2025年6月にカート・ローゼンウィンケル & ピーター・バーンスタイン・カルテットの来日公演が丸の内COTTON CLUBで行なわれた。今回、2人の使用機材についてインタビューを敢行。本記事ではカート・ローゼンウィンケルが今回の来日公演で使用したサウンド・システムついて、本人に語ってもらった。
取材=今井悠介 文=小林弘昂 通訳=川原真理子 機材撮影=清水はるみ 人物撮影=Tsuneo Koga(写真提供/COTTON CLUB)
Kurt Rosenwinkel’s System

FM9を中心としたデジタル・サウンド
【Pedal List】
①Handmade / KR-1(インピーダンス・コンバーター)
②Fractal Audio Systems / FM9(ギター・プロセッサー)
③Seymour Duncan / Powerstage 100 Stereo(パワー・アンプ)
④ProCo / RAT Ⅰ White Face(ディストーション)
⑤Universal Audio / Apollo x4(オーディオ・インターフェース)
⑥strymon / Zuma R300(パワー・サプライ)
ギターからの接続順だが、まずは①KR-1にインプットし、ギターのハイ・インピーダンスをロー・インピーダンスに変換している。カート曰く“音がちょっとダークになって、ハイエンドがカットされる”とのこと。
①KR-1からは②FM9のIN1にインプット。②FM9のOUT1からステレオで③Seymour DuncanのPowerstage 100 Stereoを経由し、ステージ上に置かれていた2台のフェンダー・アンプのパワー・アンプ部分に接続。つまり、フェンダー・アンプはスピーカー部分のみを使用しており、メインのサウンドは②FM9で作成したものを鳴らしている。
②FM9ではフェンダーのアンプ・モデリングを使用。エフェクトはおもにディレイとリバーブを使いつつ、トレモロ、フランジャー、ポリフォニック・オクターブ・ジェネレーター、ディストーションなどもプリセットされていた。
②FM9のOUT2からは④RATに接続されており、④RATのアウトから再びFM9のIN2にインプット。
②FM9のOUT3からは⑤Apollo x4に接続し、⑤Apollo x4のアウトから再び②FM9のIN3にインプットされている。また、⑤Apollo x4はステージ上に置かれたMacBookと接続されていた。

⑤Apollo x4と接続されているMacBookではGig Performerを立ち上げ、現在カートとPigtronixが共同開発中のペダルのプラグインを使用。ここで“音のアタックの部分を変えるエフェクト”を管理している。今後はこれをカートのシグネチャー・ペダルとして製品化するとのこと。
Interview

僕はスムーズなアタックのサウンドが
好きなんだよ。
あなたはピーターとは対象的に、様々なエフェクト・ペダルを使って音を作っています。
カート 僕のことをよく知っていて、何度も共演している人でも、僕がやっていることの違いがまったくわかっていない(笑)。……僕にはこだわりがあるんだろうね。
自分ではすべて違って聴こえるんですね?
カート そう。フィーリングが違う。昔から僕の頭の中で鳴っている音があって、そこには一定の表現の幅があるんだ。でも、それを再現するための楽器はギターではない。僕はピアノから楽器を始めたから、そっちのほうがアットホームな感じがするよ。ピアノを弾くことのほうが自然なんだ。
ピーター それは僕も同じさ! 最初はピアノだったよ。ピアノの場合、音楽をすぐに奏でられるよね。ギターは違う。
カート そうだね。僕はギターで自分が求めるタッチを得るため、そしてプレイやサウンドから欲しいレスポンスを得るために、しかるべき組み合わせを常に見つけようとしている。頭の中で鳴っている音を出したいという欲求があって、その音を出すための方法を見つけることがモチベーションになっているんだ。その方法とはディレイやリバーブかもしれないけど、今使っている新しい機材があって……。

何でしょう?
カート ギターのインピーダンスを変える茶色いペダル(①)でね。それを使うと音がダークになるんだよ。ちょっとしたEQみたいなもので、ハイエンドをカットするものなんだ。ギターからはまずそのペダルに接続している。
そこからFM9(②)につながっているんだけど、FM9でおもに使うのはディレイとリバーブだ。かなりノーマルなエフェクトだよね。ほかにはコンプレッサーをちょっと使うこともあるし、リード・サウンドではRAT(④)のディストーションを使うことがある。これが僕のベーシックなサウンドだ。
家でギターを弾く時はアンプを使わないんだけど、そのフィーリングが大好きなんだよね。僕が大好きなのはアタックの音なんだ。でもピックアップがピッキングする位置の真下にあるから、ギターをプラグインするとピックの音がずっと大きくなってしまう。だからギターの音を何にも通さなかった時の状態に戻そうとしているんだよね。
ピーター そうそう。
カート 何の増幅もされていない時の状態にね。プラグインせずにギターを弾いている時はピックの音なんて聴こえないもの。プラグインすると突然ピックの音が聴こえてくる。僕はそれが嫌いで、なんとかする方法を見つけようとしているんだ。
ギターをプラグインするや否や、エレクトリックの世界に浸ることになるよね? みんなはその世界の中で音を変えるため、ありとあらゆることをやっている。僕はプラグインしていない時のフィーリングに戻すため、それに役立つものを見つけようとしているんだ。これって音のアタックの部分が関係しているんだよね。
アタック音ですか。
カート 僕はアタックの全般的なことに興味がある。音楽を作る時、シンセサイザーを使って美しいリード・サウンドを探すんだけど、まずは共振周波数とアタック・スライダーをカットするんだ。僕はスムーズなアタックのサウンドが好きなんだよ。だから、音のアタック部分をコントロールできるのは素晴らしいことなんだ。
僕がエフェクトを好きな理由は、サウンド全体の特質を変えられるから。普通のギター・サウンドに何かを加えるだけのエフェクトは好きじゃないけどね。
最後に、ギターからの接続順を教えていただけますか?
カート まずはインピーダンスを変える茶色いペダルにインプットして、ここで音をちょっとダークにする。そこからFM9のIN1に入って、FM9のOUT1からステレオでSeymour DuncanのPowerstage 100(③)にインプットするんだ。FM9のサウンドはPowerstage 100を通ってステージ上に置いている2台のフェンダー・アンプのパワー・アンプへ出力しているよ。つまりアンプは単なるスピーカーとして使っているんだ。
ほかの機材はどこに接続されていますか?
カート FM9のOUT2からはRATにインプットして、再びFM9のIN2に戻っているね。FM9のOUT3からはApollo x4(⑤)につながっていて、Apollo x4のアウトから再びFM9のIN3にインプットしている。Apollo x4にはPCが接続されていて、PC内のGig Performerでは僕とPigtronixが開発中のペダルのプラグインを使っているよ。“音のアタック部分を変えるエフェクト”を使う場合は、このプラグインで調整するんだ。今度これが僕のシグネチャー・ペダルになる予定で、今はまだプロトタイプの段階だね。


