ジュリー・ロンドン&アル・ヴィオラ美人女優と職人のマッチング ジュリー・ロンドン&アル・ヴィオラ美人女優と職人のマッチング

ジュリー・ロンドン&アル・ヴィオラ
美人女優と職人のマッチング

ジョー・パスによる『Virtuoso』が出るよりも前、1950〜1960年代のモダン・ジャズ期に目を向けてみると、ギター1本で伴奏ができるとはまだ考えられていなかったのか、ギター&ボーカルのジャズ・デュオ作品は驚くほど少ない。今回紹介するジュリー・ロンドンの『Lonely Girl』は1956年にリリースされた貴重なデュオ作品で、ギターを弾くのはアル・ヴィオラ。女優出身のシンガーとフランク・シナトラのバックや映画のサントラまでこなす職人──このドラマチックな組み合わせをじっくりと堪能してほしい。

文/譜例作成=久保木靖


女優出身のシンガーと
シナトラをも支えた歌伴の名手

いわゆるモダン・ジャズ期(1950〜1960年代)における貴重な女性ボーカル&ギターのデュオ作品が、ジュリー・ロンドン(vo)とアル・ヴィオラ(g)による『Lonely Girl』(1956年)だ。

1944年に映画『ナボンガ』(『キングコング』以降流行っていた“ゴリラと美女”モノ)で女優としてデビューしたジュリー・ロンドンは、「Route 66」の作曲者として知られるボビー・トウループ(のちの夫)のすすめでジャズ・シンガーの道へ。デビュー・アルバム『Julie Is Her Name』(1955年)からシングル・カットされた「Cry Me A River」が大ヒットを記録し、その名が広く知られるようになった。

かたやアル・ヴィオラは戦後間もなくフランク・シナトラ等の伴奏をとおして頭角を現わし、その後エレクトリック・ギターによるモダンなプレイと、ガット・ギターによるクラシック・スタイルの二刀流を売りにした。エレクトリックを持った場合でも指弾きによるクラシック・スタイルを踏襲したチャーリー・バードなどとは異なり、ヴィオラの場合は両者を完全に別物としてとらえていたのがおもしろいところ。

筆者は生前のヴィオラに取材をしたことがあるのだが、彼は“アンドレス・セゴビアの存在が大きかった。レコードもたくさん持っていたし、コンサートにも行ったりして研究した。とはいえ、エレクトリックでジャズを演奏するのが私のメインで、ガット・ギターを使ったパフォーマンスはいわばオプションなんだ。ソロ・ギターの心得? ベース・ラインとハーモニーをきちっと意識して、さらにトップのメロディ・ラインの流れを崩さないようにすることだね。ただソロの場合、話をする相手、つまりサイドマンがいないから寂しいよ(笑)”などと語っていた。

ヴィオラはここで紹介する『Lonely Girl』のあと、ガット・ギターによる『Solo Guitar』(1957年)をリリースし、その後もソロ・ギター活動を並行して続けている。ちなみに、1979〜1980年録音の『Mello’ As A Cello』(1994年)は、エレクトリックによるトリオとソロ、ガット・ギター・ソロの3種が収録されたヴィオラの集大成的アルバムだ。

流麗なアルペジオでエレガントなボーカルを支える

『Lonely Girl』でのジュリーのボーカルは、淡々としているもののエレガントかつロマンチック。それを支えるヴィオラは、ガット・ギターを手にクラシック奏法をベースとしたフィンガーピッキングを行なっている。また、チューニングが全弦半音下げとなっているが、これはジュリーの声域に合わせる必要からだろう。ヴィオラはボーカルとの対話を心がけるというよりは“伴奏”という立ち位置に忠実で、いわゆるギター・ソロ・パートもほぼ出てこない。エラ・フィッツジェラルドやサラ・ヴォーンのように派手にフェイクしないジュリーには、むしろピッタリの相棒だった。

インテンポの曲ではパターン化されたアルペジオが見られ、例えばタイトル曲では、6弦→4弦→3&2弦→4弦、といったパターンを多用。また「Mean To Me」のAメロでは、本来、A△7→B♭dim7→Bm7→E7(Key=A)というコード進行のところ、A音をペダルとするなどの工夫が施されており特筆だ。

一方、ルバート進行の「What’ll I Do」や「Don’t Take Your Love From Me」では、ボーカルと付かず離れずの流麗なアルペジオを主体としたバッキングで全編を彩る。その様子はまさに花(ジュリーの歌声)の周りを嬉々として飛び交う蝶のようで、聴いていて思わずキュンとしてしまう。ジュリーが息を吸い込むタイミングなどを図っている様子もうかがえ、収録の際は常に視界の隅に彼女をとらえていたであろう、抜群のコンビネーションである。

ジュリー・ロンドンは小編成がお好き!?

このあとジュリーとヴィオラは、デュオでないものの『Julie…At Home』(1960年)で再共演。ジュリーは先に述べた『Julie Is Her Name』(ギターはバーニー・ケッセル)や『Julie Is Her Name Vol.2』(1958年/ギターはハワード・ロバーツ)でギター&ベースだけの、やはり小編成をバックに美声を響かせており、これらもオススメだ。

さて、冒頭で『Lonely Girl』は“モダン・ジャズ期における貴重な女性ボーカル&ギターのデュオ作品”と述べたが、“男性”ボーカルとギターのデュオであれば、同時期にもサミー・デイヴィスJr.とローリンド・アルメイダの『Sammy Davis Jr. Sings / Laurindo Almeida Plays』(1966年)がある。こちらもふたりの技量とフィーリングが溶け合った名盤で……と熱く解説したいところだが、本企画では蛇足だから、やめておこう(笑)。

「Don’t Take Your Love From Me」のバッキング風プレイ

『Lonely Girl』の8曲目「Don’t Take Your Love From Me」のバッキングをシミュレートしてみた(参考タイム0:14〜0:28)。フィンガーピッキングによる流麗かつきらびやかなアルペジオが冴えている。3小節3〜4拍目のリハーモナイズをともなった速いパッセージ部分は、親指→人差指→中指→薬指のアルアイレ奏法によるもの。4小節目はフェルマータ気味に弾き、ボーカルが入ってくるタイミングを図っている。

『Lonely Girl』 ジュリー・ロンドン