ピーター・バーンスタインが語る、John Zeidlerギターとの出会いとエフェクターを使わない理由 ピーター・バーンスタインが語る、John Zeidlerギターとの出会いとエフェクターを使わない理由

ピーター・バーンスタインが語る、John Zeidlerギターとの出会いとエフェクターを使わない理由

2025年6月にカート・ローゼンウィンケル & ピーター・バーンスタイン・カルテットの来日公演が丸の内COTTON CLUBで行なわれた。今回、2人の使用機材についてインタビューを敢行。まずはピーター・バーンスタインが長年愛用するJohn Zeidlerのギターについて、本人に語ってもらった。

取材=今井悠介 文=小林弘昂 通訳=川原真理子 機材撮影=清水はるみ 人物撮影=Tsuneo Koga(写真提供/COTTON CLUB)

左から、カート・ローゼンウィンケル、アレキサンダー・クラッフィー(b)、ジョー・ファンズワース(d)、ピーター・バーンスタイン。
左から、カート・ローゼンウィンケル、アレキサンダー・クラッフィー(b)、ジョー・ファンズワース(d)、ピーター・バーンスタイン。

Peter Bernstein’s Guitar

1981 John Zeidler
Archtop Model “Brown Betty”

1981 John Zeidler / Archtop Model “Brown Betty”

ジョン・ザイドラー初期の貴重なアーチトップ

ピーター・バーンスタインのギターは、1998年に友人を介して入手したジョン・ザイドラー(John Zeidler)のアーチトップ・モデルのみ。1981年製で、ピーターは本器のことを“ブラウン・ベティ(Brown Betty)”と呼んでいる。ベティは女性の名前で、本人曰く、B.B.キングが女性の名前を付けたルシール、そしてアップル・ブラウン・ベティというお菓子の色から着想を得たとのこと。

ピーターは最初フィラデルフィアの工房に行き、ジョンに直接ギターをオーダーしようと思ったが、完成までに2年かかると言われ、まだできてもいない楽器に高い金額を出すのは確信が持てなかったと語っている。そのタイミングで友人から“John Zeidlerのギターを持っている人がいるんだけど、それを買わないか?”と持ちかけられたとのこと。

本器を入手する前はES-175などのギブソン・ギターを使用していたが、初めて弾いたハンドメイドのアーチトップ・ギターに衝撃を受け、それから27年間もメイン・ギターとして弾き続けている。

ピックアップはフローティング・マウントで、入手直後にピックアップを交換。また、もともとはピックガードの表面にボリュームとトーン・ノブが搭載されていたが、ピッキングの際に右手に当たってしまい、それの対策として現在はピックガードの下に2つのノブを移動させている。

弦はJohn Pearseのものを愛用。

ジョン・ザイトラーはおもにフラットトップ、アーチトップ、マンドリンをハンドメイドで製作していたギター・ルシアー。1958年にアメリカのニュージャージー州に生まれ、家具職人だった父親の影響で15歳の時にダルシマーとバンジョーを製作する。高校卒業後には弦楽器製作者のアウグスティノ・ロプリンツィ(Augustino LoPrinzi)に1年間弟子入りをしてギブソンやマーティンなどの修理を始め、1977年からはフィラデルフィアに工房を構えて自身の楽器製作の道に進む。

彼が製作するギターはかなりのこだわりが詰め込まれており、1本を約80時間かけて作られるとも言われていた。そのため高額な料金設定だったにもかかわらず、そのオーダーは数年待ちの状態だったことも。しかし、2002年5月に44歳という若さでこの世を去った。

Interview

ピーター・バーンスタイン

これを手に入れれば、
もっと優れたプレイヤーにしてくれると感じたよ。

あなたは長年にわたってJohn Zeidlerのギターを使っていますが、あらためてこのギターとの出会いを教えて下さい。

これは1998年から使っているよ。ジョン・ザイドラーとは友人を介して出会ったんだ。当時、ジョンはルシアーとしてはそれほど有名ではなかったけど、ちょうど知る人が出始めていたくらいでね。ジョンは僕の友達と仲が良くて、その友達から“ジョンは素晴らしいルシアーだからZeidlerのギターを手に入れるべきだ”と言われて、僕はフィラデルフィアのジョンを訪ねてみた。そしてギターをオーダーしようとしたんだけど、まだ作られてもいない楽器を手に入れようと思ったことはなかったから、イマイチ確信が持てなくてね。

そうだったんですか。

どうしようか考えている間にその友達から連絡があって、“古いZeidlerを持っている知り合いがいるんだけど、それを買うべきじゃないかな? 君が使わなかったら僕が買うから”と言ってきたんだ。

それがこのギターだったんですね。

そう。これは1981年に別の人のために作られたものなんだ。チェックしてみたらとても気に入って、それ以来ずっと使っているよ。

このギターにモデル名はありますか?

いや、モデル名はないね。

でも、あなたは“ブラウン・ベティ(Brown Betty)”と呼んでいますよね?

そうなんだ。茶色いギターだし、アメリカにはアップル・ブラウン・ベティというリンゴを使ったデザートがあるから、僕は“彼女”をベティと呼んでいる。B.B.キングはルシールを持っていたよね。だから女性の名前でないといけなくて、それでベティが良いと思ったんだ。彼女は茶色なんだから!

どんなところが気に入っているのでしょうか?

