ファブリツィオ・パオレッティ(Paoletti Guitars)インタビュー〜世界のマスタービルダーを訪ねて  ファブリツィオ・パオレッティ(Paoletti Guitars)インタビュー〜世界のマスタービルダーを訪ねて 

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ファブリツィオ・パオレッティ(Paoletti Guitars)インタビュー〜世界のマスタービルダーを訪ねて 

世界の名ギター・ビルダーを紹介する本企画。今回はイタリア・トスカーナ発のパオレッティ・ギターズのルシアー、ファブリツィオ・パオレッティに登場いただこう。チェスナット材を使用した、精巧な手作業による製品で知られているこのブランドは、独自の素材が生む温かく深みのあるトーンに加えて、ハードウェアまで自社製にこだわる徹底したクラフトマン・シップで注目されている。“テイラー・メイド”を指標とする、その独創的なギター作りの秘密に迫ってみよう。

Presented by ゼンブジャパン
構成=ギター・マガジン編集部
*本記事は、ギター・マガジン2026年2月号の記事『世界のマスタービルダーを訪ねて Vol.7~Paoletti Guitars/ファブリツィオ・パオレッティ』を再構成したものです。

INTERVIEW
ファブリツィオ・パオレッティ

2008年にパオレッティ・ギターズを創業した、イタリア人ルシアーのファブリツィオ・パオレッティ。もともと彼の一族はトスカーナ地方でワイン醸造を営んでおり、その古いワイン樽のチェスナット材に、ボディ材としての可能性を見出した。このアイディアは驚くべき特性を持つ素材の発見となり、チェスナット材はパオレッティ・ギターズの象徴的な特徴となったのだ。ファブリツィオに、その創作理念について聞いた。

質問作成=編集部 通訳=トミー・モーリー
取材協力=フィリッポ・マルティーニ(マネージング・ディレクター)、マルタ・ランドローニ(マーケティング&デザイン)

ファブリツィオ・パオレッティ
ファブリツィオ・パオレッティ

すべてのパーツを社内で作る。
それが私たちの強み。

代々、高級ワインの製造を生業とするパオレッティ一族の中で、ギターの製作家としてあなたがパオレッティ・ギターズを立ち上げたきっかけを教えてください。

ブランドをスタートさせた2008年の時点では、この道に進むなんてまったく思っていませんでした。最初は、本当に個人的な趣味としてギター作りを始めたのですが、私の友人でマウリツィオ・ソリエリ(Maurizio Solieri)という著名なアーティストからインスピレーションをもらったことがきっかけです。彼から“チェスナット材で特殊なギターを作ってほしい”と頼まれたのです。

私の家族が事業で使っていたワイン樽がちょうどその材質でできており、役目を終えた樽が手元にあったので、それを使って試しに作ってみました。つまり、マウリツィオが投げかけてきた“挑戦”として始まったのです。実際にやってみたところ、チェスナット材には独特な性質があって、それがギター製作を行なううえで優れていることがわかってきたのです。

ギターのボディ材として、チェスナットを使用する利点は何ですか?

この素材はとてもデリケートで、まずはどう扱うべきかを理解するところから始まりました。そして、様々な実験を重ねていく中で、この木がとてもバランスの取れた素材だということがわかったのです。私の感覚では、メイプルやマホガニー、アルダーといった木材それぞれの特徴を、少しずつまとめて持っているのです。それでいて、かなり広い音域をカバーしてくれるという、この材特有の飛び抜けた性質も潜んでいます。

音響的にもメリットがあったんですね。

あと、非常にバランスの取れた木材で、長くてパワフルなサステインを実現します。サステインは私たちが長年やってきて発見した重要な特性の1つで、この木材の価値を高めている大きな要素です。また、中低音域のバランスが良い点が特徴であるため、私たちはネックにローステッド・メイプルを組み合わせることで、さらに低音の深いレンジの周波帯を補っています。チェスナットに最も適したネックはローステッド・メイプルという結論に達したのです。

現在、すべてのパオレッティのギターにローステッド・メイプルを使っているのは、これが理由だったのですね。

もともとはほかの木材も使用していましたが、カナディアン・ローステッド・メイプルへすべて切り替えました。ローストの工程はイタリアで行なっており、この材はより安定性が高く、チェスナット材と組み合わせた場合にも幅広い周波帯をカバーできます。ローストすることでマホガニーに非常に近い性質になりますが、マホガニーにはない高音域も少し加わります。

指板については、メイプル、パーフェロー、エボニーなど様々な選択肢があり、プレイヤーの好みによって選ぶことができます。例えばブルースのミュージシャンならメイプル、ロックのミュージシャンはパーフェローを選ぶ傾向があるように、音楽スタイルに合わせてチョイスできます。

