東京スカパラダイスオーケストラのギタリスト、加藤隆志が愛用する1965年製ストラトキャスター“通称:流木”をもとにしたモデルがフェンダーカスタムショップのマスタービルト・シリーズから登場した。
歴戦の勇姿を徹底的に再現したその逸品を紹介するとともに、“このプロジェクトにおいて僕はもう思い残すことはない”とまで語った加藤隆志のインタビューをお届けする。
取材・文:ギター・マガジン編集部
*本記事は、ギター・マガジン2024年5月号に掲載した「加藤隆志の愛器“流木”をフェンダーカスタムショップが徹底再現!」を再構成したものです。
Fender Custom Shop
Kyle McMillin Masterbuilt Takashi Kato 1965 Stratocaster Ultimate Relic “Ryuboku”
ギターに刻まれた勲章の数々を忠実に再現
ワールドワイドに活躍するスカ・バンド、東京スカパラダイスオーケストラでギタリストを務める加藤隆志。彼が長年にわたって愛用する1965年製のビンテージ・ストラトキャスターはボロボロに塗装が剥がれ落ちたルックスから“流木”という愛称で呼ばれ、加藤のトレードマークとなっている。
2022年には日本製のシグネチャー・モデルとして、流木をベースにした“Takashi Kato Stratocaster”が発売されたが、このたび、それに続く形でカスタムショップ・マスタービルトから忠実なレプリカ・モデル「Kyle McMillin Masterbuilt Takashi Kato 1965 Stratocaster Ultimate Relic “Ryuboku”」が登場した。
まず目を惹くのはアルティメイト・レリックと名付けられたハードなレリック加工だろう。
オリジナルの流木は、1998年に加藤が入手した際はまだほとんど傷がついていない状態だったそうで、これらの傷はほぼすべてがスカパラのライブやレコーディングなどの現場で刻まれたもの。言わばギタリストにとっての勲章である傷の1つ1つが忠実に再現されているのだ。
そのほかの仕様も1965年製のストラトキャスターを踏襲しており、2ピース・アルダー・ボディ、メイプル・ネック、7.25Rのラウンド・ローズウッド指板、ビンテージ仕様のフレットという伝統的な構成。ヘッドのトランジション・ロゴも流木と同じく、64年後期~65年中期にのみ使用されたパテント・パターンのものだ。
流木に搭載されているグレー・ボビン期のピックアップを忠実に再現した“HANDWOUND ’65 STRAT”セットは、ロックなプレイにも適したサウンドを出力することができる。
製作を担ったのはカスタムショップ・マスタービルダーのカイル・マクミリン。2003年にフェンダーに入社後、様々な部署を経て2018年にマスタービルダーに抜擢された注目の人物だ。
一時期はフェンダー傘下のジャクソンにも在籍していたほか、カイル自身もヘヴィメタルのファンということでパワフルなギターへの造詣が深いのだが、加藤も“流木”に関して1965年製のストラトキャスターならではのパワフルさやロック感を気に入っていたため、共鳴する部分があったようだ。
カスタムショップと加藤のこだわりが詰め込まれた至高のレプリカ・モデル。東京・表参道のフェンダー旗艦店であるFender Flagship Tokyoでは本モデルの試奏を行なうことも可能なので、そのサウンドを確かめたい方はぜひ足を運んでみてほしい。
加藤隆志インタビュー
傷の1つ1つがスカパラでの思い出なんです
2022年の日本製シグネチャー・モデルに続く形で今回のカスタムショップ製が発表されましたが、プロトタイプはすでにツアーで使っていたそうですね?
