家主のフロントマンである田中ヤコブのソロ・アルバム『にほひがそこに』のリリースに際し、ギター・マガジン2026年4月号では田中ヤコブと白井良明の対談インタビューを掲載。誌面では互いのギター観やプレイ・スタイルを中心に語り合ってもらった。ギター・マガジンWEBでは番外編として、2人の原体験となったギタリストや音楽のルーツ、共通して愛用するSGの魅力について語ったインタビューをお届け。世代を越えて交差するギター観から、2人の音楽的背景が浮かび上がる。
取材・文=錦織文子 撮影=鈴木千佳
ジム・ホールとウェス・モンゴメリー、
この2人から受けた影響はとても大きい。
──白井良明
2人のギター・プレイに影響を与えた音楽的なルーツについて教えてください。
白井 最初はベンチャーズのノーキー・エドワーズですね。それまでずっと日本の音楽を聴いていたんだけど、初めて外国の音楽として強烈に出会ったのがベンチャーズだった。そのあと高校生くらいの時にフラメンコ・ギタリストのマヌエル・カーノを知って、クラシック・ギターに夢中になりました。「アルハンブラの思い出」なんかも弾いていましたね。大学に入る頃になるとチャーリー・クリスチャンを聴いて、“ギターでこんな自由な音楽ができるんだ”と感じてジャズにのめり込んでいく。そこからはジム・ホールとウェス・モンゴメリーですね。ジャズの面ではこの2人から受けた影響はとても大きいです。学生時代の原体験という意味では、その4人が自分の軸ですね。
ジム・ホールの影響については以前も話していましたね。
白井 実は自分の中ではかなり大きいんです。ムーンライダーズが活動休止した頃、“まだ自分にはギターの余白がある”と思って、改めてジャズのルーツを掘り下げ始めたんですよ。最近もいろいろ研究していて、例えばノーキー・エドワーズ的な譜割でオルタード・スケールを弾いてみたり、オープン・トライアドの押さえ方からカントリー・ミュージックの発想を考えたり。今の自分にとっては、とりわけジャズとカントリーがキーワードで、それらをどう自然に結びつけるかを探っている感じですね。
これまでのルーツに別の要素をかけ合わせていると。
白井 そうですね。どんなフレーズをどんな風に弾くかというのは、ギタリストにとって一生のテーマだと思うんですよ。最近はジュリアン・ラージやジョナサン・クライスバーグみたいな新しい世代のプレイヤーもよく聴きます。コピーというより、自分の弾き方を考えるヒントを探している感じです。
ヤコブさんはどうでしょう?
田中 良明さんからの影響は言うまでもなく大きいのですが、ギターを始めるきっかけになったのはTHE BLUE HEARTSですね。子どもの頃から親の影響でムーンライダーズやカーネーションも大好きで聴いてきたんですけど、真島昌利さんの演奏を見てギターを始めようと思ったんです。
そこから今度は人間椅子にハマって、和嶋慎治さんのプレイにすごく影響を受けました。そこを起点にブラック・サバスやUFO、さらにプログレをさかのぼってピンク・フロイドを聴くようになって、デヴィッド・ギルモアが好きになったり。さっき名前が出たアンディ・パートリッジやデイヴ・グレゴリーを除けば(編注:本誌対談にてXTCがルーツにあることを語っている)、そのあたりが自分の原点ですね。ライブではわりと大味なプレイをしちゃうんですけど、実はかなり細かく突き詰めるタイプのギタリストが好きなんだと思います。
白井 和嶋君とは何度かセッションしたことがあるよ。『公園通りクラシックス』でウェザー・リポートの「Birdland」を一緒にやったりしてね。彼はいろんなルーツを持った面白いギタリストで、SGを弾いているよね。やっぱり影響を受けているの?
田中 和嶋さんの影響はものすごくありますね。あとは、ジョージ・ハリスンが持っていたのもすごくカッコよく見えました。坂本慎太郎さん、岸田繁さんの存在も大きいです。
ギター好きはどこかで
SGを通ってる人が多い気がします。
──田中ヤコブ
2人ともレス・ポール・スペシャルのほか、SGも愛用しているという共通点がありますね。
白井 SGは単板で、とにかくアタックが速いんだよね。“パンッ、キャーン”って前に出る。それが気持ちいいんですよ。一方、レス・ポールはもう少し“巻いた音”が出るからね。
田中 わかります。
SGを使い始めたきっかけは?