現在ラインナップされている、Wine Series、Loft Series、Lounge Series、Signature Seriesといったシリーズ分けについて教えてください。

Wine Seriesは私たちが最初に作ったシリーズで、ブランド創設時、最初に製作したモデルです。これはチェスナット材の色味や雰囲気、そしてナチュラルな外観を再現しています。所有者の好みに合わせ、またより幅広いデザインのオプションを提供するために、エイジド加工などを施さないナチュラルなウッド・フィニッシュを採用しています。

そして、この数年後にLoft Seriesを導入しました。これはカラーリングを追加し、イタリアらしいエイジド・デザインのタッチを加えるためのシリーズですが、私たちは“エイジド”とは呼びません。なぜなら、一般的にエイジド・ギターと呼ばれているような、ダメージ加工されたギターではないからです。複数の色味を組み合わせることで、深みのある色のミックスや色合い、色の濃淡を生み出すものですが、ギター自体にエイジド処理を行なっているわけではありません。あくまで色のレイヤーによってカラフルさとカスタマイズの幅を広げているシリーズです。

Lounge Seriesは3番目に生まれたシリーズで、ブルースからヘヴィメタルの中間に位置する製品を目的に開発されました。このLounge Seriesはセミホロウ、またはホロウ構造が特徴で、ジャズやファンクにも対応できるギターです。

Signature Seriesは最新のシリーズで、私たちがアーティストとともに製作するものです。私たちのウェブサイトに掲載されているアーティストやミュージシャンの名前をぜひご覧ください。その中には長年にわたって強い関係を築き、ワールド・ツアーの際にもサポートしているアーティストもいます。リッチー・サンボラやジョン・ノーラムを始め、ichiroや、ジョン・メイヤーに教えたことでも知られるトモ藤田とも同様の関係性を築いています。

これらのシリーズ展開を軸に、1本1本、カスタムで製作されているのですね。

パオレッティ・ギターズが唯一無二のカスタム・ギターを製作するブランドであることを読者の皆様にはぜひ覚えておいていただきたいです。ウェブサイトに掲載されているのは、あくまで製作可能な例に過ぎません。

私たちの強みはピックアップからピックガードにいたるまで、すべてのパーツを社内で製造している点です。これにより注文から完成まで約6週間、つまり1ヵ月半ほどでカスタム・ギターをお届けできます。このスピードはすべてを自社で製作しているからこそ実現できています。そして、これらのシリーズ展開は、ギターがどのようになり得るかの“出発点”の例に過ぎません。最終的にはフィニッシュやカラー、セットアップなどを自由に選ぶことができるのです。

工房の中の様子
工房の中の様子。木材の加工からパーツの製作、組み込みや調整など、すべての作業がここで完結する。年間約500本のギターを製作しているという。

トラディショナルなものに
イタリアらしさを加える。

ボディのシェイプについては、Alfaモデル、Nancyモデルといった形状をラインナップしていますが、それぞれの特徴と、デザインのコンセプトを教えてください。

これらの形状がSTタイプやTLタイプと非常に似ていることにお気づきかと思います。その理由には明確な背景があります。私たちは、これまでに様々なプロジェクトで奇抜なデザインにも挑戦してきましたが、結局はトラディショナルなものが好まれるという結論にいたりました。そこでAlfaとNancyという名称を採用しつつ、ギターのデザイン自体はSTタイプやTLタイプのような形状にしています。

そのうえでイタリアらしさやパオレッティらしさを加えたいと考えていて、それらは塗装の手法やブラス製のピックガードなどに表われています。エンド・ユーザーにとって馴染みのあるデザインを保ちながら、私たち独自のイタリアン・テイストを加えているのです。シェイプとしてはスタンダードを維持しつつ、使用する素材や外観のディテールを変えています。

Alfaシェイプのギター
工房内に置かれた完成品の数々。この写真に写っているモデルは、すべて“Alfa”と呼ばれるボディ・シェイプのもので、HSH、HSS、SSSなど様々なピックアップ・レイアウトが見て取れる。また、複数のカラーをレイヤーさせることで、木目を活かしつつ色合いを楽しむことができる独自の塗装が施されているが、ソリッド・ボディのタイプはLoft Series、セミ・ホロウ・ボディのタイプはLounge Seriesと呼び、シリーズ分けされている。

ネックのシェイプについては、どのような種類がありますか?