2022年秋のツアーから、カスタムショップ製プロトタイプと日本製プロトタイプの2本をライブのメインにしているんです。それぞれの良さがあって、レコーディングでも使用しています。それ以降、流木はあまりライブでは使用していなくて、おもにレコーディングや自宅で弾いていますね。
長年使い込んだ流木から持ち替えることができるほどの実力を秘めたギターということですね。
そのとおりです。2022年秋から新しい歴史が始まったという感覚ですね。 実は、最初に流木をプロファイルしてもらったのは2015年頃だったんです。
元マスタービルダーのクリス・フレミングさんに作業していただいたんですが、製作スケジュールの都合やコロナ禍でなかなか動けない期間があったので、10年近い時間を経てようやく発表できたという感じです。このプロジェクトにおいて僕はもう思い残すことはありません(笑)。
今回のモデルはマスタービルダーのカイル・マクミリン氏による製作です。カイル氏が担当した経緯は?
まず最初に何名かのマスタービルダーをご紹介いただいて、実際に皆さんが作ったギターを何本か弾かせてもらいました。その中で直感的に自分と合いそうだなと感じたのがカイルさんのギターだったんです。
フェンダーのマスタービルダーとしてはまだ若手であったことも、カイルさんとやってみたいと思った決め手の1つでした。
皆さんのギターは違いましたか?
やっぱり1本ずつ個性があって、全然違いましたね。
これはビルダーだけでなくミュージシャンにも言えることですけど、同じストラト・サウンドでも、その音に抱くイメージって本当に人それぞれ違うと思うんです。例えばジミ・ヘンドリックスやスティーヴィー・レイ・ヴォーンのサウンドも、無限の解釈とイメージがあって良い世界だと思います。
なので作り手によって音が違うのも当たり前だし、マスタービルトはビルダーの趣向がより出ますよね。ベテランのマスタービルダーの作品には懐の深さを感じるものもありましたし。
個性という意味においては、カイルさんのギターはフレッシュで元気が良い印象でした。僕が当初、ビンテージの中でも65年製の流木を気に入ったのもそういう理由だったので、今回はカイルさんのギターのキャラクターと相性が良かったんでしょうね。
今回のモデルには流木の特徴でもあるダメージが忠実に再現されていますが、そもそも流木はなぜこれほどハードな状態になったんですか?
自分でもよくわからないんですが、がむしゃらに弾いてきたからでしょうね(笑)。買った当初は少しだけ傷がある程度の状態だったので、本当にこの傷すべてがライブやレコーディングでついたものなんです。
僕は2000年からスカパラに正式加入したんですけど、ちょうどその年からヨーロッパ・ツアーも始まって、当時はこのギター1本をソフトケースに入れて寝台バスで色んな国を駆け回っていました。もうベッドで一緒に寝てるような感じでしたね。
24時間の間にヨーロッパの3ヵ所でライブしたこともあったし、野外フェスで大雨に降られて、ステージ天井のビニールが落ちてきて雨水が直撃したこともありました(笑)。傷の1つ1つがそんなスカパラのライブの思い出そのものなんです。
でも当時はビンテージとしての価値がどうこうということはあまり考えていませんでしたね。純粋にサウンドを気に入って使っていたので傷がつくことはあまり気にしてなかったです。
まさに唯一無二のギターですね。
このギターを持ってると、海外のフェスでアーティストやローディーに話しかけられることも多かったですね。フランツ・フェルディナンドの元ギタリストのニック(・マッカーシー)が“良いギターだね!”と話しかけてくれたり、“そのギターは博物館に飾っておけ”と大物のローディーの方に言われたり(笑)。
ストラトキャスターが最終地点だなと思いますね。
ビンテージである流木とカスタムショップ製モデルの両者で、何か違いを感じることはありますか?
個人的にはギターを選ぶポイントって、 頭の中でイメージするサウンドにいかに早くアクセスできるかだと思うんです。僕の頭の中で鳴っている音は流木で培ってきた音ですが、今ではカスタムショップ製のほうがそこにより早くたどり着ける可能性があるんじゃないかとも思います。
現代に合ったサウンドを鳴らすのに必要なレンジ感やスピード感などのポテンシャルもしっかり感じられる。現在のカスタムショップは何十年の歴史を経て開発され、ギターを知り尽くした職人によってブラッシュアップされてきたものなので、当然なのかもしれませんが。
でも、そもそもカスタムショップとビンテージ・ギターにはそれぞれの良さがあるので、比べるものでもないかと思いますけどね。
─流木に関する以前のインタビューで、加藤さんは“低音にルーズさがあるのが良い”と話していました。今回のモデルについてはいかがでしょうか?
