ウェス・モンゴメリー@イギリスBBCDVD『Jazz 625』 ウェス・モンゴメリー@イギリスBBCDVD『Jazz 625』

ウェス・モンゴメリー@イギリスBBC
DVD『Jazz 625』

ウェス・モンゴメリーが1965年に敢行したヨーロッパ・ツアーの中で作品化されている公演として、最も早い時期に行なわれたのが英BBC放送の番組=“Jazz 625”での演奏だ。DVD『Jazz 625』として1994年にリリースされた当時、日本のファンにとって“動くウェス”を見る機会はほとんど本作が初めてだった。イギリスでウェスは、どのような演奏を残したのだろうか? 印象的なプレイを模した譜例も掲載しているので、合わせてチェックを!

文/採譜=久保木靖

ここが演奏された場所!
BBC TV Center, London, England

“動くウェス”を最初に収録した『Jazz 625』

1965年3月20日のイタリア・サンレモのジャズ・フェスティバル(有名なサンレモ音楽祭とは別)を皮切りに始まったウェスのヨーロッパ・ツアー。そのあとスイスのルガノ、スペインのマドリードと周り、3月25日にはイギリスBBCのスタジオに登場。テレビ番組『Jazz 625』収録のためスタジオ・ライブを行なった。

ウェスは、このツアー用に同年2月に編成したハロルド・メイバーン(p)、アーサー・ハーパー(b)、ジミー・ラヴレイス(d)らとのレギュラー・バンドで演奏。オープニングとクロージングに「West Coast Blues」を配し、その間を十八番のチューンで埋めるというセットリストは、おそらく準備してきたものであろう。こうした点からも、ウェスのこのツアーに対する並々ならぬ気合が見て取れる。

デビュー作『The Wes Montgomery Trio』(1959年)から3曲を披露。丁寧なプレイの「Yesterdays」から一転、続く「Jingles」では怒涛のオクターブ奏法に圧倒されること必至。個人的には、難コード進行にもかかわらず抜群の歌心を見せる「’Round Midnight」のソロに感涙だ。

『So Much Guitar!』(1961年)からの「Twisted Blues」や、『Full House』(1962年)からの3拍子のタイトル曲でも、[シングル・ノート→オクターブ奏法]という定番のソロ構成が見られるが、ブロック・コード(コード・ソロ)はまだ鳴りを潜めている。収録時間の関係で長いソロが弾けなかったか、もしくは、この収録自体、ツアー序盤の手慣らしといったところだったのか。

それにしても、この映像が1994年にリリースされた時の衝撃は忘れられない。筆者は勢いに任せてレーザーディスク版を購入したものの、再生機がなくて四苦八苦した記憶がある(笑)。多くの人にとって“動くウェス”をまともに観ることができたのはこれが最初で、ウェスは必死に汗だくで弾いているのかと思いきや、そこにあったのはクールな笑顔。そして親指ピッキングは目の当たりにしても尚、信じがたいものだった。

イギリスでの名フレーズ
「Jingles」のテーマ風プレイ

ウェスのオリジナル・チューン「Jingles」のテーマ部分冒頭を模してみた。ぶっ速いテンポの中、キー(Em)に対する♭5th(B♭音=A♯音)を絡めた音使いがハード・バップ(≒ファンク・ジャズ)な薫香を振りまく。映像を見る限り、ウェスは人差指〜小指をボディに固定し、すべての音を親指のダウン・ピッキングで弾いているのがわかる。

作品データ

『Jazz 625』

vap/2000年5月24日リリース