私たちは世界中の90以上のディーラーと取引しているため、そこから寄せられる様々なリクエストに応えるネックを設計する必要がありました。その結果、私たちの標準的なシェイプは“ミディアムC”となったのです。標準としてミディアムC、1フレットでの厚みがほんの数ミリ異なるだけの“スリムC”の2種類を用意しています。標準的なネックは1フレットで約23mm、12フレットで約24.5mmの厚さです。このミディアムCは太過ぎも、細過ぎもしないシェイプとなります。

もちろんお客様からVシェイプなどの特別な要望があれば、その仕様で製作することも可能です。ネックのシェイプもカスタムできる項目の1つなのです。

例えば、レス・ポールやエクスプローラーのシェイプで、ネック・シェイプも50年代のギブソンのように太いものにしてほしいというオーダーがあった場合、そういったオーダーにも応じることができるのでしょうか?

そういった場合はカスタム・オーダーとなります。私たちは2種類のヘッド・ストックを用意しています。フェンダーのような6連ペグのヘッドと、ギブソン・タイプの3対3のペグ配置のヘッドです。レス・ポール・タイプのようなモデルでは後者のヘッドで、ネック自体もギブソンに近いやや太めの仕様になっています。加えて、お客様の望むシェイプに合わせて製作することが可能です。こういった特別な仕様についても、カスタムのリクエストとして対応しています。

オリジナルとなるハンド・ワウンドのピックアップを多くのモデルに搭載していますが、そのサウンドの特徴を教えてください。

これもギター製作初期からのこだわりで、ピックアップに対して明確なビジョンがあり、自社で製作することにしました。ピックアップを作るというのは、単に自分で巻けばいいという話ではなく、専属の生産チームをブランド内に立ち上げる必要があります。実際、私たちは社内にピックアップ製造チームを設けています。その理由は、私たちが求めるサウンドを100%満たすピックアップを市場で見つけられなかったからです。

当時、リッチー・サンボラやジョン・ノーラムとも話し合った結果、一般的なピックアップではチェスナット材と組み合わせた場合に求める周波数レンジを十分にカバーできないという結論にいたりました。そこで自社製作を決断し、現在ではすべてのピックアップを自社で製造しています。サウンドはビンテージなロックを指向していて、お客様のリクエストによって、アルニコ5またはアルニコ2を選択できます。

ハムバッカーについては、高出力と低出力の2種類のみとバリエーションを絞っていますが、すべてはチェスナット材の持つ倍音成分を最大限に引き出すピックアップにすべく設計されています。

自社開発のピックアップ
チェスナット材のボディの特性を最大限に引き出すため、自社で開発/製作したピックアップを搭載する。

ピックアップだけでなく、ブラス(真鍮)製のパーツなどを自社で製造している理由は?

ブラスはギターのルックスに関わる要素であり、私たちの伝統の一部でもあります。ギター製作の初期段階から、ネック・プレートやコントロール・プレート、そしてジャック・プレートなど、すべてのパーツにブラスを使用してきました。そのために、製造を社内で完結させてすべてのパーツを管理してきましたが、これによって2つの利点がもたらされました。1つ目はパーツを自社で作るため、ブリッジやテールピースも含めて部品の欠品がなくなったことです。そして2つ目は、小さなカスタマイズに応じやすくなったこと。外注となると、名前やデザインなどの刻印入れも工程が複雑になりがちですが、社内で製造していればすぐに対応可能です。

もう1つ付け加えると、ブラスを利用することにより、プラスチックの素材を減らしたギターを作ることにもつながります。我々は環境意識が高く、可能な限りプラスチックの使用を減らすことを目指しています。もちろんプラスチック製のピックガードや一部小さなパーツもありますが、希望があれば完全にプラスチック・フリーのギターも製作可能です。

最も大切にしていることは
“体験”を提供すること。

セミ・ホロウのボディについて、加工する際の特徴を教えてください。

セミ・ホロウ構造のボディは、簡単に製作できるギターではありません。木材をくり抜く際に慎重さが求められますし、くり抜き過ぎると肩から吊り下げた際にバランスが崩れたり、プレイ中に予期しない動きが生じることがあります。そのためセミホロウのモデルでは、内部構造を正確にデザインすることが大きな挑戦となります。

あと、特定の音楽ジャンルにサウンドを合わせるためだけではなく、重量を軽くする効果も意識しました。重量を気にするミュージシャンも多いため、同じ構造を応用してチェンバード・ギターも製作しているのです。ボディ内部にチェンバー(空洞)を作ることで重量を軽減しています。(ダブル・カッタウェイのLPシェイプのギターを見せながら)このギターもチェンバード構造です。信じられないかもしれませんが、トップ材を貼り合わせているのがサイドからわかります。

Lounge Seriesと同じ構造で、プレイ時のバランスを保つために狙った場所にトーン・チェンバリング(音色変化を狙い、内部に部分的な空洞を作る構造)を施しています。これもまた、非常に高度な設計上のチャレンジでした。

チェンバード・ボディのトップ材を加工している様子。
チェンバード・ボディのトップ材を加工している様子。チェンバード構造については、バック材をくり抜いたのち、トップ材を貼り合わせて製作する。

製作工程の中で最も難しい部分は?