白井 ハッキリとは覚えてないんだけど、もともとはレス・ポールを弾いていて、違うギターも欲しいなと思っていたんですよ。それで下北沢を歩いていたら、楽器店にちょうどいいSGが置いてあって。それは61年製のSGスタンダードで、今となってはすごい年代物ですね。
田中 僕はまず見た目ですね。サンバーストよりも単色で統一された感じが好きで、チェリーとTVイエローのSGを持っています。
白井 SGは見た目もかっこいいよね。昔、ミック・テイラーがローリング・ストーンズの屋外ライブでSGを弾いている映像を観て、すごくかっこいいと思った記憶があります。
田中 メインで使っていなくても、ギター好きはどこかでSGを通ってる人が多い気がします。
白井 そうかも。フランク・マリノなんかもそうだよね。SGって板バネ付きだとチューニングがシビアなこともあるんだけど、彼はすごくアームを使うのに全然平気そうなんだよ。あれは七不思議(笑)。
田中 自分も板バネ付きのSGが好きで、それしか使ってないんです。重さのバランスのせいか、ヘッド落ちもあまり感じたことがないですね。
白井 僕のSGはヘッド落ちがすごいよ。だから落ちないように抱えながら弾いているね(笑)。
最後に、ヤコブさんがムーンライダーズのアルバムから“バイブル的な1枚”を選ぶとしたら?
田中 難しいですね……。ひとまず『Bizarre Music For You』(1996年)にします。
白井 「愛はただ乱調にある」が入っているアルバムだね。
田中 あの曲は本当に大好きなのですが、アルバムとしての完成度も素晴らしいと思うんです。1曲目の「BEATITUDE」から“ギターとは何か”を見せつけられる感じがあるんですよ。ギター・ソロだけ切り取って聴いてもすごい。1枚に絞るのは本当に難しいんですけど……。あとは『カメラ=万年筆』(1980年)はギター・リフ名盤としてもめちゃくちゃ好きです。「大人は判ってくれない」のリフも本当に痺れますし、最高のアルバムです。
白井 ギター・ミュージックって、聴く人のスイッチを入れるのは最初のリフなんですよね。当時はP-MODELやPLASTICS、YMOなんかがいてニューウェイブの時代だったけど、ああいう形でギター・リフを前面に出すバンドは意外と少なかった。だから弾くのは難しくても、“聴く人にはシンプルに届くバランス”を探るのにけっこう苦労しましたね。
田中 リフってもう、作曲そのものだと思います。
白井 そうなんだよね。本当はリフに印税があってもいいんじゃないかと思うくらい(笑)。でも、そういう“顔になるフレーズ”を作れることが、ギタリストにとって一番の醍醐味なんじゃないかな。
1961 Gibson
Les Paul SG Standard(白井良明)
白井良明が長年愛用する1961年製SGスタンダード。SG初年度のいわゆるレス・ポール表記時代の個体で、ビグスビーB5が搭載されている。改造は一切施されておらず、オリジナルの状態を保っているとのこと。入手したのは1990年代後半で、それ以来、白井のレコーディング/ライブを支えてきた重要な1本だ。
『月面讃歌』(1998年)から『MOONOVER the ROSEBUD』(2006年)にかけてはメイン・ギターとして活躍。その後も要所要所で登場しており、近年のムーンライダーズのライブでも時折ステージに持ち込まれている。初期SGならではの鋭いアタックとレスポンスの速さは、白井のシャープなギター・ワークを象徴するサウンドの一端を担っている。
2004 Gibson Custom
SG Standard(田中ヤコブ)
田中ヤコブが“最も長い付き合い”だと語るSGスタンダード。ギブソン・カスタム製で、購入は2008年頃。トラスロッドのレス・ポール表記、ロング・ヴァイブローラ搭載のため63年頃のリイシュー・モデルだと思われる。高校生の頃に親に頼み込んで手に入れた思い出深い1本。改造は施しておらず、現在は調整を重ねてベストな状態を保っている。
サウンドは、“ほかのSGと比べるとやや優等生タイプ”とのこと。中域〜低域にかけて独特の厚みがあり、ややもっさりとしたニュアンスが逆にオールド感のある響きを生み出すという。ライブのメイン・アンプであるマーシャルJCM800との組み合わせも抜群だそうで、抜けの良いロック・トーンを生み出している。ボディ・バックには和嶋慎治のサインとピカチュウのステッカーが。
2002 Gibson Custom
SG Standard(田中ヤコブ)
現在はレギュラー・チューニング用のメイン器としてライブで活躍しているほか、家主のEP『NORM』の録音でも使用したという、2002年製ギブソン・カスタム製SGスタンダード。
田中はもともと同じモデルを所有していたが、ネック幅が微妙に手に合わず弾きづらさを感じていたところ、偶然立ち寄った楽器店で同じ仕様の本器を試奏。ネックのフィット感が抜群だったそうで、当時所有していたSGと買い替える形で手に入れたという。
ほかのSGと比べても音量感があり、ボディ鳴りが豊かで木材が密に詰まったような引き締まったトーンが気に入っていると語る。“ピックアップの音を木がしっかり鳴らしてくれている感覚”と語るほどのレスポンスの良さも魅力だ。