初めて弾いた時、鳴りが凄く良くてね。聴いたこともないオーバートーンだったんだよ。それまでは素敵なギブソンも使ってきたけど、本格的なハンドメイドのアーチトップを使ったのは初めてで、レベルが違ったね。これを手に入れれば、僕をもっと優れたプレイヤーにしてくれると感じたよ。だから僕は、このギターのコントロールの仕方を学ばないといけないなと思った。

コントロールですか。

このギターにはまだまだパワーやニュアンスがあると感じて、自分はそれに見合ったレベルにならないといけないと思ったんだ。どんなギターだって簡単ではないけどね。でも、このギターでコードを弾くと聴こえ方が違ったんだよ。オーバートーンというか、振動の多いサウンドだった。

現在、このギターのボリューム・ノブとトーン・ノブがはずされていますが……。

はずしたのではなく、今はピックガードの下に取り付ている。ほとんどのアーチトップはピックガードの下にノブを付けることができるんだ。今はノブが下に付いていることに慣れているところだよ。

1981 John Zeidler / Archtop Model “Brown Betty”

なぜ位置の移動を?

もともとはピックガードの上にノブがあったんだけど、いつも右手に当たっていてね。それで“別のところに付けたほうがいいんじゃないか?”と言われたんだ。このギターを手に入れてすぐにピックアップを替えたけど、それ以外だと唯一改造したところだね。

ノブはどのような設定になっているのでしょうか?

まずはMAXにして、それからちょっと下げてみるんだ。ボリュームもトーンも同じだね。

ホロウ・ボディ以外のギターを弾こうと考えたことはありますか?

ソリッドは僕にはちょっと厚みがなさすぎるかも。僕は腕に感じられる木の振動が好きだし、ホロウ・ギター全般の音響的特性が好きなんだ。

ホロウ・ボディのギターの魅力とは?

鳴りが良くて、木の振動が感じられるところ。ホロウ・ギターとほかのタイプのギターとでは感覚が違うと多くの人も言っているよね。状況にもよるけど、ホロウ・ギターを手にして以来、僕はずっとこれを使っているんだ。さっきも言ったように、このギターに見合ったレベルにならないといけないと思ったんだよ。いまだにサウンドをコントロールできるように目指している。

徐々に到達しつつあると?

ゆっくりとだけど、たまにできるよ。バンドでプレイする時はアンプを使うわけだから、ギターとアンプの特性を組み合わせないといけないけどね。

ピーター・バーンスタイン

僕はある意味、
ピアニストのようなものだよ。

では次に音作りについて聞かせて下さい。今日のライブでもあなたはギターから’65 Twin Reverbに直結ですが、エフェクターを使わない理由は?

エフェクトがギター・サウンドに及ぼす影響が嫌いでね。アタックというか、音が出るまでの感触を際立たせているとは思えないよ。別に反対しているわけではないけどね。僕はテクノロジーにはあまりこだわっていなくて、色んなガジェットをいじくるのが好きではない。ギターだけでなく、人生全般においてもガジェットが怖いよ(笑)。どんな仕組みになっていることやら……。

とにかく僕は、楽器から出したい音を出そうとしているんだ。それが自分のチャレンジであって、“音を変えるためにはどうしたらいい?”とは思わない。ギターの音を変えるというアイディアは好きだけどね。まだアタックの邪魔にならないようなペダルを見つけてられていなんだ。

John Zeidlerが持つ“素の音”を出したいと。

家で練習する時はアンプも使わない。ただアコースティック・ギターを弾くだけで、機材に囲まれたラボもないよ。……あるべきなんだろうけどね。でも最終的には、気に入る機材が見つかるかもしれない。トランペット奏者がホーンにミュートを入れたりするアイディアは好きだもの。ホーンもソプラノとかを選んでプレイすると、また違ったサウンドになるよね。でも僕は、まだその術を見つけられていない。簡単に言ってしまえば怠け者なんだ(笑)。怠惰なのさ。ペダルを色々使っている人はそれでいいと思う。

本当にペダルは一切試さないんですか?

ペダルを使ったことはあるけど、そのたびに僕がこのギターから引き出そうとしている“本体の音”が損なわれてしまうんだ。例えば違うギターを使って、エフェクトによってカンバスに絵を描くように音を出すことができたら、きっとハマるんだろうな。だからエフェクトに合ったギターを見つけるのがいいのかも。

僕はペダル反対派じゃないよ。どんなことにも“こうするべき”とか“こうするべきではない”などと言ってはいけないと思う。ただ、長年の間に僕がいたった結論がこれなんだ。少なくとも試してはみたんだよ。だから今後も試し続けるべきなんだろうね。

アンプのセッティングでこだわっている点はありますか?

セッティングは使うアンプによって全部違う。自分のアンプを使う時はベースはあまり上げないね。僕のアンプにはミドルがなくて、コントロールはベースとトレブルとリバーブとボリュームだけ。だいたい全部3くらいにしておいて、そこから調整していく。よりクリアにしたいから、ベースもトレブルもあまり上げないんだ。

正直言うと、こういうことに関してはあまりよく知らないんだよ。電子機器についてはよくわからない。

自分が良いと思うサウンドを探すわけですね。

そうなんだ。僕はある意味、ピアニストのようなものだよ。彼らはライブで毎回違う楽器を使わないといけないよね。押せるボタンがあるわけでもないし、選べるのは椅子くらいかな。あとはすべてを自分の手から生み出さないといけない。

カートは色んなギターについて語っているけど、僕に聴こえているのは常に“彼の音”なんだ。カートはテクノロジーを駆使して自分の思いどおりの音を出すのが得意で、とてもオーガニックなサウンドに聴こえるよ。それはタッチによる音なんだ。どのギターを弾いてもカートのタッチになっている。彼自身の音なんだ。