ギターは非常に多くの部品で構成されていますが、最も重要で難しい部分はネックです。多くのビルダーが最終調整にPLEKマシンを頼る一方で、私たちはあえてそれに依存せず、製作のあらゆる段階でPLEKレベルの精度を実現しています。これにより、製作プロセス全体でより高い品質管理と意識を保つことができます。

具体的には、正確なラジアスの指板を作るための専用の機械を使用しています。この指板面は1フレットから22フレットまで非常に均一です。鏡面のように完璧な形状を作ることは、1つの大きな取り組みでした。この作業によって完璧なイントネーションとデッド・ポイントのないギターを実現しており、指板上のどのポジションでも、同じサウンドが得られるのです。

フレットが打たれた状態のネック。
フレットが打たれた状態のネック。チェスナット・ボディにはローステッド・メイプルのネックが最も相性が良いという。指板については、エボニー、パーフェロー、メイプルなどから選ぶことができる。

ギター製作において、最も大切にしている哲学やこだわりは何ですか?

パオレッティ・ギターズで最も大切にしていることは、お客様に“体験”を提供することです。私たちは、ギターを単なる楽器ではなく、自分独自のものにできる体験、つまりカスタマイズできる体験として提供したいと考えています。お客様と密接に関係を持ち、イタリアならではのクオリティと哲学を持ったテイラー・メイドの楽器を届けることを、我々の最重要事項としています。これはラグジュアリー・ブランドや自動車メーカーと同じ考え方で、楽器業界でそれを実践しようとしているのです。フェラーリほど大きな規模ではありませんが、こういった哲学を通して満足していただくことを目指しています。私たちがいつも言っているのは、“職人によって作られる、あなただけのデザイン”です。

ユーザーの要望に合うように、楽器を仕立てているんですね。

さらに付け加えると、当社は環境にも非常に配慮しています。先ほども言ったとおり、私たちはカーボン・ニュートラル企業であり、地球への影響をできる限り少なくすることを目指しています。二酸化炭素排出量を相殺するため、出荷するギター1本につき5本の樹木を毎年植えることにしていて、私たちはグリーンでカーボン・ニュートラルな企業として認定されています。これらのすべてが、ギターを手にする体験を形作っているのです。

イタリアの文化や職人技は、あなたのギター作りにどのような影響を与えていますか?

イタリアの文化遺産は、楽器をデザインする時やプレイヤーの夢を形にする際に表れています。スタンダードなギターを作ることで市場のニーズにも応えていますが、お客様から寄せられるアイディアに対して“ノー”と返すことはほとんどありません。奇抜なアイディアを送ってくる方に対して、私たちはチャレンジ・モードに入り、彼らが望むことを実現できるように試行錯誤するのです。

例えば最近、ハロウィンをコンセプトにしたカボチャのシェイプのギターを作りましたが、その際、“12フレットにカボチャのインレイを入れられるか?”と尋ねられ、一緒にデザインを考えました。これもイタリアの伝統の一部で、“人を喜ばせ歓迎する”精神の表われです。クリスマスの時期に向けて、クリスマス・ツリーのシェイプのギターも自分たちが楽しむために作りました。

こうした挑戦を受け入れるのは本当に楽しいです。このように、日本の市場からも新しいアイディアやコンセプトが寄せられることを楽しみにしています。新しいアイディアを試すことで、自分たちも成長できるのです。

ブランドのアイデンティティ=パオレッティらしさをどう定義していますか?

私が世界中の展示会やイベントに参加していると、多くの方から“たとえ10本のギターを100フィート(約30メートル)離れた場所から見ても、パオレッティのギターはすぐにわかる”と言われます。これはデザイン上での大切な特徴であり、塗装や木材の質感に表われています。

私たちのギターは非常に珍しいチェスナット材を使用しています。最大の特徴は、チェスナットの風合いやデザイン、そして美しさが常に見えることなのです。その自然な美しさを隠すことは決してありません。これがパオレッティらしさです。たとえペイントを施しているWine Seriesのギターであっても、チェスナットの木目が感じられます。グロスのある塗装ではないため、木の質感が得られるのです。