレーズなんですか?

大池 あれ、マジで速すぎて(笑)。

藤澤 僕らもビックリしたんですよ。実はその音をどうするかで喧嘩したんです。NUMBER GIRLじゃないですけど、もうちょっとオルタナというか、ロックなほうがいいという意見があったんですね。でも浪漫革命のルーツにはあんまりないし、急にそういうことをやってもどうだろうと。僕はライブを考えた時にああいう感じが欲しかったんですけど、もうちょっと柔らかい音にしたいなと話していたらスタジオに阿南さんが来て、急にサーフ・ギターの音にしだして(笑)。

阿南さんが作ったサウンドだったんですか(笑)。

藤澤 サーフ・ロックの感じでああいうストロークをする曲ってあんまり聴いたことなかったですし、あれで多幸感も出てきましたね。

後藤 阿南さん、モジュレーションが好きなんですよ。この曲のリード・サウンドを作る時もフェイザーとトレモロをかけて、その上にローファイ系のエフェクトもかけて、“これで弾いて!”って言われたり(笑)。

オールディーズな雰囲気漂う「シルビー」は大池さんが初めてボーカルを担当した楽曲です。どういうイメージで作ったんですか?

大池 みんなが曲を作れるので、曲を決める時はいつもコンペみたいにしてるんですよ。それで阿南さんに聴いてもらって、“この曲で!”と決まりました。最初は普通に次郎が歌う方向で進んでいたんですけど、阿南さんたちがスタジオに来た時、“これって奏太君が歌うんじゃないの……?”って言われて(笑)。

藤澤 バンドの中でずっと揉めていたんですよ。僕っぽくない歌詞すぎると嘘の感じが出ちゃうから、“こういうのは僕じゃないほうがいいと思うんだけど?”、“いや、やっぱり次郎が歌わないと……”みたいになっていて、ずっとモヤッとしていて。でも阿南さんから“奏太君が歌ったほうが絶対に良いよ”と言われて、“じゃあそれで!”と(笑)。

大池 そういう感じで、これまでは自分で作った歌詞を変更することがあって、いつも僕の中で“ちょっとちゃうねんけどなぁ……”と思いながら進めていたこともあったので、今回はスッキリしました。次郎も“ギターが弾けるから楽しい”と言っていましたし、次郎が考えたサビのアルペジオもめっちゃ良くて。

藤澤 ……ブラッシュアップしてもらいましたけど(笑)。本当は自分で弾くつもりだったんですけど、レコーディングの前日くらいに包丁で指を切っちゃって(笑)。

大池 なので結局、僕が弾きました(笑)。あとは間奏が面白いです。急にテンポが速くなるんですけど、あれも阿南さん。

後藤 いきなり“ここって速くしたほうがいいんじゃない?”と(笑)。スタジオで阿南さんが“このくらい速く!”って指揮してくれてね。

大池 “それどうなんやろう?”って半信半疑で進めていたんですけど、結果的に良くなりました。潤が凄くノイジーに弾いていて、それを2テイクくらい重ねたあとに僕がファズでソロを弾いています。

今回のレコーディングで活躍した機材は?

大池 実は阿南さんお気に入りのAC TONEっていうJOYOの歪みペダルが一番活躍しました(笑)。

後藤 フェンダーのリバーブ・ユニットを再現したSurfy IndustriesのSURFYBEARもですね。

藤澤 あと僕の中ではAcme AudioのMotown DIも革命的で、全然違いましたね!

大池 今回はけっこうラインの音も録っているから、そのDIが凄く良くて。「聴いて!」の僕のギターはアンプを鳴らさずに全部ラインで録っています。

ギターは色々使ったんですか?

後藤 「君という天使」では阿南さんからリッケンバッカーを借りて初めて使いました。ショート・スケールで弾きづらいんですけど、なんかその感じが良くて。

大池 ちょっとチープにしたかったんですよね。僕のバッキングもHarmonyのセミアコを使ってチープにしました。意外とメインのストラトは使ってないのかな? あとはK.Nyui Custom GuitarsのTLタイプも使いました。「シルビー」はほとんどそれです。

後藤 僕はMomoseのSTタイプも使いましたね。「世界に君一人だけ」は僕がSTタイプ、奏太君がストラトで弾いています。

大池 アコギは僕が持って行ったYamahaの5万円くらいのやつですね。

後藤 僕ら昔からYamahaのアコギが好きで。ちょうどいいんですよ。

大池 「あんなつぁ」もYamahaで録ったよね。マジでちょうどいいんです(笑)。

最後に、浪漫革命は今後どういうバンドになっていきたいですか?

藤澤 今回のレコーディングが凄く楽しかったんですよ。歳が近いオタクの人たちが集まったけど、売れたいというか、世間に聴いてもらいたという目線で作ったのが面白くて。これでちゃんと結果を出して、集める機材の量やスタジオの規模をデカくして、一生こういう感じでできたらいいなと思いましたね。

大池 浪漫革命の曲ってポップスっぽいじゃないですか? でもポップスの皮を被ったギター・バンドという感じで、ちゃんとギター・バンドなんだということを知らしめたいです。

後藤 漠然とした話なんですけど、ギターが3人いるバンドって少ないですよね? だから表現できることはもっといっぱいあると思うんですよ。それが浪漫革命のこれからの音楽に直結していくので、新しい可能性を探っていきたいです。

後藤潤一、藤澤信次郎、大池奏太

作品データ

『溢れ出す』
浪漫革命

新島出版
RORE-0008
2024年9月25日リリース

―Track List―

01.世界に君一人だけ
02.君という天使
03.ゆ
04.うわついた気持ち(feat.鎮座DOPENESS)
05.シルビー
06.聴いて!

―Guitarists―

藤澤信次郎、大池奏太、後藤潤一