2021年3月、ウェス・モンゴメリーが1965年に行なったドイツでの演奏が作品化された。テレビ局NDRでのワーク・ショップの模様をとらえたもので、Blu-rayには貴重なリハーサル映像が収録されている。CDで聴ける本番の演奏はもちろん、リハーサル時のウェスとバック・メンバーとの会話など、注目シーンが盛りだくさんのアイテムだ。
文/採譜=久保木靖
ここが演奏された場所!
NDR Studio 10, Hamburg, West Germany
ヨーロッパを代表する気鋭ミュージシャンとの共演
ヨーロッパ・ツアー終盤、ウェスはドイツ(当時西ドイツ)を訪れ、1958年から続く北ドイツ放送局(略してNDR)主催のワーク・ショップに顔を出した。冷戦下でありながらも毎年、東西両陣営からミュージシャンが招聘されていたのが特徴で、ウェスが招かれたのはその第39回目。ここで紹介するのは、そのワーク・ショップの2日前に行なわれたリハーサル映像とともに、今年3月にCD+Blu-ray『The NDR Hamburg Studio Recordings』としてオフィシャル・リリースされたアルバムだ。
このワーク・ショップでは[4本のサックス+ギター・カルテット]が編成された。2人のテナー・サックス奏者のうち1人は当時フランスに移住していたジョニー・グリフィンで、ヨーロッパ・ツアーではパリ公演に続いての共演。もう1人はロンドンから同行してきたロニー・スコットで、彼はウェスが出演していたジャズ・クラブのオーナー。ピアノは、ジャン=リュック・ゴダール監督『勝手にしやがれ』(1959年)などの映画音楽でも知られる進歩派のマーシャル・ソラール……このようなヨーロッパを代表する気鋭のミュージシャンとの共演は、ウェスにとってツアーの集大成のようなものだったかもしれない。
CD1曲目「West Coast Blues」にて、ウェスは早くも[シングル・ノート→オクターヴ奏法→ブロック・コード]という伝家の宝刀を抜いてエンジン全開であることを示す。5曲目のソラール作「Opening 2」はアヴァンギャルドなテーマを経て、後半ではウェスとソラールの絶妙な掛け合いが登場するが、徐々に饒舌になっていく様が愉快だ。面白いのはウェスがバッキングを放棄したBlu-ray3曲目「Blue Monk」のピアノ・ソロの場面。もしこれが映像ではなく音声だけだったら、“なぜ弾くのをやめたんだ?”と様々な憶測を呼ぶところだが、その実ウェスはタバコを吹かしているだけ。現に本番(CD)ではバッキング・ギターが聴こえる。
ドイツでの名フレーズ
「Four On Six」のテーマ風プレイ
ウェス・オリジナルの人気チューン「Four On Six」のテーマ部を参考に作譜してみた。前半の単音メロディだが、ウェスは左手を握り込んだ状態で小指を除く3本指でフィンガリングしている。手の大きさがうかがえるプレイではないだろうか。後半のコード・プレイに関して右手は、ブラッシングを含め親指のダウン・ストロークで弾く。□7(♭9, ♯11)という珍しいコードの響きが特徴的だが(8小節目以外)、これはオルタード・スケール、またはコンビネーション・オブ・ディミニッシュ・スケールから派生したものである。
作品データ
『The NDR Hamburg Studio Recordings』
キングレコード/KKJ-1049(CD+Blu-ray)、D-78078(LP+Blu-ray)/2021年3月20日リリース