良い意味で少しタイトな感じもあって、ルーズすぎないですね。そこに関しては、逆にオリジナルの流木のほうにもう少し輪郭が見えたらなと思う部分もあったんです。サステインも流木のほうが短かったりしますしね。
僕はそういうコントロールできない部分まで含めてビンテージ・ギターの魅力だと思っていて、ずっとそれを使い続けてきましたけど、現代のギター・サウンドへのポテンシャルは今作られているモデルならではの要素がしっかりとあると思います。
より万人向けなギターに仕上がっているという感じですかね?
そうですね。あと、低音のルーズさだったりサステイン感は、個人の弾き方や調整によって変わっていく部分もあると思います。今回のモデルも弾いていくうちに流木のような枯れた魅力も出てくるかもしれませんね。
あとはちょっと精神論みたいになっちゃいますけど、ギターってステージ上で弾くことによって、その場所の空気感やお客さんのオーラを吸って成長していくものだと思うんです(笑)。フェスに出演する時ってステージ袖に置いてあるほかのアーティストのギターを見たりするんですけど、やっぱりお店に並んでいる同じモデルとは全然オーラが違いますし、実際、この2年ライブで使ってきたプロトタイプは新品の製品版とはまた違うギターに育ってきています。
買ったあとから自分の音に成長していくのはギターの面白いところですよね。
加藤さんにとってのストラトキャスターの魅力とは?
ストラトに行き着くまでに紆余曲折あったんですけど、ストラトが僕の最終地点だったなと感じていますね。
僕にとっては、自分がイメージした音のすべてがこの1本で表現できるギター。特に流木においては本当に一生に一度の出会いだったなと思っています。
ストラトに興味を持ったのは、僕が25〜26歳くらいの頃に再評価されていた初期ニューヨーク・パンクで、テレヴィジョンのリチャード・ロイドやリチャード・ヘル&ヴォイドイズのロバート・クワインがストラトで鳴らす鋭い音がかっこいいと思ったからなんです。
あとは僕が小さい頃から聴き慣れた70年代の音楽って、60年代に作られたフェンダーのギターで録音されているものが多いですよね。三つ子の魂百までじゃないですけど(笑)、その影響も大きいんだろうなと改めて思います。
最後に、カスタムショップと日本製の両方で自身のモデルを作った中で感じたことはありましたか?
僕とフェンダーの出会いは“プロとしてやってくぞ!”という気合を込めて最初に手に入れた流木なんですが、そういうギターがフェンダーで良かったなと改めて思います。その出会いから20年以上経った今、こうやって自分のモデルを作れるなんて本当に夢のようです。
最近はその喜びをひしひしと感じると共に、これからはフェンダー・アーティストとしてもさらに努力して、ギターや音楽の素晴らしさを世界中に届けたいと思っています。
Takashi Kato 1965 Stratocaster Ultimate Relic “RYUBOKU” 公式ページ
https://www.fender.com/ja-JP/takashi-kato-signature.html
Fender Custom Shop
Kyle McMillin Masterbuilt
Takashi Kato 1965 Stratocaster Ultimate Relic “Ryuboku”
【スペック】
●ボディ:アルダー
●ネック:メイプル
●指板:ローズウッド
●フレット:21
●スケール:647.7mm
●ピックアップ:HANDWOUND ’65 STRAT
●コントロール:ボリューム、トーン×2、5ウェイ・ピックアップ・セレクター
●ブリッジ:6サドル・アメリカン・ビンテージ・シンクロナイズド・トレモロ
●ペグ:ゴトー・ビンテージ・スタイル
●カラー:レイク・プラシッド・ブルー
●付属品:デラックス・ハードシェル・ケース、ストラップ、認定書
【価格】
2,178,000円(税込)
【問い合わせ】
フェンダーミュージック TEL:0120-1946-60 http://fender.co.jp