2025年6月にカート・ローゼンウィンケル & ピーター・バーンスタイン・カルテットの来日公演が丸の内COTTON CLUBで行なわれた。今回、2人の使用機材についてインタビューを敢行。本記事ではカート・ローゼンウィンケルが今回の来日公演に持ち込んだギターについて、本人に語ってもらった。
取材=今井悠介 文=小林弘昂 通訳=川原真理子 機材撮影=清水はるみ 人物撮影=Tsuneo Koga(写真提供/COTTON CLUB)

Kurt Rosenwinkel’s Guitars
Soloway Guitars
S14
2024年から愛用するホロウ・ギター
今回のカート・ローゼンウィンケルのメイン・ギターは、Soloway GuitarsのS14。2024年8月、ニューヨーク州北部で開催されたギター・キャンプにSoloway Guitarsのクリス・コールがギターを数本抱えて訪ねてきて、その中にあった本器を気に入って使い続けているという。
おそらくボディ材はスプルース・トップ、スペイン・シダー・バック、ネックはロースト・メイプルだと思われる。
S14はブリッジ下に小さなブロックを入れている以外は完全なホロウ・ボディで、トップに薄い木材を使用。そうすることで通常のソリッド・セミ・ホロウ・ギターよりも空気感を多く含んだサウンドを生み出す。ブリッジ・サドルはブロック型の6wayで、不要なフィードバックを抑え、十分なサステインを確保した。
Westville Guitars
KR
初お披露目の新シグネチャー
渋谷に店舗を構えるアーチトップ・ギター専門店“ウォーキン”のオリジナル・ブランドであるWestville Guitars。この日のライブ会場には、カートの新しいシグネチャー・モデル、KRが用意されていた。
ボディはチェンバーのないソリッド構造で、1本はハードメイプル・トップとアルダー・バックの個体、もう1本はハードメイプル・トップとホンデュラス・マホガニー・バックの個体である。
プロトタイプは『The Brahms Project』(2025年)のレコーディングでも使用されたが、カートは製品版のパイトット・ランをここで初めて触ったそうで、その出来に満足していた様子。
本器は最近カートがよく使用していたYamaha SGをもとにデザインされているとのこと。Yamaha SGに抱えていた不満な部分を改善し、“Yamaha SGの良いクオリティを受け継ぎつつ、本当に素晴らしい楽器にする”を製作のコンセプトに掲げたと語っていた。詳しいスペックは不明だが、続報に期待しよう。
Interview

それぞれの楽器から
自分の違う面を発見するんだよ。
カートは今回ナチュラル・カラーの新しいギターを使っているのですね。紹介していただけますか?
カート これはSoloway Guitarsというブランドのものなんだ。製作者の名前なんだよ。
ピーター そう。ジム・ソロウェイという人だよ。彼はもう引退しているけどね。
モデル名はS14ですか?
カート そうかも。確信はないけどね。ジムはアメリカの西海岸で小規模な会社を経営をしていたんだ。彼が引退したあとは、クリス・コールという人物がSoloway Guitarsのあと押しを受けて会社を続けているんだよ。
去年の8月、僕が教えているニューヨーク州北部のギター・キャンプにクリスがやってきて、ギターを何本か見せてくれた。その中にあったこれを凄く気に入って、それ以来ずっと使っている。
先ほどのリハーサルではWestville Guitarsの新しいシグネチャー・モデルも試していましたよね?
カート そうなんだ。知ってのとおり、僕は長年にわたってWestvilleとの関係を続けている。シグネチャー・モデルも作ったし、常に色んなことに取り組んでいるよ。今日ここに新シグネチャー・モデルのプロトタイプがあって、それを試したんだ。
良い感じですか?
カート とっても良いよ。
Westvilleの新シグネチャーは、近年愛用していたYamaha SGのようなシェイプを目指したのでしょうか?
カート そのとおり。Yamaha SGはポーカーで勝って手に入れたんだけど、惚れ込んでしまったよ(笑)。それから、スコットランドのネス湖に住んでいる友達の家の近くにギター・ショップがあってね。友人はそのお店でSGを見つけて写真を送ってくれて、僕は“買っておいてくれ”とお願いしたんだ。凄く安くて、500ドルくらいだったよ。
それもYamahaのSGですか?
カート そう。僕はYamaha SGが大好きなんだ。人間工学に基づいた作りが良くて、物凄く弾きやすいんだよ。それとネックがボディのかなり上のほうに取り付けられているから、ストラップを付けて立って構えると、左手は自然と12フレットあたりの高音域に添えられることになる。これがとってもナイスなんだ。ここ10年ほど、僕のプレイは徐々に高音域になってきているから弾きやすいんだよね。これがYamaha SGを気に入っている理由だよ。
そんなに気に入っていたんですね。
カート でもしばらく使っていると、コードを弾くと、“ちょっと……”と思うところが出てきた。だからWestvilleの新しいシグネチャー・モデルのコンセプトは、“Yamaha SGの良いクオリティを受け継ぎつつ、本当に素晴らしい楽器にする”、ということにしたんだよね。
新シグネチャー・モデルのサウンドはどのようなものになっていますか?
カート 美しいよ。まだほんの数分しか試していないけど、Westvilleは伝わる音が出しやすい。惜しみなく出せるから気に入っているんだ。新しい楽器は工場から直接出荷されるわけだから、完璧にまっさらな状態だよね? だから使い慣らすまでにはしばらくかかるけど、凄く良い感じだったよ。
近年はMoffa Guitarsの新しいギターも弾いているようですね。こちらはどんなギターなのでしょう?
カート Moffaのルシアーとも付き合いがあるんだ。僕がYamaha SGを弾き始めた時は、“なんてこった! 彼は一体何をやっているんだ?”って思われたよ(笑)。
ピーター 安物のギターじゃないかって?
カート 安いギターだったから、逆に彼らの興味をそそったんだろう。“あれのどこに興味を持ったんだろう?”とね。そこがプレイヤーとルシアーの関係の面白いところで、お互いから学び合って新しい楽器を開発したり、新しいことを発見することができる。だからMoffaも、僕のためにそういった特性を備えた良いギターを作って楽しんでいるんだと思うよ。
ピーター 前回のライブの時はMoffaを使ってたよね?
カート そうだね。Moffaを使っていた。僕はいまだに“これだ!”と思える楽器を見つけようとしている。どの楽器にも独自の音楽が詰まっているから、それぞれの楽器から自分の違う面を発見するんだよ。そこで違う曲を見つけるんだ。
Moffaのギターにモデル名はありますか?
カート Moffaに? ……“ミスラ(Mithra)”かもしれないな。



